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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
6/16

6 桃香、女神の手助けをするⅡ


 桃香は桐葉の背中に乗ったまま、はたきをパタパタしていた。桐葉には山裾(やますそ)の方から頂上に向かってもらう。

 湖の上にあった黒い靄をキレイにした後、湖の上空を(桐葉の背中に乗って)飛んできたのだ。そして、黒いモヤモヤの中を通りたくなかったので、そのまま黒い靄の上からパタパタすることにしたのだ。


 「はぁ~、やっとキレイになってきまちたよ。

  はっぱやおはなしゃんが、しんなりちててかわいそうでちた。」


 「ああ、そうだな。

  モモカがキレイにしたから、また元気になるさ。

  さて、もうすぐ頂上に着くぞ。

  吾から下りて少し休むか?」


 「あい。そうちましゅ。」


 頂上に着くと桃香と紅葉は桐葉から下り、桐葉は人の姿に変わった。

 桐葉はすぐに、がんばった桃香を褒め、頭を撫でている。その横では、紅葉が飲み物の準備をし、桃香に渡そうとしていた。


 「ふへぇ~、ももか、がんばりまちたよ~。

  アップルジューチュもおいちいでしゅー。」


 桐葉に褒められ、紅葉に大好きなアップルジュースをもらった桃香はニッコニコである。


 (『こっちに来て。』)

 「んっ?」


 「モモカ、どうした?」


 「だれか、こっちきてっていってましゅ。

  ・・・ こっちでしゅよ。」


 桃香が歩き出したのでついて行くと洞穴があった。


 「待て、モモカ。

  吾が先に行く。」


 桐葉が先に洞穴に入る。少し中に入ると、奥の方が光っているのが見える。真ん中に桃香を置き、先頭の桐葉と最後の紅葉が周囲を警戒しながら進む。しばらく歩くと光が強くなっていき、開けた場所に着いた。


 「こちらへ来て。」


 声のする方を見ると、長椅子に座っている女性がいた。その女性は、まるで輝く太陽のような金色の瞳と華やかさとかわいらしさを兼ね備えていると思わせるピンクゴールドの髪を持っていた。


 「ふわぁ~、きれいなひとでしゅね~。」

 桃香がボーッと見ていたが、ハッとしたように言う。


 「さっき、よんだひとでしゅか?

  もしかちて、ないてたのも?」


 「そうよ。(わたくし)が呼んだのよ。

  あなたたちと話がしたいと思ったの。

  まあ、そこに座って。」


 と言われると、桃香たちの目の前に椅子が現れたので座ることにした。

 女性の話の内容は、大まかにいうとお礼と依頼であった。

 この女性は、なんと、このアルミスト大陸の女神であるアルミスト様であった。

 桐葉は予想していたのか「やはり」という顔をしていた。この世界の聖女の色は、女神と関係があるのではないかと思っていたからだ。

 そして、この場では自由に発言してよいとの許可を女神から得たので、気になっていたことを尋ねることにした。


 「女神アルミスト様がおられるこの山、センターアルミスト山は聖地であり、人が入れない禁域とな

 っているはずです。

  知らなかったこととはいえ、我々は入って来てしまいました。

  お許しください。」


 「よいのです。

  あなたたちは私が呼んだのよ。

  そもそも、私の許しがなければ、ここまでは入って来れないの。

  あなたたちが入って来た洞穴は、常はないのよ。

  それに、あなたたちはこの世界の者ではないでしょう?

  渡り人なの?」


 「はい。突然、この世界に飛ばされました。

  どの世界のどこの国なのか探っていたところです。」


 「あら、そうなのね。

  あなたたちがいた樹海は、イーストウッド国に含まれているの。

  それにしても、突然、異世界に飛ばされ たにしては、あなたたちは落ち着いているわね。

  それに、あのすさまじい浄化力。

  あなたたちは、何者なの?」


 「我らは神代家のもの。

  この幼子(おさなご)モモカは次期の巫女で、吾、キリハは彼女の導き手、そしてモミジは桃香

 のメイド兼ボディガードなのです。」


 「なんと、あの管理人の一族なのね?

  それなら、あの物凄い力にも納得できるわ。」


 その後、女神よりこの世界の現状が語られた。

 魔素があり魔法が存在するこの世界は、女神によって魔素の量が調整されている。普段は、魔素が増えすぎるようであれば女神の力で抑えている。なぜなら、魔素が増えすぎると瘴気溜りが発生して魔獣が増えたり、魔力を持っている人が体調を崩したり(場合によっては命に関わる)するからだ。

 しかし、今年は女神の500年ごとの代替わりの年に当たり、そちらで大部分の力が消費されるため、魔素を抑える方にあまり力を使えなくなっている。その結果、この世界の魔素が増えてしまった。

 通常であれば、女神の代替わりの時期は、竜人族の中で浄化を得意とするものが代わりに行っていたのだが、今年は竜人族も200年ごとの族長交代の年に当たっており、そちらが決まらなければ竜人族の国がある浮島から出てこられない。このままの状態が続けば、魔獣の大発生や飢饉などにより、民の不安が(つの)って国が荒れ、内乱や他国との戦いが起こることになり、アルミスト大陸にある国々に大きな被害が出てしまう。中には滅びる国もあるかもしれない。だからといって女神の代替わりを止めるわけにもいかない。止めたら女神の力が弱まり、アルミスト大陸の滅びにつながってしまうからだ。

 等々、語られたが、中には、この世界の者も知らないのではないかという内容もあった。

 聞きながら桐葉は、我々が聞いてもいいのだろうか?イヤ、勝手にしゃべりはせぬが、桃香と紅葉には一応口止めしておくか?・・・と思っていた。

 なんと、女神の代替わりとは、女神自身が次の自分(女神)を生むのだそうだ。だから自分の力の大部分を腹部に集め、残りの力で生み出す。生み終わると今の女神の体は消えて無くなり(霧散するらしい)、生まれた赤子が7歳児くらいまで一気に成長するという。だが、ここまで成長しないと、女神の力を十分には使えないらしい。今までの女神の記憶や力も引き継がれるようで、代替わりの回数が増えるほど女神の力も強くなっていくそうである。

 聞けば聞くほど、無事に女神の代替わりが終わらないと、この大陸が大変なことになるんじゃないかと心配になる桐葉であった。


 話を聞いて気になったのか、桃香は、チラッと女神の腹部を見て、あれぇと首を(かし)げている。


 「ほほほっ。

  今、私を見てもお腹は大きくなってないわよ。

  力を十分蓄えて、生むときが近づけば大きくなって出産までするのよ。

  でも、その時はそんなに先ではないの。」 

 と、女神が憂い顔で言った、その時であった。


 急に、女神が座っていた長椅子の横の空間が(ゆが)んだように見えた。一瞬後には、金髪、金眼の美丈夫が立っていた。


 「おお~。ワープでしゅか?

  イケメンがとうじょうでしゅよ。」

 言った桃香の方を見て「ふっ」と笑ったイケメンは、女神の足下に(ひざまず)いた。


 「わが君、お待たせいたしました。」


 「おお、インフィニト。・・・決まったか?」


 「はい。次の長は青(竜)のグランデです。

  後は次代に任せてきました。」


 「そう。それはよかったわ。」


 「それで、わが君、この者たちは?」


 「ああ、私が呼んだ者たちよ。

  あの管理人の一族だそうよ。」


 「管理人の一族? では、彼らに?」


 「ええ。力を貸してもらおうと思っているの。」


 新しく登場した、女神にインフィニトと呼ばれた長身の男性は、竜人族の前の族長であった。


 女神によると、彼は黄金の竜で光の魔法を使い、魔素を抑えることや瘴気を払うこともできるということで、100歳の頃から女神に仕えていた。非常に強い力を持ち、族長決めの勝負(200歳~400歳の竜人族全てが対象)に2回連続勝利し、200歳から2期族長(1期200年、最長2期まで)を務め、400年間は女神のところの仕事と兼務状態だった(当然(?)、優秀な副族長2人を従えて)。族長の仕事は、無事終えることができたので、彼の希望として、今後は、彼が現役で働ける限りは女神の傍で仕え、女神とともにこの世界の魔素の調整に当たってくれる。

 (ちなみに、竜人族の平均寿命は800年前後らしい。)

 本来は、女神の代替わり前後は、女神の力が弱まるので、彼のように女神の補佐をする役目のものが、常時この山周辺の魔素を抑えたり瘴気を払ったりする。

 

 というような話をした後で、女神は続けた。


 「管理人の一族のものよ、この山の黒い靄を浄化してくれて本当に感謝しています。

  今の私の力では、この山の頂上部分に黒い靄が入り込まないようにするので精一杯。

  それ以上力を使ったら、代替わりができぬようになってしまうのです。

  非常に苦しい状態であったところを助けてもらったのです。

  本当にありがとう。

  インフィニトも戻ってきたことですし、これからは安心して代替わりのときを迎えられます。

  ですが、無事に私の代替わりが終わるまでは、インフィニトもこの山を離れることはできず、この

 大陸全体に増えてしまった魔素や瘴気を抑えることができないのです。

  お願いです。この山を浄化したように、他の黒い靄に覆われた場所の浄化を頼みたいのです。

  竜人族の国がある浮島周辺、北方にあるエルフと妖精の国ノースランドは、浄化できるものがいる

 のであまり酷い状態にはなっていないのですが、それ以外の国には浄化できるものがほぼいないの

 で、酷い状態になってしまい民は困り果てているのです。

  その代わり、私の力で叶えられることや協力できることはしましょう。

  それと、どうもイーストウッド国が聖女を召喚したようなのです。

  そちらの様子も見てきてほしいのです。

  どうか、引き受けてもらえないでしょうか?」


 「モモカ、キレイキレイのお手伝いするか?」


 「んっ? いいでしゅよ。」


 桐葉が桃香に尋ねると、桃香は両手で大きな丸を作って了承した。

 桐葉が女神の話を聞いている間、興味がある話には反応していた桃香だが、話の大半はわからなかったのか、紅葉のフカフカの尻尾に遊んでもらっていた。猫じゃらしにじゃれる猫である。祖母や菊さんの傍で、大人の話の邪魔にならないよう1人でも遊べるようになっていた桃香なのである。


 桐葉が女神に向かって依頼の返事をする。


 「黒い靄の件は、お引き受けしましょう。

  聖女の件については、ここイーストウッド国で、ということになるのでしょうが、その前に、

 我々は、このモモカの兄たちと会うことを優先させたいと思っております。

  こちらの世界に来たときに、離ればなれになってしまったのです。

  我々はそこの樹海に出たのですが、この子の兄と導き手は、辺り一面砂漠という場所に出たような

 のです。お互いに、今いる国や国内での位置がわからなかったので、確認して落ち合う場所を決めよ

 うとしていたところなのです。

  聖女のことについては、その後でよいというのであれば引き受けます。」


 「おお、引き受けてもらえますか。

  聖女のことは、後でも構いません。

  ただ、その子、モモカはこのアルミスト大陸の聖女の色を持っているようですが・・・?

  気をつけたがいいでしょうね。」


 「承知しております。

  モモカは実際に、聖女と同じように黒い靄も払えますので、そのことが知られたら、利用しようと

 近付く者も出てきましょう。

  モモカを危険にさらさないために吾とモミジが傍にいるのです。」


 「そう、わかっているのですね。

  モモカも気をつけてね。

  ふふっ。そのフード、兎の耳が付いているのね。

  かわいい。似合っているわよ。」


 「あい。きをつけましゅ・・・って、うしゃぎのみみ?

  きちゅねしゃんでしゅよ。

  あれっ?

  また、かわってましゅよー。」

《 またもや(怒) 覚えておれ(怒) 》


 「あらあら。

  橋渡し係がイタズラをしたようね。

(( え~。ひど~い。イタズラじゃないよ~。 ))

  何かあれば、わが名を呼びなさい。あなたたちの声は、私に直接届くようにしておきましょう。

  また、伝えることがあればインフィニトを使者にします。

  それでは、よろしくお願いします。」


 途中、何か聞こえた気がした桃香はキョロキョロ辺りを見ていたが、桐葉は苦笑しただけで無言。紅葉はニッコリ笑顔で目だけは笑っていなった。


 女神の後、インフィニトが桐葉に話しかけた。


 「先ほど、辺り一面が砂漠と言っていたようだが、それならウェストデザート国の可能性が高い。

  確認してみろ。

  それと、召喚された聖女のことも考えるなら、ここイーストウッド国で落ち合うようにした方が

 いいだろう。

  だが、ウェストデザート国からイーストウッド国に来る途中にあるサザンウィンド国には注意が

 必要だ。

  サザンウィンド国は、今、国内がゴタゴタしているんだ。あの国はもともと獣人が多い国で、今は

 熊族出身のセルギ王が治めているんだが、2年ほど前から圧政を敷くようになり、民の不満がいつ噴

 き出してもおかしくない状況だ。他国に逃げ出す者も多い。内乱が起きるのが早いか、王が民の目を

 外に向けさせるために隣国を攻めるのが早いか・・・。

  ヘタしたら、争いに巻き込まれるおそれがある。

  騒動が起きたら抑えるように、族長交代後、竜人族からエンという者を派遣している。もうサザン

 ウィンド国に入っているはずだ。

  こいつは今回の族長決めの勝負で最終戦まで残ってるくらい強い。赤竜でまだ若いんだが、次の族

 長候補の1人だ。

  いざとなったら、こいつを頼れと、こちらに来るやつらに伝えておくといい。」


 「これは、貴重な情報をありがとうございます。

  早速、連絡を取ってみます。

  それでは我々は失礼させていただきます。」


 と、桐葉が言うと、女神から最後に一言あった。


 「あぁ、そういえば・・・・・・

  先ほどの湖のところに戻ってみるといいでしょう。

  そこにいる人間と話してみなさい。

  面白い話が聞けるはずです。

  また会うときを楽しみにしておりますよ。」


 桐葉たち3人(?)は、別れの挨拶を告げると、入って来た道を戻り、洞穴の入り口から外に出た。

 桐葉たちが出ると、不思議なことに入り口は消えてしまい、ただ山肌があるだけになった。桃香はしばらく珍しそうに、「おお~、いりぐちがなくなりまちた。」と山肌をなでたり(たた)いたりしていた。


 「さあ、モモカ、戻ろう。」


 と、シルバーウルフになった桐葉が声をかけると、桃香は「あいっ。」と返事をして、紅葉とともに桐葉の背中に乗った。来たときと同じように飛んで、元の湖の辺りに戻ると、女神が言っていたように1人の男が驚いた顔でこちらを見て立っていたのだった。

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