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賭けと円卓


 高所からの落下で死亡し、ランタンでリスポンした。

 体を伸ばして、深呼吸する。


「あの、カズさん」

「うん?」

「楽しかったですか?」


 顔は分からないけど、間違いないのは怒っていることだ。

 楽しかったけど「はい」と答えるのが躊躇われる状況。

 話を逸らすしかないけど、俺には手札がある。


「うん。あ、そうだ、近所にノスローさんのファンがいたよ」

「そんなことはどうでもいいんです」

「うわぁ、それはファンに失礼だと思いますぅ」

「今する話じゃないと言うことです」

「さ、そんなことより円卓行こうか!」

「露骨に話をそらさないでください」

「ごめんね、落として。一緒に落ちたけど嫌だった?」

「どうして一緒に落ちる必要があったんですか⁉」


 ノスローさんは割と怒っているようだ。配信してても関係ないくらいに。

 俺がしたことに怒っている視聴者がいるのかもしれん。

 ノスローさんが怒ることで、視聴者の暴走を防いでいるのかも。


「ノスローさん、階段降りるのと、跳ぶのどっちが早いと思う?」

「あー、跳ぶ方が早いですけど」

「そういうこと。死にゲーは死ぬことすらも許容するゲームだよ」

「だからって、人にしないでください」

「だから、ゴメンって。ほら、急がないと18時になるよ」

「なりません。55分あまってます」

「じゃあ、ゆっくりしようか」

「円卓に行きましょう」


 馬に乗ったノスローさんは俺を置いて出発した。

 走らなくても時間内に着くのが分かっているから、馬には走らせていない。

 俺も馬を出して、ノスローさんを追いかけた。


「ノスローさん、賭けのことなんだけど」

「はい。何ですか、負け確のカズさん」

「ほう、言うねぇ。ノスローさん」

「事実です」

「はい、事実です。で、ものは相談なんだけど」

「はい」

「えー、ツリーサーガを続けるという賭けの内容なんですが。えー、貧乏学生の小遣いでは難しくてですね」

「はい」

「えー、はい、その、内容を考え直してほしいんです」


 できないわけじゃない。

 でも、したくない。

 だからこそ、俺は金を理由に挙げるわけだ。


「分かりました」

「どのようにしてくれます?」

「お金が問題であれば、私が負担しましょう」

「はぁ?」

「ん? なんですか、カズさん?」

「いえ! どういうことでしょうか?」


 優位な立場のノスローさんが妙な提案を始めた。

 俺は、理由を聞くことしかできない。


「私のすることに手を貸してもらう代わりに、私がお金を出しましょうということです」

「それ、周りからどうこう言われません?」

「視聴者現状歓迎ムードですけど」

「奇特な人もいるもんですねぇ」

「今見てます」

「はい、すみません」


 俺が提案したとはいえ、考え直してくれた内容はどうしてか受け入れられているらしい。

 普通は嫌がるものだと思うけど、問題ないのか。


「あ、そっか。ノスローさんのファンは女性もいるから、問題ないのか」

「え、何ですか?」

「近所のファンの人が女性で、アイドルみたいに祭り上げられている訳じゃないから、歓迎ムードなのかと思って」

「あー、遠からずですね」

「へー」

「それで、カズさんに手を貸してほしいというのはですね」

「うん」

「ツリーサーガの攻略を手伝ってほしいんです」

「メインクエストってこと?」

「どれでもです」


 隣で馬に乗るノスローさんを見ると、前を見ていた。

 頼みが大雑把すぎるけど、俺を困ったとき使える要員にしようとしている。

 受けるべきか、受けないべきか。


「どうして手伝ってほしいんだ?」

「色々な方とコラボをしてきたんですけど、配信を気にしない一般の人と遊べるゲームが無くてですね」

「うん」

「ツリーサーガがそれならいいと思ったんです」

「ツリーサーガよりもゴーストリリースがいいなぁ」


 チラッと隣を見ると、ノスローさんは俺をジッと見ていた。

 物を言わずとも、拒否しているのが分かるのはどうしてだろう。

 首を横に振ると、ノスローさんも首を横に振った。


「ツリーサーガです」

「ゲームそのもの、身体操作を上手くなりたいならゴーストリリースがおすすめだよ」

「弓の練習はしますよ」

「弾きの練習もね」

「追々です」

「追々ね。あ、円卓近づいてきたよ」

「この建物のどこが円卓何ですか?」

「中に入ると分かるよ」


 馬から降りて細長い建物の扉前に着いた。

 大きな観音開きの扉を押し開けて、中へ入っていく。

 入るとすぐに下り階段があり、暗いなかを先へ進む。


 慣れないノスローさんを先頭に進んでいくと、階段を下りた先が急に明るくなる。

 そこは長い廊下で先の方に扉が見えた。

 廊下の両側は小さな円卓が端から端まで続いており、円卓にはランタンが載せられている。


「ね、円卓」

「想像と違いました」

「奥はもっとすごいよ、隙間あるところ円卓があるから」


 このゲームの面白いポイントだ。

 円卓と呼ばれるこの建物の地下には、NPCが多くいる。

 人やNPCの動線は取られているけど、装飾があったり絵が飾ってある中に円卓があり、手抜き説、装飾忘れている説がささやかれている。


 ノスローさんが入ると、ムービーが始まった。

 扉の先には円卓があり、その上で寝ていた汚れた鎧にボロボロのマントを纏ったイケオジが目を覚ます。


『ん? やあ、同志よ』


 杯を持ち上げて、挨拶をしてくるイケオジ。

 ムービーが終わると、場所の説明がシステムによってされる。

 知っているから飛ばしていくと、ノスローさんが振り向いた。


「カズさん!」

「うん」

「今の、あの、あの人はどういうNPCですか?」

「円卓にいて、王を打倒する同志だけど」

「王を打倒、そういうストーリーでしたね」


 『ゴーストリリース』は死者の世界と融合し、不死になろうとする王を打倒する話だ。

 序盤のエリアでは王を倒すために動く王女、王の元近衛、王女を追いかける女騎士がいたり、NPCイベントも豊富。

 しかし、今のイケオジは表世界の終盤でイベントが発生するNPC。


「で、イケオジはどうだった?」

「よかったです! このゲームを続けたくなるくらい」

「じゃあ!」

「いえ、続けませんけど、それくらいよかったです」

「だよね」


 続けそうなくらいの熱量があったのに、それでもしないらしい。

 ノスローさん好みのイケオジをリストアップした方がいいか。


「17時40分。賭けは私の勝ちですね。カズさん」

「はい、負けました。お金を使う以外はなんなりと」

「一先ずはこれから今の3か月分でゲームをしてください」

「うん」

「それ以降は追々です」

「追々ね。そうだ、ここの訓練場に行く?」

「あ、はい」


 外に出る階段から右に行くと、訓練場がある。

 そこに入ると、武器と木でできた案山子が置かれていた。

 木製の各種武器から大太刀を取る。

 ノスローさんはレイピアと短剣を取った。


「案山子は敵っぽい感触するけど、動かないから俺が攻撃するよ」

「弾きの練習ですか?」

「そうする?」

「は、はい。18時までしましょう」

「わかった。最初は分かりやすく振り下ろすから」

「はい」


 そうして弾きの練習が始まった。

 マルチで出来るのはとても効率が良い。

 しかも訓練場だからフレンドリーファイアもあるようだ。


 ゆったりとした振り下ろしだけど、ノスローさんは弾きが出来ない。

 どの攻撃も防御か、受け流しになっている。

 そこでツミキとキアツに説明したような弾きの説明をしてみた。


「そういうシステムなんですか?」

「知らなかったの?」

「はい」

「視聴者は知ってたでしょ」

「難しいことばかり言うと思ってました」

「うわぁ、かわいそう」

「攻撃方向に直角、掛ける力はそこまで強くなくていいんですね」

「うん。やってみよう」


 再度始めると、すぐにノスローさんは弾きを出来るようになった。

 得意げな顔を火の玉へ向けているけど、ヘルムの所為で視聴者は全く見えてないだろう。

 かわいそう。


「これで私もカズさんに追いつきました」

「ほう、言うねぇ、ノスローさん。じゃあ、本気で行くよ」

「え? あ、あの、冗談」


 もちろん、話を聞かずに俺は大太刀を振り下ろした。

 振り下ろし以外の攻撃をしなかったのは、バリエーションを増やすだけで弾きが出来なくなると、理解してほしかったからだ。


 結果、ノスローさんは一度も弾きが出来なかった。

 名誉を守ったぞ、俺。

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