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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
9/16

9 柊と蓮の楽しい(?)冒険Ⅰ


 さて、時間を遡って、桃香たちが女神と会っていた頃。


 柊と蓮は、道中一緒になったジョンとサザンウィンド国の王都に入ったところだった。


 「話に聞いてたけど、ホントに治安悪そうだな。

  シュウ、気をつけろよ。」


 「わかってるよ、蓮。」

 「ジョン、どこで妹さん探せばいいか、わかる?」


 「いや。

  近々、市が開かれるはずだとは、聞いたんだけどな ・・・。」


 3人は小声で話しながら辺りを見回した。


 蓮は時々、桐葉と連絡を取り合っていた。

 桐葉からの連絡で、自分たちが最初にいた場所が、ウェストデザート国の砂漠ではないかと言われ、確認したら本当にそうだった。

 加えて、この大陸についてわかった情報も教えてくれたので、非常に助かった。ありがとう、桐葉!感謝してるよ。

 桐葉からイーストウッド国で落ち合いたいと連絡が来たときは、「夜間、こっそり柊を乗せて飛べばすぐだな。楽勝!」と思ったもんだが・・・。

 まさか同行人が増え、サザンウィンド国経由になるとは・・・。「旅は道連れ世は情け」って言葉もあるし、しょうがないか。「袖触れ合うも多生の縁」とも言うしね。



 ジョンと会ったのは、昨日の昼前だったな。


 昨日の朝(まぁギリギリ朝だな)、柊と僕は情報収集のためにオアシスを目指したんだ。僕の探知能力を使えば、水や人の気配からどこにあるかは簡単にわかるからね。それに、オアシスに行けば、隊商の休息地や交易地でもあるから、ここがどこの国のどこら辺で、この国や周辺国の状況もわかると思ったんだよ。

 僕の探知能力のおかげで、昼前にはオアシスに着いたんだ(さすが僕)。そこで、ジョンに会ったんだ。

 僕は、ちょっとそこら辺にある店を回って昼食を調達するついでに情報も仕入れてこようとしてたんだ。さっきから周囲の声を拾ってはいたんだけど、まとまった情報にはならなかった。細切(こまぎ)れでまとまらない。気になっていることがいくつかあるから、現地の人に聞いたが早いしね。

 ただ、どうやら以前訓練で来たことがある世界だということはわかった。じゃあ、前回来たときのお金の残りも持ってる。さぁ、行ってくるかってなったんだけど、時間的にマズかった。昼だから、同じように食べ物を求める人が多かったんだよ。僕はこの中でも買い物も会話もできるけど、柊を連れて行ったら慣れてないから、あっという間に人波にもまれてはぐれてしまう。1度離れたら探すのが難しいぞ。

 それに、僕たち2人ともフードとフェイスベール(マスク)で顔は隠しているけど、何かに引っかかって誰かに見られないとも限らない。どさくさに紛れて柊が(さら)われても気付かない。ヤバイな。

 僕は1人で買い物に行くことにした。


 「シュウ、ボク、ちょっとそこら辺で昼食になりそうな物を買ってくるから、あの木の下で待っててくれない?」


 僕は、周囲より人が少ないからよく見えて、木陰もある木を指さして言った。


 「えっ? 一緒に行ったがよくない?」


 「うーん、はぐれたら会えなくなりそうだから。

  あそこで待っててよ。

  ここの言葉はわかりそうだけど、誰が何か言ってきても絶対について行っちゃダメだよ。」


 「やだなぁ。そのくらいわかってるよ。」


 「もし無理に連れて行こうとする者がいたら、大声でボクを呼んで。

  剣を使ってもいいから自分を守って。

  人を実際に斬ったことはないだろうけど、手加減したらダメだよ。

  背後にも気をつけてね。」


 「うん。わかった。」


 それで僕1人で店に向かった。

 時々、柊の様子を確認しながら3つ目の店にいたときに事件は起こった。


 「はっ、離せよ。れーん。」


 僕は急いで柊の声のする方に向かった。

 そこでは2人の男が柊を連れ去ろうとしていた。

 1人がデカい図体(ずうたい)を生かして逃げ道を確保し、もう1人が柊をまるで荷物を運ぶように肩に担ぎ上げていた。

 周囲にいる人は、喧騒(けんそう)に紛れ気付いてないのか、知らないふりをしているのか止める者はいない。

 僕は柊を担いでいる者の前に回り込み、行く手を阻んだ。足を止めると、すぐに腹を蹴り上げた。男はバランスを崩し、柊を肩から落としたが、柊は上手く着地していた。


 「シュウ、首に手刀!」


 柊は、すかさず男の首に手刀を打ち込み失神させた。


 「何攫われてんだよ。」


 「蓮、ごめ~ん。」  


 そこに、先に逃げていたもう1人の男が戻ってきた。


 「チッ。何、ガキにやられてんだぁ。

  おっ!こっちもキレイな顔してんな。

  へへっ、高く売れんぞ。」


 後ろを振り返って仲間を呼んだ。 


 「おーい。ちょっと手ぇ貸してくれ!

  ガキが増えたぜ!」


 すると、男が3人向こうから走ってきた。

 と同時に、柊の背後から声をかける者がいた。


 「お前たち、子ども相手に何やってんだ。

  俺が相手になろう。」


 見ると、斧を背負った茶髪で長身の男が立っていた。


 「へー、兄ちゃん、立派な斧だねぇー。

  ちゃんと使えんのかい?

  おい、まとめてやってしまえ。」


 一番図体のデカい男が言うと、2人が斧を背負った男の方へ、残りの2人が柊と蓮の方に向かってきた。


 「シュウ、剣で。」

 「了解。」


 蓮に一言で返事をすると、柊は剣をこっそり取り出し前の1人に向かっていった。

 柊と蓮は一撃で相手を倒すと、斧を持った男の方を見た。そちらも勝負はついたようで2人の男が倒れていた。


 「へぇー、結構強いんだな。

  手助けは要らなかったか?」


 「「いえ、ありがとうございました。」」


 その後、倒した男たちを自警団に引き渡すと、3人はオアシスから移動することにした。


 オアシスから出るとすぐに、ジョンと名乗った男は口笛を吹いた。するとどこからともなくラクダがやって来た。

 初めて本物のラクダを見た柊は「えっ?ラクダ?」って、目を丸くして呟いていた。そうだよなぁ、僕も本物は初めて見たよ。


 「ああ、これは俺の相棒だ。

  オアシスには水も草もあるから放してたんだよ。」


 と言ったジョンを柊と2人で見ていたら、


 「俺はこれからサザンウィンド国に向かうんだが、方向が同じなら途中まででも一緒に行かないか?」


 と言われたので、一緒に行くことにした。

 柊には見えないと思うけど、この男、ジョンの気はキレイな色をしているんだ。コイツは信用できる。

 そう思ったから一緒に行くことにしたんだ。僕だけでも柊は守れるけど、信用できる大人がいるなら頼った方がいい。僕だけだと()められる。避けられる危険は避ける!だろ。

 それに、道を知ってるヤツについて行った方が楽だよね。


 途中、人がいない辺りで、僕がテントを出して休憩した。勿論(もちろん)、ジョンに気付かれないように魔法を使って、周りから見えないようにしてる。

 やっと落ち着いて昼飯が食える。せっかく買ったのにバタバタしていて食えなかったからな。ついでにジョンとも情報共有しとくか?何か新しい情報があるかもだし。

 そのテントの中で、僕は、今朝、柊と打ち合わせていたとおりにジョンに僕たちのことを説明した。

 僕は、商家の跡取り息子である柊の従者で、将来のために今回の商談についてきたが、僕たち2人とも初めての旅で浮かれすぎてアッチコッチ勝手に見ていたら、人が多い市場で同行の者たちとはぐれてしまった。それで今は、はぐれた場合の落ち合う場所と決めていた町に柊とともに向かっているところで、まずはサザンウィンド国に、そこで会えなかったらイーストウッド国に向かうつもりだということを話した。


 「へー、そうか。はぐれて大変だな。

  気をつけて行けよ。」

 と気の毒そうに言った後で、ジョンも自分のことを話してくれた。


 ジョンはウェストデザート国の東側、湖の傍の村に妹と暮らしていたらしい。


 「ほら、あそこに見えている山がセンターアルミスト山だ。頂上には、この大陸を守る女神がおられると言われているんだ。

  その山の(ふもと)に湖があるんだ。

  俺の村は、その湖の傍にあるんだ。」


 僕と柊は、テントの窓からジョンが指さす山を見た。麓の方を見ると、遠くてハッキリとはわからないが、何か黒くもやってるように見えた。何だろう、アレ。


 ジョンによると、近年、魔獣が増え、村も段々と被害が酷くなっていったそうだ。最初の頃は、作物を食い荒らされるだけだったのが、次第に家畜を食われるようになり、人も被害に遭うようになっていった。例年であれば、魔獣が出ても辺境伯様(ここら辺はサザンウィンド国との境界線が近いからね)に訴えれば騎士団を派遣してもらって討伐してもらえた。しかし、今年はあちらこちらで被害が多く出ていて、辺境伯の騎士団だけではなく、国にも魔獣討伐のため騎士団の派遣を要請しているが、どこも手が回らない状態になっている。

 そこで、ジョンの村でも自警団を作って辺境伯の騎士団とともに魔獣の討伐に参加するようになった。

 そして、ジョンたちが村を離れ、年寄りや女、子どもしか残っていなかったところを盗賊に襲われ、妹が連れて行かれた。昨日の夜明け前のことだ。

 救援の狼煙(のろし)を見て、すぐに戻ったが間に合わなかった。

 ジョンは、この国の王都にある騎士学校を卒業した後、数年間、王都の騎士団で働いていた。ところが、村長だった父親が突然亡くなってしまい、後を継ぐために村に戻った。ジョンの父親は、前領主(前辺境伯でもあったらしい)の三男で騎士でもあったため、魔獣討伐が必要な湖の傍の村(あまり広くないからって「村」って言ってるけど領地じゃないか?)を男爵位付きで任された。だから、ジョンも男爵位を持っている(でも、この旅の間は「ただのジョン」で対応してほしいそうだ)。

 ジョンの村人の中には、元辺境伯の騎士団にいた人も結構いるらしく(魔獣討伐があるからね)、普段から訓練も行っていたし、戦いになったら非戦闘員はどこに避難するなども決めて動けるようにもしていた。だから、盗賊が来ても村人に被害がないように隠れて(しばらく()もっても問題なしってスゴイ)いればいいだけだった。


 「なのに、あんの妹は連れられていきやがって~」


 と、ジョンが急に叫んだ。

 少し落ち着いてから、ジョンが続けた。


 自分以外の村人が避難したのを確認して、急いで少年の格好になると、俺に隣国まで探しに来るよう伝言して、皆が止めるのも聞かず、自ら捕まりに行くようなことをして・・・。

 どうも盗賊が抱えていた少女を知っていたみたいだ。隣村に住んでいる、仲がいい友だちの幼い妹だった可能性が高い。何回か会ったことがあったようで、俺も「あんなカワイイ妹が欲し~い」と言われたことがあった。もしかして友だちも連れて行かれたんじゃないかと心配したのかもしれんが・・・。

 友だちの方はここに来るまでに無事を確認してきたが、彼女の妹が行方不明だった。ちょうどその日、近所の人と一緒に森に行ったまま帰って来てないらしい。


 ということを話した後、

 

 「近隣の村を襲って俺の村に来たってことだ。一体、何人連れて行かれたことか。」はボソッと呟いた。


 「アイツにも身を守る(すべ)は教えているが、早く助けてやらないとな。」


 ジョンが苦笑しながら言った。


 「隣国?

  サザンウィンド国?

  行き先がそこって、なんでわかるの?」


 柊がジョンに聞いている。

 僕は桐葉からの情報で何となくわかった。


 ジョンがサザンウィンド国の現状を話してくれた。


 「サザンウィンド国は、今、国内がゴタゴタしているんだ。

  あの国はもともと獣人が多い国で、今は熊族出身のセルギ王が治めているんだが、2年ほど前から 圧政を敷くようになった。

  元々セルギ王は獣人が安心して暮らせる国にする、と獣人の生活を重視していたんだ。

  それはそれでいいんだよ。

  それまで獣人が迫害されていた事実があるんだから。

  10年くらい前までは、国や領地によっては獣人を奴隷として使役するところがあった。現在は、ほとんどの国が奴隷を認めていないが、残っている所もある。

  今でも奴隷にするために攫われる獣人がいる。

  だから、元々獣人が多いサザンウィンド国を、獣人が安心して暮らせる国にするというのは間違ってないと俺は思う。

  しかし、セルギ王が実際にやったことは、まず自国の人間を迫害し、奴隷並みに扱った。大半の人間は死に、なんとか生き残った人間は他国に逃れた。

  次に獣人の中でも弱い種が標的にされた。

  そして、セルギ王のやり方に不満を言った国民や(いさ)めようとした側近も罰せられた。中には見せしめに殺された者もいる。

  それだけではなく、他国から人を攫ってきて奴隷として売買しているという噂もある。

  おそらく今回攫われた人も、奴隷として売られるのではないかと俺は考えている。

  だから、俺は急いで隣国に行こうとしているんだ。」


 ジョンから話を聞き終わった途端(とたん)


 「わわっ、それなら急いで行こうよ。」


 と柊が言ったので、僕たちはすぐにテントを片付けて出発することにした。

 ジョンはテントはどこに?って顔してたけど、それはスルーして、さっさとラクダに乗せてもらって出発した。


 その後、国境を越え、()えて樹海の中で一晩過ごすことにした。

 



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