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異世界の管理人  作者: 東風
第1章
10/16

10 柊と蓮の楽しい(?)冒険Ⅱ


 蓮は、樹海の中で、今夜休むために再度テントを出して設置した。勿論、周囲への結界も張っている(ラクダも結界内に入れている)。


 その中で、ジョンに自分たちの正体を話すことにした。


 「実は、僕たちは“渡り人”なんだ。」


 「あっ、ああ、そういうことか。

  いや、商人の息子は嘘なんだろうな、とは思っていたんだ。

  このテント内も快適すぎるしな。」


 「はあ、やっぱりあの設定は無理があったか。」


 「いや、短時間ならいいと思うぞ。

  ただ、長く一緒にいたら何かオカシイと思われるようになるだろうが・・・。

  俺は他のヤツには言わないが、もっと気をつけたがいいぞ。

  知られたくないんだろ?

  こんな便利なモン持ってるだけで狙われるぞ。」


 「うん。わかってる。

  ジョン、信用してるよ。

  僕たちの世界の方が、こちらより便利なんだ。

  話せることは話すけど、話せないこともあるから、そこはゴメン。」


 「ああ、構わん。

  知らない方がいいこともあるしな。」


 ジョンには話せることだけ話せばいいということになった。


 そして、暗くなる前に僕たち(ジョンも)は魔獣討伐をすることにしたんだ。

 なぜかって?

 第1は、柊を実戦に慣れさせるためだよ。

 昼間の破落戸(ごろつき)相手のときは、倒したけど殺しはしなかった。でも、今後は()らなきゃならないこともあるだろう。なら、魔獣討伐でもして経験しといたがいいからさ。

 こっちの世界は、僕たちがいる世界よりも命の重さが軽い。庶民の人権なんてないに等しい世界だ。

 それに戦いの場で、躊躇(ためら)ったら殺られるだけだ。だから練習だよ。

 第2は、魔石を手に入れて、こちらのお金に換えるためだ。

 昼間買い物して、こっちのお金を使ったから残りが少なくなったんだよね。補充しとかなくっちゃ。不安になるじゃん。


 「シュウ、魔獣討伐行くよ~。」


 「えっ、今から?」


 「うん。暗くなるまでだけどね。

  昼間のことからも実戦慣れしといたがいいでしょ。

  防御魔法もやろうね。」


 「あぁ~、そうだね。」


 「元の世界では生き物を斬ることはないでしょ。

  でも、こっちでは、やらなきゃ自分が殺られることがある。

  向こうの常識は通用しないよ。

  ケガしたくなければ、死にたくなければやるしかないよ。

  真剣での最初の一太刀(ひとたち)はキツいとは思うけどね・・・。」


 「わかった。やるよ。」


 柊は覚悟を決めて頷いた。

 まずはテント内で防御魔法の練習をしてからだ。


 「シュウ、身体(からだ)の周りに魔力を(まとわ)わせて。バリアを張るように。」


 「う、うん。やってみる。

  ・・・・・・。  こんな感じかな?」


 「うん。できてるみたいだね。

  じゃあ、軽く攻撃してみるよ。」


 蓮が柊に向けて氷の粒をぶつけてきた。

 氷は柊の身体の表面辺りで跳ね返っている。


 「うーん。もうちょっと外にバリアを張るようにして みて。

  近いと大きな攻撃を受けたとき、どうしても衝撃がくるからね。」


 「うん。 やってみるよ。」


 「うん、できたね。

  じゃあ、さっきより攻撃を強くするよ。」


 先程より大きくて(とが)った氷が、さっきより速く柊に向かって飛んできた。

 氷は柊の前方で、全て溶けて蒸発してしまった。


 「シュウ、どうしてバリアをそこで張ったの?

  それに、表面に熱を纏わせてたね。」


 「うん。

  その距離なら、同時に攻撃の準備もできるかな、と思って。

  熱は、また来るのが氷なら消してもいいかなと思ったんだ。」


 「うん。いいね。

  先を考えて行動するのは大事なことだよ。

  大きな氷が残っていると、また攻撃に使われるかもしれないしね。

  その感覚、忘れないでね。

  じゃあ、実戦といきますか。」


 テントから出る前に、僕は柊に何点か注意をした。

 今まで学んできた剣術・体術を出し惜しみせず使うこと。と同時に魔法も使うこと。僕が後ろに下がってと言ったら、すぐに退き、僕に任せること。僕やジョンの位置、魔獣の位置を常に意識しておくこと。

 ただ、今日は円心円状(えんしんえんじょう)に動くようにして、敵に背後を取られないようにしよう。

 ジョンにも伝えておかなくちゃ。


 その後、辺りが薄暗くなる頃まで、テント周辺の魔獣を狩って狩って狩りまくった。今夜の安眠のためにも大事なことだよね。


 「はぁ~、こんなに楽な魔獣討伐は初めてだぞ。

  しかも大猟(たいりょう)だ。

  騎士団にスカウトしたいくらいだ。」


 ジョンは呆気にとられていた。


 「ジョン、欲しいモノがあったら言って。

  僕たちは魔石以外はいらないからさ。」


 「いや。

  俺も魔石をいくつか貰えればいい。

  大きい物はどうせ持って行けないだろ。」


 「じゃあ、100個位あればいい?」


 「いや、いや、そんなにいらん。」


 「でも、たくさんあるから。

  僕たちもそんなにいらないし。

  貰ってよ。」


 「はぁ~、わかった。

  じゃあ、ありがたくいただくよ。」


 「はい、どうぞ~。」


 魔石を取った後、魔獣は全て火で燃やした。柊が魔法で火を出し、僕が風を調整して周りに火が広がらないようにし、最後は水でしっかり消火した。魔獣の死骸が残っていると、他の魔獣を招き寄せるからね。

 辺りに危険種の魔獣の気配はないし、樹海の中だけど今晩もゆっくり眠れるぞ~。

 柊も最初こそ腰が引けていたが、慣れてくると色々な技を試していた。僕やジョンが教える魔獣の強さのレベルを参考に、戦い方を考えて実践していた。

 本番が一番成長させるって本当なんだな。目で見て実感したよ。

 無事に柊を連れて帰るよー。ガンバル、僕。


 テントに戻った後は、食事を取ってゆっくり休むことにした。

 今夜のメニューはがっつり肉!ステーキに豚カツ、唐揚げ、大量の野菜サラダに冷製スープ(じゃがいも)、デザートはアイスだな。一応、1人分ずつ準備して、足りなければ各自で大皿から取る形にした。皆、満足した。 

 ジョンは初めて食べる料理にびっくりしていたけど、かなりの量食ってた。上手かったんだろう。

 風呂やトイレにも驚いてたな。ま、そうだろうな。こっちには水洗トイレなんてモノはない。どうなってるか聞かれたが、こっちで作れるかなあ?

 洗い物も勝手にしてくれると聞いて、これまたビックリしてた。風呂に入っている間に洗濯(当然乾燥まで)も終わらせてたからね。清潔な服が待ってました~。

 明日の朝食はバイキング形式にしよう。メニューは、パン(クロワッサン、ベーグル)、卵料理(目玉焼き、スクランブルエッグ)、肉系(ベーコン、ソーセージ)、サラダ(ポテト、マカロニ、野菜)、飲み物(オレンジジュース、牛乳、コーヒー)、デザート(果物、ヨーグルト、プリン)。まぁ、こんなモンでいいか。こっちにコーヒーがあるか、後でジョンに聞いとこう。なければ紅茶か?

 もう朝の準備もできたようなもんだし、さぁ寝よう。僕って有能だなぁ~。

 柊も寝てるし、オヤスミー。



 翌朝は、日の出とともに起き、さっさと朝食を食べ、準備をしてサザンウィンド国の王都を目指した。

 そして、昼前には着いたってわけ。樹海の中を突っ切ると意外と早かった。昨日、魔獣を大量に狩っといてよかったよ。


 さて、目当ての人を見つけないと・・・。


 昨晩、僕はジョンにサザンウィンド国の王の決め方や竜人族について聞いたんだ。

 サザンウィンド国は獣人が多い国だから、期日までに王になりたい者が出てきたら、後は戦って一番強い者がなる。任期は5年。最長二期まで続けられる。途中で不満があった場合は、国内の領主三分の二以上が不信任の意思を表明して王を決め直す(リセットして任期は5年)か現王に戦いを挑んで勝てば勝者が王(現王の残りの任期)となる。

 竜人族は、大きく見れば獣人に含まれるが別格の存在で、浮島に自分たちの国を持っているからサザンウィンド国の王になる戦いには出てこない。ただし、例外があってサザンウィンド国の王が目に余る悪政を行った場合は、現王に戦いを挑んで任期の残りの期間のみ担当することがある。


 僕は、ほぅほぅと頷きながら聞いていた。


 「そういえば、竜人族の次の長が決まったようだな。

  数日前に浮島から竜たちが飛び去ってたからな。」


 ジョンによると、竜人族は200年ごとに族長が変わるらしく、今年が交代の年だったそうだ。交代のときには、1年くらい前から他の場所に住んでいる竜も浮島に戻ってきて次の長が決定してから、また自分の場所に戻っていくらしい。

 竜の中には瘴気を浄化できるものがいて、通常は各地に分かれて瘴気の浄化も行っているらしい。ところが、浮島に集まっていたから各地の瘴気が増え、これが魔獣の増加にも繋がっているんだろうと言われているそうだ。だから、今後は魔獣の発生が減るかもな、とジョンは嬉しそうだった。


 僕は、ふんふんと聞きながら今後の方針を決めた。

 まずは、桐葉からの連絡にあった赤竜エンを探そう。

 そして、彼にサザンウィンド国の王セルギを倒してもらう。ついでに、各地から攫われてきた人たちも解放してもらう。そうすればジョンの妹も見つかるはずだし、僕たちも安心してイーストウッド国へ行ける。

 よし、そうしよう。



 僕たちは、市がよく開かれるという中央広場に来ていた。

 広場の中央には、ステージのようなものが置かれていた。そして、広場の周辺にはテントのようなものが並び、食べ物や生活雑貨を売っているようだった。

 でも、品数が少ない。あまり物が入ってこないのか? ()せてる人や顔色がよくない人が多い。


 「ねぇ、探してほしい人がいるんだけど。

  赤い髪に、目はたぶん金色だと思うんだよね。」


 「えー、こう人が多いと僕には見えないよ。」


 「あー、シュウは俺が肩車しよう。

  そうすりゃ遠くまで見えるだろ。」


 「うん。 そうだね。そうしてくれる?」


 「あいよ。

  それと、どうやら昼過ぎに奴隷市が、ここで開かれるようだぞ。」


 ジョンが柊を肩車して言った。


 「あっ、レン。 あの人は?」


 柊がステージを挟んで真正面にいた人を指さした。(柊、人を指さしたらダメだよ。まぁ今回は仕方ないけど、後でマナーについて説明だな。)その人物は、僕たちの向かって左側に歩いて行っている。かなり身長が高いな。確かにフードから見事な赤い髪が見えている。目は正面に行かないとわかんないな。竜の気を持ってるみたいだけど・・・。行ってくるか。


 「ちょっと確かめてくる。ここで待ってて。」


 2人に言って、僕はその人物を目指して走り出した。


 正面から、金眼であることを確認して声をかけた。勿論、周囲には結界を張っている。


 「ねぇ、お兄さん。

  竜人族のエン殿?」


 「お前は?」


 「僕?

  僕はレン。管理人の一族の導き手だよ。」


 「あぁ、失礼した、レン殿。

  インフィニトから聞いている。

  私のことはエンと。」


 確かに失礼だよねー。竜人族は獣人の中では別格かもしれないけど、神使の僕とでは格は僕の方が上だ。彼も神使なら同格かな?でも、神使じゃなさそうだね。


 「僕もレンでいいよ。

  ちょっと話があるんだけど・・・。」


 僕は、今後のことについて考えていた内容を彼に話した。

 彼も数日前からこの国に入り、色々と調査した結果、セルギ王を倒すことにしたみたいだ。今日の奴隷市に顔を出すみたいだから、その時を狙って仕掛けるつもりだと話してくれた。僕も全力で協力しますとも。

 僕は彼に協力する(むね)を告げ、奴隷を守ることと奴隷商人を捕まえることは任せてもらった。ついでに柊とジョンの姿もこっちから見せといた。

 エンとは別行動をすることにし、僕は柊たちの所に戻った。


 僕は柊とジョンに、エンと協力し合うことにしたと話した。2人はちょっと話が急すぎて驚いていたが、いい考えだと納得していた。

 僕たちは奴隷市の方を担当し、市がどう行われるか、奴隷たちが今どこにいるか、奴隷商人側がどれくらいいるか(エンから得た情報)などの情報を共有した上で、どうやって片を付けるかを話し合った。

 そして、手はずを整えてその時を待った。


 昼過ぎ、噂通りに奴隷市が開かれた。

 その場にセルギ王も現れた。

 その後は、あっという間にいろんな事が起こった。


 セルギ王の前にエンが現れ、大音声(だいおんじょう)で勝負を挑んだ。

 それまで誰も自分に(かな)う者はいないと思い込んでいたセルギ王が勝負を避けるはずもなかったのだが、勝負はあっけなくついた。エンの圧倒的な勝利であった。(まぁ、当然だろう。元々の能力もだが、普段から鍛えていそうなエンと権力に溺れ肥え太ったセルギ王ではなぁ・・・。)


 エンと同時進行で僕たちも頑張ったよ。

 まず、僕がステージ上の奴隷たちに結界を張って守り、ジョンと柊が商人たちを倒して捕獲する。続けて僕は後に出てくるはずの奴隷のところに行って、また結界を張って守り、ついでに商人側の奴らを倒す。サーチを掛けて他に見落としがないかも確認したよ。

 ジョンの妹さんはケガもなく無事だったよ。少年のような格好をしてるからか、小柄なジョンって感じでそっくりだったよ。茶色の髪に茶色の目も一緒だしね。でも、やっぱり、こっそり護衛の男が付いてきて守ってたね(貴族の令嬢だから当然か~)。

 妹さんのお友達の妹も無事に見つかったよ。ああ、一緒に出掛けてた人たちもね。ケガしている人もいたけど、こっそり治しといたよ、僕が。

 僕たち本当にがんばったねぇ~。よく考えると、僕たちと関係ないことなのに。まぁこれも「縁」があったということだろう。


 最後に、後のことはエンとジョンに任せて、僕たちはイーストウッド国に向かうことにした。


 エンはこれから、荒れてしまったサザンウィンド国を安定させていくこと、奴隷として連れて来られた人たちについて他国と交渉することなど、しなきゃいけないことが一杯だ。


 ジョンは妹さんだけでなく、近隣の人で自力で帰れそうな人は一緒に連れて帰るそうだ。また、サザンウィンド国との交渉についても協力するみたいだ。エンとも話していたしね。


 エンやジョンとは、今後会えるかわからないから、お互いの幸運を祈って別れたよ。


 その日、薄暗くなった頃、僕と柊はサザンウィンド国の王都を出た。

 運がいいことに、曇っていて月は見えなかった。

 「よし、これならいける」と僕はでっかいもふもふになった。柊を背中に乗せて、一気にイーストウッド国まで飛ぶことにしたんだ。勿論、念のために結界は張っている。柊は喜んでくれたよ。


 「わー、ホントに蓮、僕を乗せて飛べたんだね。

  早ーい。

  スゴーイ。

  やっと桃香に会えるよー。」


 喜んでくれて僕も嬉しいよ。

 イーストウッド国まですぐさ。

 やっと・・・、 桐葉たちに会える。 

ストックが尽きたので、今週から週1投稿にします。

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