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インベントリバッグと拍子抜けするボス


 武具屋のNPCに話を聞くと、場所を指定された。

 次グ町側の門近くの場所にピンが打たれ、俺は今そこへ向かっている。


 武具は更新しているから、インベントリバッグを入手し終えたらボスにでも向かってみるか。

 今回はボスの行動をネタバレせずに向かうつもりだ。

 ボス猿の時は悪意ありそうな2人に声を掛けられたから調べたけど。


 そう言えばあの2人はどこにいるんだろうな。

 レベルが18だったから、三ツ町には来てると思うけど。


 ピンの場所に向かうと、そこは見たところ普通の家だった。

 現代的な家では無くて、ツリーサーガの普通の家だ。

 合っていないかもしれないから、ノックする。


「すみません」


 扉が開かれると、真っ暗闇で俺は強制的に吸い込まれて行った。

 光が戻ると椅子に座らされ、目の前にはズタズタの熊皮が置かれている。

 椅子と机、それ以外に何もない。ここはあの扉の先だろうけど、バグか?


「あのー」


 椅子から立ち上がろうとするも動けない。

 声を出すと返ってきたのは、画面による返答だった。

 『インベントリバッグの形状、色を選んでください』


 システム的なものなんだ。

 もっと、こう、なんて言うか。

 NPCと会話しながら、作ることになると思ってたのに。


 画面から基本形状を選んでいく。

 大きさによって入れられる数に違いがあるらしい。

 俺は拳1個分くらいの小さな革ポーチを選択した。

 回復薬や状態異常を治す薬しか入れられないらしいけど、それだけ使えたら十分だろう。


 今度は色だ。

 こげ茶色にして、汚らしいダメージ加工をすると。

 あら不思議。どうみても死にゲー世界に似つかわしいポーチが出来上がった。

 

 完了ボタンを押すと、俺の体は建物の外に出ていた。

 小さなポーチを左腰に装備すると、四ツ町を目指して外に出る。

 今の時刻は22時30分頃だ。


 今から23時30分までにボスを倒し終えられるだろうか。

 町から道なりに歩いていくと、ボスのいる場所まで真っすぐだ。

 クエストのピンを目指して道を歩くこと、30分。

 23時、ボス前に着いた。


 前回はボス戦を録画しておけばよかったと後悔した。

 だから、今から録画して戦闘に入る。

 ノスローさんの前では着けなかったミサンガと猿の手甲も装備した。

 これで防御力も高いから、下手に攻撃を受けても死に辛い。


「まずは録画してっと」


 録画を確認して、ボス戦用の少し開けた場所に入った。

 前回調べた時には、ゴブリン10体とゴブリンソーサラー2体だと分かっている。


 茂みから出てきたモンスター。

 緑色の肌に、黄色く濁った瞳、とがった耳に少し小さい人型。


「グギャギャ!」

「ギャッギャッギャ!」


 杖を持ったゴブリン2体、無手のゴブリン10体が今回のボスのようだ。

 頭上に『ゴブリンソーサラー(水)』『ゴブリン』とある。

 猿よりも強いのを求めているんだけど、どうみても弱いと思う。


 走り出した無手のゴブリンたちは俺を目掛けてきた。

 もしものために避けて、1体を攻撃する。

 それだけで半分減った。


「なんで⁉」


 どうして、こんなに弱いんだ。

 10体のゴブリンたちをすぐに一掃して、一縷の望みをゴブリンソーサラーに賭けた。

 猿ほどとは言わん。

 せめて、ボスとして強くあってくれ……!


 杖を俺に向けるのも構わず、大太刀を振りかぶって叩きつけた。

 走っている慣性、振りかぶったことで体力が半分減った。


「おい⁉」


 攻撃で杖を手放してしまったゴブリンソーサラーは、拾いに向かう。

 俺の前を走っているけど、無手で攻撃はしないらしい。

 とても残念だ。

 追いかけて大太刀を振り下ろす。


 残った1体も攻撃する前に、倒し切った。

 戦闘終了を告げる残酷なリザルト画面が表示される。


「なんでこんな弱いモンスターなんだ」


 普通、弱いのには理由がある。

 死にゲーの敵は基本慣れない限り、全員強いから参考先がない。

 でも理由がないと、この弱さは運営に報告するレベルだ。

 俺だったら、報告してるな。


 いや、次のボスへの仕掛けかもしれん。

 わざわざ『ゴブリンソーサラー(水)』だったんだ。

 猿が火属性だったから、水属性のためにゴブリンソーサラーだったんだろう。

 でも、ゴブリン10体じゃ足りないよ。


 王都までこの感じだと、このゲームは3か月遊ぼうと思えないな。

 次のボスに思いを馳せながら、リザルトを見ると基礎レベルが21に、大太刀のスキルレベルは12に上がっていた。

 経験スキルとやらにはレベルがないのか、表記すらない。


 四ツ町に着くと、これまで同様のムービーと兵士からの問い掛けがあった。

 あと、新しいゲームシステムの剣闘場の開放も。

 雑貨屋で売却を済ませ、宿前で拠点の更新をすると時刻は23時。

 まだ時間はあるから、装備の更新しておこう。


 武具屋に向かって、装備一式を更新。

 手持ちのゴールドは1万になったけど、回復薬を買わないから問題ない。


「すまん、アンタ。その手についてる防具はどこで買ったんだ?」


 久しぶりにプレイヤーを見たと思えば、俺の手を指差してくる。

 猿の手甲を装備したままだったな。

 なんて誤魔化そうか。


「ん? ああ、これか。別のプレイヤーから買ったんだ」

「そうなんだ。俺も探してみるよ」


 手を挙げて去っていくプレイヤー。

 会うこともないだろうから、名前は見てないけど、特に悪意を感じられなかった。

 嘘を吐いた俺の方が悪意あるけど、仕方ない。

 俺は急いで、装備を外した。


 武具屋を出ると、人にぶつかりそうで避けた。

 四ツ町からはプレイヤーの数が増えているみたいだ。


「すみません」

「いや、カズさん、私ですよ」

「ピンク色の髪、ノスローさん?」

「また会いましたね。て、言いたいんですけど、ひどい覚え方してませんか?」

「そう?」

「そうですよ!」

「体すべてが好き放題弄れるんだから、色で覚えない?」

「確かにそうですけど、見た目で覚えます」


 見た目の要素に、体全体と一部が含まれるんだろう。

 俺は見た目の要素の中から色だけ抜き取ってるから、あんまり変わらないと思う。

 特徴で覚えてるんだから、たぶん一緒だ。


「そっか。でさ、ボス微妙じゃなかった?」

「そうでしたか? 私は水の魔法に悩まされたので、それは微妙でしたけど、たぶん違う微妙ですよね?」

「分かってるねぇ、俺の事」

「死にゲーしてる人は、理不尽な歯応えが必要と視聴者から聞きました」

「視聴者も分かってるね。硬い癖に適度な歯応えがあると、より良い!」


 深夜が近づくとハイテンションになるのは仕方ない。

 けど、それを見てノスローさんが引いているのはいただけない。

 日曜日13時から同胞となるのに。


「そんなカズさんは何が微妙なんですか?」

「ゴブリンは一撃で体力半分減る。ソーサラーは杖を落とすと取りに行く」

「半分も減るんですか⁉」

「大太刀だから減るだろ。結局魔法見てないんだよ。どんなだった?」

「攻撃させなかったんですか?」

「させないは違う。してくれないだ。で?」

「細かい水の飛沫を飛ばしてくるんです。ひと粒ずつに攻撃判定があってダメージは少ないんですけど、邪魔で」


 プレイヤーが使えるなら、異常に強そうな魔法だ。

 怯み状態まで持っていくのに最適な攻撃だな。

 逃げながら邪魔するのにも使える。


「へー」

「それで、あの、聞いていいのか分からないんですけど……」

「なに?」


 ノスローの指が俺の腕を差した。

 手甲は外したけどな。

 ただ、嫌な予感がしながら視線を向けると、虹色のミサンガが見えた。

 忘れてたぁッ!


「それ、ミサンガですか?」

「うーん? そうみたい」


 ノスローの顔を窺いながら返事を考えてたけど、肯定しか出てこなかった。

 3か月しかしないから、いっか。


「なんでノスローさんと違うんだろうな!」

「いえ、あの、条件出てます」

「え⁉」

「攻撃する回数が少ないと防御上昇の赤と茶、防御する回数が少ないと攻撃上昇の青と紺」

「これは?」

「回復回数が少ないと茶と紺」

「あのー、これは?」

「被ダメ回数が少ないと赤と青」

「ノスローさん? これは?」

「ノーダメで回復なしだと虹です」

「ダメージは受けたはずだ。ボス猿で」


 火属性のダメージ、弾いてもくらう防御貫通攻撃だったはず。


「猿の攻撃は避けられなかったんですか?」

「いや、弾きしたら、たぶん火属性のダメージ受けた」

「猿にそんな攻撃はありませんでしたけど……」


 あら、墓穴を掘ったみたい。

 深夜のハイテンションな時に人と会わない方がいいのは、間違いないようだ。


「おっと、ノスローさん、本日はここいらで、失礼ッ!」


 一応、挨拶をしてログアウトをした。

 どうせ日曜日会うから、その時までにメンタルを整えよう。

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