6話
『出てこい、161番』
番号で呼ばれ、おぼつかない足取りでやってきた1人の少女。ここは秘密裏に政府が行なっている実験施設。この施設には約300人の実験体がおり、実験の目的は…見ていればわかる。
『これを飲め。』
『はい。』
"ブツ"を飲み込むと、体に激痛が走る。死にたいと願うほどの痛みに、少女は悶える。普通の実験体なら、ここで絶命している。しかし、少女は特殊だった。1日もすれば治るのだ。そう、たったの1日、この痛みに耐えれば。
『今日は終わりだ。部屋に戻れ。』
『…はい。』
フラフラと部屋に戻ると、少女はため息をつきながら床に倒れ込んだ。本来なら15人一部屋なのだが、少女は特別なため1人部屋が用意されていた。もちろん、あるのは薄っぺらい布団なのかさえ怪しい布一枚だが。
夜。会議室で数人の男が話していた。
『実験の調子はどうだい?』
『そこそこですが、1人適性者らしき者がおります。』
『ほぅ、300人用意してたったの1人か。』
『はい。ですが、もう既に111回もの実験に耐えています。』
『なんと!素晴らしいな!あと389回で完成ではないか!』
不気味な会話をする男達は、静かに歓声を上げる。
『ついに完成するかもしれんな。』
『そうですね。』
こうして明日からも、同じような日々が続くのだった。
数年後、彼らの実験は成功し、161番は完成したのだった。
『161番、お前に今日から名をやろう。』
『感謝いたします。』
晴れ渡る空の下、成長した少女と、あの時の男が向かい合っていた。周辺には関係者がまばらに配置され、拍手をするものもいた。
『お前の名前はスペースだ。』
どっと歓声が上がり、皆喜びを分かち合う。
『…私は一体、なんのために生み出されたのですか?』
少女がずっと知りたかったこと。それは実験の終着点。自分は何者になったのか。今ならきっと質問も許されると思い、声にしたのだ。
『スペース。君は永遠を生きる者だ。』
『永遠…?』
『そうだ。お前には寿命がない。そして長年の実験により膨大な魔力を手に入れている。ということは、お前は永遠に生きながらえ、人類を存続できるのだ!これこそ人類の希望だ。』
この時、スペースの中には呆れるという感情があった。私は、いつのまにこんな使命を押し付けられていたのだろう。勝手に、理不尽に、ただただ人類のためだけに、こんなくだらない実験に耐えていたのか。私は望んでなんかいないのに。
『…』
膨大な魔力…か。拳を握りしめてみると、なんとなく"できる"気がした。少女は手をかかげると、
『凍らせろ。全てを。』
そう呟くと、一瞬で辺りは氷の世界となった。まるで時が止まったかのように。
『散々奪われてきたんだ。せめてこの力くらい、自分の好きなように使っていいよね?』
スペースは生まれて初めて楽しい、という感覚を味わったのだった。