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 私の婚約破棄は、思っていたよりもスムーズに進んだ。


 次の婚約者が決まっていないことや、私がそもそも婚約する理由となった聖女の力の件など様々な問題があるだろうと思っていたのだが、あっさりと婚約を破棄する手続きを終えた。


 理由については心当たりがあったが、正直なところ全貌がわからないので下手に手を出すことが出来ない。


 ただ私の知る限りでは、私の専属の使用人であるアンという少女と、現王妃エリカが色々と問題を起こしている事によって、カイと私の婚約破棄どころではないという状況だろうと思う。


 カイが王族の仕事をほぼ一人で国王代理という形で行っていたのにもそういった理由がある。


 そして当の国王陛下はというと、彼はとても体の弱い人で、私や、現王妃であるエリカの聖女の加護を使って何とか公務をできるまでに回復させることが出来る。


 しかしアンとエリカが争い始めてからは、癒しの魔法を使える私でも国王陛下に会うことはできなくなっていた。


 彼が死んでしまったら確実にこの国は荒れるし、聖女エリカは現在は王妃であるが、彼女は召喚された聖女だ。


 つまりはこの国にもともとルーツがない。だから、この国の先住民であるエルフたちと混ざり合った私たちとはまったく違う黒い髪を持ち、美しい白雪のような肌をしている。


 その影響を受けてカイも同じような外見をしているので、貴族からもこの国の民からも我がツァルーア王国の王にふさわしくないと言われてしまう可能性がある。


「お加減はいかがですか、国王陛下」

「ああ……久しぶりの心地だ。とても気分がいい、感謝しよう、フェリシア」

「いえ、当然の事ですから」

 

 だからこそ、私は最後に無理を言って国王ノアベルトにお目にかかっていた。


 彼が出来るだけ長生きできて、カイが新しい自分の伴侶を見つけられる時間稼ぎになったらいいと思う。


 じんわりと魔力を放出して魔法に集中する。


 この魔法は普通の四元素の火、水、土、風の魔法とも、白黒の色付き魔法とも違う特殊な女神の加護から生まれる私だけの魔法だ。


「……カイと婚約を破棄するようだな。フェリシア」

「はい。……申し訳ありません、陛下」

「よい、エリカの子供だ。うすうすそういう事態になるのではないかと想像していた」


 やせ細った手をにぎり、彼を癒していく。温室内には青く美しい花が咲き乱れ淡い光を放っていた。


「アンを……連れてきたのも其方だったな。……ひょっとすると、エリカの召喚によって乱れた運命の道筋を正しく戻す役目を女神が其方に与えたのかもしれぬな」

「……そう、でしょうか」

「ああ、余はそんな気がしてならない」


 ノルベルト国王陛下の言う意味は分からない。


 私はただ、アンの事も事情があるとは聞いていたが、深くは知らないし、カイの件だってヴィクトアに何も言われなければ気がつかなかった。


 自分で選択をしていると思うがそうして、国王である彼がそう言ってくれるのならば少しだけ自分の選択の責任の重さが軽くなるような気がした。


「しかし、余が病状を悪化させたことによって、王宮に入ることになった其方をきちんと自らの人生へともどすことが出来るのはうれしい限りだ……けれどこの光景を見られなくなると思うととても寂しいものであるな」

「……」

「さあ、もう少しそばで見せておくれフェリシア、其方の神秘的な瞳を」


 言われて椅子を少し引いてノアベルト国王陛下の側によって聖痕のある右目をかくしている前髪を耳に掛けた。


「ああ、女神の与えた証が魔力を光をはらんでとても美しいな」


 相好を崩してうっとりとして言う彼に、私はやっぱり不思議に思う。久しぶりにこうして彼に加護を与えたけれども、いつも目を見て喜ぶのは変わらない。


 聖女は体のどこかに聖痕が現れるものだが、瞳の中だなんてやっぱり可笑しいと思うのだ。


 そのせいで常に他人を怖がらせないように薄目だし、目元を前髪で隠しているので視界も悪い。


 しかし魔力を使うときに瞳に魔力がともるので、その光が聖痕を浮き上がらせて美しいのだとノアベルト国王陛下はいつも言う。


 自分では見たことがないので、そういわれてもよくわからないという感想しか思い浮かばないのだ。


「……さて、そろそろ其方の魔力が厳しいころ合いだろう。名残惜しいがこの温室ともお別れだな」


 ノアベルトは私を気遣ってそう言ってくれるが、今日で彼に加護をかけることが出来るのも最後かもしれない。


 起き上がろうとする彼の手を握ったまま私は言った。


「いえ、今日は……できる限り、多く加護を掛けさせてください」

「……無理はしなくてもいいのだぞ、フェリシア」

「大丈夫です。自分の魔力量は心得ていますから」


 そう口にして、魔力を捻出した。


 私は、花の女神の聖女だ。私が魔力を込めると温室には青い花が咲き乱れて魔力の光が辺りに立ち上る。


 水魔法が傷ついた人を癒して健康にもどすように、私の魔法は元から体を弱くして生まれた人をより健康にしたり、老いなども一時的に遅らせることが出来る。


 この魔法の花が咲いている場所の中にいる人ならば、皆同じように加護をつけることが出来る。


 地味な能力だが、この国の王である彼には必要な力だった。だから重宝されているが、珍しい能力なので厄介な説明を省くために、似たような能力の水の女神の聖女ということで世間には知られている。


 だからヴィクトアも私が急にぱっちり目を開けて、前髪を避けたら大層驚くだろうけれど、こう言ったことを隠したまま結婚というのはしていいものだろうか。


 彼から正式に求婚された今、それがもっぱらの悩みであったが誰にも相談できずに悶々と考えてしまうのだった。





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