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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
11/16

11 柊と桃香、リリーと会う 


 桃香たちは移動陣を使ったので、あっという間にシルヴェスト公爵領の邸に着いてしまった。

 リリーは、テッドの母や妹と一緒に王都から馬車で来ているようで、到着は昼過ぎになるということだった。

 そこで、お昼ご飯を食べ、桃香のお昼寝が終わった後、桃香たちはリリーに会うことにした。

 蓮から桐葉に連絡があり、柊たちがこちらに来るのは夜になるということであった。


 昼食前、桃香たちはシルヴェスト公爵であるマーカスに会った。

 公爵はテッドから桃香たちの話を聞くと、リリーたちの出発の手配をし、自分だけ先にこちらに来ることにしたらしい。

 公爵の執務室でソファーに座り、桃香たちはマーカス、テッド親子と話をした。

 3歳の桃香には当然難しい話はわからないので、事情を知っていて保護者代わりでもある桐葉が中心になって話をした。

 話の主な内容は、桐葉とテッド間で話し合われたことの再確認と、公爵が知っているリリーについての話であった。

 話が一通り終わったところで、桐葉がマーカスに話しかけた。


 「こちらの世界で、ハヤト殿の髪と瞳の色が何色だったか教えて欲しい。

  また、こちらの世界で一番最初に降りた場所がわかるなら、その場所の名前も。

  気になっていることがあるのだ。」


 「ふむ。

  残っている肖像画によると、ハヤトの髪の色は銀、瞳の色は水色だな。

  この国の初代王と会った時は、最初ノースランド国に降り、その後イーストウッド国に移動してきたと日記には書かれていたな。ただ、ノースランド国のどこが最初であったかまではわからんな。

  気になっていることとは?

  話せるなら、聞かせてもらいたい。」


 「いや、吾が気になっていたことなので、話すのに特に支障は無いが・・・。

  ハヤト殿もシュウと同じで金環持ちであったと聞いたことがある。だから、こちらの世界で色が変わっていてもおかしくはないのだが。

  シュウの導き手が、その場で一番適した能力が出るとも言っていた。

  もしかしたら、降りた場所とも関係があるのでは・・・、と思ってな。

  ハヤト殿は、水や氷、風の魔法が使えたのではないか?

  その能力はシルヴェスト家に引き継がれているのか?」


 「あ、・・・ああ。

  確かに、我がシルヴェスト家の者は水や氷、風の魔法を得意とする者が多い。土を含めて3つ使えるのは、ハヤトと同じ色を持つ者ばかりだったな。

  初代王の方は、金髪、緑の瞳の者が多いんだ。ハヤトの妻マリアもその色だった。

  ただし、初代王もハヤト同様、風と土と火の3つ使えたようだ。しかも2人とも魔力量も多かった。子孫で彼らを超える者は今のところいない。

  イーストウッド国は風魔法を得意とする者が多いから、水や氷は初代ハヤトが得意としたからだろう、ぐらいに思っていたが。

  そんな考え方もできるのか・・・。

  なるほどな。」


 桐葉は話しても支障は無いとは言ったが、全てを話すつもりはなかった。

 シルヴェスト公爵家がどれくらいのことを知っているのかを、少し探ってみただけだ。

 アルミスト大陸では、どうも国によって得意な魔法属性があるらしい。ノースランド国は水(氷も含む)、エルフは光も使うし、人より使える属性も多い。イーストウッド国は風、サザンウィンド国は火、ウェストデザート国は土だ。

 ただし、属性にも当然個人差はある。1種類から2種類が大半であるが、稀に3種類以上や極々稀に全属性を持っている者もいる。その場合も基本的には、国の持つ属性が一番強くなる。

 浮島(国名としてはヌベイスラ)にいる竜人族には、特にこれという属性はなく全属性が出るが、1個体が持つ属性としては人と変わらない。ただ、魔力量は圧倒的に人より多い。

 その一方で、魔力を持たないものもいる。人の中では、庶民はほとんどが魔力を持たないし、貴族の中にも魔力を持たない者がいる。獣人もほとんどが魔力を持たない。まあ、獣人の場合は代わりに身体能力が非常に高いが、こちらも個体差がある。

 隼人殿は元々冒険者としての修行はしていたとはいえ、元の世界では普通の人間だ。

 菊様によると、色素が薄い人で髪も目も薄い茶色だったとか・・・。間違っても銀や水色ではなかったな。やはり金環の影響だな。その影響がどれくらい及んでいるのか。こちらの世界では、隼人殿は全属性を使えたはずだが、流石に子孫には受け継がれていないようだ。神代家の特徴は残っていない、よな?菊様も気にしておられたから確認できることはしておかねば。

 などと桐葉は考えていた。


 「ああ、そうだ。

  もしわかるのであれば、リリーに浄化の力があるか、確かめて欲しいのだが・・・。」


 思い出したかのようにマーカスが桐葉に話しかけた。


 「それは、・・・うーん?

  モモカ、キレイキレイできる人か、見てわかるか?」


 急に話しかけられた桃香は、きょとんとした顔で桐葉を見上げた。


 「え、えーと。

  みないとわからないでしゅよ。

  もも、おなか、しゅきまちた。」


 大人たちの話に飽きてしまった桃香は、途中からそこら辺りをウロウロと歩き回り、何か面白いものはないかと見てまわっていた。

 当然その後ろには紅葉がついて回っていた。桃香が何か落としそうになったら、すかさずキャッチして元あった場所に戻し、転びそうになったら抱きとめ、色々な危険を回避していた。

 (紅葉はいい仕事してるな、と桐葉は横目で見ていた。)

 そして、今、桃香はグーッと鳴り始めたお腹をさすさすしていた。


 「ああ、待たせたな。モモカ。」


 「ああ、ゴメンね、モモカ。」


 「ああ、もうこんな時間か。

  小さい子を待たせてしまったね。

  食事にしよう。」


 桐葉、テッド、マーカスが桃香に返事をし、その後すぐに食堂に移動して昼食となった。

 シルヴェスト家には、隼人が元の世界で食べていた料理を多く残していたようで、桃香は美味しいお昼ご飯を食べた後はお昼寝タイムに気持ちよく入ったのであった(スピスピ)。


 さて、桃香が昼寝から覚めると、おやつタイムと兼ねてリリーたちに会うこととなった。

 庭が見えるサンルームのような場所に、全員がゆったり座れるようにテーブルとイスが配置されている。

 テーブルの上には、スリーティアーズが置かれ、下から順にサンドイッチ、スコーン、ケーキが載っている。 

 その場で、マーカスから桃香たちにリリーとシルヴェスト公爵夫人ベルタ、公爵令嬢ブランシュ、公爵令息マルクが紹介された。

 テッドの弟であるマルクは両親が不在の時は、この邸の管理を行っているのだが、父マーカスが戻ってきていたため、母たちを昨晩の宿泊地まで迎えに行っていて、桃香たちが着いたときには邸にいなかったのだ。


 桃香は、シルヴェスト公爵家の人々を「ほへぇ~」と変な声を(シルヴェスト公爵家の人々には聞こえないように小さく)出しながら見ていた。

 隣にいる桐葉には、桃香の変な声が聞こえていたが、あちらには聞こえないからまぁいいだろうと聞き流し、それにしても見栄えがする一家だなと思いながら彼らを見ていた。

 マーカス、テッド、ブランシュが銀髪に青い瞳(テッドはちょっと薄いか?)、ベルタ(王妃の妹らしい)とマルクが赤い髪に緑の瞳で、全員が端正な顔立ちをしていた。

 彼らの横に立っているリリーは、栗色の髪に榛色の瞳の可愛らしい少女だった。少し疲れているように見えるが、急に異世界に呼ばれ、慣れない環境の中で過ごさねばならなくなったら当然だろう。吾らの名前を聞いて「えっ」という顔をして、吾らの顔を凝視しているから同じ世界から来たのかもしれんな。まぁ、後で確認できるだろう。


 マーカスが紹介の後、詳しい話は後にして、まずはお茶にしようと言ったので、この場では当たり障りのない話をしておいた。

 桃香は、もうすでに目の前のお菓子に釘付けで、紅葉に欲しいものを取り分けてもらっている。食べ過ぎないように注意しとかねば・・・。

 リリーは何か言いたげではあるが、後でだな。

 ベルタとブランシュは幼い子と接する機会が少ないのか、桃香が食べるのを微笑(ほほえ)ましげに見ていた。

 今日は桃香の希望で、お菊さん作の白い子狐姿だ。

 その姿が「かわいい」と女性陣に好評のようだ。

 褒められていると感じ取っているのか、桃香も「むふふ」と満更(まんざら)でもなさそうだ。


 お茶の後、リリーを除いた貴婦人2人は部屋で休むと自室に戻った。マルクは父親に命じられた仕事に取りかかるため別室に出ていき、桃香たちはマーカスの執務室に移動して、今後の話し合いをすることになった。

 執務室にいるは、桃香たちとリリー、マーカス、テッドのみである。

 ソファーに座ると、話し合いが始まる。


 「早速だが、リリー嬢に浄化の力があるかわかるか?」


 「モモカ、どうだ?」


 「うーん? ・・・ 

  あっ、できるみたいでしゅよ。

  でも、もーかとおなじじゃないかもでしゅよ。」


 「ん? ・・・ 

  モモカ、それはやり方が違うということか?」


 「そうでしゅよ。」


 「マーカス、どうやらリリー嬢は神殿で訓練してもらった方がよさそうだぞ。」


 「あっ、ああ、わかった。

  浄化の力があるとわかっただけでも、ありがたい。

  神殿には後で連絡しよう。

  それより、リリー嬢に協力してもらえるかだな。」


 皆の視線がリリーに向けられる。


 「ねぇ、それより私は元の世界に戻れるの?」


 リリーの言葉に桐葉が答える。


 「そなたがマーカスから聞いたように、英国のストーンヘンジがある世界から来たのであれば、吾らと一緒に戻ればよい。」


 「ほ、本当に!? 帰れるの?

  じゃあ、すぐに帰りたい。帰してよ。」


 リリーは、今にも泣き出しそうであった。

 今まで、もう帰れないかもという不安に耐えながら、一方で、いや帰れるかもと少しの希望にすがって我慢していたのだから仕方がない。いくらシルヴェスト公爵家の人たちが親身になってくれても、不安な気持ちはどうしようもなかったのだ。


 「まあ、待たれよ。

  ちゃんと一緒に連れて帰るので、落ち着かれよ。

  帰る前に吾らには為さねばならぬことがあるのだが、協力してもらえないだろうか?」


 「えっ、それは何なの?」


 「この世界の瘴気を浄化することだ。」


 「えっ、そんなこと。・・・

  私にはできないよ。」


 「できましゅよ。

  ねぇ、きりは。

  このおねぇちゃんは、いろかわってないんでしゅか?」


 桐葉がリリーと桃香に説明する。

 リリーには、こちらに呼ばれたということは呼ぶ条件に適しているはずなので浄化の力があること。ただし、元の世界に戻ったら、この力は使えなくなること。吾らは、ある人物(?)とこちらの世界を浄化する約束をしたので、それを終わらせて戻ること。早く元の世界に戻りたければ協力してくれるとその分早く戻れることを話す。

 桃香には、普通は異世界に来ても色は変わらないこと。桃香は元の世界でも「キレイにする(浄化する)」修行をしているから、こちらの世界でも同じようなことをする聖女の色に変わっていることを話す。


 「おぉ~、そうなんでしゅね。

  がってんでしゅ。」


 「えっ、ももかちゃん、色が変わっているの?

  確かに、染めたりカラコン入れたりしないとピンクゴールドの髪や金眼ってないよね。」


 「そうでしゅよ。

  もーかは、まっしゅぐなくりょいかみに、くりょっぽいめでしゅよ。」


 「そおなんだぁ。

  でも、その色も似合っててカワイイよ。」


 「えへへ、そうでしゅか~。

  ありがとでしゅ。」


 桃香は、なぜかちょっと照れてる。

 リリーは戻れると聞いて安心したのか、落ち着きを取り戻し、笑顔で桃香と話している。


 その日、すっかり暗くなった頃、柊と蓮がシルヴェスト公爵家に到着した。

 その晩は話をすると遅くなるからと疲れているだろう2人に配慮し、皆で食事を取った後は早々(そうそう)に休むことになり、柊と蓮を交えての話は翌日行うことにした。


 数日ぶりに桃香に会えた柊は、暴走した。

 シルヴェスト公爵家とリリーとの最初の挨拶は立派にこなしていたのだが・・・。


 「桃香、無事でよかったよ~。

  にーには、とっっても心配してたんだよ。

  それに、とってもとっても会いたかったよ~。」

 と、桃香を抱き上げて頬ずりしまくっていた。


 吾や蓮は慣れているからいいものの、知らない人間が見たら間違いなく白い目で見られるだろう。

 だが、今、ここにいるのが神代家の者ばかりだ。

 だから何の問題もない(はずだ)。


 「にーに、くるしいでしゅよ。

  それに、ももはねむいでしゅ~。」


 ああ、桃香にとっては問題があったか。

 あれほど桃香を溺愛しているのに何日も会えなかったからなのか?

 (あわ)れみの目で見ながらも、多少暴走しても大目に見てあげて、とでも思っているのか、蓮が桃香に向かってこっそり手を合わせている(謝罪するくらいなら桃香を助けてやれ)。


 「シュウ様、モモカ様はもうお休みの時間です。

  お預かりしてもよろしいでしょうか?」


 おっ、紅葉が助け船を出したな。


 「もみじ~、だっこ~」


 紅葉に手を伸ばす桃香を見て、ショックを受ける柊。


 「君は? 誰だい?」


 「はじめまして。モミジと申します。

  キク様に、こちらの世界でのモモカ様のお世話を任されております。」


 「ああ、そうなんだね。

  桐葉だけでは手が回らないところもあるだろうと心配してたんだ。・・・少し安心したよ。」


 柊は少し不満そうな顔をしながらも、うとうとしている桃香を見て、1回軽く抱きしめると紅葉にゆっくり渡した。

 紅葉はすぐに、桃香の背中を優しくポンポンしながらベッドに連れていって寝かせた。

 桃香が寝てしまったので、話は明日することにしやて吾らも寝ることにしたのだった。




 夜半(やはん)に、こっそりマーカスを訪れる者があった。


 「よぉ、久しぶりだな。もうかれこれ10年か?」


 「タツ、元気そうだな。

  急に連絡があって、驚いたぞ。」


 「悪かった。

  俺も急にこっちに来ることになってな。

  それに、孫たちが世話になってるみたいだから、挨拶でもしとこうかと思ってな。」


 辰が、こちらの世界に訓練で来ていたときに知り合い、親しくなっていた2人は、それからしばらく話をし、辰は来たときと同じようにこっそり邸から消えていた。

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