30 ミーナと美菜Ⅱ
~ 目黒 美菜 ~
はあっ?私がまだ死んでない?異世界転生じゃない?聖女の力を使えない?
一体どういうことよ。
それに、今回が人間は最後ってどういうこと。まったく意味がわかんない。
私は両親と姉有希の4人家族の中で育った。祖父母もいるけど、年に会うのは数回ね。
私は自分でも文句なくカワイイと思う顔をしている。だから皆が私のことを「カワイイ」と言うのは当然だと思ってるし、皆が私のために色々してくれるのも当然だと思ってる。
なのに、上手くいかないことが多くてイライラする。
原因の大半は姉。私より3歳年上の姉はかわいくないけど、スッキリした綺麗系の顔立ちだ。ついでに、ムカつくことに頭もいいし運動もできる。周りからはしっかり者だとも言われているみたいね(興味ないけど)。
普通、姉だったらカワイイ妹に何でもくれるものじゃない?どんなに大切なモノでもさ。
でも、姉はそうじゃない。
は?何でも姉が最初にもらって妹はお古が譲られるんじゃないかって?何よ、それ。そんなの知らないし。
私にそんな記憶はないわね。新しいのやカワイイのじゃないとイヤだったし。
両親?両親は優しいけど、姉にも私にも同じようにってところが不満。何で私が1番じゃないの?末っ子なのに。
ああ、姉のことだったね。
姉は私が保育園の頃から邪魔をする。
友だちと遊んでいるときに私が好きなようにしようとすると、「こうすると楽しいよ」って勝手に変えるし。友だちとケンカになると、「仲良くしな」って私が友だちに謝ることになる。何で私が謝るのよっ。姉なら私の味方しなさいよ。
小学校の時も。
隣のクラスにカッコいい男の子がいた。私が話しかけるとその子もうれしそうにしていた。当然よね。
ある日クラスでよく一緒にいた女の子たちに言ったの。「私、あの子のこと好きかも~。」って。そしたら普通友だちだったら遠慮するもんじゃない?なのに、そこにいた1人の子がその男の子と楽しそうに2人でしゃべってたのを見た。ムカついた。
だから、お昼休みにその子がトイレに入っているときに、ホースで上から水をかけてあげたの。その子、「えっ?キャーーイヤーー」って泣き出した。いい気味って思った。
でも、何でかすぐに姉が現れて、その後すぐ保健室の先生までやって来た。
私はその日の夜、両親と一緒にその子の家に謝りに行って散々だった。学校で先生に怒られ、家でも両親に怒られ、姉には呆れられた。何でよ?私は悪くないのに。裏切り者はあの子でしょ?
その後もムカつくことがあって何かしようとするといつも姉にバレた。は?何でよ?いつもいつも邪魔してって思ってた。
ある日、幼なじみの実果から言われた。
「ねえ美菜、あんまりバカなことするのやめなよ。どうせすぐに有希様にバレるって。」って。
は?有希「様」って何?
実果によると、姉は何でもできるだけじゃなく優しくて面倒見もいいからカッコいいって人気があるらしい。特に年下の女の子たちに。
その姉から「美菜が何かやらかしそうなときは教えてね」ってこっそり頼まれている子が何人もいるらしい。だからバレるよって。ついでに私もアンタの監視係だからねって。何よ、それ。
あの私に水をかけられた子も姉のファンになって姉に協力しているらしい。ムカつく。あの後、私の傍には寄りつかなくなったくせに。
姉が中学生になり学校が別れても、ずーっと邪魔され続けた。しつこいっ。
でも私も仕返したわよ。
姉に彼氏ができたら、横取りしてやった。ざまぁ~。
ある時、姉に謝るフリして言ってやった。
「ごめんねぇ、お姉ちゃんの彼取っちゃってぇ、でも、彼がぁ美菜の方がカワイイから好きだって言うんだもん。しょうがないよねぇ。」
「ふふっ、構わないわよ。
だって、あなたに靡くような男なら、別の人にもフラフラいってすぐ浮気するわよ。
別れるなら早いほうがいいわよ。篩になってくれてありがとう。」
はあっ?すぐ浮気するような男と付き合うのは時間の無駄だから助かったって?ホント、ムカつくっ。
頭が良かった姉は弁護士になった。
そういえば、大学生の時、2年くらい外国の大学にも行ってたような・・・。よくまあ勉強なんて好んでするわぁ。理解できな~い。
「何で弁護士になったの?私になんかあったら、助けてくれんの?助かる~ぅ。」
「はっ?美菜を助ける?ないない。
アンタに弁護士が必要って、加害者の可能性の方が高いよね。
私はやったことの責任は取らせる派なの。簡単に無罪を主張することはない。
特にアンタは、しっかり責任を取らせた方がいいタイプ筆頭よね。」
はあっ?何ですってー(怒)。やっぱり姉とは絶対に仲良くなんてできないっ。
その後、姉は同じ弁護士の男性と結婚した。
学生時代にラグビーをやってたみたいで、がっしりした体つきだけどかっこよくない。包容力はありそうだけど私の好みじゃないな。
翌年、姉は妊娠し、あと2ヶ月くらいで出産って頃だった。母に「お姉ちゃんの買い物に付き合ってちょうだい」って言われた。母が姉の買い物に付き合う約束をしていたそうだけど、急に祖母が入院している病院から電話をかけてきたらしい。お小遣いをもらって、しぶしぶ引き受けた。多分、荷物持ちだよね。
その帰りだった。
駅に着いて階段を降りている時(エレベーターを使えばよかったのに、「このくらい平気よ」って)、前にいた姉の後ろ姿を見ていて急に憎らしい気持ちがわき上がってきた。
一緒にお茶したとき姉に、「いつまでも両親のすねかじってないで、いい加減自立したら?」って言われてムカついていたのが戻ってきたのかも・・・。
ハッと気付いたときには、姉の背中を押していた。
「キャアッ」と姉が足を踏み外したのが見えた。
私は咄嗟に後ろを振り向いた。女の子と目が合った。一瞬、見られた?って思った。でも、その子も後ろから押されたみたいで、えっ?て顔してすぐに私に向かって落ちてきた。うわっ当たるって思ったときにはドンって衝撃がきた。
それからのことはわからない。
そして、気が付いたら私は「ミーナ」だった。
超ラッキーって思った。だって異世界転生だよ。しかも聖女。ラノベだったら、チートで能力はあるし、当然私がヒロインで主役よね?ヤッター、勝ち組よって思った。
でもしばらくして、何か違うって感じるようになった。
使えていたはずの聖女の力が使えないし、私の思い通りに周りもならないし、イライラするっ。
第3王子を私のモノにって思っても好感度が上がらないのか上手くいかない。なんでよっ。
そしたら隣国から大聖女候補なんてやって来るし。私より目立つようなのはいらないのっ。邪魔よっ。
しかもその女から「目黒美菜」って名前が。美菜は死んでないから、私は異世界転生したんじゃないって。
一体どうなってんのよ?って思ってたら、私の前世って?何よそれ。今回もダメだったら次はない?
わかんないよ。その時・・・。
「はぁ~、懲りない迷惑な女ね。もう虫でいいんじゃないのぉ。
私が嫌いなアレなんかどうかな。すっっごく生命力が強くって、どんな世界になっても多分生き残るんじゃないかって言われている黒くってツヤっとしているアレっ。目の前に現れたら叩き潰すか踏み潰すかするアレっ。」
はあっ?虫?黒くってツヤっとしているアレって私も嫌いなGのこと?私だってイヤよっっ。
いつの間にか目の前に人が立っていた。
その男は「オノ」って名乗った。そして、私を元の世界に戻すって。
「ああ、戻る前にあなたが気にしているかもしれないことを話しておきましょう。
まず、お姉さんは大丈夫ですよ。
さすが、あなたの性格をよく知ってますよね。ムカつくことがあると後先考えず行動するところとか・・・。
あなたに押されて咄嗟に手すりをつかみ、バッグで腹部も守ってますから、腕の捻挫と脚の擦り傷ですんでますよ。
ただ、その後すぐ産気づいて出産することになりましたがね。無事に男の子が生まれてますよ。あなたは叔母さんになったってことですね。
あの事件では、一番被害を受けたのは半年以上意識不明が続いているあなたですが、まあ自業自得というところでしょうね。
少しは気になってたんでしょう?
それに先程、あなたの病室を見舞うお姉さんの姿も見たんでしょう?
それと、あの時最後にあなたが目撃したことについてもあちらに戻ったら聞かれますよ。
さあ戻りましょうか。あなたの人生に。
今回が最後の人生となるかどうかは、あなた次第ですよ。」
意識が薄れる感覚の後、目を覚ますと驚いた母の顔があった。
目黒美菜の今回の人生では、何回もの生まれ変わりを経験したベテランたちが周囲に配置されていた。両親や姉たちだ。
だから美菜が色々やらかしても被害が最小限ですむよう対処できている。つまり、美菜の罪も最小限に抑えられていたのだ。
異世界でも大きな事をやらかす時には、柊たちがいたため未然に防がれていた。
そしてこれからだが、今回誕生した甥っ子が大活躍するのだ。
美菜は、自分に似た顔立ちで賢い甥っ子を溺愛するようになる。理想とする自分が目の前にいるのだ。かわいがらないわけがない。(これが女の子だったら、自分にないものを持つから憎らしくていじめていただろう。)
このカワイイ甥っ子が、どこからか聞いてきた「悪いことをすると虫に生まれ変わる」という話から、美菜が悪いことをしようとすると「ボク、みなちゃんがムシになるのヤダよぉ~」と泣いて止めるのだ。
このカワイイ甥っ子が、美菜の一番の教育係(矯正係)となることはまだ誰も知らない・・・。
小野さんと目黒美菜が消えた後、僕たちはミーナを連れてブランシュが待ってる部屋へ行った。
そしてそのままブランシュにミーナと一緒に帰ってもらったんだ。
その時にブランシュには、以前のミーナに戻っていることと本人が少し混乱しているかもしれないことを伝えたんだ。詳しいことは後でマーカスさんかテッドが話してくれるよってね。
僕たち?僕たちには、王宮でまだすることがあったんだよ。
この後のことについての話し合いさ。
場所は前来たことがある王宮の奥、王族のプライベートエリアにある応接間みたいところだよ。
僕たちは王たちが来るまでの間、少し休憩させてもらったよ。
桃香は「糖分が足りないよぉ」って、お菓子をバクバク食べてた(水分も取らないとノドにつまらせるよ)。
しばらくして全員が揃った。
国王夫妻と王太子夫妻、宰相夫妻とテッドに僕たちだね。
そこで初めて王たちに、ミーナの中に別人の意識が入り込んでいたことを話したんだ。
皆ビックリしてたね。こっちでは似たようなことないのかな?
ま、それは今は横に置いといて、どうするかだな。
んっ?桃香が何か言うのかな。
「えっとね、ミーナの中に入っていた別人の意識はもう抜けてしまったから、ミーナは以前のミーナに戻ってる。彼女には、その間の記憶はあんまりないと思うな。
で、説明なんだけど、聖女の力を利用したいと考えるヤツらから薬を盛られて操られていたってことにしたらどうかな?
それに気付いた大聖女候補モカが治して帰ったからもう大丈夫って。
後は上手く誤魔化してよ。
別人の意識が入ってたって説明するのも難しいし、変に不安を煽ることになったら後が大変でしょ?」
「うーん ・・・ そうだなあ。他にいい案がなければそれでいくしかないか。 なあ?」
オヴニル王が王妃やマーカスさんたちに聞く。
結局、桃香の案が採用されて、貴族たちには王から、学院の生徒たちには第3王子から説明することになった。
その前に、ミーナにはブランシュから説明してもらう。だから今日明日中にはマーカスさんかテッドからブランシュに説明することになった。
これで話し合いは終わりだよねって思ってたら、桃香が続けたんだ。
「じゃ、ミーナが変だった件は終了したね。
も1つ、お願いしたいことがあるんだ。
それはね、ミーナの後ろ盾についてなんだけどさ。
ミーナはこれからしばらく大変になる。これまでのことで評判が大分悪くなってるからね。
別人がやったことだとしても、人が見たらミーナがやったとしか思えないからね。
王や王子が操られていたためだったと説明しても、話はすぐに行き渡らないだろうし、信じない人もいるかもしれないからね。
だから、聖女を守るということからも王家に後ろ盾になってほしいんだけど。
どうかな?」
「うーむ ・・・ それについてはすぐには決められんな。少し時間をくれんか?」
「うん。いいよ。じゃあ、今日の話し合いは終わりかな?」
そこまでで解散となった。
まさか桃香がミーナの後ろ盾まで持ち出すとは思ってなかったから、僕はビックリした。
でも、これで今日の話し合いは終了だ。
さっさと帰ろう。もうゆっくり休みたいよーー。
「そういえば桃香、ミーナの中にいるのが目黒美菜だってどうしてわかったの?」
今、僕たちはテッドの邸(シルヴェスト公爵家王都邸)の僕が滞在している部屋にいる。
桃香の部屋は隣だが、続き部屋になっているから廊下に出ることなくドアを開ければすぐに行き来できる。
桃香はポシェットからプリンを出して食べている。
プリンはこっちの世界にもあるのだが、「『峠の茶屋』のプリンがどうしても食べたいのっ」だそうだ。僕たちももらって食べてるけどね。
「んーー?(ゴックン) あー、それねー。
舞ちゃんから話を聞いて、父様たちにも調べてもらってたんだよねぇ。
そしたらさ意識不明になっている人が舞ちゃんを見ている可能性が高いんだけど、彼女から話が聞けなくて捜査が止まっているってことがわかって興味持ったんだよね。
で、桐葉にこっそり見に行ってもらったんだけど、魂が完全に抜けてはないけど体の中にいないって。
オカシイでしょ?意識が戻らないはずだよねえ。
それにこのままだとマズいから、お地蔵さんに協力してもらって、ヤバイのや他のが中に入らないようにしてもらってるよ。
じゃあ、彼女の魂はどこに?って探してたんだよねえ。その関係で彼女の性格や癖なんかも調べたんだよ。
そしてこっちに来て、ミーナを見てたらね、な~んかアレレ?これって?て思うようになって兄様にもこっちで調べてもらったでしょ?」
「あー、あれってここに繋がるんだね。」
「そーゆーことっ。
ミーナには爪を噛む癖はなかったけど、美菜にはあった。それと、ミーナは自分のこと『わたし』って言うんだけど、美菜は『アタシ』だったんだよね。
私が見てたらミーナ、時々『アタシ』って言ってたんだよねぇ。だから、んー?コレはもしやって思ったんだよ。
まさか背後にあーんな話まであるとは思わなかったけどさ。」
「うん。まあ、それは確かに・・・。」
翌日、僕たちはまた王宮に向かった。
今度もまた王族のプライベートエリアだ。
でも、今回は前回より人数は少ないな。オヴニル王とマーカスさん、テッドと僕たちだけだ。
この前の桃香が最後に言った件かな?
「うむ、この前モモカが言ってくれた、聖女の後ろ盾について結論が出たから話しとこうと思ってな。
結果から先に言うと、ミーナの後ろ盾としてロジェを付けることにした。ミーナをロジェの婚約者とする。
この発表は、ミーナについての説明とともに聖女の保護の必要性を説く場で一緒に行う予定にしている。
そして、エウラリア嬢とロジェとの婚約解消とエウラリア嬢とシルヴェスト公爵の婚約も一緒に発表する。
これで、モモカの心配する聖女ミーナとエウラリア嬢の件は解決でいいかな?」
「うんっ。それでいいんじゃない。」
王の言葉に笑顔で桃香は答えた。
「それとねお願いがあるんだけど ・・・ 。」
桃香は僕たちが明日には元の世界に戻るつもりでいることを伝えたんだ。
「ああ、わかった。今回も助けられたな。ありがとう。」
王と一緒にマーカスさんとテッドも僕たちに頭を下げる。
「うん。別にいいよ。困ったときはお互い様だからね。」
桃香の言葉に僕たちもうんうんと頷く。
その後、王妃や王子たちとも別れの挨拶を交わした。
そして、帰りの馬車の中。
桃香がテッドに「よかったね」ってニーッコリ笑って言ってた。テッドは「はっ?モモカ、まさか知って・・・」ってうろたえていたけど、どうしたのかな?「ふぅ、上手くいってホッとしたよ。」って桃香がボソッと小声で呟いてたんだけど何のことだろう?




