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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
13/16

13 桃香とリリー、キレイキレイするⅡ


 移動陣で王都に行く柊たち3人を見送った後(明日にはまた会えるというのに、柊が桃香を抱き上げて頬ずりしたまま離さないので、引き()がすのに大変だったのだ。桃香はまたスンっとした顔になるし・・・)、すぐに吾ら4人も移動陣を使ってトラスト辺境伯邸に移動した。


 「テッド、トラスト辺境伯の領地の様子はどうだ?

  樹海と湖、センターアルミスト山の辺りは、1度吾らが魔獣の討伐と瘴気の浄化もやっているから、他の領地よりもマシなはずだが?」


 「ああ、うちは他に比べたら大分マシな方だ。

  ありがとう。

  だから騎士団の一部を隣の領に派遣してるよ。」


 「そうか。

  じゃあ、早速だがサザンウィンド国との国境辺りから始めたい。

  負傷者もどこかに集めることができたか?

  あちこちに分かれていたら時間がかかりすぎる。」


 「ああ、大丈夫だ。

  そっちが打ち合わせをしているときに、連絡して指示している。

  もともと重傷者は集めて、速やかに対応できるようにしていたんだ。」


 「それならいい。始めよう。

  乗ってくれ。飛ぶぞ。」


 桐葉はシルバーウルフに変わると、桃香、紅葉、テッドの3人を背中に乗せ、空に飛び上がった。


 しばらく飛ぶと、国境付近に着いた。

 桃香が空中から黒い靄があるところに向けて、「キレイキレイになれー」とパタパタすると金色にピカーっと光り、黒いもやもやが消えていく。

 黒い靄がなくなると、桐葉は地上に下りた。

 桐葉は3人を背中から降ろすと、また人の姿に変わり桃香を抱き上げた。

 桃香は髪の毛が見えないように、しっかりフードを被っている。

 テッドが先に行き、人々にテントに入るよう指示する。

 騎士団の部下たちにも、勝手に行動する者がいないよう見張らせている。

 桐葉は自分たち3人が見えないように結界は張るつもりだ。用心するに越したことはない。

 テッドが戻ってきた。


 「テッド、負傷者はどこだ?」


 「うーん、と。・・・ああ、あのテントだ。」


 テッドが指さしたテントを桐葉が見ると、赤十字のマークが付けられている(これも転生者や転移者がいた名残(なごり)なのか?)。


 「一番手前が重傷者、奥の2つが軽傷者だ。かすり傷程度は入れてない。」


 「ああ、わかった。

  テッド、吾ら3人は見えないように結界を張る。

  モモカ、いいか?」 


 「あーいっ。いいでしゅよ。

  じゃあ、いきましゅよ。

  イタイのイタイのとんでけー。」


 今度は負傷者のテントの上に、金色の粒がキラキラと舞い降りる。


 「ありぇ~?」


 「どうした?」


 「うーん、と。へんでしゅね~。

  つぶつぶがイヤってはなれるひとがいましゅよ。」


 「へ? 何でだ?」


 「なおちたくないみたいでしゅね~。」


 「そ、それは・・・・・・?

  テッド、今回治らなかった者は、ちょっと調べてみた方がいいぞ。

  何か見つかるかもしれないぞ。」


 「あ、ああ。

  聖女の癒しの光りが近寄らないってことだからな。」


 「そういうことだろうな。」


 その後、テントの中がザワつきだした。

 テッドが様子を見に行った。

 しばらくしてテッドが笑顔で戻ってきた。


 「モモカ、ありがとう。」


 どうやら上手くいったようだ。

 では、人がいない場所へ移動してから、次の場所へ向かおう。

 数日前、初めてテッドと会った、あの湖の傍へと移動した。

 すると、上空に金の龍が現れた。

 こちらに来てるなと見ていると、急に目の前に人の姿となったインフィニトが現れた。


 「おぉ~、きんのイケメンでしゅよ~。」


 「おお、聖女。元気そうだな。」


 「ももかでしゅ。

  ちょっと、おちゅかれでしゅよ。」


 「そうか、そうか。」


 吾と紅葉は苦笑しながら2人が会話するのを見ていたが、テッドは驚いた顔をしていた。もしかしてインフィニトを見るのは初めてか?


 「これはインフィニト殿、何か連絡でも?」


 「ああ、そうだ。

  アルミスト様より、こちらから帰る前に1度会いに来てほしいとのことだ。」


 「承知したとお伝えください。」


 その後、桐葉にインフィニトから伝えられたこと。

 女神は無事に代替わりを終え、今では十分力を使えるようになっているそうだ。

 アルミスト大陸の瘴気については、ノースランド国はもともと自分たちである程度は浄化できていたが竜人族が戻ってきたことにより、今は何の問題も無いレベル。サザンウィンド国は竜人族のエンが王になり、浄化する力を持つエン自身が率先して浄化していること、浮島から浄化できる者が派遣されたことで大分改善されている。ウェストデザート国は一番浮島に近かった(ウェストデザート国の上空に浮島がある)ため、竜人族が各地に戻る際、浄化する力を持つ者がついでに浄化していったので、あっという間に改善された。残りはイーストウッド国だけだが、この国は浮島から一番遠くにある上に、もともと人を中心とした国だったので竜人族もほとんどいない。そのため、瘴気の影響を一番多く受けることになってしまった。

 だから、イーストウッド国の浄化が終われば、アルミスト大陸の浄化はほぼ終わったことになる。


 ということだ(これはがんばるしかないな)。


 「それじゃあ、またな。

  ああ、それと。

  イーストウッド国の近くにいる一族の者に、今日と明日、湖周辺と国境付近を飛ぶように伝えている。

  モモカの存在を知られたくないんだろ。

  上手(うま)誤魔化(ごまか)せよ。」


 伝え終えると、インフィニトは飛び去ってしまった。


 吾らも次の場所に急ぐことにした。

 先程テントを見て、テッドに赤十字のマークを上空からわかるようにできないか、と言ったところ、すぐに各地に連絡してくれた。

 伝書鳩を飛ばしていた。

 次の場所からは対応しているはずだ、と言っていた。

 素早いな。


 「おぉ~、ハトさんでしゅよ~。

  はやいでしゅね~。」

 と、桃香は飛んでいく鳩を見て喜んでいたな。


 さて、次の場所からは浄化も癒しも上空から行った。 騎士団が魔獣と戦っていた場所もあったが、急に魔獣が消えてビックリしていたな。

 テントの上空からの癒しで魔獣討伐の騎士団まで届くのか?と思ったが、桃香が「だいじょぶでしゅ!」と言ってたから多分大丈夫だろう。

 治らなかった者についての連絡もテッドから()っているはずだから、調査してそれぞれ対処するだろう。

 ついでに、先程インフィニトが言ってくれたように、今日の浄化と癒しについては竜人族がやってくれたんだろう、とでも(うわさ)を流してもらおう。

 テッドの所の騎士団に関係する者は、契約魔法を交わしているということだから大丈夫だろう。

 今日中にノースランド国との国境辺りまで行って確認し、明日の朝早く王都(国のほぼ中心部)に入れば、明日は柊たちと一緒に動けるな。

 さあ、次に急ぐぞ。



 一方、桃香から引き剥がされた柊たちが王都のシルヴェスト公爵邸の移動陣がある部屋に着くと、そこではマーカスが待っていた。

 王宮で緊急に王と話し合った後、関係各所への指示を急ぎ終わらせ、一旦公爵邸に戻ってきていたのだ。


 「来たな。

  では、一緒に神殿に向かおう。」


 マーカスと3人は、馬車で神殿に向かった。

 神殿は、シルヴェスト公爵家から王宮に向かう途中にあった。


 マーカスは、柊と蓮を大神官に紹介した後で、リリーの訓練の様子についても見るつもりでいた。彼女が明日実際に広範囲の浄化ができるのか、力のコントロールができるようになるのか、心配でもあったのだ。まあ、柊と蓮が傍にいるから大丈夫だとは思っているが・・・。

 また、神殿の者が必要以上に柊たちに近寄らないように牽制(けんせい)する意図もあった。

 場所を移動し、訓練に入るのを見ていると、どうも指導を担当する神官だけでなく、大神官も立ち会うようだ。

 明日は浄化を中心に行うことになっている。

 だから、訓練も浄化の割合が多い。癒しは使えるかどうか、確認程度だ。力の使いすぎで浄化が終わらなかったら大変なことになる(まぁ、桃香がいるから大丈夫だろうが)。優先順位の問題だ。何よりも浄化だ。

 桃香の存在を知るのは、シルヴェスト公爵家と王のみ。

 まさか今日中に国の半分(以上)の浄化が終わっているとは、誰も思いもしないだろう。

 リリーが、力をどう使えば、効率的に強く長く使えるかを試している。

 その奥の方で、先程まで柊と蓮が剣の練習をしていた。かなりの腕を持っているようだ。

 今度は、自分の周辺に防御魔法を展開したまま攻撃する練習を始めている。どれだけ魔力量があるんだ?使える属性についても興味があるな。おそらく大神官もそう思っているんだろう。凝視しているな。

 あの剣と魔法の腕前でリリーを守るのであれば、何の問題もないな。

 リリーも明日できそうだな。

 マーカスは実施の目途(めど)が付いたので1度王宮に戻り、明日の準備をすることにした。

 柊と蓮の所に行き、王宮からの帰りに神殿に迎えに来ることを告げ、一応神殿の者には気をつけておくよう伝えた。

 その後、大神官に挨拶をして王宮に向かった。



 翌朝は、夜が明けるとすぐにリリーたちは活動を開始した。

 上空には、姿が見えないように結界を張った桃香たちもスタンバイしている。

 今日はテッドは同行せず、王都で対処することがあるようだ(昨日の浄化や癒しが効かなかった者の調査とか・・・)。

 まずは、王都周辺の瘴気から浄化していく。

 王都に魔獣を入れないよう、王都を守る第1騎士団と第2(魔法に特化)騎士団の一部が昼夜を分かたず任務に当たっていた。 

 第3(魔獣討伐専門)騎士団と残りの第2騎士団は他の領地に派遣され、場所を変えながら日夜(にちや)戦っていた。

 どの騎士団も疲れ切っていたが、戦うことを止めず、なんとか持ち(こた)えていた。

 そこに、リリー(たち)が浄化の力を発揮した。

 どうやら桃香の目には、リリーの浄化の力が見えているようで、リリーの力が不足しているときのみ、浄化も手伝っている。大丈夫なときは癒しの力だけを()()いている。

 今日の桃香は、あくまでもサポート役なのだ。

 だから、姿も見せない!

 リリーたちは王都の浄化と癒し(モチロン桃香だけでった)が終わると、すぐに蓮の背中に乗って次の場所へ移動した。


 今日の蓮は、朝からずーっと巨大なもふもふだ。

 これは、昨晩、蓮自身が言い出したことだった。

 昨日、神殿からシルヴェスト公爵家に戻って、夕食を食べた後、マーカスの執務室で翌日の最終打ち合わせを行った。

 その最後に蓮が、明日はリリーとマーカスも自分の背中に乗せて飛ぶことになるから、1度そのときの姿を見せとくよと巨大な犬の姿に変わった。

 リリーは目を丸くしていた。

 マーカスは驚いてないな。こちらには魔獣もいるし獣人もいる。獣人の中には人の姿になれるのもいるからね。

 その後すぐ人の姿に戻って皆に言ったんだ。


 「明日は、ずっとさっきの姿でいるからね。

  あの姿と今の姿が同じものだと、わかられたくないからね。

  説明する時間も惜しいでしょ?」


 皆は了解した。



 あっという間に次の場所に移動すると、早速リリーたちは瘴気の浄化に取りかかろうとした。

 リリーたちは、マーカスが指示した瘴気溜りがある所数カ所を浄化するようになっていた。

 途中のそう酷くない場所や1度騎士団によって討伐された後については、桃香たちが上空から確認しつつ浄化や癒しを行っていた。

 リリーは、地上に降りて浄化を行う。

 今回初めて浄化を行うリリーは、集中しないとできないのに、不安定な蓮の背中で浄化するなんてことは当然無理だ。

 だから、地上で周囲を柊と蓮、マーカスが守る中で行っている。蓮が皆を防御魔法でガードし、向かってくる魔獣がいればマーカスと蓮が対処する。前方には騎士団もいる。それでも()れたのがあれば、リリーの傍にいる柊が対処する形だ。万全(ばんぜん)()していても何が起こるかわからないのが戦場だ。一瞬でも気を抜けない。

 その緊張感の中、リリーが浄化を始める。

 上空からは、桃香が様子を見ている。

 リリーの力が少なかったり及ばない場所があったりしたら、すかさず桃香がキレイキレイするのだ。その後すぐに、癒しを行う。

 桐葉の背中から下を見ていた桃香が、「んっ?」と言ったので、桐葉が「モモカ、どうかしたか?」と聞くと、「んー、なんでもないでしゅ。」と答えたが、何かキョロキョロ見ていたように桐葉には感じられた。

 しばらくすると、この場での浄化を終えたリリーたちが移動するようだ。

 リリーとマーカスにも桃香たちの姿は見えないが、桐葉と蓮は念話ができるため、お互いの動きは把握できている。


 早朝の王都から始めて、東側の海に面した領地からテッドの治める領地の隣まで、なんとか暗くなる前に終わらせることができた。

 リリーはすっかり疲れ切っている。

 力もほぼ使い果たしているみたいだ。

 今晩は、トラスト辺境伯邸で1泊し、明日リリーは王都に戻ることになった。

 マーカスは王に報告するため、移動陣ですぐに王都に戻るそうだ。

 実際に、トラスト辺境伯邸に着くと、先に来ていた桃香たちとリリー、柊と蓮一人(ひとり)ひとりにお礼を述べるとすぐに王都に戻っていった。


 「リリーしゃん、おわりまちたね~。

  よくがんばりまちたよ。

  キレイキレイなりまちた。

  よかったでしゅ。」


 「ももかちゃーーん。

  おわったよーー。

  手伝ってくれて、ありがとう。」

 桃香がリリーに話しかけると、リリーはグスグスと涙声だ。

 安心してホッとしたら涙が出てきたらしい。


 「これで、やっと帰れるねー。」


 と蓮が言うと、リリーがうんうんと頷いて嬉しそうに笑った。


 マーカスと交代するのようにテッドが戻ってきた。

 テッドも吾ら一人ひとりに感謝の言葉を述べ、今夜はゆっくり休んでくれと、食堂は(すで)に皆で食事を取れるようになっていた。


 「はわぁ、おごちそうでしゅ~。

  きょーは、がんばりまちたよ。

  おなかペコペコでしゅよ。

  いっぱいたべましゅよー。」


 と、桃香は早速食べようとしている。


 「桃香、何が食べたい?

  にーにが取ってあげるよ。」

 と、柊が桃香の隣の席に座り、お世話する気満々である。

 その2人の背後では、桃香が食べ過ぎないように紅葉が目を光らせていた。


 その夜は(みんな)笑顔でゆっくり食事を楽しんだ後は、十分に休息を取るためにベッドに入り、すぐに眠りに落ちていったのだった(ぐぅ・・・)。 

第1章はあと1話で終了です。

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