表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/33

砦へ


 システムの確認をしていたノスローさんの方を見ると、想像通りの状況だった。

 俺も似たようなことをしていたからだ。


「あの! カズさん」

 

 ノスローさんは馬に乗っている。

 最初の頃は、馬に乗って移動しながら攻撃を考えるけど、想像以上に難しい。

 しかも攻撃力が下がるから、普通に攻撃した方が楽だ。


「説明通りにすればいいから、そこまで慌てなくても」


 動きを止めたノスローさんは手綱を握り、馬の腹を蹴る。

 ゆっくりと歩き始めた馬は、おっかなびっくりなノスローさんの手綱で動きを決めていく。

 もう一度腹を蹴ると、今度は走り始める。


「あ、あの!」


 声を上げながら遠ざかっていくノスローさん。

 優しく気遣うために、俺は馬鍵を取り出して、馬を出す。

 強めに腹を蹴ると、駆けだした。


「手綱を手前に引っ張ると、止まるから」

「は、はい!」

 

 停止させることに成功したノスローさん。

 どうにか馬から降りると、その場でへたり込んだ。

 俺も降りると、ノスローさんはジッと俺を見てきた。


「なにか?」

「馬に乗れるんですね」

「実際には乗ったことないけど。それでどうよ、アシストのない世界は?」

「想像以上にアシストされていたんですね。ツリーサーガは」

「ツリーサーガは少しじゃなかった?」

「いえ、割とアシストされていましたよ」


 俺とノスローさんの間に齟齬がある。

 少しだけな気がしたんだけど、ノスローさんは割とだと言う。

 いや、俺の少しがノスローさんの割と、なんだろう。


「え? ああ、そういうこと?」

「え、なに、ノスローさん?」

「あ、カズさんはアシストの割合が少なくて、私が多かったのではないかと視聴者が」

「なるほど。VRに慣れていない人でもそこそこのレベルで遊べるように、底上げしてるのか」

「そうだと思います。アシストの要らない慣れた人からすると、少しだけに感じるのかもしれないです」


 ゲーム側も細かい事してるんだな。

 それをしないゲームを今しているわけだけど。

 アシストがないというのを知ってもらえたから、今度はそれの活用だな。

 ゲームをあまり楽しまなくても、この場を求めることになれば良い。


「それじゃ、今から砦を攻略して弓を取りに行こう!」

「あの、馬で行くんですか?」

「歩きで行こう、近くにある、あれだから」


 俺が指を差した先には砦がある。

 中ボスがいる砦で、そこまで強い敵がいないからレベルを上げていなくても大丈夫だ。


「ノスローさん、そういえば今日は何時までするの?」

「付き添いのカズさん次第ですけど」

「え、1日‼」

「そこまでしませんから!」

「冗談だよ。じゃあ、18時ね」

「長くないですか?」

「砦をノスローさんが攻略して、円卓って所に行くまでこのくらいかかるから」

「私が早く攻略すれば、早く終わると」

「そうだけど、無理だと思う」

「じゃあ、賭けましょう!」

「うん?」


 虚空のディスプレイを触れて、操作を始めるノスローさん。

 配信の方で何かしているようだ。


「何を賭けますか?」

「なにかあるかな?」

「あの、私が賭けて欲しいと思っているのは、この前の猿の情報です」


 そうだ、言うつもりだったのに忘れてた。

 あれだ、母さんから気遣いとか優しくとか、言われていたからだな。


「忘れてた。それ、えーと、ボス猿は手甲をドロップして――」

「いやいやいや、なにサラッと言おうとしてるんですか⁉」

「もともと言おうと思ってたから」

「それでも軽く言えることじゃないでしょ⁉」

「3か月分だけしか『ツリーサーガ』する気ないから、言えるんだな、これが」

「そういう話でしたね」

「で、ボス猿だけど」

「それなら私が質問しますから、答えてください」

「え? うん」


 妙なことを言うものだと思ったけど、たぶん視聴者が聞きたいことをまとめるんだろう。しばらく黙っていた。

 こちらに顔を向けた時、ヘルムの奥の目は輝いている。


「まず、どういう風に戦闘が始まりましたか?」

「モンスター誘引煙をパーティー組んだ2人が仕掛けて、大量のモンスターが流れ込んできた」

「は?」

「次の質問は?」

「え、えーと、ボス猿の攻撃で属性ダメージというのは何ですか?」

「両手に巻き付いた木の装甲を打ち合わせて、火に包まれるんだけど」

「は、はあ?」

「それをしたら、猿もダメージを受け始めて」

「自傷行動ですか?」

「それについては詳しく説明できるけど、後になる。で、その拳の攻撃を弾くとダメージをほんの少しだけ受けた」


 俺の言葉を信じてなそうな顔をしているノスローさんが、ヘルムの隙間から見える。

 事実そうだけどな。


「詳しく説明できる部分を教えてください」

「そのボス猿から手甲がドロップして、そこになんだっけ。たぶん、己が命とともに穢れを焼いた戦士の手甲は、相対した者しか装備できない、ってあった」

「え?」

「たぶん穢れを焼いてたんだろうな、それでダメージを受け続けてた」

「いや、あの、えー」

「うん?」

「それ、専用装備じゃないですか⁉」

「だね」

「私も噂だけは聞いていたんですけど」

「他にもひとつあるけど、話しを聞いて賭けに負ける?」


 俺の言葉に動きを止めたノスローさん。

 そもそも何をしようとしていたか、思い出したらしい。


「私が賭けて欲しいのは『ツリーサーガ』を続けるです」

「月額ゲームだから無理ですー」

「全くできませんか?」

「となると、出来ないは嘘だな」

「では、それで。カズさんは?」

「ノスローさんが『ゴーストリリース』を続ける権利がいい」

「いや……あの、それは」

「えー! 人にはお金がかかることをさせるのに」

「分かりました。それでいいです。ほら、急いで砦まで行きますよ!」


 賭けることが決まると、砦に向けて歩き出したノスローさん。

 俺は馬に跨って、後ろから付いて行く。

 しかし、すぐに気付いたノスローさんも馬を出した。

 順調に馬は歩き始める。


「ふふっ、これなら私の勝ちですね」

「残念、ノスローさん。移動速度は俺基準だから、全力疾走で20分だ。あはははは!」

「やっぱりできるんですね、カズさん」

「それもここで覚えたから、続ければノスローさんも出来るようになるね!」

「くッ! ほら、急いで!」


 慣れない馬を走らせるノスローさん。

 しかし、走らせ続けると慣れていくのか砦が近づいてくる。

 砦まであと少しという所で、俺はノスローさんを止めた。


「ノスローさん、リスポン更新しよう」

「あ、はい。どこですか?」

「ここ」


 おぼつかない手つきで火をつけると、俺も続いて火をつける。

 死んでもここから、再開できるから、安心だ。

 ノスローさんは今からリリースして偵察をしようとしているかもしれないけど、そんなことをしていたら時間が足らない。


「ノスローさん、リリースすると時間が足らないから、砦の構造を教えるね」

「え。は、はい」

「4つの塔があって、それを登るのが一番早く攻略できる」

「はい?」

「で、普通に行くと、あの大きな門の扉から入る。鍵は門番が持ってるから」

「はい」

「入ると弓で撃たれるから真っすぐ突っ切る」

「はい」

「その後は、敵を倒しながら上に行くと中ボスだから」

「はい、あの弓はどこにあるんですか?」

「塔の奴が持ってるから、倒して」

「は、はい」


 馬を下りてノスローさんは砦を見た。

 塔の上の兵がこちらを見ている。

 弓を構えているけど、警戒しているだけだ。


「あの、近づいたら撃たれるんですか?」

「うん。だから、矢を避けながら門番倒して鍵を開ける」

「いや、あの、無理じゃないですか?」

「だから塔を登るのが簡単」

「それはもっと無理です」


 ああ。そうだそうだ。

 優しく、気遣いを忘れずだな。

 忘れてたよ、母さん。


「じゃあ、鍵を開けるまでは矢を弾いてるから、門番倒して」

「分かりました。早速行きたいんですけど、いいですか?」

「もちろん。砦の攻略だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ