5話
体が冷えていく感覚に、少し動揺したが、不思議と怖くはなかった。
「回復しないのはこの銃弾のせいかっ!クソっ!!」
いつになく慌て、口が悪くなるスペースに新鮮さを覚え、なんとなく嬉しくなった。会ったばかりのはずなのに、どうしてだろうな。
周りの男達がよってこないのは、スペースが結界をはっているかららしい。
「よしっ、抜けたっ!」
魔法により、痛みと共に何かが俺の体から取り除かれる。同時に回復魔法により出血と痛みは止まった。
「スペース、ありがt…」
声にしようとした時、俺は言葉を詰まらせた。スペースから、とんでもない覇気が出ていたからだ。
「…海、大丈夫か…?」
「あ、あぁ…。」
「そうか…よかった。ここから動かないでくれ。」
返事をする前にスペースは結界から飛び出して行った。そしてさっきまでとは打って変わって、風魔法で男達を切り刻み始めたのだ。鮮血が舞い、真っ白な髪が踊る。その目には、冷静さはなく、もはや殺人兵器と化していた。
「おい、スペース!!落ち着け!!やりすぎだ!!」
俺の声は届くはずもなく吹き抜ける風に飛ばされていく。それでも止めなくては。このままじゃスペースが人でなくなってしまう。それがとても怖いし、何より寂しかった。絶対俺が止める____
『お前は特別だ。』
誰かの言葉が頭の中を駆け巡る。俺ならできる。きっと。そんな気がした。
俺は影に潜り、スペースを追いかける。凄まじいスピードで駆けていく少女を視界にとらえ、影から出る。そしてその背中に手を伸ばし、無理やり止めることに成功する。
「…海!?」
「やっと、止まった…。」
軋む体を振り絞ったため、息が切れながらの回答に、
「な、なんで…こんなことを?」
「スペースが、人じゃなくなる、気がして…。」
「!」
目を見開くスペースに、またもや新鮮さを覚えつつ続ける。
「帰ろう…もういい、そんなになるまですることじゃない。」
「え、海はそれでいいの?」
「あぁ、俺が言い出したことだし、勝手なのは分かってる!でも!それでも…お前に人でいてほしい。」
「…!」
スペースは少し驚いた様子を見せた後、軽く笑いながら頷いた。
「…そうだね。じゃあ帰ろうか。」
倒れた男達の中心で俺とスペースは手を取り合った。
「転送」
「うぉっ」
転送魔法は高度なものだが、易々と操るスペースは本当に何者なのだろうか。考えているうちに、真っ暗な部屋に出た。
「…は?」
困惑の声から察するに、この転送先は意図しないものだったらしい。嫌な予感と共に、奥の方から1人の男が歩いてくる。記憶がフラッシュバックする感覚に吐き気を覚える。
「クソ親父…!!」
「久しぶりの再会なのに、冷たいな息子よ。」
「何度も消そうとしてきたくせに何を言ってるんだ。」
男は不敵に笑うと、
「こんな茶番はどうでもいいんだ。私が求めていたのは君の隣にいる人間…元人間だ。」
露骨に言い直すと、父親はまた愉快そうに笑いだす。スペースの様子を伺うが、先ほどまでの覇気はなく、冷静だった。
「永遠を生きる者よ。再び我らの元へ戻るのだ。」
再び…?おれは脳をフル回転させ思考する。スペースが何者なのか、改めて考えると、見当もつかなかった。でももし、マフィアの一員だったのだとしたら、この強さも違和感がない。
「スペース…お前ってマフィアだったのか…?」
「違うけど。」
あっさり否定されて脳が混乱する。マフィアじゃないなら一体何者…永遠…?
「…その話はまた今度ね。」
「2人で楽しそうにやってるようだな。なんの因果かね。どっちにしろ、スペースは我らが引き取る。」
「突然意味の分からないことを言うなよ。俺とスペースがここに何をしに来たかくらい分かるだろ?」
「会いに来てくれたんだろう?」
「そんなわけないじゃないか…。」
父親のボケなのか天然なのか分からない返答に思わずツッコンでしまう。
「とにかく、スペースは渡さない。」
複雑な家族の言い争いの最中、スペースは記憶を辿っていた。そして、あの日のことを思い出す。初めて、スペースに自我と感情が芽生えたあの日のことを。