表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/33

解散、誤算


 名誉を守り切り、18時のアラームを止めた。

 俺の行動にノスローさんも時間が来たと理解し、レイピアと短剣を返す。

 賭けに負けたけど、お金を払うことを阻止できたのは良かった。


「それじゃ、ノスローさん、またね」

「あ、あの!」

「うん?」


 メニューからログアウトしようとしていたんだけど、声を掛けられた。

 そういえば、ファンの人も同じように声を掛けてきたな。

 口癖はファンにまで伝染していたようだ。


「カズさんは今、ツリーサーガで五ツ町前のボスですか?」

「いや、王都前でレベル上げしてる」

「はい?」

「王都前でレベル上げしてる」

「え、いや、あの、早くないですか?」

「四ツ町で会ったのが金曜だっけ、そこまでじゃない?」

「いえ、六ツ町のボスが強いとは聞いていますから」

「ああ、確かにギミックがあるかと思うくらいHP減らなかったな」

「よく倒せましたね」

「『ゴーストリリース』していたら同じような状況になるから、ノスローさんも続けるといい!」

「いえ、やめておきます」

「そう、じゃあ、今日はありがとう」

「はい、ありがとうございました」


 ログアウトして、リビングへ向かい夕食を指定する。

 夕食は麻婆豆腐だ。

 出来るのを待っていると、リビングに母さんが入ってきた。


「優人、優しくしないさいって言ったのに、突き落とすのはダメでしょ」

「突き落としてない。一緒に落ちた」

「一緒に落ちてもダメだから、それにしてもゲーム上手かったのね」

「みたいだね。今まで人とゲームしたことないから、多少は上手いと思ってたけど、割と上手いみたい」


 全自動調理器から麻婆豆腐を取り出して、食べ始めた。

 母さんは別のものにするみたいだ。

 そういえば。


「母さん、チャットも見てたの?」

「うん」

「どうだった、したそうだった?」

「全然」

「無理かあ」

「それが普通なんだから、結局いつもと変わらないでしょ」

「そうだけどさ」


 ゲームジャンルがVRになってから嫌われているのは知っていたけど、どこかにいると思うんだけどな。

 戦闘大好き人間が。

 俺自身がそういう訳ではないけど、そういう人は寄って来ると思ってたんだけど。

 海外ではある程度人気だから、それで満足しろということだろう。


「勉強はどうなの?」

「問題なさそう」

「ならいいけど、友達は?」

「相変わらず毅だけ」

「そう。ま、優人は知らない人とも話せるって分かったから、これからに期待ね」

「ノスローさんか。近所のファンの人とも話したよ」

「近所のファン?」

「うん。女性で黒髪ショート不健康そうな人だった。あと野暮ったいメガネかけてた」

「ああぁ。いたね近所に」


 母さんも見たことあるようだ。

 ただ、どことなく納得した感じなのは不思議に感じる。

 知り合いではないと思うけど。


 日曜日は『ゴーストリリース』だけした。

 夕食後に別データでしたいと思い、続けていたら結局23時30分までして、驚いたくらいだ。

 もちろん後悔はない。


 学校に向かう時には曇り模様で晴れの予定だったから、合羽を持ちバイクに乗って登校した。

 教室へ入ると、誰もが俺を見てたい気はしたけど、気のせいだろう。

 窓から空を見ていると、肩を叩かれた。


「ゴメン、優人」

「どうした毅?」


 キョロキョロと周囲を確認した毅は謝って来る。

 俺も周囲を見ると、クラスメイトの視線が集中していた。

 毅が大げさに謝るから、視線を引いているようだ。


「実はさ」

「うん」

「昨日の配信、他の生徒たちが見ててさ」

「へー『ゴーストリリース』してくれるって?」

「危機感持てよ!」

「危機感って、で?」


 真面目に答えたつもりだったけど、焦ったような顔の毅。

 なるほど。

 この視線の正体は配信に出た俺が注目されているという事か。


「4組の山口から優人か、て聞かれたんだ」

「だれ?」

「ヤバそうだな、井上」

「陸斗」

「え? 優人、吉田を下の名前で?」

「覚えた。ちなみに、あれは九美です」

「教科書みたいな言い方やめろよ。俺は吉田陸斗だ」


 我がクラス2組のやんちゃ男子代表、よしだりくと。

 毅がいると人が寄って来るんだな。

 顔の広い奴だ。


「で、なにがヤバそうなんだ陸斗」

「井上からの名前呼びもヤバい」

「わかったから」

「4組の山口だよ。知らねぇのか?」

「知らん」

「はぁ、聞け」


 そうして吉田陸斗先生からのありがたい、お言葉を頂いた。

 どうやら、粗暴という名前を持って生まれてきたと言われても、おかしくないのが山口という人らしい。

 暴力事件を起こしたことがあるようだ。

 そんな奴がよく高校に入学できたな。


「で、どうヤバいんだ?」

「アイツも配信してんだよ」

「そういう人、増えたよな」

「だよな。……じゃなくて」

「うん」


 陸斗もノスローさんと系統は違うけど、楽しい音の鳴る人らしい。

 一緒に塔から跳んでみると、楽しそうだ。


「アイツはノススミとコラボしたいんだよ」

「ノススミ、ノスローさんのことか?」

「そうだよ」

「コラボの申し入れとかするんじゃないのか?」

「だろうけど、視聴者でもない、配信者でもない井上と多少仲良くなったろ?」

「うん」

「俺も、て考えてるのが山口だ」

「SNSでコラボを申し入れしたらいいじゃないか?」

「それすっ飛ばして、一緒に遊んだ奴がいるだろ」


 ああ、俺だな。

 なるほど。

 どう考えても相手してくれないだろうから、知り合いから攻略していこうという訳か。

 甘い考えだ。

 『ゴーストリリース』においては、味方ではない奴は敵なのに。


「大丈夫かよ、井上」

「断るよ。別にノスローさんと遊んだだけで、知り合い紹介するほどの仲じゃないし」

「お前だったら断りそうって思ってるから、大丈夫なのかって聞いたんだ」

「断って、何かあるの?」

「暴力事件起こしてるような奴だぞ。何があるか分かんねぇよ」

「大丈夫だろ、殴られたら逃げる」

「アイツ、取り巻きいるから気を付けろ。逃げられないかもしれないぞ」


 陸斗は随分と心配してくれる。

 ぶきっちょな奴だったんだな。

 にしても、山口って4組の人は我が校の番長的存在なんだろう。

 女番長とかいるのかな。


「心配してくれてありがとな」

「心配じゃなくて、忠告だ」

「毅、心配だよな、これは」

「優人はいい友達を持ったなぁ」


 珍しくいじりに乗っかる毅。

 陸斗は恥ずかし気にして席へ戻っていった。

 出会いは悪かったけど、優しい奴だ。


 俺はなんとなく新しい友人が出来たような気だった。

 その友人の忠告は、昼食時に現実のものとなる。

 予約していたサバ定食を食べていると、毅他3名が俺の対面に座った。


「井上って言うんだよな、お前」

「うん」


 どうみても件の山口なる者だと分かる。

 学生では不良少年の象徴となっている金髪。

 着くずしたシャツ、首元の似合っていないチェーン、片耳のピアス。

 あの話を聞いた後だと、どう考えても山口だ。


「おれさ、実は配信やっててさ」

「へー」


 山口の取り巻きの2人。

 どことなく見たことのあるような顔をしていた。

 2人は取り巻きとして来ているようだけど、俺は2人の方が気になっている。


「お前さ、ノススミって奴の配信出てたよな」

「ノスローさんね」

「ノススミ、っていうんだよ」

「へー」


 2人は俺の顔を見ても、特に何も感じていない。

 俺は知った顔のような気がするけど、名前を覚えないから顔も特に思い出せない。

 なんとなく知っているという気がするだけかもしれない。


「おれさ、ソイツと一緒にゲームしたいんだ」

「したら?」

「出来れば苦労しないんだよ」

「配信してるなら、コラボでもしたら?」

「出来れば、お前に聞いてないんだけど?」

「別に仲良くなってゲームしたわけじゃないから、俺が頼み事するのは違うと思うんだけどな」


 俺の意見を聞く姿勢はあるらしい。

 それでも大きく溜め息を吐くと、わざわざ席を移動して隣に座ってきた。

 何か香水臭い。

 でも、サバの匂いがかき消してくれてるな。

 

「なあ、お前、よく考えろよ」

「うん」

「おれがさ、頼み事してんだ」

「うん」

「おれが、頼んでんだ」

「うん」

「分かるか」

「うん」


 はっきり言え。

 その言葉が喉元でうまい具合に止まってくれたけど、サバの油で口から出て来そうだった。

 あぶないあぶない。

 

「じゃあ、頼んでくれるな」

「分かった『ゴーストリリース』3人でしようって提案するよ」

「ちげぇよ『ツリーサーガ』に決まってんだろ」

「いやぁ、『ツリーサーガ』は俺もやる気がないからさ。『ゴーストリリース』だったら本気で頼むけど」


 俺の言葉にテーブルの上で拳をギュッと握った山口。

 怒りを感じているようだけど、吐き出さず耐えてくれる。

 でも、コイツが怒ってもゲームの敵より怖くないって知ってるから、平静でいられる。


「頼みは聞けないか?」

「『ゴーストリリース』であれば、聞けるよ!」

「はあ、頭おかしいんじゃねぇのか、お前」

「悪いゲームじゃないんだよ。難しくて、驚かしが多いだけなんだ」

「聞いてねぇよんなこと。はんッ、もういい」


 俺のゲーム愛に気がそがれてしまった山口。

 2人の子分を連れて帰っていった。

 残る毅は渋い表情だったけど、苦い笑みを見せる。

 俺の選択は毅の評価では悪かったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ