2話
「さっきは助けてくれてありがとう。」
俺は少女の部屋に上がり込み感謝を述べていた。とはいえ少女の部屋は俺の部屋の隣なので、意味があるのか怪しい移動である。するとこんな状況で優雅にコーヒーを飲んでいる少女が、ゆっくりと口を開く。
「助けたことは気にしなくていいよ、私も部屋間違えたし。それよりさっきの男達は何者なの?」
「あいつらは…」
ここで言葉に詰まる。なぜなら男達は俺の父親の手下で、その父親は裏社会を牛耳るマフィアのボス。そして息子の俺は後取り…のはずだった落ちこぼれだ。こんな事をいきなり初対面、ましてや少女に言えたものではない。どう濁そうか悩んでいると、視線を感じたので俺は顔を上げる。すると、
「なるほど…マフィアのボスの後取り息子か。普通の家庭に産まれていれば、ただの優しい青年として生きていけただろうに。」
コトンと手に持っていたカップを置きながら答えた。
「…は?」
頭の中を読んだかのように、正解を言ってのける少女に俺は唖然とした。ついでに哀れまれている。無念。
「というか!なんで知ってるんだ?」
「君の口から聞きたかったんだけど、答えなさそうだっから、心の中を読ませてもらった。」
「え?はぁ?本当にどういうことだ?」
「そのままの意味だよ。」
魔法先進国の日本には色々な魔法が存在し、教育も盛んだ。国民のほとんどが魔法を何かしら使える時代。それこそ高度な魔法を使える一般人がいてもおかしくはない。否、問題はそこではない。存在しないのだ。"心を読む魔法"なんてものは。聞いたことがない。この少女は一体何者なのか。
「あぁ、怖がらせてしまった?私は君に攻撃しない。する意味もない。」
意味もないとは舐められたものだな…なんて思考もすぐに吹き飛んだ。
「…わかった。どっちにしろ勝ち目はないんだ、信じるよ。」
そして改めて話を始めると、
「それで、さっきの続きだけど、俺はマフィアの後取り息子で、訳あって追われていたんだ。」
「それは見ればわかったよ。私はその訳の部分を知りたいんだけどね、簡単に話せない内容なら深追いはしないよ。」
「…」
俺は考えていた。目の前にいる少女は只者ではなく、俺の父親さえも手にかけることが可能なほどの力を持っていると推測できる。こんな好機、2度と来ないかもしれない。頼れるならば、頼りたい。何の力もない俺にはしつこく縋るくらいしか手がないのは、痛いほど自覚している。目を開けると、ふと視界に白い手が映る。
「もし私に出来ることがあるなら、手助けするよ。どうせ暇だしね、訳は追々聞くとする。」
俺が喉から手が出るほど欲しかった言葉を、少女はくれた。
心を読まれたのはわかった。それでも____
反射的に少女の手を、俺は取っていた。
壊れてしまいそうなその手を。