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異世界の管理人  作者: 東風
第2章
21/34

21 別れ

 曾お祖父様が亡くなったのは、僕が7歳の時だった。

 桃香は3歳だったから、多分あまり覚えていないだろうな。

 僕が5歳になる年になって間もなく、お祖父様は僕を冒険者にするための修行を始めた。

 修行の初日、お祖父様に「修行の時は、師匠と呼べ。」と言われた。

 それから、僕の稽古はお祖父様がつけてくれていた。

 けれども、稽古が次の段階に行く前の最終確認は曾お祖父様だった。

(そういえば、僕の稽古の時には、家族外の入門者は道場にはいなかったな。冒険者になるための修行内容は部外秘だからだろう。)


 確認テストの時にはいつもお祖父様だけでなく、曾お祖父様と琥珀さんも立ち会っていた。

 曾お祖父様はテストの後、毎回僕に聞くんだ。


 「柊くん、どうだった?」


 僕が満足そうに「できました。」って答えると、大体合格だった。

 多少でも迷いがあって「できたと思います。」と答えたときは、「本当に?もう一回やってみようか。」ってなる。

 僕が自信があるときでも「もう一回やって見せてくれない?」って言われる時がある。

 最初の頃は、「えっ?何で?できたのに。」って不満に思ったこともあった。

 でも、何回かあるうちに「あー、何か見落としてんだ。」って気付いた。

 だから、もう一回基礎から見直すようにした。

 何回かやり直しているうちに自分で気付くこともあるし、指摘されないとわからないこともあった。

 「このくらい」って思うこともあったけど、少しのミスが命取りになる。

 そのことがわかったのは、曾お祖父様が亡くなった後になってだった。

 厳しいテスト判定の背後には、僕が死なないようにとの愛情があったんだ。


 僕にとって曾お祖父様は、静かで穏やかで優しく、そして厳しい人だった。

 そんな曾お祖父様の傍には常に琥珀さんがいた。本当に影のように付き従っていたのだ。

 そして、曾お祖父様が亡くなった後は、稽古の最終確認は琥珀さんが行うようになったんだ。

 でも、琥珀さんが曾お祖父様の導き手だったと知ったのは、初めての異世界から戻った後のことだった。

 そしてそれまでの僕は、意外と周りのことが見えてなかったんだってことにも気付かされた。


 7歳になるちょっと前ぐらいから、僕の稽古にお祖父様以外の人が参加するようになった。1人のときもあれば2人のときもあった。

 1人は、いつも天狗のお面を(かぶ)っていた。

 お祖父様は、その人のことを太郎殿と呼んでいたが、僕は本人からの希望で「太郎さん」と呼んでいた。

 素顔を隠していたから、よっぽどの恥ずかしがり屋か有名な人なんだと思っていた。

 もう1人は、お祖父様が玄殿と呼ぶ、長い黒髪の人だ。僕は「玄先生」と呼んでいた。

 長身のすらりとした人で長い黒髪は後ろで1つに結んでいる。年は20代後半~30代に見えるけど、非常に落ち着いている感じがする。男の人なんだけど、綺麗な顔の人だ。

 2人ともめちゃくちゃ強いし、動きが美しいんだ。

 2人で打ち合うときなんか、ついつい見惚(みほ)れてしまうくらいだよ。

 その2人が、時々僕に稽古を付けてくれるようになったんだ。

 普段は2人とも優しいんだけど、稽古はすっっっごく厳しかったよ。

 お祖父様も厳しいけど、比較にならない。

 ご飯が食べれなくなることなんて、しょっちゅうだった(お祖父様はまだ食べられた)。

 まあ、1食はちゃんと食べてたし、後は流動食でなんとかなった。ホントきつかったよ。

 桃香の前ではカッコいい「にーに」でいたかったから頑張ったよ。


 異世界から戻ってしばらく経った頃のことだった。

 稽古が終わった後、自分の部屋でバテていたときだった。

 突然、蓮が「ネタばらし~」って言い出した。

 異世界から戻ってからは、蓮は家の中では人の姿になったりポメラニアンのままでも話したりするようになったんだ。偶には道場でも人の姿になって、僕の稽古相手をするようにもなっていた。


 「はっ? 急に何、ビックリしたよ、蓮。」

 「うーん。そろそろ柊にも教えとかないとと思ってねー。」

 「一体何のこと?」

 「太郎さんと玄先生のことだよ。

  柊はさー、まだ太郎さんと玄先生のこと、普通の人間だと思ってるだろ?」

 「へっ? 違うの?」 

 「あの2人の前で、俺と稽古したこともあったよね?

  家族でもないのに、俺が人の姿でいたのオカシイとは思わなかったの?」

 「あれっ? 言われてみれば確かに・・・。」

 「はぁ~、柊らしいとも思うけど、ちょっと鈍いよ。

  もうちょっと警戒心を持とうよ。自分のテリトリーだからって安心しすぎ。

  違和感を持ったら、もっと注意して周囲を観察するようにね。

  もしかして違和感もなかったの?マズいよ。それ。」


 蓮に指摘され項垂(うなだ)れ、大いに反省する柊である。


 「まあ、いいよ。それはこれから鍛えていくよ。

  あのねぇ、太郎さんは天狗のお面を付けているんじゃなくて、本物の天狗なの。桃香は太郎坊さん(たろぼうしゃん)って言ってたな。昔からの呼び方を変えたくないんだってさ。

  柊の目にはお面を付けているように見せていたんだろうけどね。

  それと、玄先生は火山を住処としている黒龍だよ。桃香は玄爺って言ってるみたいだけどね。

  見かけは若く見えるけど、かなり長く生きてるみたいだしね。なにせ龍だから。」

 「え? ええーーーっ!

  人じゃないの? まっったく気付かなかったよー。

  これからどんな顔して付き合えばいいのー?」

 「そこかよ。別に普通にしてりゃいいんじゃないの。

  どうせ柊の対応でバレたってわかるよ。」

 「そ、そう? 普通にしてていいの?」

 「いいんだよ。変えられても困るだろ?」

 「そうかも。 じゃあ、そうする。」

 「ああ、そうしなよ。」


 その後、蓮から聞かされたのは、僕の目は金環を持っているから普通の冒険者より多くのものが見えるということだった。

 だから本来なら、人か人以外のものかも見てすぐわかるらしい。

 でも見えすぎるのは、慣れないと集中力の妨げになるだろうと、お菊さんや琥珀さんが見えにくくしていたらしい。

 けれども、予定より早く異世界に行ったこともあって、ある程度は見えるようにしていた方がいいだろうということになった。

 で、稽古の時以外は解除するということだから、ONとOFFの切り替えができるように訓練していこうね、だってさ。

 桃香は僕よりもっと多くのものが見えるらしい。

 蓮は、自分たちの目に近いんじゃないかって言ってた。

 だから、お菊さんや緑から早くから指導され、3歳の頃にはすでにONとOFFの切り替えができるようになってたらしいよ(流石、僕の桃香だ。スゴいだろぅぅ)。


 さて、僕は10歳の誕生日に、これに合格すれば「免許皆伝」だという試験を受けた。

 試験の相手は父様と北斗さん、判定はお祖父様と琥珀さんが行った。

 結果は「合格」。嬉しかった。

 これでいよいよ異世界での訓練に入れる。

 まあ、修行はまだ終わりではないけどね。

 道場で学ぶ分だけが終わったってことだ。

 今後も稽古は続けなければならない(技は常に磨いておかないとダメだからね)。

 知識面では、まだ学ぶことがあるからね。


 僕が「免許皆伝ですよ。」と琥珀さんに言われた数日後のことだ。

 朝、お菊さんに「琥珀は(やしき)を離れることになりました。昨夜、出発しました。」って言われたんだ。

 僕は「えっ?」って頭の中が真っ白になった。

 僕にとっては、あまりにも突然のことだったんだ。

 でも、お祖父様や父様たちは多分知っていたんだろうな。遠くから僕の様子を見ていただけで驚いてなかったもんな。


 琥珀さんについてハッキリ覚えていることが2つある。

 1つは、「免許皆伝」と言われた日のことだ。

 結果を伝えた後、琥珀さんから「柊くん、よくがんばりましたね。でも、これからも技は常に磨いていってくださいね。それに、柊くんの動きは曾お祖父様によく似ていますから見ていて懐かしかったですよ。」って言われたんだ。

 その時の笑顔が本当に嬉しそうで、僕も嬉しかったんだよ。

 もう1つは、曾お祖父様が亡くなった日のことだ。

 曾お祖父様の傍に誰も付いていないんじゃないかと思った僕は、曾お祖父様の部屋へ行ったんだ。

 部屋に入ろうとしたら話し声がしたから、そっと中を(のぞ)いたんだ。

 そしたら琥珀さんが曾お祖父様に話しかけていたんだ。

 「トラ、今回の人生はどうだったかい?娘たちだけでなく、孫や曾孫(ひまご)まで見られたんだ。幸せだったろう?幸せなトラを見られて私も幸せだったよ。」って。

 僕は、そっと部屋から離れたよ。


 琥珀さんは、曾お祖父様の代わりに僕が「免許皆伝」になるまで見守っていてくれたんだろうな。

 心配かけないようにガンバルよ。

 ・・・ だから、もう行っていいよ。




 (「ああ、もうっ、うるさい。ねれないでしょ。」)

 そう思いながらも「オギャーオギャー」と泣きわめくことしかできなかった。

 赤ちゃんだった「私」には、まだ周りのことなんかわからなかった。

 いろんな音がするし、いろんなものがいる感じがする。

 でも、何なのかわからない。

 ただただウルサいのだ。耐えられないくらいに・・・。


 「あら、この子、眠れないみたいだわ。かわいそうに。周りをうるさく感じてるみたいね。」

 「ホントですね。

  今いるのは払いますが、またすぐ来ますね。周囲を防御しておきましょう。」

 「そうね。それがいいわね。 お菊、お願いね。」

 「はい。」

 「ああ、やっと眠れたみたいね。よかったわぁ。」



 どうも私は生まれつき、人よりいろんなものが見えたり聞こえたりしていたらしい。

 でも赤ん坊だった私には、当然ながら自分の不満や不快感(耳の傍で何かが騒いでいたり、目の前に何か怖いものがいたりしたらイヤでしょっ)を誰かに伝えることはできず、ただ泣くことだけしかできなかった。

 まあ普通だったら、しばらく我慢するしかないんだろうけど、幸いなことに私には曾お祖母様やお菊さんたちがいた(モチロン桐葉もね)。

 お陰で幼い頃より、日常生活で困らないように手助けしてもらえた。

 もしこのサポートがなかったら、普通に成長できていたかわからないよ。

 だって、他の人に見えないものが見えるとか、他の人に聞こえない声が聞こえるとか言ったって、普通は信じてもらえないでしょ。

 例えばさ、そんなことを何回も言って何回も否定されて、気味が悪いと思われたり嘘つきって言われたりしたら誰とも話したくなくなるよね。

 たとえ見えたり聞こえたりしなくても、1人でも理解しようとしてくれる人がいたら心強いでしょ。

 だから、家族が皆わかってくれる環境に生まれた私は幸運だったんだよ。

 生まれたときから守ってもらえて、幼い頃から必要なことは教えてもらえたもん。

 ありがたいよね。ホントそう思う。

 えっ?神社なのにって?

 うーん。神社は神域だけど、隣接している我が家は神域じゃないよ。

 それに神域でも、太陽が出ていない曇りの日や夜になると力が弱まるしね。

 ただ、弱まっていても玄爺や桐葉たちがいるから樹海に集まるような悪いのは祓えるけどね。

 我が家には、神代家の家族とその導き手が住んでいる。

 だから、基本よくないモノは入ってこないんだけど、人に悪さをしないモノや力が弱いモノは放っておくんだよね。自分で周囲をガードして雑音なんかは聞こえないようにもできるしね。

 でも、赤ん坊で自分ではまだ何もできない者にとってはたまらないよねー。

 気付いてもらえて対処してもらえるって助かるー。

 ホントよかったよー。

 ああ、雷和神社の奥で行う祭事も神代家の導き手を持つ者が中心となって行うんだよ(それと一部の神代家の代々の役割を知る者ね。お祖父様のような)。


 私が物心ついた頃には、(すで)に巫女になるための学習が遊びの形で取り入れられていた。

 これも私を守るためだったんだと思う。

 私が目に金粉を持って生まれてきたから、トラブルに巻き込まれたり狙われたりする危険が増えるかもと心配だったようだ。

 だから小さい頃から、曾お祖母様とお菊さんがいろんなことを教えてくれていた。

 お祖母様と緑姉(みどりねえ)(そう呼べって言われたんだよ)が教えてくれることもあるけど、こっちは普段忙しいからね(現役の巫女で保育園の園長、他にも仕事をしてるよ)。

 私は5歳から本格的に巫女の修行を始めたけど、先生は曾お祖母様とお菊さんが中心だったよ。お祖母様や緑ねえが入ることもあった。

 それに、桐葉や蓮、神楽山にいる天狗の「太郎坊さん(たろぼうしゃん)」や火山からやって来る黒龍の「玄じい」が協力してくれることもある。

 学びの環境としては、非っ常に恵まれてるよね。

 どんなことをするのかって?

 うーーん。あんまり詳しくは言えないんだけど、巫女の役割(神代家に代々伝わってる方のね)と私の場合は体術もかな。素手や扇子を使った戦い方を学んでる。

 普通の巫女は異世界に行くことはないけど、私は行く可能性があるからね(実際に行ったし)。

 だから、桐葉や紅葉がいるけど1人になる場合もあるし、2人がいても突破してくることもあるから、自分の身は自分で守れるようになっといたがいいって。

 私もそう思うから頑張ってるよ。



 そうして7歳の誕生日に、私は試験を受けた。

 今まで学んできたことが身についているのかのテストだ。

 試験官は曾お祖母様とお菊さん、お祖母様と緑ねえの4人。試験内容は実技と口頭試問(こうとうしもん)だ。

 お休みの日だったから、午前と午後の2回に分けて各1時間。キッツかったよー。

 でも頑張った。

 結果は、モチロン「合格」。

 曾お祖母様から「これで一応は免許皆伝よ。」って言われた。

 一応?はて?って首をコテンって(かし)げてたら、「免許皆伝でも、これで終わりではないのですよ。」って言われた。「繰り返しやっておかないと忘れてしまいますよ。これからは、いよいよ実践です。表の仕事は15歳からですが、奥の仕事は少しずつやっていくことになりますからね。」って。

 確かになーって思ったよ。

 それに体術の方は、もっと強くなりたいしね。(桐葉からは程々(ほどほど)にしとけって言われるけどヤーダねーー。)


 最後に曾お祖母様に言われたんだ。

 「桃ちゃん、私があなたに教えられることは全て教えましたよ。しっかり実践して、また後の人に伝えてくださいね。

  大事なことについては全て教えていますが、補足分については、実際に一緒にやるときに梅子が教えますからね。

  ここまでよく身につけましたね。 免許皆伝、おめでとう。」


 夜は、誕生日と免許皆伝のお祝いをやってくれた。

 料理はデザートまで私の大好物ばかりだった。

 誕生日プレゼントも(もら)って幸せな気分で眠りについたのだった。


 その数日後だった。

 曾お祖母様が眠るように亡くなったのは。

 私の心の準備はできていなかった。

 ううん。何となくわかってたのかな・・・。

(「ひいばあば、ひいじいじが待ってるよね。今までありがとう。桃香、ガンバルからね。バイバイ。」) 

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