面倒と頼み事
ノスローさんのファンと出会い、サラダを買い忘れたけど、家に帰った。
全自動調理器からハンバーガーを取り出しながら、スマホで『ゴーストリリース』のマルチに関することを調べていく。
すると、どうやら2年前にはそのアプデが入っていたらしい。
データガラスに記録しているから、余計なアプデを入れていない俺は知らなかった。
食べ終えたらアプデをしないとな。
マルチはどうやら最初から最後まで同行できるようで、最大人数が4人となっている。
ゲーム開始時にホストとなるプレイヤーのゲームに参加するとあった。
新規データでマルチを開始する予定だから、明日の13時が楽しみだな。
食事を終えて、『ゴーストリリース』のアプデをしながら、MMOを開始する。
ログインすると、ログアウトするときよりも人が多いように思えた。
毅が言ってたようなこと、それが本当に起こってるのか?
気にすることもないだろうと、六ツ町側の門へ移動していく。
門前には、どうみても武具屋にはなかった装備の人たち。
俺を見て、指差しているように思える。
いや、指差して近づいてきた。
俺ではないという望みをかけて門へ向かっていくと、目の前に5人が並んだ。
淡い望みは砕け散ったらしい。
「Q、A、Z、カズさんですね」
「うん」
違うと言ってもいいけど、後が面倒そうだ。
「俺たち5人でギルドを組んでいて、猿の話を詳しく聞きたいと思って待ってたんだ」
「うん」
「教えてくれないか?」
「うん」
「はっきり答えてくれないか。無理なら諦めがつく」
諦めの悪い人だと思っていたら、どうやら諦める理由を欲していたらしい。
こういう割り切りの良い人には教えたいんだけど、面倒だから教えない。
「教えたいんだけど、ごちゃごちゃ言う人が出るだろうから、ノスローさんの配信で言うよ」
「分かった」
「日曜の13時に『ゴーストリリース』するから、そこでね」
去っていく5人に声を掛けるも返答はない。
ゲーム以外はどうでもいいのかもしれん。
割り切りが良いというよりは、俺に時間を掛けたくないと感じられた。
「あの!」
さあ、六ツ町へ行くぞ。と門を抜けようとした時、また止められる。
今度は2人。
重そうな金属系の防具に、大太刀を背負った2人組だ。
ワクワクしたような顔をしているけど、ボス猿の話か?
「うん」
「カズさんですよね」
「うん」
「あの、弾きのやり方を教えてもらえませんか?」
「え?」
想像と違いすぎて、思わず嫌そうな声が出てしまった。
今の俺は、間違いなく怪訝な顔をしているだろう。
2人の顔が少し残念そうになる。
「すみません、変なことを頼んで」
「いやいや、そうじゃなくて、何で頼んできたのかと思って」
「僕たち、友達に誘われて始めたんですけど、戦闘が下手で」
「いつも攻撃を受けて拠点で復活するばっかりで、パーティー抜けさせられたんです」
「へー」
「もう、やる気も無かったんですけど、同じ大太刀、しかも低レベルで動いているカズさんを見て、出来れば教えてもらおうと思って来たんです」
悪いけど、俺の考えではわざわざ大太刀を使う必要はないと思う。
盾とメイスで固めて受ければ、楽に倒せるだろう。
「他の武器は使わなかったのか?」
「はい。でも使いたいのが大太刀です」
「そっちも?」
「はい」
「弾きのやり方を教えてほしんだっけ?」
「はい」
オフラインゲームしかしてこなかったから、オンラインゲームの関わり方が分からない。
こういうのは受けても大丈夫なものなのか。
「どこまでメインクエスト進めてるんだ?」
「1章までです」
「僕もです」
「それなら六ツ町まで行く間だけ教えるよ」
「ありがとうございます」
「お願いします」
他に面倒が降りかかることもなく、俺は2人に弾きを教えることになった。
でも、2人が上手くできるかは別だからな。
意欲があるのは良いことだけど、出来ないからと面倒くさがらないことを祈ろう。
門を出て、道なりに進みつつもモンスターを見かけると、2人へ教えるために戦闘する予定だ。
「他のゲームを『ゴーストリリース』以外知らないんだけど、弾きはあるんだろ?」
「はい。上手い人が使ってる印象です」
「ツリーサーガでも、上手い人は使ってます」
「弾きは敵の攻撃方向に対して、直角に力を掛けるのは知ってるよな」
「はい」
「はい」
「結果的には相手の攻撃が斜めにズレるわけだ。その時に力み過ぎてもダメ、力を抜きすぎてもダメって感じだ」
「その2つがコツですか?」
「他にあるとすれば、相手によって力を変えると弾きやすくなる」
俺の言葉に話が違うのでは、という顔をしている2人。
でも、違わないのが面白いところだ。
「例えば、あの狼に力まない全力を使う理由は無いよな。でも熊相手にそれをするとちょうど良い力なのは間違いない」
「どういうことです?」
「力を抜いていないが0、力が入りすぎていないが100。この間で力をコントロールするってことだ」
「ちょうど良い力の中で、さらにちょうど良い力の入れ具合を探るんですか?」
「おっ! そういうこと。すると、弾きの精度が上がる。しかも、それが出来るようになると、戦闘で無駄な力が入らなくなるから、楽に戦闘が出来るようになる」
ただ、それが難しい。
しかし『ゴーストリリース』でそれを出来るようになると、相手が熊でも、サイズが異様な馬でも弾きの対象になる。
「じゃあ、あの狼で練習だ」
「受け流しは弾きとどう違うんですか?」
「あ、それ聞きたかった」
「受け流しも、他のゲームにあるのか?」
「はい。弾きよりもしている人が多いと思います」
「弾きはダメージを受けることなく攻撃を捌く。受け流しは弾きよりも簡単で、ダメージを一部受けながら、攻撃する機会を生み出す、って感じかな?」
「それなら、受け流しの方が良くないですか?」
「タゲが変わるならダメージを受けてもいいけど、変わらないなら回復が必要だから、ひとりで戦闘するなら弾きの方が安全だ」
しかも『ゴーストリリース』で受け流しをするなら、ステータスを体力偏重にする必要がある。
大体2回攻撃を受けると死ぬから、受け流しても6回が限度だ。
このゲームは受け流しをした方が、戦闘速度はあがるのかもしれん。
1人でするゲームじゃないだろうし。
「よし、練習してこい」
「はい」
「はい」
名前を聞いていないのは、俺が聞こうとしなかったからだけど、2人は思いのほか真面目だ。
話し合いをして、狼へ挑む方を決めた。
どちらも同じ金属系の防具を装備しているから、違いは分かりづらい。
頭上の名前から黒っぽい防具の方『ツミキ』が狼に向かって行った。
白っぽい防具の方『キアツ』は待機だ。
大太刀で防御をするように構えて、狼の攻撃を待つ。
最初の飛び掛かりに弾きを合わせようにも、上手くいかず距離をとる両者。
俺、人の弾きを見たことないかもな。
どんな風に見えるんだろう。火花のエフェクトは周囲の人にも見えてるのか?
そうしてしばらく、攻撃もせずに弾きの練習をしていると狼が仲間を呼んだ。
総数8体になったから、俺も戦闘に参加する。
「2体だけ残すからな」
「はい」
「1体だけ相手しておきます」
1体ずつと相対する2人、俺は6体を倒す必要があるけど、難しくはない。
犬系は群れの行動になると、波状攻撃が主になる。
但し書きを入れるなら『ゴーストリリース』では、だ。
それでも簡単だ。
何といっても俺は群れを相手にしたことがあるからな。
あの時はリーダーみたいな狼から、特殊な毛皮が出たんだったっけ。
そう言えば、あの装備は碌に確認してなかったな。
六体を倒し終えると、気になった心配事を無視して、2人の状況を見ることにした。