土日の予定も変わらずゲーム
「え? あのゲーム、マルチできるの⁉」
「はい。視聴者から教えてもらいました」
「知らなかった」
「それで、どうでしょう?」
「もちろん、死にゲーの先輩として頼みを受けよう!」
マルチできるなら、俺も新規データで始めた方が良いよな。
使わない装備で同行しながら、日本風装備を取って、周回データで動画を撮るのも悪くない。
「あの、熊を――」
「それで、いつするんだ? 今か?」
「いえ、まだ買ってないので今は無理です」
「じゃあ、いつ?」
「明日は無理なので、明後日の日曜日にしたいです」
「分かった。日曜日の何時だ?」
「13時からしたいです」
「わかった。マルチの仕方わかんないけど、どうにかなる?」
「視聴者が調べてくれたので、大丈夫です」
「よっしゃ、やる気出てきた! さっさと熊を狩って、ドロップ出すぞぉ!」
「あ、はい」
俺のやる気とドロップは関係ない。
それを示してくるかのように、まったく限定ドロップは落ちなかった。
現在時刻は20時30分。
下手すれば3時間、俺たちは熊狩りを続けることになる。
「ノスローさん、ドロップ上げる方法ないの?」
「王都より先にはあると視聴者は言ってます」
「視聴者にしている人がいるってことは、このゲームって人気あるんだよね?」
「はい」
「どうしてなの?」
「知らないんですか?」
「うん」
隣を歩いていた俺の顔を見ると、動きを止めたノスロー。
どういうことかと、ノスローの後ろにあるカメラへ顔を向けるも答えはない。
「このゲームは体感覚フィードバックが優れているんです」
「へー、それだけ?」
「はい。そのおかげでより、リアルにこの世界を感じられます。他のゲームよりもより、リアルなんです」
「そうなんだ」
「分かりませんでした?」
「体が軽いとか、多少リアルになったくらいだった」
言われてみると、リアルな感じはする。
防具に触れた感覚、鞘に手を伸ばし握る感覚。
平原を歩くときの感覚も少しリアルに感じるな。
「カズさんは、どうしてこのゲームをしてるんですか? 流行に乗ってしている訳じゃないんですよね?」
「友達が招待ボーナス欲しいからって、金払ってくれた3か月分」
「5500円ですか」
「うん。だから3か月だけこのゲームして、第1章をクリアする」
「それ以降はこのゲームをしないんですか?」
「うん。『ゴーストリリース』に戻る」
「あ、そうですか」
移動を再開すると、すぐに熊を見つけた。
そうして変わらず俺が前で弾いて、後ろから弓で攻撃するノスローさん。
倒し終え、顔を向けると首を横に振ってきた。
限定ドロップ狙いは過酷だな。
「出ませんでした」
「弓の練習止めてくれ。短時間で狩れるように近接で行こう」
「近接ですか?」
「そうだよ、頼む。同じモンスターばっかりだと飽きるから」
「タゲお願いします」
「分かってる」
弓を装備から外してくれたノスローさん。
熊を探して歩きまわること5分、三ツ町近くに戻ってようやく見つけた。
長かった、これで出てくれ!
「じゃあ、行くよ」
「はい」
ひっかきと叩きつけを弾き、攻撃は少なめになるけど、タゲを取る。
熊の背後から、後ろ足を突いて攻撃を続けるノスローさん。
俺の考えではドロップを取りたいなら、与えるダメージは多い方が良いと思う。
ミサンガが出た時は俺が正面でたまに矢が飛んでくる程度だったから。
しばらく弾き続けていると、熊が咆えると共に動かなくなって、崩れて行った。
崩れた熊の先、ノスローさんを見ると笑いながら俺には見えない画面を操作している。
ドロップしたか?
「見てください、ドロップしました!」
腕に巻いたミサンガを見せられたんだけど、俺が持っているのとは違っている。
茶色と赤色のミサンガだ。
「どういう効果?」
「自分の見てくださいよ」
「インベントリ探すの面倒だから頼む」
「『赤と茶のミサンガ:アクセサリー枠を消費することなく装備できる。DEFを1.05倍する』です。これでようやく四ツ町に行けます」
「そっか。で、『ゴーストリリース』のマルチ、俺側はすることないのか?」
笑みを浮かべて話していたノスローさんだったけど、俺の言葉で真顔に変わった。
そこまで嫌がるような話だったか?
「ドロップ取って喜んでいるんですから、あんまり考えさせないでください」
「そんなに嫌か?」
「怖くて難しいと聞いてますから」
「怖いと言うより、びっくりするんだよ。で俺は何かすることあるのか?」
「VR機器自体のフレンドになる必要があるみたいです」
「分かった。申請送るぞ」
「はい」
VRメニューからフレンド申請を送ると、承認された。
毅ともフレンドじゃないから、初のフレンドだな。
うん。嬉しいかもしれん。
「うん。確認した。日曜日は始める前に連絡してくれ。じゃ」
「急いでいるんですか? 別に町までは一緒に帰ってもいいじゃないですか?」
「それもそうだな。ノスローさんのこれからの予定は?」
「売却してから、レベル上げです」
「まだ上げるんだ」
「はい、適正より少し高くしてからボスに行きます」
「今は、26だけど、適正はいくつ?」
「26です」
石橋を叩き割る系の人か。
戦闘の手応えはあるのに、ボス単体と長時間戦闘できないのは俺としてはマイナスだ。
ボス猿は手下を召喚して、命を燃やして短時間戦闘だったし。
俺は今20レベル。
ちょうどいいレベルだな。
「おっ、町が見えてきたな。そう言えば、ノスローさんは熊皮の加工したのか?」
「はい。あの熊皮の加工をしてもらうと、あっ……」
「なに?」
「ネタバレ、嫌でしたよね」
「そこまで言うんだったら言えよ」
「え? ネタバレは嫌って言う話でしたよね?」
「そうだけど、聞かせといてそれはないよ」
聞いてしまったから、気になって仕方ない。
加工してもらうと、どうなるんだ?
きれいな革になるとかいう、なんとも言えないオチか?
「加工してもらうと」
「もらうと?」
嫌にためるノスロー。
気になって自分の眉間に皺が寄っているのが分かる。
「なんと⁉」
「もういいよ、言えよ」
「なんと! こちらのインベントリバッグが手に入ります」
ウエストバッグにしか見えないものを手に取って、見せてくる。
ノスローさんの持つそれは、ピンク、白、黒という色合いだった。
ピンクの割合が多く、世界観にまるであってないと思う。
「そんな色なのか?」
「いえ、個人でカスタム可能です」
「で、インベントリバッグとは?」
「いま、カズさんは回復薬を使う時に動作を設定していますよね」
「ああ」
回復薬を使う動作という設定がある。
インベントリから選んでいる暇はないから、各種動作でアイテムを取り出すことだ。
各種動作のショートカットだな。
死にゲーは回復丸薬をポーチに入れているから、困らないけど。
「バッグを持っていると、戦闘で使うアイテムを入れておけて、必要になったらバッグへ手を伸ばして、手触りでそれが分かるんです」
「動作より正確性はないけど、直感的か」
「はい。バッグに入れているものが回復薬だけなら、考えることもありません」
「へー、どこで加工してもらえるんだ?」
「武具屋のNPCに話をすれば、場所を教えてもらえます」
「ありがと、助かったよ」
「いえ、私は雑貨屋に行きますけど、カズさんは?」
「今から武具屋行ってくるから、また連絡してくれ」
「はい」
三ツ町に戻ると、俺はノスローさんと分かれた。
俺は今、最高にハイテンションだ。
『ゴーストリリース』してくれるようだから。
マルチプレイがどういう風なのか知らないから、それも楽しみだな。
自称配信者とはいえ、ある程度は視聴者もいるだろう。
『ゴーストリリース』の魅力を届けるため、がんばろう!