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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
5/16

5 桃香、女神の手助けをするⅠ


 うーーん、と手足を伸ばすと桃香はグーにした手で目をコシコシして目を開けた。


 「モモカ、起きたか?」

 「うーーん。 ・・・おきた。」


 桃香の(そば)には、もふもふのシルバーウルフになった桐葉が横になっていた。もふもふに包まれ、暖かかった桃香はしっかり熟睡し、気持ちよい目覚めを迎えた。どこであろうと気持ちよく熟睡できる桃香である。柊は桃香が泣いてないか心配していたが、桃香は・・・。


 「きりは、ほんとにしろいおおきなわんちゃんになってたんでしゅね。

  ゆめだとおもってまちたよ。」

 「モモカ、吾は白い大きな犬ではなく、シルバーウルフ、銀の狼だ。」

 「しょうでしゅか。むじゅかちいでしゅ。」

 「まあ、ここではこの姿だとわかっておけばよい。」

 「あい。」


 自分だって髪の毛と(自分では見えないが)目の色が変わっているんだから、そういうこともあるだろうと納得する桃香。一方の桐葉は、シルバーウルフが本来の姿で、犬の姿は人間の世界で目立たぬよう擬態しているのだ、と説明しても桃香には難しかろうと黙っていた。


 そこで、桃香たちに声をかけるものがいた。


 「起きられましたか?

  朝ご飯の準備ができておりますよ。」


 そこにいたのは、メイド姿の少女。なんと彼女には、狐の耳と尻尾が付いていた。色はきれいなキツネ色である。彼女は紅葉(もみじ)といって、お菊さんの眷族であった。今回のように、桃香が異世界に行ったときに身の回りの世話をする(めい)を受けていた。

 桐葉が出したテント(生活必需品一式完備)には、なんと桃香のためにメイドさんまでついていたのだ。

 桐葉が肩に提げてたリュックも、蓮が持っていたのと同様、マジックバッグである。この中からテントと一緒に出したのである。ただ、出したときは形代であった。必要なときに取り出して、桃香が呼び出すと、この形代を通して顕現(けんげん)できるようになっているのだ。

 便利である。

 桐葉だけでは桃香の世話に行き届かないところもあるだろうと、お菊さんの配慮である。ただし、桐葉への配慮ではなく、桃香が困ることがあったらかわいそうだからである。

 お菊さんは桃香がかわいくてならないのだ。

 おかげで、桃香は自分の家にいるのと変わらないように、快適に過ごしている。足りないのは、じいじ(祖父)と一緒にテレビで時代劇を見る楽しみがないくらいである。テレビ番組の好みも渋いのである。

 昨日は、眠気に襲われ、ウトウトしながらもお風呂に紅葉に入れてもらい、ご飯も紅葉に食べさせてもらい、もふもふに戻った桐葉にくっついて、にーにのことなど思い出しもせず、さっさと夢の世界に旅立ったのである。


 と、いうことで朝食である。

 今朝のメニューは、トマトのリゾットと牛乳、デザートはアップルパイである。

 ちなみに、夕食のメニューは、マカロニのグラタンと野菜ジュース、デザートはプリンであった。桃香は、ウトウト状態でまぐまぐ!ゴックンと完食していた。

 桃香と同じメニューでは不足する桐葉と紅葉は、当然別メニューである。桐葉のメニューをチロリと見ながらも欲しがらない桃香はお行儀がいい・・・のではなく、「あんなに食べたら、桃ちゃんはお腹イタイイタイなりますよ」と何回も言われたからだ。お腹がイタタになるのはイヤなのだ。


 テントの中とは思えないくらいゆったりとした空間、絨緞(じゅうたん)の上にテーブルとイスがあり、朝食の準備ができていた。

 桃香は子供用のイスに座り、今朝は自分で食べるようだ。正面には、人の姿になった桐葉が座っている。


 「いっただきま~す。」

 スプーンを手に、食べ始める桃香。


 「はぁ~、おいちいでしゅね~。

  きのー、よるごはんたべてないから 

  おなか、ペコペコでちたよ。」


 「はあ?

  モモカ、夜ご飯、しっかり食べてたぞ。

  モミジに食べさせてもらっただろ。

  覚えてないのか?」

 一緒に食べ始めた桐葉が呆れ顔で言う。


 「え、えー。

  そうでしゅか~?おぼえてないでしゅ。

  でも、もみじしゃん、ありがとでしゅ。」


 「いいえー。どういたしましてです。」


 桃香の隣にいる紅葉は、ニコニコ顔で見ている。一緒に食べながらも、桃香からは目を離さない。必要なときは、すかさずサポートする、仕事ができるメイドさんなのである。


 「おごちそうしゃまでちた~。

  おにゃかもポンポンでしゅよ~。」

 と、手を合わせる桃香。ニコニコ顔である。


 朝食後、出掛ける準備をして、テントを片付けると、いよいよ出発である。桐葉は、結界は解いたが、危険を早めに察知できるようサーチは続けている。


 「いいおてんきでしゅー。

  ここ、もりのなかでしゅか~?」


 「ああ、樹海の中だな。危険な生き物がたくさんいる ようだから、勝手に動くなよ。

  向こうには湖もあるから、落ちたら溺れるぞ。」


 「あい。わかったでしゅよ。

  あ、あっちにおやまもありましゅね~。」


 家の近くにある樹海を知っている桃香は、どんな場所なのかやそこに色々な生き物がいることを知っている。

 湖は見たことないけど池は知っている。家にある池の近くでは、「危ないですよ。落ちたら、まだ泳げない桃ちゃんは、溺れて苦しいですよ。」と毎回言われるので、「溺れる」という言葉から湖が危ないところだとはわかるのだ。

 日々頭も体もスクスク成長している桃香である。

 ちなみに桃香の今日の服は、若草色のワンピースに深緑色のズボン、茶色のフード付きケープコート(当然狐の耳付き)である。靴は歩きやすさ重視で、色は服と同色系(靴下には狐のイラストあり)。森の中で目立たないような色になっている。コーディネートは紅葉である。


 桐葉は、辺りへの警戒を緩めない。

 なぜか?この樹海には、危険度の高い魔獣が生息していたからだ。

 昨晩、桐葉は蓮よりも働いていた。蓮たちは辺りに生き物がほぼいない(砂の中にサソリはいたかもしれないが・・・)ような砂漠の真ん中にいたが、桐葉たちは魔獣がいる樹海の中にいたからだ。眠った桃香を紅葉に任せるとすぐに、桐葉はテントの周辺を確認して回った。

 テントについては、結界を張って探知できないようにしていた。さらに、周囲には魔獣除けの香も焚いていた。

 それに、もし桐葉がいないときに魔獣が近づくことがあっても、最強クラスでない魔獣であれば紅葉1人(?)で倒せる。紅葉は、桃香のボディガードもできる戦えるメイドなのである。

 さて、テントの周囲を中心に見回った桐葉であるが、この樹海には、かなりの数の魔獣がいること、中には冒険者ギルドでAランクに入れている魔獣も何種類かいることが感じられた。そこで、夜の間に、紅葉と交代で魔獣討伐を行い、強くて危険な魔獣の数を減らしておくことにした。なにせ、明日は桃香を連れて、この樹海を抜けなければならない。ならば、今夜中に、できるだけ桃香が危険な目に遭わないようにしておかねばならない。

 その結果、この樹海の危険種といわれる魔獣はほぼ討伐されてしまった。残りは、桐葉と紅葉の気配さえ恐れ、近づかないものばかりだ。だが、新たに生み出された魔獣がいるかもしれないと、警戒は緩められないのだ。

 桃香は、2人(?)に強力に守られ、スピスピ気持ちよく熟睡していた。おかげで今朝の体調もバッチリである。


 「さぁ、いきましゅよ~。」

 歩き出そうとする桃香に、

 「モモカ、どこに行くかわかってるのか?」

 と、桐葉が声をかける。


 「うーーん? ・・・・・・。

  あ、あっちがきになりましゅ。

  くろいモヤモヤがいっぱいありましゅね~。」

 と、桃香が山の方向を指さした。


 桐葉としては、早く自分たちのいる場所(国名や現在地)を確認して、蓮たちと落ち合う場所を決めたいのだ。しかし、桃香の言ったことも気になるのだ。黒い(もや)、つまり瘴気が多いということは、魔獣も発生しやすいということだ。瘴気自体を消しておかねば、次から次に魔獣が出てくる。これは、元から絶たなきゃダメというやつだ。そちらを先に何とかするしかないと思う桐葉であった。


 「あー、では、モモカが気になっている黒いもやもやもキレイにしに行くが、その前に、モモカにや

 ってほ しいことがある。」


 「なんでしゅか~?」


 桐葉は、昨晩、紅葉と倒した魔獣を氷で固めている場所へ、桃香を連れて行った。


 「おおーー。 ・・・。

  これ、なんでしゅか~?」

 と、びっくりして目をまん丸にしている桃香。


 「この世界の、魔獣だ。

  危険だから倒したんだが、そのままにしておくと匂いで他の魔獣が来るから氷漬けにしていたのだ。

  これを魔核だけ残して燃やしてくれ。」


 「いいでしゅけど、まかくってなんでしゅか?」


 「ああ、魔核か。

  魔核とは、魔獣の中にある石のことだ。いろんな色 が付いていることもある。」


 「うーん。

  かあしゃまのゆびわについている、いちのようなも のでしゅかね~?」


 「ああ、宝石のようなものもある。

  石だけ残して、魔獣を燃やせるか?

  吾たちや周りの森を燃やすのもダメだ。」


 「がってんでしゅよ~。」


 「合点(がってん)」は時代劇好きな桃香のお気に入りの言葉なのである。

 胸を張り、はたきをポケットから取り出す桃香。


 「キレイキレイにな~れ!」


 桃香の一声で、はたきは桃香の手に合うサイズになり、これをパタパタすると氷漬けの魔獣は一瞬で炎に包まれ、後には魔核だけが残っていた。

 ホントにあっという間である。

 桃香のはたきは、朱雀の羽でできているだけあって、しっかり浄化する力がある。普段は炎は出ないが、炎で燃やすことも可能だ。しかも、この炎は浄化するだけではなく、燃やすものや燃やさないものを指定できる。スグレモノである。

 桐葉は、風魔法で落ちている魔核を回収するとマジックバッグに入れた。冒険ギルドで売って、こちらの世界で使うお金に交換するためだ。魔獣によっては、他にも高値で取り引きされる部位もあるが、魔核がこれだけ多くあれば、しばらく生活するには十分な金額になる。


 「さすがモモカ、キレイになったよ。

  ありがとう。」


 「どういたちましてでしゅよ。」

 エッヘンと得意げな桃香である。


 「じゃあ、あっちにいきましゅよ~。」

 と、桃香がトテトテと走り出す。


 「あっ、モモカ。走ると危ない、転ぶぞ。

  吾に乗れ!」


 桐葉はシルバーウルフの姿になると、背中に桃香を乗せて山に向かって走り出した。そのすぐ後ろから紅葉が走ってついて行く。


 しばらく走ると、山の手前にある湖に着いた。


 「うひょー、おみずのうえもおやまも、くろいモヤモ ヤがいっぱいでしゅよ。

  きりは、キレイキレイしてもいいでしゅか?」


 「こ、これは ・・・ 。」


 桐葉から下りた桃香は、目の前の景色を見て変な声をあげているが、桐葉は目の前の(ひど)い状況に言葉も出ない。紅葉も唖然(あぜん)としている。湖には一面に黒い靄がかかっているし、湖の向こうにある山は、頂上部分を除いた山全体が黒い靄に覆われているように見える。これがすべて瘴気だとしたら、この樹海に多くの魔獣がいたのも納得できる。今、目の前でも、湖の黒い靄から魔獣が出てこようとしている。黒い靄から生み出されているのか?


 「モモカ、この黒い靄をキレイにできるか?」


 「うーーん。

  ・・・ できましゅけど、あのやまは、ちかくまで

 いかないとムリでしゅよ。」


 「わかった。

  では、先に湖を頼む。

  その後で山まで乗せていこう。」


 「がってんでしゅよ~。」


 桃香は手にしているはたきをパタパタし始めた。桃香にとっては、このくらいの黒いモヤモヤは気合いを入れずとも何回かパタパタすればキレイになるものなのだ。


 「はぁ~、おわりまちたよ。

  キレイになってましゅよね?」


 「ああ、キレイになってるな。

  出てきていた魔獣も消えてるぞ。

  (すご)いぞ。モモカ。」


 「えへへ、それほどでもないでしゅよ~。」


 桐葉に()められて満更(まんざら)でもない様子の桃香である。


 「じゃあ、つぎはおやまでしゅね。

  なんか、ないてるようなこえもきこえましゅね。

  きりは、いきましゅよ。」


 「ん?泣き声?

  とりあえず急ごう。吾に乗れ、モモカ、モミジ。

  今回は飛ぶぞ。」


 なんと桐葉は飛んで空中を移動することも可能なのだ。すでに背中に乗って飛ぶのも経験済みの桃香は、「おおぅ」などと言いながら空中移動を楽しんでいる。さすがに飛ぶことはできない紅葉は、桐葉の背中に乗せてもらっている。


 桐葉たちを遠くから気配を消して見ていた者がいた。


 桐葉のサーチに何かがかすったような気がしたが、その後、何も見当たらなかったので、桐葉は山へ急ぐことにしたのだ。 

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