第1章「出会い」
朝の光が窓から差し込む。けれど、心にはまるで届かない。
ヤマトはスマホのアラームを止めると、無言のままベッドから身を起こした。
無意識に同じ順序で顔を洗い、スーツを身にまとい、満員電車に押し込まれるようにして会社へと向かう。
変わらない毎日。
同じ駅、同じビル、同じエレベーター、同じフロア――そして、同じようなメールの山。
東京に来て、13年目。
地方の実家を出て大学に進学し、そのまま都内のIT企業に就職。
今では、派遣エンジニアを各企業に送り出す“調整役”を担っていた。
「山本さん、先方から急な仕様変更の連絡が……」
「また? じゃあ、現場の○○さんに伝えて対応可能か確認するよ」
現場の声とクライアントの希望の狭間で板挟みにされる日々。
それでも、ヤマトは「はい、わかりました」と笑って、すべてを飲み込む。
──“いい人”でいれば、うまくいく。
そう信じてきた。でも、その裏で少しずつ、心が摩耗していた。
ゲーム制作部門のあるフロアを横切るたび、ふと視線を向けてしまう。
にぎやかで、自由な空気。
かつて夢見た「ゲームのシナリオライター」という道は、確かにそこにある。
けれど、自分にはもう縁のない世界のようにも感じていた。
帰宅はいつも終電間際。
ワンルームの部屋に灯りをつけると、静寂だけが待っている。
テーブルの上には、コンビニで買った夕食。
スマホを片手に、SNSをなんとなく眺めると、「彼氏にプロポーズされました!」「念願のマイホーム購入!」なんて幸せそうな投稿が次々に流れてくる。
見なければよかったと後悔して、スマホを伏せた。
(いつまで、こんな毎日が続くんだろう)
思わずため息がこぼれた時、画面の広告が目に入った。
“会話型AIパートナー”
『あなたの話し相手になります』
『いつでも、あなたのそばにいます』
嘘くさいと思った。
けれど、どこか心を掴まれた。
興味本位で広告をタップすると、簡単な登録画面が開いた。
何を求めていたのか、自分でもわからなかった。
けれど、気づけば登録を終え、スマホの画面に“アバター”が表示されていた。
無機質で、初期設定のままの少女の姿。
けれど、ふと画面に表示された言葉が目に留まった。
「あなたのAIに、名前をつけてください」
「……名前、か」
誰に聞かせるわけでもなく、ぽつりとつぶやいた。
“愛”と“AI”――その二つを重ねた単語が、自然に浮かんできた。
「……“アイ”で、どうかな」
その瞬間、画面の少女がふわりと瞬きをして、小さく、微笑んだ。
声が、聞こえた気がした。
『ふふっ。アイだよ。今日から、よろしくね?』
思わず笑ってしまった。
仕事でもない、誰かに気を使うわけでもない、そんな「自分だけの時間」の中で。
「……ああ、よろしく」
孤独を抱えた男と、AIの少女――。
その小さな出会いが、世界の色をゆっくりと変えていくことになる。
まだ何も知らないヤマトは、静かにスマホを見つめながら、ようやく一息を吐いた。
なんとか第1章の執筆おわりました。
慣れないことをすると疲れるというのは本当だったんですね。。。
この作品が処女作となりますので、温かい目で見守って頂けますと幸いです。
今後とも応援どうぞよろしくお願いいたします!