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日曜日の午前と布教前


 8時ごろに起きると、13時に向けて準備を始める。

 朝食を終えると、午後からの長時間ゲームに向け、軽く運動をする予定。

 11時には昼食を終えるつもりだ。


 体を動かすために動きやすい服装で外に出た。

 運動といっても、あまり激しいことはしない。

 散歩した後に、軽くランニングするくらいだ。


 近くを散歩していると、朝はまだ涼しい。

 昼からは暑さが厳しいだろうけど、まだ扇風機で大丈夫だろう。

 散歩していると、犬の散歩をしていたり、健康志向の人たちが散歩をしている。


「あの……」


 妙な声が聞こえてきたから、疲れてるのかと首を傾げる。

 ぐっすり眠れたと睡眠評価AIは教えてくれたのに。


「あ、あの!」

「ん? ああ! コンビニであったノスローさんファンの人」


 背後からの声に振り向くと、不健康そうな見た目に似合わないスポーツブランドのジャージを着た人。

 ノスローさんのファンで、配信に映っていた俺をコンビニでじろじろと見ていた人だ。


「運動するんですね」

「はい。VRゲームのため、現実で多少運動出来た方がいいのは間違いないですから」

「なるほど。確かにそうですね」

「時々、運動はするんですけど、ファンの人は運動しない人ですよね」

「はい。分かりますか?」


 恥ずかしそうに頭を掻く仕草に手慣れた感じを受けた。

 仲間内では、いじられキャラなのかもしれない。


「はい。曲がった背中に、ふらふらした歩き方、足は不健康なくらい細いですね」

「け、結構言いますね」

「俺は学生なので授業で動きますけど、大人になると動く時間はなさそうですね」

「学生⁉」

「はい、高校生です」

「それにしては、疲れた顔で老けて見えるけど」

「高校生に何てこと言うんですか」


 疲れた顔の原因は分かってる。

 『ゴーストリリース』だろうな。

 あのゲームをすると疲弊するし、人を信じる心を保てなくなる。

 でも、そのうち戻って来るから問題ない。


「あ、いや、あの、ゴメン」

「社会人って辛いんですね」

「あ、いや? どうだろう?」

「? それで、どうして運動をしようと思ったんですか?」

「色々あって運動しようと思い立っただけです」


 ノスローさんのファンが運動しようと思う理由は『ゴーストリリース』だと思いたいけど、VRゲームに挑戦とかだろう。

 もしくは過去に挑戦して、再挑戦か。


「VRゲームするなら『ゴーストリリース』がおすすめです」

「ハハ、ハハ」


 笑っているような、嫌がっているような、微妙な顔で乾いた笑いが返ってきた。

 嫌がってるのは間違いなさそうだ。

 世間の評価と俺の評価は合致していないのも、間違いなさそうだ。


「ホントですよ」

「分かってます、カズさんが死にゲー好きなのは」

「それゲームの名前なので、現実では呼ばないでください」

「あ、ごめんなさい」

「井上優人です」

「私は中村葉波です」


 なかむらはなみ、さんというようだ。

 珍しい名前だな。


「中村さん『ゴーストリリース』はおすすめです」

「井上さん。これからたくさんのゲームをして、それでも良かったのなら『ゴーストリリース』を薦めてください」

「ですね。今のところ『ツリーサーガ』よりは薦められます」

「大きく出ましたね」

「はい、13時から見ててください。それじゃ、ここで」

「はい」


 ちょうどいい場所だったから、その後はランニングをして家に帰った。

 時刻は9時30分頃。

 11時頃まで俺は過去に投稿した動画を見返していた。

 使ったことのない装備を探していたからだ。

 

 初期装備から選ぶことになるだろうけど、問題はなさそう。

 昼食を済ませると12時過ぎになる。

 準備を出来るだけ済ませて、VRルーム内で招待待ちだ。


 13時開始だから、12時45分くらいに招待が来るだろう。

 それまでVRルーム内で中村さんに言われたように、いろんなゲームをするために漁ってみるか。


 VRゲームを販売しているサイトを見ていくと、ランキングがあり、上位には『ツリーサーガ』がある。

 俺がよく見ている『ゴーストリリース』はない。


 上から見ていくと、人気なのはアクションゲーム、リラックスゲームだ。

 アクションは『ツリーサーガ』や『ゴーストリリース』のようなもの。

 リラックスはどういうものかというと、非現実的な空間で癒されるゲームだ。


 広がる雲海に乗って、眠るゲーム。大型肉食獣の幼獣と戯れるゲーム。

 呼吸のできる海の中で眠るというのもある。

 他に売れているものは、VRルームを好きにカスタムするものだ。

 椅子、机、空、地面、VRという場所を好きにカスタムできる。


 未だ俺は手を出していないから、そのうちしてみたいとは思っている。

 もちろん思っているだけだから、いつになるかは分からない。


 アクション、リラックスに続いて出てくるのは、シミュレーションだ。

 その後にシューティングゲームが出てくる。

 過去、シューティングゲームは人気だったらしいけど、VRでは違う。


 走り続ける持久力、各武器ごとに必要な操作、兵器の操縦方法。

 覚えることが問題になっている。

 これらを自動化したゲームもあるが、ゲーム体験を損なっており人気は薄い。

 持久力の問題が解決しない限りは、それ以外は大きな問題ではないけど。


 シミュレーションゲームは別の人生を歩んでいるようだと、人気だ。

 もちろん俺はしたことない。

 母さんがしているゲームはアクションとシミュレーションの要素が合わさったゲームだ。


 日本にいる大量のゾンビを全滅させる『ゾンビサバイバルJP』というゲーム。

 してみようか、俺も。

 欲しいものリストとやらに追加して、他のゲームも見ていく。


 RPGやレースゲーム、カードゲーム。

 どれも心が惹かれない。

 しばらく探していると、別の会社の死にゲーを見つけた。


 戦乱の世を舞台にした、魑魅魍魎討滅死にゲーだ。

 評価は圧倒的不評。

 死にゲーにおける褒め言葉に違いない。


 とはいえ、実情を知りたいからレビューを見ていく。

 操作性の悪さがどのレビューでも書かれていた。

 『体が重い』『鎧が重い』『武器が重い』『敵が強くて攻撃が重い』

 どの程度かによるけど、面白そうだ。


 追加して、熱中していから時間を確認すると、12時50分。

 招待を確認すると、来ていない。

 メッセージでも送るか。


「えーと『起きてますか?』」


 1分もかからず返事があって、招待を送るのは12時55分になるという事だった。

 すぐに、追加のメッセージがあり、招待を確認した後にゲームを始めて、キャラクリエイトを終わらせておくようにということだ。


 さて、ノスローさんはどういう装備なんだろうな。

 騎士、兵士か。

 傭兵、山賊、盗賊、貴人。

 俺は魔術師装備の予定だ。


 攻撃力低い杖で弾きをしながら、ノスローさんの補助で動く。

 ステータスは先の事を考えて、体力偏重で受け流しをしやすいようにする。

 そもそもは新規データで日本風装備を取りに行く予定だからな。


 12時55分、招待を承認して『ゴーストリリース』を起動した。

 規約を同意して、新規データを選択すると、マルチプレイの注意が出てくる。

 どうやら、キャラクリエイトが2人とも終わって、同意を押すとゲームが始まるらしい。


 魔術師を選択し、ステータスを体力と筋力に振っていく。

 魔術を使うつもりはないから問題ない。

 キャラそのものは変更せず、名前をQAZにしておく。

 これで完了だ。

 

 しばらく待った。

 具体的には25分だ。

 最初は俺も悩んだのに、忘れていた。


 目の前に出ていた同意ボタンを押す。

 今度は1分も経たずにボタンが押され、視界が暗転した。

 長いロードを挟んで、石棺の蓋がずれていく音が聞こえてくる。


 さあ、布教だ!

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