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異世界の管理人  作者: 東風
第2章
34/34

34 想い Ⅱ

 神山真秀は、当主としての能力については何の問題もなかったが、残念なことに女性を見る目がなかった。


 「真秀は真面目で責任感のある男であったが、妻の“およね”は裏表のある人間での、権力がある人間や自分にとって役に立つ人間、好意を持った人間とそうじゃない人間では態度が違っておった。

  真秀の導き手は、だいぶ結婚に反対しておったが、『恋は盲目(もうもく)』じゃな、周囲の反対を押し切って結婚してしまったのじゃ。

  まあ、真秀の邸には昔から仕えているような者も多かったし、導き手もいるからと安心していたのじゃが・・・。

  およねは、真秀の前では見せなかったようじゃが、跡取りの一真と景虎とで接し方が違ったようでのう。

  一真は大切に育てていたようじゃが、次男は一応生きておればよかろう、ぐらいであまり面倒を見てなかったようじゃ。

  今の時代であれば、ネグレクト、虐待と言われるだろうが昔はそんな言葉はないし、他の家のことはわからんしのう。

  ある時、ミミズクから、名前は(けん)じゃった。その賢から『次男を助けてやってくれ』と言われて、琥珀(こはく)が様子を見に行ったのじゃ。

  その時に景虎の才も気に入ったのか、戻るとすぐ琥珀が総司に『(おれ)があの子どもの導き手になるから、神代家で預かる形にしてくれ。』と言ってのう。

  琥珀はそれまで誰の導き手にもなろうとしなかったから、皆驚いておったよ。

  総司もすぐに対応しての、何と言って説得したかは知らんが景虎を連れて帰ってきた。

  その後、桜子の婿として神代家に入ることになるのだが、景虎の導き手が琥珀であることも主家(しゅか)である神代家の婿となることも一真にとっては腹立たしい事であったようじゃ。

  自分より下の立場であった弟が、自分より上の家の跡取りになるのだからの。」


 事件が起こったのは、桜子と景虎が結婚して1年という頃だったらしい。


 「あの頃は、山や領地が何となくザワザワとして落ち着かない感じがしておった。

  領地の中に見慣れない者が多く見られるという話も耳に入ってきておったな。

  そんなある晩のこと、右側の樹海、温泉街がある方じゃな、と右側の領境の真ん中辺りに火の手が上がったと連絡が来たのじゃ。それも松明(たいまつ)を持って樹海に向かっている者もいるようだ、とな。

  それと同時に、左側の領境を越えて隣の領軍が攻め込んできたとの急報(きゅうほう)もな。

  しかもそれは神山家が持ってきたものではなかった。

  一体神山家の者たちは何をしているのかと騒ぐ者もいたが、それよりも対応を急がねばならなかった。

  左隣の領主は以前よりこちらの領地を狙っていたからのう。右隣も警戒せねばならん。

  まあ、ここしばらく落ち着かない気配があったために準備はしておったから、すぐに戦う態勢は整えられた。問題は神山家だ。しくじったのか敵に寝返ったのか。そこを急ぎ確認しつつ戦わねばならん。

  そこは(じき)に分かったよ。

  一真と隠が関わっておった。敵とつないだのはおよねであったがの。

  それが分かったときの真秀の嘆きと怒りは(すさ)まじいものじゃったな。(まなじり)は裂けんばかりであったし、握りしめて震えておった手からは血が(したた)っておったよ。

  すぐさま直属の配下の軍勢を率いて出て行ったよ。

  総司は本陣に残って指揮を執っておったが、いつの間に出て行っていたのか、導き手の源造(げんぞう)が隠を討ち取って戻ってきたよ。」


 「源造?それって庭師の源じい?」


 「おおそうじゃ。

  その頃は総司の導き手と導き手全体のまとめ役のようなことをしておったのじゃよ。

  導き手は人の世の動きには直接関わってはならぬ。まあ、神から指示があった場合は別じゃがの。

  隠はそれを破った。もう導き手とは認められん。

  神より貸し与えられた能力も奪われる。

  源造が討ったということは、それだけのことをしたと判断されたということじゃ。

  一真と彼奴(あやつ)についておった神山の軍は、攻めてきた隣の領軍と共に真秀たちに討たれたよ。

  ああ、およねもな。

  最後まで2人とも『景虎よりも自分(一真)の方が神代の当主にも相応(ふさわ)しい』と寝ぼけたことを言っておったそうだがの。

  そして、樹海の方を守りに行った景虎も命を落とすことになったのじゃよ。」


 「普段から樹海をキレイにしておる桃香だけでなく、柊ももう分かっておると思うが、樹海は心悪しき者が近付くとマズい場所じゃ。取り込まれることもあるし、操られることもあるしのう。

  心配する桜子を安心させるために、景虎が樹海に人を近付かせまいと向かうことにしたのじゃ。

  まだ(おおやけ)にはしてなかったが、桜子は子を妊娠中でな、今でいう安定期に入ったところじゃった。

  だから景虎が桜子の身を心配して、過保護にしておったよ。

  樹海の方は少人数でコッソリ近付くつもりなのだろうと予測して景虎は琥珀だけを連れて向かったのじゃ。(わらわ)に桜子の(まも)りを頼んでな。

  どうしても隣の領軍が攻め込んできた方面に、多くの人数を割かねばならなかったから人手がなかったこともあるが、樹海は秘密を知る一部の者しか近付けられぬからの。

  だが存外(ぞんがい)樹海の方にも人が多かった。他領の者だけでなく、一真の配下の者もいたようじゃ。

  それに、一真側について後で(うま)い汁を吸おうと考えて協力した者もいたんじゃろう。

  結果、景虎は1人でヤツらを防がねばならなくなった。あの人数の()しき気を樹海に近付けるわけにはいかんからの。

  助けを待つ時間はないし、琥珀は、人の世の戦いには手を出せぬしな。

  いくら景虎が強くとも、防ぎきれたのが奇跡と言えよう。本当に命をかけて守り切ったよ。」



 景虎の最期をお菊さんに伝えたのは琥珀さんだったそうだ。

 戦いの前に、景虎は桜子から渡されていたお守りを琥珀さんに預けたそうだ。「自分が持っていたら、お守りを血で(けが)してしまうから。」と。

 それと、「自分に何かあったら桜子と子どもを頼む」とも。

 そして1人、敵に向かっていった。

 琥珀さんは対人間ではなく、悪しき気に反応して樹海から出てくるモノの対応に追われていたらしい。

 景虎は敵をできるだけ樹海から遠ざけようと戦い、琥珀は樹海から悪しきモノを出さないようにしていた。

 両者は距離が離れることになってしまい、戦いが終わるまではお互いの近くには行けなかった。

 だが、景虎の導き手である琥珀には、景虎が徐々に弱っていっているのがわかっていた。それでも、まだ樹海から離れるわけにはいかなかった。

 琥珀が樹海を離れ、景虎のところに行ったとき、景虎はまだ立って刀を構えてはいたが、立っているのが不思議な状態だったらしい。

 景虎には直接命に関わるほどの大きなキズはなかったが、多くのキズから出血したまま戦い続けていた。流れ出た血は多かったのだ。体を動かしていたのは気力だけだったのだ。

 だから、琥珀が「よく頑張ったな。もう終わったぞ。」と声をかけると「そうか」と答えて目を閉じると同時に鼓動も止まった。


 琥珀は景虎を連れ帰る前に、敵で生き残りがいないか確認し、こっそり1人逃げようとしていた者をわざと見逃した。この者には樹海の悪しきモノが付いていたが、そのままにしたそうだ。

 その後、戦に負けた隣の領地は流行病で全滅している。



 「その年の暮れに、桜子は無事に男の子を出産した。

  琥珀は、冒険者の才を持っていたその子と導き手を鍛えてから『しばらく旅に出る』と言って、この地から姿を消していたのじゃが、寅吉の親の代が生まれた頃に戻ってきてのう。」


 「お菊さんも曾お祖母様が生まれる前に戻ってきたんだよね?わかるの?」


 「そうだのう。妾は桜子の孫までは見ておったよ。

  孫娘に1人、巫女の才を持つのがおっての。その子と導き手が一人前になるまで見てから妾もこの地を離れたのじゃ。

  離れてからは神仙界に行ったり異世界を見て回ったりしておったなあ。月兎と知り合ったのもその頃よのう。

  時々、琥珀の噂を聞くこともあったから、彼奴(あやつ)も元気にしておるのは知っていたがの。

  ある時、桜子だった魂がまた生まれそうだと感じてな、この地に戻ってきてみると琥珀もいたのじゃよ。

  1度導き手になると、関係を切らない限りは結びついておるから感じ取れるのじゃ。」


 「ふーん。そうなんだね。」

 「えっ、そうなの?」

 私と兄様は、桐葉と蓮をつい見てしまった。



 そして私たちは、神山家とイタチについてのその後も聞いたのだ。

 神山家は当主の真秀が、一真についた人間を全て調べ上げて罪に応じて処分した後、真秀が自刃している(賢もその頃、消えたらしいよ)。これにより神山家直系の者はいなくなり、「神山」の名もこの領地よりなくなった。

 イタチについては、神から与えられていた力を失ったことにより“導き手”になることは不可能となった。だけでなく、神楽山に住むことも許されなくなった。これ以降、この山にはイタチはいなくなった(言われてみれば確かに、この山でイタチを見たことはなかったよ)。

 そして、これ以降は巫女だけでなく冒険者も神代家からしか出なくなっている。


 昔からの一族として、神社関係の道具を作製している神尾家(敏じいのとこだね)、田畑の管理をしている神田(かみた)家、水を管理し、神酒を造っている神川(かみかわ)家、木々を管理している神林(かんばやし)家などが残っている。今では関連した他の仕事もしているけどね。


 「お菊さん、ありがとう。

  いつか聞きたいとは思ってたんだけど、曾お祖母様たちには聞きにくかったし・・・。」


 「それはそうだろう。

  昔の話を聞いて分かることもある。妾も話しておかねばと思っておったからよかったよ。」

 「おお、そうじゃ。

  櫻はのう、桃香を(うらや)ましがっておったよ。

  いや、異世界に行った者たちをかのう。」


 「「えっ?」」


 「ほほほっ。

  トラが冒険者の仕事を終えて帰ってくると、向こうでの話を櫻にすることがあってのう。

  こっちの世界と違うことやこっちの世界にはないものの話を聞いて興味深かったんじゃろう。

  同じ巫女でも異世界に行ける桃香を心配しながらも羨ましくもあったんじゃろうの。」




 僕は自分の部屋に戻って、少し反省していた。

 兄である僕が聞くべき事を桃香に言わせてしまったからだ。こういう所が「鈍い」と言われるんだろうなぁ。

 桃香は、そのうちにお菊さんもまたいなくなると思っているんだろう。

 だから、いなくなる前に、僕も一緒に聞けるようにと、今日言い出したんだろうなあ。

 琥珀さんもいなくなったんだから、僕ももっと早く気付けばよかったよ・・・。


 「何だ柊、落ち込んでんのか?」

 「うん、まあ・・・。」

 「まあ、言い出したのは桃香でも話を聞けたんだからいいじゃないか。

  反省したんなら、今後に生かせばいいだけさ。

  同じようなことを繰り返すなよ。

  気になることがあるなら、機を見て聞けるときに聞いておくんだな。」

 「うん。そうするよ。

  あ、そうだ。蓮に聞きたいことがあったんだよ。」

 「お、早速かよ。いいぜ。何?」


 僕は蓮に、琥珀さんと源じいについて聞いたんだ。

 琥珀さんには稽古を見てもらっていたけど、あまり詳しくは知らなかったんだよ。

 蓮は琥珀さんからも直接指導されて、鍛えられたらしいからね。

 蓮によると、琥珀さんは不思議な毛色と瞳の色を持つ虎だそうだ(虎ってことは僕も知ってたけど、虎の姿は見たことないんだよ)。毛も瞳も白金色なんだけど、昼間と夜間で色が変わるらしい。周りの色を映し出すように、昼間は黄金色に夜間は漆黒(しっこく)に見えるらしいよ(勿論、普通の人には姿自体が見えないけどね)。


 源じいについては、普通の庭師のおじいさんだと僕は思ってたんだよ。

 だから、お菊さんから導き手だったと聞いて本当にビックリしたんだよ。

 しかも、お菊さんが狐なのに対して(?)、源じいは(たぬき)なんだって。

 それに、昔はお庭番(情報収集と分析を主に行う)のまとめ役もやってたんだってさ。

 今は導き手は引退しているけど、趣味で庭師をやってるって。

 お菊さんも源じいも神社の中に(やしろ)を持っていて、神様として(まつ)られているってことも初めて知ったよ。お菊さんはお稲荷様として、源じいは狸の神様だね。

 蓮が、「こちらでは神様として祀られてもおかしくない」って言ってたけど、ホントだったんだねえ(というか、すでに祀られてた)。

 でも、両方とも社にはほとんどいなくて、奥の間や庭にいることが多い。願い事は眷属が手分けしてやってるんだってさ(へーそうだったんだー、って感じだよ)。


 今日は僕にとって、目から(うろこ)(うろこ)がポロポロ落ちた日だった・・・。  


以上で第2章は終了です。

次は第3章(最終章)になりますが、投稿は3月からを予定しています。

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