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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
36/40

36 まだまだ成長中Ⅱ


 さてさて、それでは彰君との出会いを詳しく話してくれた兄様の話だよ。


 確か、その時の視察はさ、他領にある「(株)KAMISHIRO」の関連会社の工場を見に行ったんだよね。業績は今のところ特に問題ないが少し気になることがあるからって。3~4日間くらいだったかな?

 1日目は本社で各部の説明を聞いて、時間があればその後工場へ。2日目はもともと丸一日工場の予定だったから、工場の様子を見るのが目的の視察だよね。

 兄様は1日目の午前中は本社見学をさせてもらってたみたいなんだけど、食堂でお昼ご飯を食べた後、先に工場の方へ向かうことになった。

 父様は昼食も説明を聞きながらだったみたいだから別だったんだよねえ(モチロン北斗さんも一緒に)。

 で、午後には工場に行けそうだということで、兄様は少し早く工場の方に行っとくぐらいの感じかな。

 この時には、兄様の傍には親戚の大学生のフリをした蓮が付いていたしね。休みを利用して将来の勉強も兼ねて付いてきた的な?それか、子守を兼ねてかなあ。

 まあ、保護者の代わりは付いているからってことだな。

 工場は海沿いにあって、近くには子どもが遊べる公園もあるからってことで先に向かうことになった。


 そしたらその公園に、スッゴく絵が上手い少年がいたんだって。

 それが彰君だった。

 その公園からは、目の前の湾や湾を横断するベイブリッジ、そして橋の向こうに広がる国都のビル群が一望できた。

 その風景が、ホントに絵なのか?写真じゃないのか?と思うくらいに見事に描かれていた。

 だから、兄様はつい声をかけてしまったらしい。


 「絵、上手(うま)いね。あっ、ゴメンね。邪魔して。上手かったから、つい・・・。」


 「ううん。いいよ。()めてくれてありがとう。」


 「絵()くの好きなの?」


 「うん?普通かな。」


 「ふーん、そうなんだ。でも、ホント上手いよ。」


 で、しばらく話しながら彰君が絵を描くのを見てたんだって。

 その後、父様たちが間もなくこちらに着くという連絡が来たから、彰君と別れて兄様たちは工場へ移動した(この時は、まだお互いの名前は知らなかったんだって)。

 その時に、工場から公園まで迎えに来てくれた人が、彰君に「ぼん、暗くなる前に帰るんやぞ。」と声をかけていたのを見て、知り合いかと思って移動中に彼のことを聞いてみたそうだ。


 工場から来てくれた作業着姿のおじさん、山崎さん(副工場長だって)の話によると、その少年は「あきら」という名前で、兄様と同じ年だったらしい。

 彰君のおじいさんとその弟さんが、今から行く工場に昔勤めていて、後輩である山崎さんに色々教えてくれたんだって。だから、彰君を見かけると声をかけるようにしてるんだって。

 ただ、兄様は話を聞きながら、山崎さんの懐かしそうな、それでいて寂しそうで(つら)そう((いか)りも含まれる?)にも感じた表情や声が気になっていたそうだ。


 翌日も兄様は工場に行く父様について行った。

 でも、目的は工場じゃなくて彰君だった。

 工場は前日だけで見るのは十分って思ったみたい。

 今日も多分彰君は公園にいるはずだと思った兄様は、翌日は別行動したいと父様に昨夜のうちに伝えていた。

 話を聞いた父様も、蓮が一緒にいるならいいよって答えた。

 兄様の勘は結構当たるから、父様も何かあるのかもって思ったんだろうね。


 そして、翌日は午前中から公園に行ったそうだ。

 すると、公園には兄様の予想通りに絵を描いている彰君がいた。

 兄様は彰君に近付いていって声をかけた。


 「おはよう、彰君。今日も絵を描いてるんだね。」


 「おはよう・・・って何でボクの名前?」


 「昨日、キミに声をかけてたおじさんが教えてくれたんだよ。

  ああ、僕は神代柊。シュウって呼んで。」


 「うん。ボクは鈴木(すずき)(あきら)。ボクもアキラでいいよ。」


 「うん、わかったよ。

  で、彰は毎日ここで絵を描いてんの?一日中?」


 「うん。ここで休みの日はずっと絵を描いてるんだ。いろいろ考えなくていいし、ホッとするから。」


 「ふーん、そうなんだ。

  僕は父様の仕事について来たんだけど、工場見学は昨日させてもらったから今日はここで彰の絵を見てていい?邪魔はしないからさ。」


 「うん、別にいいよ。でも、面白くはないよ。」


 「いいよ。絵を見たり、そこら辺を歩いてきたりするからさ。」


 兄様は、彰君がこれまでに描いた絵を見せてもらったり、今描いている絵を見て説明してもらったりしたそうだ。

 兄様も隣で絵を1枚描きあげたらしいよ。

 見せてもらったけど、まあまあだったかな(兄様には「へー、上手いね」って言っておいた)。


 そして、一緒にお昼ご飯を食べる頃には大分親しくなったみたい。お互いに気が合うって思ってたみたいだしね(これは後日聞いた)。

 絵を描いたりご飯食べたりしながら色々話もしていたようだしねえ。

 同じ年ってことで、学校のことや今流行(はや)っていることや話題、好きなスポーツや音楽、それから家族のことも話すようになったんだって。

 それで、彰君が今置かれている状況も少しわかってきた。


 彰君の両親は1年くらい前に交通事故で亡くなっていた。それで、今はお父さんの従妹(いとこ)であるおばさんの家((とつ)ぎ先だね)に引き取られているけど、どうも家の雰囲気が良くないらしい。

 おじいちゃん、おばあちゃんについてはあまり覚えていないらしい。

 ママからは、「もし、ママやパパが死んじゃって彰だけになっても1年はこの町にいてね。そしたらママのナイトが助けてくれるから。ちゃんと覚えててよ!」って何度か言われていたって。

 「もうすぐ1年になるけどママのナイトは来てくれるのかなあ」って。

 どうも今の家で、「アイツはとんだ穀潰(ごくつぶ)しだったな。一体いつまで家に置いておくつもりなんだ?早くどうにかしろ。」っておばさんがおじさんに責められているのを何度も聞いているみたいだ。


 「ねえ、リュウトウリョウって知ってる?」


 「龍頭領?うん、知ってるよ。」


 「じゃあさ、そこって学校行くのにお金がいらないってホント?」


 「ホントだよ。でも、何で?」


 「ママが言ってたんだよ。だから、そこなら親がいないボクでも行けるかなって思って。」


 「うん。大丈夫だよ。龍頭領って僕が住んでいる所だよ。

  何なら僕が帰るときに一緒に来る?来る気があるなら協力するよ。」


 「・・・うん、行きたい。

  もうボクのことでおばさんがおじさんに(おこ)られるのイヤだし、自分一人で生きていくために力も付けたい。」


 「うん、わかった。今夜、彰から聞いたことを僕の親に話してもいい?

  大人にも協力してもらわないとダメだしね。」


 「うん、いいよ。けど、大丈夫かな?」


 「少し確認しないとわからないけど、僕の親が後見人になれば問題はないと思うよ。

  僕たちは明後日(あさって)には帰るから急いで相談しないとね。

  でも、ホントにいいの?気持ちは変わらない?」


 「うん、大丈夫。」


 「うん。一応、今夜相談してみる。もし気持ちが変わったら、明日言って。

  どうなったかも明日話すよ。

  それと、おばさんたちに話すのはまだ待っててね。

  話すとしたら大人同士になるだろうしね。」


 「うん。わかったよ。」


 夕日の中のベイブリッジを見て、彰が家に帰るのを見送ってから僕たちもホテルに戻ってきた。

 さてと、頼んでいた調査は終わったかな。

 実は、今日の昼ご飯の後、蓮に頼んでたことがある。

 蓮って存在感をなくすの得意なんだよねー。

 今回は()えない大学生風にしてるんだけどね。ぼさぼさの髪に黒縁めがね、ちょっとよれたスーツで目立たないように傍にいるんだ。

 だから、彰もあんまり蓮のことを意識していない。

 で、昼間コッソリ蓮に頼んでたんだよ。


 「ねぇ蓮、大吉に連絡できる?彰の両親と今いる家について知りたいんだけど。」


 「できるよ。ちょっと待ってて。 ・・・ 『リョーカイッス』だってさ。」


 大吉がこっちに来ているときでよかったよ。

 調査なんかは大吉に任せると早いし正確だし、ホントすごく助かる。


 それに、父様の方も大体今日までで分かるんじゃないかな。

 昨日、本社と工場で耳にしたこと。

 どうやら本社の中に、人を使うよりもっと機械化を進めた方が効率的だと人を減らして機械を増やそうとする動きがあるようで、それに不満と不安を持った工員さんたちが何人も退職していっているらしい。

 いくら機械化っていっても人が調整しなければならないことって絶対残るのにね。

 特に扱うのが精密機械であればなおさら、確かな目や技術を持っている人を大事にしないとね。

 そして後継者を育てないと。人材は人財だ。

 途絶えたら大変なことになることもある。

 実際に以前より返品される物が増えているみたいだ。

 微増(びぞう)だからたいしたことはないと考えるか、大きな問題の種と考えて対処するか、だね。

 父様だったら後の方だけど、さてさてこの会社はどうするかな?

 それによって父様の今後の対応も変わるね。



 さて、夕方ホテルに戻ったら調査結果が届いたよ。

 大吉が持ってきた。さすが早いね。


 その調査結果だ。

 大吉が「ホウコクスルッス」と言った内容だ。

 ふーん、思った通り彰のお母さんは龍頭領出身だったね。

 僕たちの国、和国は龍の形をしているように見えるから昔は龍国とも呼ばれていたようだ(国によっては太陽が昇ってくる方角にある国ってことで()(もと)の国って呼ぶ所もある)。そして、僕たちが住んでいる領は龍の頭部分になるから龍頭領と呼ばれているんだ。

 ああっと話を戻すよ。彼女の旧姓は仁内(じんない)(あや)。あー、あの医者が多い仁内一族かな?

 やっぱりだね。仁内医院の一人娘かあ。


 そういえば何年前だったかな?先生の奥さんがお祖母様のところに来て愚痴(ぐち)ってたな。「お父さんが反対しなければ今頃は孫もいたかもしれないのに」って。

 先生は医者を婿にと考えていたらしいのに、娘が結婚したいと思っていた男は医者でもなく親もいなかった。

 で、会いもせず「まだ早いし、考え直せ」の一点張り。

 何度言っても聞こうとしない父親に、娘はとうとう「頑固頭のクソじじい」と言って帰ってこなくなったらしい。

 それ以来音信不通だって嘆いていたな。

 あの娘さんだったんだ・・・。


 お父さんの方は、やっぱりお母さんが両親に会わせようとしていた人のようだね。

 彰君のお父さんは両親を早く亡くしていた。

 母親はもともと体があまり強くない人だったみたいだね。出産後、寝込むことが多くなって数年後には亡くなっている。

 父親は、お父さんが10歳くらいの時に亡くなっている。仕事に帰りに、川で溺れている子どもを助けて亡くなったらしい。

 父親を亡くした後は、従妹の家(父親の弟の家)に引き取られて、従妹とはホントの兄妹のように育てられている。従妹とは仲が良かったらしい。

 でも、そのおじさん夫婦も5年前に亡くなっている。仲がとってもいい夫婦だったらしく、おばさんが病気で亡くなると半年後くらいにおじさんも亡くなっている。

 父親とおじさんは、僕が昨日見学させてもらった工場で働いていたみたいだ。

 父親の方は工場で使っている機械の設計にも関わっていたみたいだ。おじさんは機械の調整やできあがった物のチェックや調整なんかをしていたようだ。

 だから今働いている人たちの中には、彼らに仕事を教えてもらったという人がまだ残っているみたいだ。

 昨日の山崎さんもその中の一人みたいだね。

 彰パパのおじさんが退職前に、彰を何度か工場に連れて行ったことがあったらしくて、おじさんや彰パパが亡くなった後も気にかけてくれていた人が何人もいたんだね。


 ふーん、彰のパパとママの出会いは大学なんだね。

 サークルが一緒だったんだぁ。

 彰パパは卒業後、設計事務所に、ママは証券会社に就職しているね。

 パパが数年後独立してこの町に戻ってくるときに、2人は結婚してママも退職してパパの事務所の事務関係を担当するようになってる。

 へー、パパって大学時代から建築業界のコンペに参加して注目されてたんだね。設計事務所時代もいくつか大きなプロジェクトを任されているし。個人事務所になっても順調だったみたいだね。


 ちょっと(イヤかなりかな)気になるのが、パパの従妹の旦那さんかな?

 これは早く彰を離した方がいいよねえ。

 父様に至急相談だね(母様にもだね)。


 父様たちが戻って来て相談したところ、彰が希望するのならば僕たちが戻るときに一緒に龍頭領に彰も連れて行くことになった。

 後見人にもなっていいということだったが、多分そっちは大丈夫だろうとのことだった(向こうにはホントの祖父母がいるもんねえ)。

 すぐにでも向こうに連絡するんだろうね。


 ああ忘れてたけど、彰ママには弁護士が付いていた。

 彰ママが言っていたママのナイトって弁護士のことだったよ。

 彰ママは弁護士と定期的に連絡を取り合っていた。

 前回がママたちが交通事故に遭う少し前だったらしい。

 その時に彰ママから「これからしばらく忙しくなるから、次は1年後くらいにお願いね。」って言われたらしい。大体は半年に1回くらいみたいだね。

 彰ママは二人(ふたり)目の子を妊娠中で、一月(ひとつき)後が出産予定だったらしい。

 彰は両親と弟か妹を亡くしてたんだ。

 事故の日はママの健診の日だった。出産日が近いことと天気が悪いこともあり、お休みだったパパが車でママを病院まで送り迎えしてたんだ。

 そして帰り道の交差点で、信号無視の車が突っ込んできたそうだ。

 彰は家で両親が帰ってくるのを待ってた。

 ああ、また話が()れちゃったな。

 ママのナイトの話だったよ。

 ママは自分の実家の話はパパ以外にはほとんどしてなかったみたいだ。

 でも何があるかわからないから自分に何かあったら、そして子どもだけになったら弁護士から自分の実家に連絡が行くようにしていた。

 その弁護士と約束した1年後が間もなくだった。




 次の日、僕はもう一度彰の気持ちを聞いたよ。

 彼の龍頭領に行くという気持ちは変わってなかった。

 でも、彰から「お金を貸りられるかな?」って言われたときは、少し驚いたな。


 「何のためか聞いてもいい?」


 「うん。おばさんに渡したいんだ。」


 「それは、今までお世話になったから?」


 「うん、それもあるけど、もしおばさんがあの家を出たいと思ったときにお金がないと困るよね。

  おばさん、いつもあまりお金がないみたいだから。

  僕が学校に持って行かなきゃいけないお金も『ごめんね。少し待ってね。』って。

  おじさんはおばさんに『もっと節約しろ』って、よく怒ってる。自分は次から次に色々買ってるみたいなのにさ。

  だから・・・。」


 「うん。わかったよ。」



 彰の話を聞いて、蓮がすぐに北斗さんに連絡をしたみたいだ。

 一応、昨夜の話で彰が僕たちと一緒に行くと言った場合は、今日中に父様たちが彰がお世話になっている家の人たちと話をするようになっていた。

 もう色々と準備を進めているだろう。


 その翌日、彰は僕たちと龍頭領に行くことになったんだ。

 昨晩の話し合いは、まあ上手くいったみたいだよ(僕は行ってないから、後で聞いただけ)。

 前半は邪魔だと思っていた彰がいなくなるからって、おばさんの旦那はサッサと連れて行ってくれって感じだったそうだからね。

 ところが、彰の母方の家が医者だとわかった途端に態度が変わった(後見人は父様ではなく仁内の祖父母になった。連絡を受けた祖母が、「祖父を何としてでも説得して孫は引き取るから交渉はお願い」と父様に頼んだらしいよ)。いかにも恩着せがましい態度に。

 何しろおばさんが彰を引き取ろうとした最初の頃、旦那が反対しなかったのは彰を引き取れば彰の両親の保険金や交通事故の賠償金が手に入ると思っていたからだからね。

 ところが、事故の相手は保険に入ってなかった。両親の保険は出たが、色々と片付けていった結果、旦那が期待するほどなかったんだろうね。

 だから、彰のことを「穀潰し」って思うようになった。

 ところが、母方の祖父母のことを聞いてまた欲が出たんだろう。金を持ってそうだから、孫の面倒を見ていたんだから、これまでの養育費ぐらい出してくれるだろう、と。

 まあ、父様と北斗さんは相手の言いそうなことも予想して準備していたようだね。

 おばさんの旦那が、彰に残された両親の保険金(残ってた分だね)を彰のためには使わず私的に使っていたことや彰パパの描き残していた設計図を勝手に使っていたこととか(はぁ、酷いね)等々調べていたみたいだよ。

 で、おばさんの旦那は何も言えなくなった(不満そうな顔をしていたみたいだけどね)。

 おばさんはホッとしていたみたいだよ。


 彰の出発をおばさんは幼い娘を連れて見送りに来ていた。旦那は来ていない(まあそうだろう)。

 その時に彰はおばさんにお金を渡していた(おばさんは彰に返そうとしていたけど、父様に何か言われて受け取ってた。父様、何て言ったんだろう?)。


 お金については、僕が貸した。

 お祖母様から渡されたあのお金だ。

 彰は僕が見つけた僕の友だちだ。彰には才能があると思っているし、おばさんへの心配もホントだと思っている。だから僕は彰という人物に投資することにしたんだ。

 人材は人財だしね。

 僕の話を聞いて父様は「わかったよ」とだけ。


 僕たち兄妹がお祖母様から教えられたことの中に、「たとえ親兄弟でも、どんなに仲のいい友だちであっても絶対に保証人にはなるな。」というものがある。

 お金に困っているのなら自分が渡せる範囲で貸し、返さずに繰り返すようなら、貸したお金はあげた物と思ってその相手とは縁を切ったがいい、って。

 この教えは父様たち兄弟も聞いているらしい。


 だから、彰に渡したお金は別に戻ってこなくてもいいと思っている。

 彰にお金を渡すときに、お祖母様からの課題についても話したんだ。

 彰は目を丸くして「すごいね」って言ってた。

 そして借用書を書いてくれたんだ(律儀(りちぎ)だね)。僕は「無期限でいいよ」って受け取ったよ。

 彰はニッと笑って「損はさせないよ」って言うと、「これ一応保険」って自分が描いた絵をくれたんだ。ちゃんとサインも入っていた。

 その自信はどこから?って思ったんだけど、わかったのは龍頭領に戻ってからだった。


 僕が他人にお金を貸したのは彰が初めてだ(僕の年だったら当然だよね)。

 彰がどうなのかはまだわからないけど、借りたお金を返さない人はいる。中には人を騙して奪い取るような人もいる。

 信用していた人が裏切ることもあるんだ。

 それも自分が人を見る目が無かった。これも人生での勉強だと思えるならいいけど難しいよね。

 だから自分が破滅しない範囲で貸し借りはすべきだよね。

 世の中にはうまい話はないんだよ。

 大体さ、ホントに(もう)かる話なら他人に教える?他人に教えないんじゃない?ああ、だから「あなただけに」って言葉に騙されるのかな?

 欲張ったら失敗するって思ってた方がいいよ。

 ああ、少しズレちゃったね。

 僕は彰からお金が戻ってこなくてもいいと思っている。将来、彰が困っている人を助ける形であってもいいと思っているんだよ。


 そうそう、彰のおばさんだけどね、一月(ひとつき)後くらいに龍頭領に引っ越して来たんだよ。

 おばさんの旦那ってほらクズ男?っぽかったよね。

 お金に関してだけでなく、仕事も女性に関してもダメダメだったみたいだねぇ。

 地元ではまあまあ大きい建設会社の社長の次男で部長だったみたいだけど、彰パパの設計図を勝手に使ったのが社長である父親にバレて左遷されたみたいだ(設計図だけでなく他にも色々あったみたいだけど解雇じゃないんだあ。甘い!)。

 で、彰が龍頭領に引っ越すのに関係して設計図の件がバレてからおばさんに対するモラハラが酷くなった。

 それまでも生活費をギリギリしか渡さないとか、料理や掃除にケチをつけるとかあったらしい。

 「おとなしくて妻にはちょうどいいと思っていたが産んだのも娘だしな。」とまで言ったみたいだ。

 おばさんの方も旦那さんに他に女性がいることやその浮気相手との間に子どもがいることを、耳に入ってくる噂話なんかから何となく気付いていたらしくて、旦那さんから「息子を産んだ女と結婚するから、お前とは離婚だ。」と言われて、サッサと出てきたらしい。

 彰から「何かあったらおばさんも龍頭領においでよ。」と言われてお金を渡されていたこと、父様から「わが領は女性一人でも安心して子育てできますよ。」「お金は使わなかったら、龍頭領に彰君の様子を見に来たときに返せばいいですよ。それまではお守り代わりにでも持っていたらどうですか?」と言われていたので龍頭領に来ることにしたらしい。

 今は仁内家の近くに家を借りて、仁内医院で看護師(資格を持っていて結婚するまで働いていたらしい)として働きながら娘と暮らしている。



 ああ、こっちに戻って来て聞いたんだけど、彰パパとおばさん両方のお父さんのことを父様は知っていたんだって。父様が僕くらいの頃、工場に行ったときにそれぞれの仕事の説明をしてくれたらしい。目をキラキラさせて自分の仕事を楽しみながら自信と誇りを持って取り組んでいる姿がまぶしく見えたって。

 その人たちの娘さんやお孫さんに関わるのも何かの縁だろうと思ったって。


 それと、(のち)に仁内のおばあさんが彰と僕に話してくれたんだけど、彰ママは学生の頃から株で自分のお金を増やしていたんだって。

 父親から「医学部以外に行くなら学費は出さん。」と言われていたから、自分で学費を稼いで自分の行きたい大学に行ったらしい。


 「本当にあの2人は似たもの親子でねえ。

  彰君、おじいさんは彰君のパパに親御(おやご)さんがいらっしゃらないから気に入らなかったわけではないのよ。

  たとえ誰であっても、自分から娘を奪うような男は気に入らなかったの。

  だから、自分が(すす)めようとしていた男性は全部婿養子に(はい)れそうな人ばっかりだったのよ。それでも渋々(しぶしぶ)だったんだから~。

  大学のことだってねぇ、綾がちゃんと自分で話しに来れば許そうと思っていたようなのに、私を介して伝えるだけで勝手にダメなら自分でどうにかするからいいって行動するし。

  親子であっても話さないと伝わらないのにねえ・・・。」


 確かにそうだよね。

 家族、親子や兄弟姉妹、夫婦であっても以心伝心(いしんでんしん)なんてほぼないんだよ。

 大事なことは、ちゃんと言葉で伝えなきゃね。お互い生きているうちにね。じゃないと後で後悔しても遅いよ。



 ああそうだった。

 で、昔お金に困っていた学生へも援助してやったらしくて、その人が彰ママの弁護士さんになってた。

 その弁護士さんとも連絡が取れ、ママが彰に残していたものについてもわかった。

 弁護士さんは、もっと早く連絡すればよかったと後悔していたけど、約束していたんなら仕方ないよね。


 彰もママから投資の仕方を教えてもらっていたようで、おばさんから「使った分は返すからね」と残ったお金を渡されたときに、「返さなくていいよ。自分で増やすから。」って言って呆れられてた。

 彰から「課題は高等部を卒業するまで、だったよね?それまで借りとくよ。柊のおばあさんが驚くかも、だけど任せて!」って言われたから「うん。任せた。」って答えといたよ。


 その年の4月から同じ学校になり今に至る・・・というのが兄様の話だった。

 色々あったんだねえ。


 それでは次は遙君だね。

 こっちは私の方からがいいかなー? 


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