23 柊の異世界武者修行
夏休みに入ってすぐ、僕は異世界に武者修行に行くことにしたんだ。
夏休みを使って、もっと自分の技を磨いて強くなろうと思ってね。
でも、桃香に止められたんだよ。
「ねぇ、桃香。異世界に修行に行ってこようと思うんだけど、協力してくれないかなあ。」
「いいけど、明後日まで待ってねー。明日の晩、手伝ってほしいことがあるから~。」
「桃香の手伝い? いいよ。 喜んで協力するよっ。」
「で、兄様、いつまで行ってるの?」
「ん? 夏休み一杯の予定だけど・・・。」
「へーー? 文化祭の準備や練習は? しなくていいの? 夏休みの宿題は?」
「ああ、文化祭ね。今年、僕のクラスは和太鼓パフォーマンスをするんだけど、そっちは勇介に任せてるから大丈夫だよ。
児童会の方は、やれるところまでは準備終わらせてるよ。
夏休みの宿題は、夏休み前にほぼ終わらせてたから今日中には終わるよ。
だから、残りは異世界での鍛錬に集中できるよ。」
「そっかーー。 いいねぇ~。 桃香も早く終わらせようっと。」
さて、翌日の晩は空が雲に覆われて、月も星も見えなかった。
湿気を含んだ風が吹き、いかにも出そうな夜だった。
夕ご飯の時に桃香から「兄様、夜中に樹海に行くからね。眠くなりそうだったら仮眠取っといて~。ちゃんと起こすから~。」って言われた。
桃香はお昼寝したから大丈夫らしい。
時間まで夏休みの宿題をするらしいよ。
蓮は何をするか知ってるみたいなんだけど、聞いても「行ったらわかるよ。」としか言わない。
僕は時間まで寝ることにしたんだ。
「兄様、起きて。 行くよ。」
何か揺れるなあと思ったら、声が聞こえてきた。
ベッドを揺らしたのか?誰が?どうやって?
横を見たら、桃香と人の姿になっている桐葉と蓮が立っていた。
居間を通って勝手口から出るみたいだね。
居間には明かりが点いていて、父様と北斗さん、お菊さんと紅葉もいる。
どうやら4人も一緒に来るみたいだね。
父様が「揃ったかな?じゃあ行こうか。」と、勝手口から出て行く。
僕たちも後に続いた。
1番前に灯りをともしたお菊さん。続いて桃香と桐葉、僕と蓮、最後に父様と北斗さんと灯りをともした紅葉の順だ。
うわぁ、お菊さんと紅葉は掌の上に火がある。これがホントの狐火か?(イヤイヤ、いらんことを考えていたら怒られるよ。)
うーーん?今晩は神楽山の右側にある樹海に行くようだね。うん、あっちは鬼門になるね。
樹海に着く手前で1度止まった。
何かな?と思ったら父様から僕に説明があった。
「柊、今晩は何かイヤな感じの夜だと思わないかい。
月も星も出ていないし、湿気を帯びた風は吹いているし。
実にイヤな感じだねえ。
こんな夜には多くのよくないモノが樹海には出てくるんだよ。
樹海のどこかで穴が開き出てくるんだけど、当然樹海から外に出すわけにはいかない。
だから、桃香と桐葉が出さないように浄化していくが、数が多い場合は漏れ出る事もあるのだよ。
そうなったら柊が『朱理』で斬っておくれよ。
父様と北斗は念のために付いてきただけだからね。
できるだけ桃香と柊たちでガンバってね。
ああ、上空には玄殿もおられるよ。
じゃあ、行くけど、樹海の手前で灯りは消えるからね。
それと、ビックリしても声は出さないようにね。」
うーーん、これは・・・って思ってたら(「柊、異世界に行く前に一仕事だ。これも修行の一つだよ。『朱理』は異世界の魔獣だけでなく、こっちの世界の悪念を纏ったモノも斬れるからねー。」)蓮から念話が来た。
じゃあ、桃香のサポートがんばりますか。
右側の樹海が一望できる場所でしばらく待っていると、奥から青白い一行(?)がこちらに向かってやって来ている。
一体何だ?って思ってじーっっと見てみた。
こちらに近付いてくるにつれて何なのかがわかってきたが、最初、えっ?て思っちゃったよ。
あれって本で見たことがある「百鬼夜行」?
(「ねえ、蓮。あれって百鬼夜行?」「うん?ああ、昔はそんな呼び方があったね~。多分、そうだよ。」)
(「しっかし、前回は20年前だったけど、今回も多そうだねえ。」)
蓮によると、数十年に1回こんなことが起こるらしい。
昔は、町中でも見られたらしいが、今は瘴気が出てくる場所や変な通り道は大体この山の樹海に移してここで定期的に浄化しているらしい。
確かに、桃香も桐葉と一緒に、毎日樹海に行ってやってるね。
それでも数十年に1度は、こんな「百鬼夜行」のようなことが起こるらしいよ。
樹海は山を挟んで左右にあるんだけど(背後は海、前面には雷和神社だね)、どちら側で起きるかは年によって違うんだって。
ここ数年、そろそろ起こるはずだと注意して見てたんだって。
そしたら、どうも今年は右側が多くなっていて、ここ最近特に増えているように感じていたらしい。
大体、起こる時期としては春から夏が多いみたいだよ。
山の神様や玄殿から「そろそろだぞ。」と言われて、起こりそうな日を予測して、今晩見に来たら起こったと・・・。
で、何でこっちに来るかな~って見てたら、こっちにしか来れないんだった。
海側は玄殿が出られないように守り、山側は神様がいる所だから行けない(いつの間に!こっちにはお菊さんと紅葉がいるね)。右側の温泉街の方には桐葉の仲間たちが行かせまいと待機している。
じゃあ、こっちに来るしかないよね~(えっ?アレ、大体前について行くから全体の流れに沿って行くの?ホントに?へーそうなんだー)。
ああ、桃香がでっかい狼になった桐葉の背に乗り、上空から浄化していくつもりだね。
甚平姿の桃香もかわいいなぁ。赤い金魚柄も似合ってるよー。
僕も桃香も父様も甚平を着ているけれど、僕と桃香は運動靴で父様は草履だ。
僕たちはまだ父様ほど戦えないし、動いているときに草履がすっぽ抜けたらイヤだしね。
(「おいおい柊、そろそろ集中してくれよ。アイツらを樹海から外に出したらマズいぞ。桃香の浄化で消えなかったヤツがいたら外に出る前に斬れよ。」)
おっと、蓮から注意されちゃったよ。
僕と蓮は、樹海のこちら側の端(町側だね)に向かって移動した。
何かアイツらが浄化されずに外に出てしまうと、海では海難が増えたり海産物が減ったりするし、陸では病気が流行したり災害が増えたり不作になったりするらしい。
確かに、それはマズいね。
では、集中してやりますか。
上空から「いっくよーー。」と桃香の声が聞こえた後、白い光が辺り一帯を照らした。浄化の光だ。
(「あれ?蓮、声出してもいいの?」「始める前にここら辺は周りから見えないようになってるよ。外側からは霧で真っ白になって何も見えないか、いつもの樹海の風景にしか見えてないはずだよ。ああ、声も聞こえないはずだ。まあ、この時間に樹海に来る人間はほぼいないと思うけどね。」)
多分、「珊瑚」を使ったんだろう。
桃香が動いたのと同時に樹海にいた狼たちも動き出した。残ったヤツで温泉街の方へ逃げようとしたのを狩っていくんだろうな。
桃香は何回か「珊瑚」を振っている。
次から次へと出てくるモノがいるからだろう。
全体に光を浴びせた後は、出てくる所を見つけてそこを狙っているんだろう。
上空を見ると雲の向こうに龍の影が見える。玄殿かな?海側に出てこないよう見張ってるんだな。
ああ、崖から海に出る瞬間に消えてるねぇ。
あっ、山側も同じだ!
何か張られているみたいだねぇ。
「柊、こっちに来てるよっ。」
おおっと、マズいマズい。観察している場合じゃなかったね。
ガンバって桃香にカッコいいとこ見せなきゃね。
「うん。蓮、僕たちも行くよっ。」
僕も蓮とこちらから町に出て行くモノがないように、得物を手に(僕は「朱理」だね)走り出した。
残ったモノがないかの確認まで終えたときには、もう夜明けが近かったよ。
ホントに「朱理」で斬ったら消えた。
こっちの世界で使ったの初めてだったからビックリしたよ。
「あ~~っ、疲れたよーー。」と、上空からの確認を終えて桃香と桐葉が戻ってきた。
「桃香、お疲れ。やっと終わったね~。」
「2人とも、よくがんばったな。」
父様に褒められたよ。
父様と北斗さんの出番はなかったからね。
まあ、父様たちには全体の動向を見て指示を出すという大事な仕事があったけどね。
とにかく、無事に終わってよかったよ。
桃香は立ったまま寝そうだったから、途中からは父様が抱いて帰った。
帰りは神社の境内を通って帰ったら、お祖父様とお祖母様が待っていた。
もし漏れ出たモノがあれば、お祖母様が浄化するかお祖父様が斬るかし、神楽山からは絶対に出さないようにするのだそうだ。
そのために待機していたんだって。
お祖父様たちも僕たちと一緒に帰って、皆すぐに休んだよ。
長い一日だったね~。もうほぼ朝だよ。
僕は昼まで起きなかったよ。爆睡だった。
翌朝、いやもう昼だね~。
僕は隣にいた蓮に、昨夜から気になっていたことを聞いたんだ。
「ねぇ蓮。蓮は神社の境内で生まれたんだろ?
なのに、夜の活動とか瘴気が多い所とか大丈夫なの?キツくないの?」
「うん? あ~それね。
ここの神社ってさ、もともと悪い念を祓ったり樹海を浄化している所じゃん。
だから、多分だけど他の神社よりそういうもんに対する耐性があるんだと思う。
桐葉の仲間なんて夜も活動するしね。」
「あー、確かに~。」
「でもさ、前回のはちょっとキツかったかな。まだ慣れてなかったってこともあるけどね~。
前回はさ、導き手になるための修行中だったんだけど、今後のために1度経験しておけって菊様に連れていかれたんだよ。
で、その日の昼間に地蔵さんに呼ばれてさ、黒い帷子を渡されて『今晩はこれを身につけていけ。少しはマシになるじゃろ』って言われたんだよ。
その晩、人の姿になってシャツの上にベストのように着ていったよ。
そしたら、念とか瘴気とか強力なのにいつもよりマシだったな。
前に樹海の中で瘴気が出てる所に近付いたことがあったんだけど、その時のキツさよりマシだった。
おかげで楽に動けたよ。
『終わったら消えるから返しに来んでもいいぞ』とも言われてたんだけど、ホントに終わったら消えたよ。
ま、翌日お礼は言いに行ったけどね。
今は自分の周りに防御膜を張れるようになったから大丈夫だよ。」
「へー、そうなんだね。」
食事を取った後、僕と蓮は桃香がいるって聞いた神社の本殿に向かった。
そろそろ異世界に行かないと、夏休みがあっという間に終わってしまうよ。
本殿の奥の方で、桃香はお祖母様から何かを教えてもらっていたようだ。
その場には、お菊さんと緑さん以外に桐葉と紅葉もいた。
何か今日は多いね。いつもは2人くらいしか付いてないよね?
僕は皆に挨拶した後、早速桃香に用件を伝えた。
「桃香ー、一昨日言ったと思うけど、異世界に修行に行きたいんだ。」
「わかってるよー。準備できてる~。 いつでも行けるよー。」
「へっ? もう行けるの?」
「行けるよ。 蓮から話も聞いてるし。
月兎にも話したから、ちゃんと目的地に着けるよー。」
「えっ? じゃあ、もう出発してもいい?」
「いいよ~ん。」
周りを見ると皆うんうんって笑顔で頷いてるよ。
じゃあ行くかな。念のために荷物も持ってきといてよかったよ。
蓮の方を見ると、「じゃあ行くか。」って部屋の中に異世界への入り口を開いて大きな犬になった。
僕が蓮の背中に乗って、皆に「行ってきまーす。」と言うと蓮は入り口に飛び込んだ。
さあ、いよいよだ。
しばらくすると、先の方に小さな光が見えてきた。
蓮がスピードを上げたから、その光がグングン近付いてくる。
あー、また兎の形かー。
うん。わかってたよ。
そこから出たら異世界だ。
さてと、僕の色はどうなってるかなー。
「ねぇ蓮、どうなってる?」
「柊の予想は合ってたな。 髪はプラチナ、瞳は水色だな。」
「ふーん。やっぱりかー。」
今回僕たちは、イーストウッド国との国境に近いノースランド国の森の中に降りたんだ。
この世界に来るのは4年ぶりかな?
これまでも何回か異世界での訓練はやったが、ここには最初に来た時以来だ。
でも、いつか行って検証したいと思っていたことがあったんだ。
それは降りた場所によって、僕の色が変わるかどうかってこと。
前回はウェストデザート国に降りて、髪は金褐色、瞳は深緑だった。
曾お祖母様の叔父である隼人さんが、僕と同じ金環持ちだったって聞いてから考えていたことだ。
彼はこの世界で、最初ノースランド国に着いた。
そして、髪の色は銀で瞳の色は水色になった。
じゃあ、次に僕がノースランド国に降りたら色はどうなるんだろう?前回と同じか?それとも降りた場所によって変わるのか?(桃香は聖女の色だから、この世界のどこでも前回と同じはずだよ。)
それを確認したかったんだよ。
うん。結果は出たみたいだね。納得したよ。
さてと、それでは武者修行といきますかー。
その日から僕と蓮は、魔法の練習をしたり魔獣を狩ったりしたんだ。
ああ、そうだった。
髪と瞳の色によって魔法も少し変わったかな。
もう一つの検証だね。
僕は基本的には全属性使えるみたいなんだけど、前回は魔法(正確には神力らしいけどさ)を使ったのが初めてということもあって、1番使いやすい「火」を中心に使ってたんだよね。
で、その次によく使ったのは「土」だった。
今回は「水(氷もだね)」「風」が使いやすいんだよ。
僕の剣「朱理」に魔法の属性を纏わせて攻撃に使うことがあるんだけど、他のより威力が出るね~。
ああ、もともと剣と「火」の相性がいいから、剣を使うときには「火」も同じくらいの威力があるよ。
ノースランド国にはダンジョンもあったから、そこにもチャレンジしたよ。
勿論、行く前にどんなのが出てくるか調べて行ったから、力技でいけそうなのは魔法を使わずに戦って、魔法が必要なヤツには何が効果的かを考えながら戦うことで、自分がどれだけやれるかのいい確認にもなったよ。
こちらのお金を手に入れることも出来たしね~。
冒険者ギルド?カード?
前回、ウェストデザート国で登録はしてたんだよね~。
だからカードは持ってるよ。
持ってると、この世界のどこの国でも使えるからって蓮に言われたからね。
蓮や桐葉は、異世界に訓練に行ったら大体S級かA級を取ってきてるらしいよ(ギルドがあればね)。
色々と特権があるらしいから内容を見て、どちらか取ってるみたいだねぇ。
ノースランド国で3日くらい過ごして、昨夜、イーストウッド国に入った。
ここは、ノルト辺境伯領らしい。
樹海があるから、また明日は魔獣を狩るかな。
2日ほど樹海で過ごしてるんだけど、昨日あたりからなーんか視線を感じるんだよねー。
何だ?派手に狩りすぎたか?
「ねぇ蓮、何か視線感じるんだけど・・・」
「うん。昨日から見られてるね。悪い視線じゃないけど、うっとうしーねー。
そろそろ来るんじゃない。」
「来るって何がー?」
「すぐにわかるよー。」
蓮と話していたら、急に目の前に人が現れたよ。
「もしかしてレンなのか?」
僕は二重にビックリしてた。
急に人が目の前に現れるし、「レン」って名前を言うし。
ああ、蓮は前回来たときとほぼ同じ姿だったね。
いや?少し成長させてるかな?
まあ前回の姿を見ていたら、同じ人とわかるかもね。
ええと、誰だ?
僕は相手の男をジーッと見た。
うん、見覚えあるよ。
「もしかしてテッド? 何でここに?」
「えっ?じゃあ、君はシュウなのかい?」
「そうだよ。 久しぶりだね。 よくレンってわかったね。」
「そりゃあ、こんな綺麗な顔の子はそうそういないからね。
それにシュウもだよ。
髪の色が違うから最初は別人かと思ったが、2人は目立ってたんだよ。
まだ、町に入ってないからそこまではないが、ここら辺を巡回している者たちの中では、樹海に綺麗な顔の少年が2人いるって噂になってる。
俺は昨日見て、1人がレンに似ているなと思って様子を見ていたんだよ。
魔獣を狩る様子も見て、これは1度声をかけてみるかと思ってな。」
まさかここでテッドに再会するとは思わなかったよ。 ノルト辺境伯に妹のブランシュが嫁いでいるんだってさ。
今晩は辺境伯邸に泊まるようにって誘われたよ。
蓮と相談して行くことにした。
ブランシュにも前回お世話になったしね。
懐かしいねえ、と思ってたら変な話に巻き込まれていくことになったんだよ・・・。




