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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
38/39

38 人は見た目ではわからない Ⅱ


 それから何度か遊びに行って、麗華さんの話を聞くこともあったんだ。体験談とかね。

 どんな話だったかというと、うーん、いろいろあったけど印象に残っているのはねえ・・・・・・。


 麗華さんも夏樹ちゃんと同じように10代の頃はティーンズファッション雑誌のモデルをしていたんだって。

 で、高校の同級生から「顔がいいと玉の輿(こし)も狙えていいわねえ」とか「どうせ顔だけよ」とか陰口をたたかれていたのを聞いて大学に進学することにした。

 そして目標の大学に合格した後で、陰口言っていた中の1人から「モデルもしながらすごいわねえ」って言われたときに「全然すごくないよ。部活動やっている人とあまり変わらないでしょ。」ってニッコリ笑って言ってやったんだって。


 「さっすが麗華さん」って思ったよ。


 麗華さんによると大学時代に女性の教授が講義の中で、「嫉妬(しっと)って漢字は女偏(おんなへん)でしょ。でもね、私は男性の嫉妬の方が(すご)いと思うのよ。だから嫉妬も女偏ではなく男偏の方が相応(ふさわ)しいと思うのよ。そんなことを学者仲間に言ったら『そうよそうよ』って言ってくれた女性が何人もいたのよね。」って話されていたのが、なぜか記憶に残っていたんだって。

 そして、大学を卒業して会社で働くようになって理解できたって。


 モデルは?って思って聞いてみた。

 「麗華さんはモデル、続けようと思わなかったの?」


 「大学まではやっていたけれど、当時は今よりもっと若い子の方がって感じが強かったからね。

  それに、普通の会社勤めもやってみたかったのよね。いい経験になったし、今の仕事にも役立っているわよ。」


 麗華さんは、ある商社に数年勤務したんだって。

 最初は秘書課に配属されて受付嬢や秘書の仕事をやってた。

 その後、希望して営業に関する部署へ変わった。

 そうして大きな取引先を2つ3つ探してきたあたりから男性陣(全員ではない)の対応が変わってきたらしい。

 嫌味や当て(こす)りを言われたり、仕事を押しつけられた上に手柄を横取りされたりしたって。

 手の込んだ嫌がらせをした男性の中には、わざわざ麗華さんの近くにいる女性(その男性に好意を持っていたらしいよ)に近付いて仲良くなって、「自分のために協力してくれると助かるよ」と麗華さんの仕事の内容を聞き出させたり開拓中の取引先を探らせたりしたのもいたって(上手くいかなかったみたいだけどね。ざまぁ)。


 「ほ~んとムカついたわ~。

  人に嫌がらせしている暇があったら自分の仕事を真面目にしろっての。

  でも、あの時思ったの。

  受付嬢や秘書をしていた頃はチヤホヤしていたクセに、自分のライバルになりそうだと思うと今度は潰そうとしてくるのよね。あるいは利用しようとかね。

  あの執拗(しつよう)に邪魔してくるところやこっそり他社の人にまで悪口を言う陰湿さ。

  ああ、こういうことかって、あの時の教授の言葉を思い出したわね。」


 で、その頃の麗華さんを支えていたのが、行きつけのお店の、美味しい料理を作ってくれて愚痴まで聞いてくれていたシェフだったんだって。

 そのシェフが夏樹パパだね。

 パパさんは自分が話すことはほとんどなくて聞き役に徹していることが多かったんだけど、ある時ふと口から出たって感じで言ってくれたんだって。


 「今は色々経験する時期なんだよ。いいことも悪いことも。それをいつか活かせるときが来るんじゃない。」


 麗華さんは、なぜか「あぁそうなんだ~」って腑に落ちたんだって。

 イヤな人もいたけれど助けてくれた人もいたし、あの経験によって少しは人を見る目も養えたのも確か。それに人脈だって作れたわねって。

 そして、その頃担当していた新規クライアントとの契約を無事まとめると勤めていた会社を退職することにした。

 退職後は、しばらくの準備期間を設けて自分で仕事を始めることにしたんだ。

 それが今経営しているモデル事務所だ。

 そこでは皆が名前で呼び合うんだって。

 だから麗華さんも“社長”ではなく“麗華さん”だ。


 私は、この話を聞いて男偏の漢字はないんだってことを知ったよ(調べてみたからね)。



 ああそれと、あれはパパさんから新しいデザートの試作品を食べにおいでって誘われた時だったかな?

 お店はお休みの日で、私たちは学校の帰りに寄ったんだよ。

 行きは、たまたまソッチ方向に用事があった父様に送ってもらって、帰りは麗華さんが家まで送ってくれたんだー。  

 モチロン舞ちゃんたちも一緒だよ。

 で、父様の車の中にいた大吉(舞ちゃんたちには見えない)も小っちゃくなって私のポケットに入ってきた。

 桐葉の代わりに付き添いだね。

 時々、こっそりとポケットの中にお菓子を入れてあげてたら、喜んで付いてくるようになったんだよねー。


 デザートは季節のフルーツパフェとプリンアラモードだった。

 パフェの方にはコーヒーゼリー(これは紅茶ゼリー、抹茶ゼリーから選べる!カフェインは無しだよ)も入っていて、と~っても美味しゅうございました。パパさん天才って思ったよ。

 プリンは私好みの固めで、こっちも美味しかったわー。

バニラアイスも濃厚でほんの少しかかっている塩がまたいいのよー。(イチゴ)もうっま~い!!

 満足満足。

 ちゃ~んとミニサイズになっているから両方食べられたし、晩ご飯も食べられる(まぁデザートは別腹(べつばら)だけどね)。さっすがパパさん。


 お店について、デザートが出てくるまでに麗華さんもお店にやって来た。

 そしてデザートを食べながら話をしている中で、なぜかこんな話も出てきたんだよねえ。なんでだっけ?


 「はぁ~、自分のイクメンぶりをひけらかす男ってほ~んとウザいわ~。

  あんな男に限ってホントはやってないのよねー。

  ホントにやってる男はやるのが普通だから自然に体が動くし、当たり前のことだからわざわざ言わないっ!

  当たり前のことをして()められるとは思わないのが大人よねぇ。

  自分の片付けをちゃんとやって褒められるのは幼児ぐらいよねえ。大人になって褒めてって言わないわよ。恥ずかしいから。

  主張するってのがね~。ウソくさいのよー。

  そしてまたそれにコロッと(だま)される()がいるのよねぇ。困ったもんだわ。

  『優しいダンナさんで奥さんが(うらや)ましいっっ』ですってぇ。

  それで不倫となったらほ~んと見ていられないわぁ~。」


 「ごほんっ。麗華さん、その子たちには早すぎるよ。」


 「あ、あらっ。そうよねえ。早かったわー。でも変な男には気をつけるのよ~。

  優しい男を演じてモテてると勘違(かんちが)いするのもいるからぁ。

  将来のために・・・ねっ。」


 「麗華さん、そこまでだよ。」


 紫乃ちゃんは「ほへぇ~」って変な声出しているけど、舞ちゃんはうんうんって頷いてる。外面(そとづら)だけよかった自分のお父さんのことでも思い出しているのかな?

 私?あのくらいどーってことないよ。

 だってイロイロ聞いてるもん。

 これまでに色んな会社について行った時なんかに。

 例えばさぁ・・・・


 「ちょっとぉ聞いたあ、あの話っ。係長、離婚してあの新人と結婚するって。」

 「ああ、聞いた聞いたー。」

 「あの新人、係長が保育園への送迎や休日の家庭サービスの話をするのを聞いて『スゴーい。私も結婚するなら、そんな優しいダンナさんがいいなぁ。奥さんがうらやましいですぅ。』とか言ってたもんねえ。」

 「はぁ~、バカよねー。」

 「えっ、どっちが?」

 「両方よ。

  係長、自分がいかにもいい夫で優しいパパなんだってアピールしていたけどさ、アレって奥さんの手助けがなきゃ絶対無理でしょ。

  スーツは毎日ピシッとしていたし、趣味にもお金をかけてたみたいだし、飲み会にも割と顔出していたよね。

  あれじゃあ、実際には家でどんだけできんの?って思うよ。

  本人は、やってます感を出していたけれど、本当に自分でやったことがある人はわかるよ。

  わからないのは、自分でやってないから。あの新人、結婚したらわかるんじゃない。

  係長が言うほどは全然してなかったってことが。

  係長の方もいい夫やパパを演じていて優しいとか頼りになるとか評価されていたのが、家庭を壊して崩れるしね。

  まあ、自業自得よね~。」



 「おい、聞いたか?専務の話。」

 「ああ、マジか?って思った。」

 「そうか~?俺はやっぱりなって思ったよ。」

 「えっ?何でだよ。」

 「あの人、仕事仕事だっただろ。家のことも子どものことも奥さん任せでさ。

  いつか専務に聞いたことがあるんだよ。

  『家庭サービスとかされないんですか?』って。そしたら『そんなのせんよ。時間の無駄だ。稼いできてやってるんだ。それで十分だろ。』って。

  必要な金は渡しているし、子育ても俺に恥をかかせなければいいって任せているって。

  俺はそれを聞いて本当に大丈夫なのかな?って思ったよ。

  だから、奥さんが専務の定年退職を一つの区切れとして『これまではあなたを支えてきましたが、これからは私も好きにさせてもらいます。』って別れを選んだとしても仕方ないとも思ったよ。

  いや、もちろん奥さんの気持ちはわからないけどさ。」

 「えっ、でも家のこと何にもできないのに奥さんがいないって悲惨じゃない?」

 「なんとかするしかないんじゃない。」

 「何でも奥さんに任せていたからだろ。それに他人事(ひとごと)じゃないぜ。

  俺たちも気をつけとかないと将来そうなるかも・・・だし。」

 「確かに・・・」「やべー」



 等々。

 私はけっこう色々と聞いているのだ。

 「おっ、そこんとこもっと詳しく」と思いながら聞いていると、「桃香、行くぞ」と桐葉に邪魔されることもしばしば(チッ)。

 「桃香、ソレは(ひん)がない!」

 「ええ~、何のことかな~?」(ヤバッ聞かれたか)

 「舌打ち。しただろ?」

 「オホホッ、そんなことしてませんわ~。」

 桐葉、ため息つくと幸運が逃げるよん(って逃げないけどね。リラックスしたいのかなぁ?)。



 おおっとそうだった。

 遙君だよ。まだほとんど話してなかったよ。


 私たちが遙君と直接話す機会はほとんどない。

 夏樹ちゃんから聞いたり直接見たり、だな。


 最初に夏樹ちゃんから遙君の話を聞いたのは、モデルの人気投票の結果が出たときだったような気がする。

 1位がハルで2位がナツキだったそうなんだけど、ハルって遙君が女装しているとき使ってる名前なんだと。(ボーイズのモデルのときはルカなんだってさ。)

 だから、夏樹ちゃんが「女装した遙君に負けるなんてクヤシーイ!」って叫んでたんだよね。もちろん自分の家でだよ。

 まあ、私が兄様に体術の勝負で負けるより口惜(くや)しいような気はするね~。よくわからんけど。

 遙君から「フッ。ザーンネン。」って言われたって腹も立ててたねえ。

 その時初めて、遙君もモデルやってる(しかもボーイズとガールズの両方)ことを知ったんだよ。

 なんか家族以外には秘密にしてたっぽい。

 私に言っちゃっていいの?って思って聞いたら「桃ちゃんは言いそうにないもん」って。まあ、言わないけど。

 夏樹ちゃんも遙君も、普段は髪の毛の色や長さだけでなく目の色(モデル時カラコン使用)までモデルのときと変えてるから、わかりにくいというかほぼ全くわからないだろうけどね。

 その時に、「夏樹ちゃんも両方やってみれば?」って言ったら「イ・ヤ・ヨッ」だって。

 夏樹ちゃんって転校してきた最初の頃は、セミロングの黒髪を縦ロールにしていたから、紫乃ちゃんなんて「わぁっ、そのまま悪役令嬢がやれそう。」なーんて言ってた。

 今は別の髪型になってるけど。


 遙君は中学部の体育祭では、かなり目立っていた。

 彼は1、2年まではそんなに身長も高くなかったのも関係するかは知らないが、応援団ではなくチアリーディングの方に出ていた。

 応援団もチアも男女関係なく出られるからね。

 で、チアではダンスだけでなくリフトやバク転などもやっていた。

 2年の時、ダンスの関係で男子が1人女子のパートを担当しなきゃならなくなり、そこを遙君が担当したのだ(なかなか決まらなかったので遙君が「僕がやるよ。」って言ったらしい)。

 だから、その時の衣装はキュロットスカートっぽく見えるハーフパンツになっていて、男子女子同じだった。(それ以降は、男女ともに使用できるこの形が採用されるようになった。)

 この時、遙君の人気がとんでもなかったのだ。


 「あっ、あの子カワイイ。」「えっ?男の子なの?」「うそっ、信じられない。」「ダンスも上手い!」


 大・大・大人気だった。

 一緒に見に行っていた夏樹ちゃんは隣でなぜか呆れてたけどね。


 夏樹ちゃんによると、遙君は性格が複雑骨折してすっかり腹黒でひねくれた性格になってしまったらしい。

 腹黒っていっても、(みずか)ら他人に悪事を働くわけではなく、自分を獲物として狙ってきた相手を(なさ)容赦(ようしゃ)なく叩き潰すだけだ。

 夏樹ちゃんも人間関係で色々あって人間不信になった時期があったみたいだけど、遙君も多分そうなんだろう。

 ちょっと聞いただけでも、助けた友だちに裏切られたり、街中(まちなか)で知らない大人(男女問わず)にどこかに連れて行かれそうになったり(こっちは何回も)したらしい。

 麗華さんも対策は取っていたみたいなんだけどね。

 だからすっかり人間嫌いになっちゃったらしいよ。

 外では全然見せずに人当たり良く振る舞っているって。そして、自分から人と親しくなろうとはしないって。


 その遙君が兄様に興味を持ったらしくて、夏樹ちゃんが私に聞くんだよね。


 「どうすれば遙君と柊様、仲良くなれると思う?」


 聞かれても私もわかんないし。それに夏樹ちゃんも「柊様」って呼んでるのか?


 アドバイスはしたよ。

 「夏樹ちゃんが自分から私に話しかけてきたように遙君も兄様に話していけばいいと思う。」って。

 兄様は、遙君のように人当たりが良くて内面は腹黒でもあまり気にしないと思うよ。美少年で腹黒って蓮で慣れているからさ(『ちょっと桃香、ひどくない?』おや?空耳かしら~)。


 その後、遙君は生徒会執行部のメンバーとして会長の兄様と接する機会も増え、距離も近付いていったみたいだね。

 3年の時は、兄様たちと同じ応援団で演舞を披露していたからね。

 で、引き続き高等部の1年でも一緒に応援団にいる。

 兄様は飛び級はしてないけど、中等部3年のときには高等部2年で学習する単位もいくつか履修して取得していたから、何か感じるものがあったのかもね。

 どうも兄様は早めに高等部の卒業資格だけ取って、籍を置いたまま世界を見に行こうと思っているみたいだからねえ(多分行くんじゃないかな)。


 ああそうだった。

 夏樹ちゃんの友だち(仮)は半年後くらいに普通の友だちになった。


 ほーんと人って付き合ってみないとわかんないよねえ。

 「人は見た目が~」とか「見た目が大事」とかも否定はしないけど、やっぱり「見た目」だけじゃないと思う。

 直接話してみないとわからない。

 まあ、1回とか2回じゃわからないだろうから、ある程度は付き合ってみないとわからないんじゃない?


 でもその一方で、話してみても理解できない人もいると思っている。

 私は「話せばわかる」とか「話せば理解し合える」とかは、あんまり信じない派なんだよね。

 話してわかり合える人もいれば、話してもわかり合えない人もいる。

 価値観が違いすぎれば、「ああ、そういう考えもあるんだな」「ああ、そう考えるんだあ」とは思っても納得はできない。

 そういう場合はお互いの妥協点を見つけて、適度な距離を持って付き合うか、別に無理して付き合う必要がなければ付き合わないようにする、しかないかなと私は思ってるよ。



 それと・・・何かあったような~。

 あっそうだった。

 なんかの時に、麗華さんに「家族内で名前呼びにしたのは何で?」って聞いたことがあったんだ。

 麗華さんの答えは「家族だけど個人対個人でもありたいから」だった。


 「一つには、子どもにもモデルの体験をさせようと思っていたから、仕事の場では公私混同しないためにもそっちの方がいいかなと思ったのよ。

  それと、本当はこっちが主なんだけど、『子は授かり物』とか『子は預かり物』って言葉があるでしょう。

  私もそうだと思うのよ。

  でも、子どもは自分のモノではなく、私が親になるために授けられ預かっているんだから、一人の人として生きていけるように育てながら自分も親になれるように成長しなきゃ、って思っていてもつい忘れそうになるのよ。

  というか、私に自信がないのよ。

  気をつけておかないと、子どもなんだから親の言うことを聞くのが、親に従うのが当たり前、とか思いそうで心配なの。

  だから私のために協力させていることになるのかな。全然カッコよくないでしょ。

  子どもたちは少し寂しく思うかもだけど、“パパ”がいるから大丈夫でしょ。

  登さんは(うつわ)が大きく包容力があるから。」


 自慢のダンナなの~、とフフッと笑った麗華さんはやっぱりカッコいいと思ったのだった。



 体育祭の応援団演舞は、当然のように兄様がいるところが優勝した。

 表彰式後の記念撮影は、写したいという人がたくさん集まってきて大変なことになっていた。おぉ~青春だねーって思っちゃったよ(兄様たちタ~イヘンねぇ。私にとっては他人事だけどね。ハハッ)。


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