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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
8/16

8 イーストウッド国のシルヴェスト家


 桐葉が湖の傍に下りると、驚いた顔でこちらを見ていた男が近付いて話しかけてきた。服装から、この男は、どこかの騎士のような服装だった。


 「なあ、その狼、人の姿にもなれるのか?

  もしかして獣人なのか?

  それに、その子は瘴気を浄化していたようだが、聖女なのか?」


 「いや、吾は獣人ではない。

  それと、この子は聖女ではなく、我が一門の次代の巫女だ。」

 桐葉が人の姿に変化して答えた。


 「そうか。ミコ・・・。

  カミシロ ハヤトって聞いたことあるか?」


 「・・・。 聞いたことがあると答えたら?」


 「ああ、俺はテッド。

  テッド・シルヴェストだ。

  今は、ここトラスト辺境伯領を任されている。」


 「そうか。吾はキリハ。

  この子、カミシロ モモカの導き手だ。

  横にいるのはモミジ。モモカの侍女兼護衛だ。」


 「ああ、やはり・・・。

  カミシロと関わりがあったのか。」


 「かみしろはやと?

  きいたこと、ないでしゅよ。」

 桃香が首を(かし)げながら桐葉に尋ねる。


 「ああ、モモカは聞いたことがなかったか。

  ハヤト殿はサクラ様の叔父上にあたる人だ。

  冒険者として異世界に行き、そのままその世界で暮らすことにしたらしい。」


 「さくらしゃま・・・?

  ひいばあばのことでしゅか?」


 「ああ、そうだ。

  モモカの曾祖母、ひいおばあ様のことだ。」 


 「しょおでしゅか。

  はじめてしりまちたよ。」


 なぜか桃香は、腕組みして(上手く組めてないが)ウンウンと(うなず)いている。

 桃香が納得したところで、桐葉がテッドに尋ねた。


 「それでは貴殿はハヤト殿の子孫なのか?」


 「ああ、そうだ。テッドと呼んでくれ。

  我がシルヴェスト家には、初代ハヤトの言葉が残されていて、その中に、カミシロ家の者がこの世

 界に来たら手助けする、ってのもあるんだ。

  ここでは・・・詳しい話は無理だな。

  我が家に招待したいのだが、いいだろうか。

  領地にあるシルヴェスト邸は少し離れているから、まずはトラスト辺境伯邸になるが。」


 「ああ、わかった。

  ここについての情報がもっと欲しかったので、こちらとしてもありがたい。

  ところで、少し離れた所に人の気配がしているが、知っている者か?」


 「ああ、俺の部下だ。

  こちらの話が聞こえないように離れてもらっている。一応、結界も張っている。俺が呼ばない限り

 来ないよ。」


 「そうか。ならいい。

  ところで、なぜトラスト辺境伯邸なんだ?」


 「ああ。ここはトラスト辺境伯の領地なんだ。

  そして、今のトラスト辺境伯は俺だ。だから近い俺の邸に、まず招待したんだ。」


 「なるほど。了解した。

  それと、しばらくは吾とモミジが人ではないことは秘密にしておいてくれ。」


 「わかった。

  ただし、了解は得るが、一部の者へは知らせる必要がある。

  例えば、俺の父、シルヴェスト公とか。」


 「わかった。知らせる必要がある者については、後で教えてくれ。」


 その後、桐葉たち3人はトラスト辺境伯邸に招かれることになった。

 桐葉に抱き上げられた桃香は、フードを目深にかぶり髪の毛と目が見えにくいようにした。紅葉は狐耳と尻尾を隠し、ただの侍女に見えるようにした。


 テッドは樹海から辺境伯邸に出発する前に、一緒に来ていた部下5人を呼び、辺境伯の騎士団長カルンを桐葉たちに紹介した。今後、護衛に付くこともあるだろうからと。


 出発して3時間後、辺境伯邸に到着した。辺りは暗くなっていた。


 到着後、通された部屋で桐葉たちは執事のハンスと侍女のアンナを紹介された。邸で何か用があれば、この2人に言うようにと。

 桐葉はテッドと話し、詳しい内容については明日話し合うことにした。

 その日は、桃香が疲れているからと部屋に夕食を運んでもらった。食事を取るとすぐに、今日は休むことにした。

 翌朝、食堂でテッドも一緒に朝食を取った後、別室に移動した。

 テッドの執務室のようであった。

 ハンスは応接セットにお茶の準備をするとすぐに部屋から出て行った。部屋にはテッドと桐葉たち4人だけが残った。


 「まずは、座ってお茶でも飲んでくれ。

  少しして話を始めよう。」


 テッドが言って、カップに口を付けた。

 テーブルを挟んで正面にテッドが座っている。桐葉たちは桃香を真ん中に挟んで座っている。本来なら桃香の後ろに立つはずの紅葉も、この場では客人扱いということで桃香の横に座っている。桃香の席はクッションで高さが調整され、果物のジュースが飲みやすそうなコップで準備されていた。桃香は嬉しそうにジュースをコクコク飲み、サクサクのクッキーを食べると「おいちー」とニコニコしていた。


 お互いに一息ついた頃、テッドが話し始めた。

 内容は、シルヴェスト家の成り立ちとイーストウッド国の現状についてだった。


 シルヴェスト家の初代は、カミシロハヤト(神代隼人)という冒険者だった。訓練でこの世界に来たときに、偶然、ジードという青年と出会った。

 その頃のイーストウッド国は、前王朝の末期頃で国内が荒れていた。王侯貴族の大半は私利私欲に目がくらみ、政治は腐敗し、民は飢餓に苦しんでいた。そんな中で国を正そうと立ち上がった者たちがいた。その中心人物が若くして辺境伯となっていたジードだった。

 辺境の地では、代々、他国や魔獣から国や民を守るために戦っていた。ジードの父や兄弟、親しい友も国や民、家族を守るために戦って死んでいった。その一方で、戦地には行かず、私利私欲にまみれ、自ら国や領地を荒廃させていく者たちがいる。ジードはそういう者たちが許せなかった。だから同じ志を持つ者と立ち上がった。ただ、戦いは楽ではなかった。ジードは辺境伯として戦う経験はあったが、敵方も豊富な資金を使って自軍だけでなく傭兵まで投入してきた。口が上手い奴らも多く、人心掌握にも()けていた。だから苦戦を強いられていた。

 そこに、ハヤトが協力した。ハヤトとジードは妙に気が合った。価値観も近かったらしい。ハヤトの日記(外部には秘密事項)に、ジードは転生者で前世の記憶があり、ハヤトの世界の知識があったと書かれていたからお互い理解しやすいことも多かったんだろう。また、ハヤトは軍師としても優秀だったようで、彼が入って一気に形勢が逆転していった。そして、ジードたちが勝利を収め、彼は王の系譜に連なる者でもあったので、そのまま王になった。ハヤトはその後も新しい国作りに協力した。

 ジードは、ジード・アステリ・イーストウッドとなり、アステリ朝の初代となった。ハヤトは最期までジードの腹心として彼を支え、守った。戦時中の功績から、戦後、国の要地を授けられるとともに叙爵され、シルヴェスト公爵となった。それがシルヴェスト家の始まりだ。ジードは自分が治めていた地を、ハヤトに任せた。

 ここイーストウッド国の王都ブリエプランタンは、ちょうど国の中心にある。初代王ジードがそこに決めた。そして王都から南、サザンウィンド国との国境までをハヤトに任せた。ここは、ジードが治めていた国境沿いの地と前の領主が私利私欲に走り没落した地から成っている。国境沿いは、血の気が多く好戦的な獣人が大半を占めているサザンウィンド国と接しているため、小競(こぜ)り合いが絶えない地だった。また、魔獣が多い樹海もある。前領主が没落した地は、領地が荒れ果て飢餓に苦しむ民が多かった。ジード王は、これらの治めるのが難しい地を、信用できるハヤトに任せることにした。

 だから、初期のシルヴェスト家の領地は非常に広かった。その後3分割されて、シルヴェスト公爵領とトラスト辺境伯領、シヌス伯爵領になった。位置としては、王都に近い方からシルヴェスト公爵領、その南側にトラスト辺境伯領、王都と東の辺境伯領に接し、()つ海に面しているのがシヌス伯爵領だ(テッドは地図を持ち出してきて説明した)。


 「それでも当然公爵領が1番広いけどね。」

 と言って、一息入れた後、テッドは続けた。


 ハヤトはジードの妹マリアと結婚した。この結婚は、政略としても意味があったが、実質は恋愛結婚だった。2人は3人の子ども(2男1女)にも恵まれ、最後まで夫婦仲良く暮らした。そして、この3人の代になるときに、広すぎて管理が大変だった公爵領を分割し、ハヤト預かりとなっていた爵位も渡して、長男が公爵を次男が辺境伯を、そして長女が婿を取って伯爵を継いだんだ。アステリ朝では、最初から女性も爵位は継げるようになっていたから長女自身が伯爵になっている。

 その後、次男に跡継ぎがいなかったこともあり、トラスト辺境伯は、再び公爵家預かりとなり、次期公爵となる者が任されるようになった。次期公爵が幼くてできない場合などは代理が立つようになっている。

 今のシルヴェスト公爵はテッドの父で、宰相でもある。現在は王都邸に母と妹とともにいる。公爵領の邸は、両親が王都にいる間は、家令とテッドの弟が管理している。テッドは大体トラスト辺境伯邸にいて、魔獣討伐や国境付近で起きる隣国との小競り合いや隣国からの難民に対応している。


 「以上が我がシルヴェスト家についてだな。

  何か気になったことや聞きたいことがあれば後で聞いてくれ。

  先に、この国の現状について話したい。」


 「ちょっと待ってくれ。

  吾たちも多少は知っているから、知らないことを中心に話してほしい。

  そちらの方が時間も短縮できる。」


 テッドが話を続けようとすると、桐葉が止めて提案した。

 そこで、テッドと桐葉の間でこの国の現状について知っていることと知らないことの確認がなされた。その中で詳しく補足されたこともあった。

 桐葉は、自分の目で確認した樹海の様子や女神から聞いて知ったこの国の状況(誰から聞いたかと女神に関することについては触れず)について話し、聖女召喚については触れずに、増えた瘴気を国はどうするつもりなのか聞いた。

 テッドは、桐葉がこの国の状況について意外と詳しく、また正しく把握していることに驚くとともに、どこから情報を得たのかと(いぶか)しんだ。そのうちに必ず聞き出そうと思ったが、顔には出さなかった。

 テッドは、桐葉がこの国の現状について正しく把握していることに驚いたと正直に話した。瘴気に関しては、「これはまだ(おおやけ)にされていないことだから外では絶対に話さないように」と(くぎ)を刺したうえで、国が秘密裏(国の中枢を担う者のみ知る)に聖女召喚を行い、聖女に瘴気を浄化させよう考えていること、実際に異世界から少女を呼び出したが聖女の力が使えるかはまだわからないこと、現在その少女がシルヴェスト公爵の王都邸に預けられていることまで話してくれた。

 付け加えて、異世界から来た聖女に瘴気を浄化する力が無ければモモカの力を借りたいこと、聖女が元の世界に帰りたいと希望したら協力してもらいたいことも言ったが・・・・・・。


 聞きながら桐葉は、聖女に関する情報が入ったのはよかったが、桃香への協力と神代家の役割についても知っているのか聖女を元の世界に戻すことについても言ったな、と内心では苦笑していた。


 桐葉が桃香の方を見ると、テッドの話の途中から眠くなったのか、紅葉に抱かれて眠ってしまっている。いつの間にか桃香のお昼寝の時間になっていた。

 最初の方は、ひいばあばの叔父さんの話だと聞く気マンマンだった。この国の地図が絵のようで面白かったのか、キラキラした目で一緒に地図を見ていた。途中、一息ついたときに運ばれてきたサンドイッチを昼食代わりに食べていたが、流石(さすが)にこの時間だ。眠気に負けたようだ。話が一区切りついたらベッドでゆっくり休ませようと思う、桐葉と紅葉であった。


 桃香の様子を見たテッドが言った。


 「ああ、悪かった。

  こんな時間になっていたな。」


 「いや、必要な話だったから仕方ない。

  だが、桃香をゆっくり休ませたい。」


 「わかった。部屋に案内させよう。

  夕食までゆっくりしてくれ。」


 その後、昨日と同じ部屋に案内され、桃香をベッドでゆっくり休ませた。

 紅葉から桐葉が抱き取り、部屋まで運び、ベッドに移したが、桃香は1度も起きず夕食までグッスリ寝ていた。


 テッドは昨晩、桃香たちのことをシルヴェスト公爵に報告していた。

 今朝、シルヴェスト公爵から連絡があり、公爵領に聖女を連れて行くから桃香たちに会ってもらいたい、とのことだった。

 桐葉も聖女について知りたかったので、会えるなら直接確認できると了承した。

 そこで、公爵領の邸で桃香たちは聖女と会うことになった。

 連絡が早いなと思った桐葉が、テッドに、この世界での連絡方法を聞いていた。使者を派遣したり、鳥を使ったりするようだが、シルヴェスト家独自の方法があるらしい。その方法については、そのうちにわかるよ、と言われた。


 桃香たちは辺境伯邸で2泊して、公爵領の邸に出発した。

 馬車で(女性に合わせてゆっくり行って)7日、馬を変えて急いで2日、の距離であったが、ハヤトが作った移動陣(他家には秘密)を使ってすぐに着いてしまった。

 初めて体験した桃香は、「ほえ~」と変な声を出しながら目をまん丸にしていた。


 桐葉は、いつの間にか蓮に、シルヴェスト公爵領にある公爵邸に来るよう連絡していた。


 そこで、柊と桃香はリリーに会うことになるのだった。

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