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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
12/16

12 桃香とリリー、キレイキレイするⅠ

桃香、モチロンにーにと蓮も協力するよ。

一緒にがんばろうね。


 翌朝、桃香は気持ちよ~く目覚めた。

 傍にはシルバーウルフの姿の桐葉も寝ていたが、桃香が目覚めたと同時に起きたようだ。


 「おっ、起きたか? モモカ。」


 「あいっ。

  きりは、おはようさんでしゅ。」


 桃香は目をコシコシしている。


 「あっ、モモカ。

  目は(こす)るなよ。」

 そう言うと、桐葉はベッドから降り、人の姿に変わる。


 桃香たちが起きたのがわかったのか、すぐに紅葉がやって来た。


 「起きられましたか?

  では、お着替えしましょう。」


 「あいっ。 もみじ、おはよう。」


 「はい。おはようございます。」


 今日の桃香の服は、紺色のワンピースに青色のズボン、白色のフード付きケープコート(狐の耳付き)である。室内では勿論(もちろん)コートは着てないが。靴は当然歩きやすさ重視で、色は服と同色系(靴下にはモチロン狐のイラストあり)になっている。


 昨日、柊たちが来る前に、桃香に少し前から気になっていたことを聞いた。

 それは、紅葉の呼び方だ。急に「紅葉さん」から「紅葉」になっていたから気になっていたんだ。

 桃香の説明(こっちで少し補って理解したが)によると、菊様の眷属である自分が同じ呼び方は畏れ多いと紅葉に言われたかららしい。桃香は菊様のことを「お菊さん」と呼んでるからな。同じように「さん」が付いているのが畏れ多かったんだな。で、ただの「紅葉」になったと・・・、なるほどな。

 と思ったことを思い出しながら、吾は桃香と紅葉の会話を聞いていた。


 これから朝食の時間まで、柊たちと今後についての擦り合わせを行うのだ。

 柊たちの部屋とは続き部屋になっていた。

 こちらが起きたのと同じくらいに、向こうも起きたようだ。

 しばらくすると、こっちの部屋にやって来た。


 「おはよう。桃香。 いい天気だよ。」

 柊は、やって来るとすぐに桃香を抱っこした。


 「にーに、れん、おはようさんでしゅ。」

 桃香は、柊に頬ずりされてスンっとした顔になっている。


 内心(ないしん)では「にーに、ちょっとウザい」と思っていても、表情に出さないように我慢しているんだろうと、桐葉は苦笑する。


 「みんな、おっはよー。」


 「おはよう。

  レン、ちょっと五月蠅(うろさ)いぞ。」


 「まぁまぁ、キリハ。

  元気なことはいいことだよ。」


 「自分で言うな。」


 桃香が吾たちが会話するのをジーッと見ていた。

 桃香は吾が人の姿になることを、元の世界にいる頃から知っていた。

 だから蓮が人の姿になっていても、それほど驚かないと思っていた。

 でも、昨晩、あの姿を初めて見て目を丸くし、吾の横で「ほえー、てんししゃま(天使様)みたいでしゅね~」と呟いていたから、驚いてはいたようだ。ただし、驚きの中身は、天使のような見かけと性格とのギャップに気付いているからかもしれないな。桃香は意外と鋭いのだ。


 その後、柊たちが来る前にマーカスやリリーたちと話した内容について、桐葉から2人に話をする。

 そして、瘴気を桃香とリリーが浄化していくなら、どう分担すれば効率的かも話し合った。

 早く元の世界に帰りたいのはリリーだけではないのだ。

 だが、できれば桃香は表に出したくない。

 この国の一部の者は、聖女召喚が行われ、成功していることも知っている。だから、表にはリリーだけを出す。どうしても必要なら、渡り人として柊だけを冒険者として出すことにする(蓮は従者として傍にいる)。

 一応、こちらの方針は決まった。


 「ねぇねぇ、モモカー。

  こっちの手伝いなんてメンドーだよねー?

  早く帰りたいよね~。」


 蓮が桃香をからかい始めた。


 「だめでしゅよ、れん。

  やくしょくしまちたから。

  まもらないとだめでしゅよ。」


 「いいじゃーん。

  かわいい、かわいいモモカが言えば

  誰も怒らないって。 ね?」


 「だめでしゅ!!

  おてんとしゃまがみてましゅよ。

  おてんとしゃまにはじゅかちくないようにいきないと、だめでしゅ!」


 桃香が太陽をビシッと指さして宣言する。


 「お、おぅ。

  モモカ、わかったよ。」


 「わかればいいでしゅよ。」


 桃香は腕組みをして(組めてないが)、フンスっと鼻息も荒く()()り返っている。

 ああ、紅葉が後ろに倒れないように支えているね。

 柊はニッコニコ顔で桃香を見ているが、どうせ「桃香は何をしていてもカワイイ」とか思っているんだろう。


 「モモカ、(えら)そうに踏ん反り返らない。

  態度がよくないし、危ないぞ。

  それにレン、モモカをからかうな。」


 「あーいっ。

  ごめんなしゃいでしゅ。」


 「わかったよ。

  モモカ、からかってごめんね~。」


 急に蓮が話題を変えてきた。


 「それよりキリハ、その聖女リリーだっけ?

  本当に浄化できんの?

  できなかったら予定が(くる)うんだけど~。」


 「うーん、モモカはできると言ったが・・・。

  モモカ、リリー嬢は本当に浄化の力を使えるのか?」


 「ほんとにつかえましゅ!

  でも、つかったことないでしゅよね?」


 「あ? ああ、そういうことか。

  元の世界では持ってない力だから、当然使い方も知らないな。

  じゃあ、力の出し方くらいは教えといた方がいいな。」


 リリーに力の出し方をどう教えるかまで話し合ったところで朝食の時間になった。



 食堂で朝食を皆で取った後、すぐに関係者のみマーカスの執務室に集まった。

 メンバーはマーカス、テッド親子にリリー嬢、柊と桃香兄妹に桐葉と蓮だ。紅葉は別室で待機だ。


 まず、マーカスから国の状況がかなり悪くなっていることを聞かされた。瘴気溜りが各地で次々に発生し、魔獣が増えて被害が毎日増え続けているらしい。

 騎士団が分担して討伐に向かっているが、一カ所終わっても他で次々に発生するため切りがなく、団員にも疲れがたまり、こちらの被害も増えてきている。

 騎士団には、浄化や(いや)しの力を持つ神官や魔術師も同行しているが、強い力を持つ者がおらず苦戦している。

 だから、少しでも早くリリーに浄化してほしいと王宮から要請が何度も来ているらしい。

 もう猶予(ゆうよ)のない状況なのか、マーカスにも焦りの色が見える。


 そこで、桐葉が提案した。

 桃香と桐葉組、リリーと柊・蓮組に分かれてイーストウッド国を浄化していこうと考えていること。

 そのためにはリリーが浄化する力を使えるようになる必要がある。この後、彼女が力を出すところまでここで訓練するので、午後から神殿で力のコントロールを中心に訓練できるようにしてほしい。明日には実際に浄化を行っていきたい。

 自分と桃香は、今日の午後から浄化を行っていくつもりでいる。テッドとともに辺境伯の領地に戻り、サザンウィンド国との国境辺りからセンターアルミスト山沿いを王都に向かって移動する。ノースランド国の国境辺りも様子を見てくる。

 柊たちは、明日、王都から右回りに海沿いをテッドの領地辺りまでリリーを連れて移動する。

 リリーは浄化のみを行い、負傷者の癒しについては、こっそり桃香が行う。

 明日1日で全て終わらせるようにするから、騎士団にはあと1日なんとか頑張って持たせてほしい。

 だから、公爵はこの後すぐにでも王都に戻り、騎士団をどう配置すれば被害を最小限にしつつ持たせられるか、関係各所と話し合って、すぐに各騎士団に連絡してほしい。負傷者がいる場所も、わかりやすくしておいてほしい。

 それと、公爵には柊のことを“渡り人”の冒険者であり、聖女の浄化に協力した後、聖女を元の世界に戻す者でもある、と関係者(必要最小限)への説明も頼みたい。冒険者の使い魔は、人を乗せて空を飛んで移動する、とも。(「えーー、使い魔ってもしかして僕のことー?」と蓮がブツブツ言っているが今は無視だ。)吾らのことは、あまり人に知られたくないので、浄化の後は聖女のことも含めて、上手く話を作って説明しておいてほしい。

 浄化のために移動するときは、吾と桃香にはテッド、リリーと柊・蓮にはマーカスが同行し、説明及び確認を行ってほしい。

 最後に、リリーに「早く帰るためにも、一緒にがんばってくれ」と言った。


 桐葉が話し終わると、一瞬の沈黙の後、すぐにマーカスが動き出した。


 「すぐに、王に連絡し、関係者に召集をかけよう。

  いや、私がすぐに王宮に戻ろう。

  テッド、後のことは任せたぞ。

  何が何でも間に合わせるから、先程の内容でお願いする。」

 と言い置くと、すぐに部屋を出て行った。


 「やれやれ、言いたいことだけ言って・・・。

  でも、こちらも急がないと時間がないな。

  悪い。迷惑をかけるが、先程の内容で協力をお願いしたい。

  もちろん、こちらで協力できることはやる。」

 と、テッドが言った。


 「では、まずリリー嬢の訓練だな。

  モモカ、いいか?」


 「あーいっ。

  リリーしゃん、てをだちてくだしゃい。」


 桐葉に言われ、桃香がリリーに話しかける。


 「えっ、手? ・・・こ、こう?」


 リリーが手を出すと、桃香がその手を握る。


 「いまから、ちからをながちましゅ。

  ・・・ なにかかんじましゅか?」


 「えっ? ・・・ 

  あっ、何か押される感じがする。」


 「あいっ、しょれがちからでしゅ。

  こっちもにぎって、こっちからしょれを、だちてみてくだしゃい。」


 桃香がもう一方の手を出してきたので、リリーがその手を握って、言われたように押されたモノを意識して、もう片方の手に流そうとする。

 リリーがなかなか動かせないでいるのを見て、桃香がもう少し強く力を押し込む。すると、少しコツが(つか)めたのか、桃香の手がむずむずしてきた。


 「リリーしゃん、もっとちゅよく!」


 「こ、こう、かな?」


 「ん、いいでしゅよ。

  じゃあ、りょうほうかりぁだちてくだしゃい。」


 「え、えっと ・・・ こう、かな?」


 「んっ、いいでしゅよ。」


 桃香が桐葉を見る。後の説明は桐葉に丸投げなのだ。

 桐葉が苦笑して言う。


 「リリー嬢、その感覚を覚えておいてくれ。

  それが浄化の力の出し方だ。

  後は出し方をコントロールできれば、力を無駄なく使えるようになるはずだ。

  それはこの後、神殿に移動して訓練してくれ。

  シュウとレンが一緒に行く。」


 「えっ、うん。わかった。」


 「次は、・・・ あー、テッド。

  負傷者はどの程度の者を治す?

  当然だけど、死者を生き返らせるのは無理だぞ。」


 「はぁー? 死者を・・・わかってるよ!

  流石にそれはない。

  でも、負傷者か? ・・・ 

  うん、そうだな。

  命に関わりそうなキズやケガを頼めるか?

  今回の討伐で負ったものだ。

  以前のものまで治ったらオカシイしな。」


 「ふむ。そんなところか。

  モモカ、いいか?」


 「うーん?いいでしゅけど・・・

  きりは、びょうきは?」


 「は、病気?

  ああ、そうか。

  癒やす場所にいる者や負傷者の中に、命に関わる病気を持つ者も一緒に治ってしまうのか。

  うーーん、そうだなぁ・・・

  キズやケガに限定できるか?」


 「ねぇ、それさぁ。

  もうまとめて奇跡が起きたでいいんじゃない?」


 蓮が言った。

 死にそうな負傷者が助かるなら、病気が一緒に治っても、特にまだ自覚症状がなかったりしたら問題ないでしょ、ってことらしい。


 「まあ、そうだなあ。

  モモカ、いいか?」


 「がってんしょうちのしゅけ、でしゅよ~。」

 と、桃香はフンスっと胸を張る。


 するとすかさず柊が桃香を抱き上げて「桃香、かわいい~」と頬ずりしている。

 リリーが呆気にとられて見ていたが、その後すぐに笑い出した。


 「あははっ。

  ねぇ、モモカちゃんは時代劇が好きなの?」


 「すきでしゅよ。」


 「どんなのが好き?

  将軍様の? 黄門様の? お金投げるの?」


 「リリーしゃん。くわちいでしゅね~。

  ももは、もんどころのでしゅよ。

  このもんどころがめにはいらにゅか~って、めにはいったらいたいでしゅ。」


 「だから、モモカ。

  そういう意味ではないと教えただろう?」


 「きりは、わかってましゅよ。

  めでみるっていみでしゅ。」


 「あははっ。あーおかしいっ。

  そうよね。

  知ってる子どもは1度は言いたくなるよね。」


 「? ・・・ 

  リリーしゃん、なんで?」


 「ふふっ、おかしい?

  私の本名は中川原(なかがわら)百合子(ゆりこ)

  グランマ、お祖母(ばあ)ちゃんが英国人なの。

  リリーはニックネーム。」


 「しょうなんでしゅか。」


 テッド以外の皆が「同国人か?」と思いながらリリーを見ていた。


 「ねぇ、なんで私が選ばれて呼ばれたんだろ?」


 リリーが呟くように言った。

 桃香が桐葉をチラリと見る。

 桐葉が「はぁ~」とため息をついて言う。


 「どんな人が異世界に呼ばれるのか、について明確な答えはない。

  呼ぶ方も聖女や勇者など、求めるものが違うだろう?

  まあ、聖女の場合は、浄化や癒しに適性がある者ということになろうな。

  元の世界でいうと、医療系に向いている者ということになるのか・・・?」


 「えっ、そうなの?

  私、医者になりたいの。

  将来は、離島や被災地、開発途上国や紛争地でも働いてみたいと考えているの。」


 「そうか。

  それは素晴らしい夢だな。いや、目標か?

  話を戻すが、どんな人が異世界に呼ばれるのかは、今のところハッキリ説明できない。

  ただし、リリー嬢は無事に元の世界に戻れるよ。」


 「あ、ありがとう。とっても嬉しい。

  早く帰れるよう、私もがんばる!」


 リリーの自然な笑顔が以前より増えてきたようだ。 


 「それじゃ、最後に僕たちの打ち合わせかな。」

 と、蓮が言った。


 「ねぇ、リリーちゃん。

  見かけは同じ年くらいに見えるから、僕はリリーちゃんって呼ぶよ。

  僕とシュウが絶対に守るから、浄化に集中して!

  君にはキズ1つ付けさせないよ。

  だから、がんばってね。

  それと、僕は人の姿にもなれるけど、人じゃないからね。

  でも、詳しくは話せないから聞かないで。

  明日は、僕、でっかい犬になって君たちを乗せて空を飛んで移動するからね。」


 リリーは、「えっ?」って顔をしていたけど、何も言わなかった。


 「それと、シュウ。

  今日の午後、リリーちゃんが訓練している間、彼女の傍で警護をしながら、僕たちも剣と魔法の訓練をするからね。」


 「了ー解。

  ねぇ、蓮。最近、“ぼく”の言い方変わった?」


 「そっかなー?

  ただ単に慣れただけじゃない?

  普段は“ぼく”なんて言わないからね~。」


 「えー、そうなのー。

  じゃあ、なんて言ってるの?」


 「それは内緒(ないしょ)さ~。」


 「えー、なんでさー ・・・ 

  教えてよー。」


 「そのうちね~。」



 その後、皆で(あわ)ただしく昼食を取ると、それぞれの場所に移動したのであった。

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