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私の通り名が暴君シッターでした。  作者: ぽんぽこ狸


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 フェリシアが押し付けていった花は咄嗟にすべてを抱えきれずにパラパラと床に落ちた。急いで丁寧に整えつつ拾い集めるが、手触りが不思議な花だった。


 小さくなっていく背中を追いかけようかと思ったが、頭の奥がずきりと痛んで今の状態の自分が彼女に会ったら何か酷い事を言ってしまいそうだった。


 例えば、そんなに俺が信用ならないのかとか、どうしてあんな風に自分から奪うだけの家族に優しくしてやるんだとか。


 そういうきっぱりと言ったら彼女が悲しむようなことを容赦なく言って傷つけてしまいそうだった。


 ……いや、さっきのですでに傷つけたか?


 言わなくていい事を言ってしまったと思うし、あんな言い方をしなくてもよかったと思う。


 明日会ったら、一層優しくして、今日の事を謝罪しようと思う。


 しかしそれでも、俺だけが悪いとも思えない。


 俺がフェリシアを心配しているのはわかっているはずなのに、そのことについては隠したままで、自分は俺を心配してるだなんて口にするのはずるいだろう。


 それに本当に、この頭痛は心配をただかけるだけで本当にどうしようもない事だ。ただ休むぐらいしかできない。だから、聞いても困るだけだ。


 しかしそれでも、原因を話すことは嫌ではない。


 ただ、今の彼女にそうして自分だけが寄りかかれば、きっとあっという間に、カイ王太子殿下のようになるだろうと想像できるからやりたくない。


 フェリシアは、優しくてどこかつかみどころがない。そのくせいつでも頼ってほしいというスタンスで来る。


 その誘いに乗ったらきっとどこまでもどん欲に彼女を求めてしまう。


 元から、恋焦がれていた初恋の相手だ。


 ただでさえ、彼女の意志など関係なくすべての事柄から守って外界から遮断して、俺の手が届く場所以外にやりたくないというのに、彼女に依存してしまえば自分が何をするのかは想像がつく。


 花をすべて拾い終えると両手で抱えるぐらいはあって、あの小さい体のどこにこんな物を仕込んでいたのか、これまた不思議だが、立っているのも辛いので部屋に戻って花を抱えたままベッドに座った。


 ……俺とフェリシアは、そもそも寿命が違う。彼女は俺より若いけれど俺より先に死ぬし、実家の件の心労がたたってさらに寿命を短くするかもしれない。


 フェリシアの妹、ベルナー伯爵家の跡取りカリスタ嬢の傍若無人っぷりについては社交界でも有名だ。


 あのぐらいは言わなければ、当然引きさがらないだろうと思っていた。


 実際に言葉を交わしてみると話に聞くよりさらに話の通じなさを感じたし、妹であれならば、フェリシアの両親はよほどのものだろう。


 そんな人間に未だにフェリシアが関わってその心を砕いているという事実が異様に腹立たしい。


 彼らのせいで彼女が疲れ切って体調を悪くして生きることに疲れてしまったら、と考えると虫唾が走って今すぐにでもどんな手段を使ってもフェリシアの頭の中から排除したい。


「……はー」


 考え出すと、彼らをこの国から消す手段が次から次に思い浮かんで、フェリシアに悟られずに実行する方法もいくつか思い浮かぶ。


 ……止めろ、考えるな。


 しかしそれをやってはいけない。フェリシアの感情を無視した、押し付けの愛情は所詮は自己満足だ。


 彼女が自分で望んで家族と縁を切りたいと言ってくれなければ俺は何もできない。


 ……わかってる……わかってるが、どうしても今やっと俺のそばに来てくれたフェリシアを奪われるんじゃないかと思うと、悪辣な手段を使ってしまいそうになる。


 また自分を落ち着けるために深くため息をついた。するとふと花の香りが花をかすめて、自分の影が落ちているそれを見つめた。


 その香りは優しくて、彼女のそばに寄ったときにふわっとかおる香水の匂いに酷似している。


 ……てか、なんだこれ。光ってるな。


 じっと見つめると淡く発光していることがわかって、意味が分からなくてなんだか不気味だった。


 しかしそれでもフェリシアに貰ったものだ、雑に扱うこともできないし、勢いで受け取ってそのまま何となく抱えていたが、花なのだから花瓶に差して飾らなければいけないだろう。


 ……魔力をはらんでるのか……魔草の一種だな。


 魔力をはらんで獣が、魔獣になるように、植物も魔力を含めば魔草となる。


 元が薬草ならば高い効果が期待できたり、食物ならば、摂取すると一時的に魔力が多くなる優れものだ。


 その分、市場では高価な値がつけられ、出回る数も少ない。そんな貴重なものを彼女はいったいどこで手に入れたのだろう。


 花弁をじっと見つめて、茎をなぞる。


 それから元はなんの種類だろうかと、昔の記憶を引っ張り出して考える。


 ……妙に大きいがブルーデージーだろうな。


 ブルーデージーは別名フェリシアともいう。


 …………何か意味があるのか?


 彼女の意図がまったくもって分からなくて、やはり花を持ったまま動けずにいた。


 しかし、ふと意味の分からなさに可笑しくなって、笑みをこぼした。


 どんな意図があったにせよ、フェリシアの事が可愛い。素直にそう思えて、頭の痛みが引いていることに気がつく。


 それにこの淡く光るブルーデージーはたしかどこかで見たことがある。その記憶を思い起こしてみると彼女に初めて会った日の事だった。






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