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私の通り名が暴君シッターでした。  作者: ぽんぽこ狸


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 交流会から戻ると、フェリシアが真っ青な顔で俺を出迎えた。


 どう考えても、体調を崩している様子で、辛そうだということは目に見えて分かったが、彼女自身がそれを悟られまいとしているのがわかって、指摘するのはやめた。


 それにしても俺がいなかった二日の間に何もなくこんなに急速にやつれるなんてことは流石にありえない。思い当たるとすると魔力欠乏の症状に近しい気がした。


 それから色々と使用人に聞いて回り、彼女の外出時間と行き先についても見当がついた。


 俺と入れ替えにフェルステル公爵領の方にもどるフォルクハルトには、女性は脆いものだから気を付けるようにとさんざん言われて腑に落ちない気持ちにはなったが、父以上にそれを体感している人間もいないと思うので、ありがたく助言は受け取っておいた。


 それに自分自身、フェリシアの件については見て見ぬふりをしている点もいくつかあるので手遅れになる前に対処は必要だと思う。


 帰宅が夜遅くになってしまったので会話も特にせずに自分の部屋へとも戻ったが、どうにも気がせいでしまって、魔力草のハーブティーを淹れて、彼女の部屋へと向かった。


 ……フェリシアが無理をしている理由は十中八九、ベルナー伯爵家の事だろうな。


 見当は付いている。しかし、いくら調べてみても普通の家系という事以外は表面上は出てこない。


 彼女の隠し事について繋がるような情報は調査中だが、本人を見ていてわかることならいくつかあった。

 

 例えば魔力の問題だ。フェリシアはここに来た初日もそうだったが、異様に魔力草を欲する。普通は魔力は使い切っても一日程度で回復するはずだ。


 それなのに数日間続けて魔力草を摂取するのは奇妙な行動だろう。あとは、水の女神の聖女だというのに、水の魔法を使っているところを一切見ない。


 これは単に、魔力の回復が遅いがゆえに使わないようにしていると言われればそれもまた納得してしまう。


 彼女からわかる事といえばこのぐらいで、核心に迫るような情報は出てきていない。


 となるとやはり、彼女自身が望んで話をしない限りは俺にはそれを知る手段がない。


 ……何か問題が出る前に自分から話をしてくれると踏んでたが、案外頑固というか、意固地というか……。


 考えつつも、彼女の部屋をノックした。使用人が扉を開けてくれたのでハーブティーを乗せたトレーを持ったまま、中へと入る。


 普段のフェリシアだったら、机で本を読んでいたりするはずの時間だったが、今日はもうベットに入っていたらしく、急いでこちらに来ようとするのを制止して彼女のベッドのそばに寄った。


「辛いだろ。そのままでいい、魔力草のハーブティーを持ってきたんだ、一緒に飲もう」


 彼女にトレーの上のものを見せると、すこし気まずそうにしつつも頷いた。


 俺たちの会話に反応して、すぐにゼルナがベッドのそばにイスを運んで礼を言って座った。


 彼女の分のグラスにお茶を注いで差し出すと、ベットの淵に座ってフェリシアは丁寧に受け取った。


 すでに就寝の準備は終えているらしく、白いゆったりとしたワンピースを着ている。


 青いリボンがアクセントについていて、フェリシアの髪色と合わせているのかとても似合っていて可愛い。


「いただきます」


 そう言って両手で包み込むようにしてお茶を飲む。魔力草は単体だと飲みづらい味をしている、なので色々な茶葉とブレンドして飲むのが主流だ。


 予めブレンドされた物も売っているが、好みによって自分でブレンドを変えたり、ミルクティーにしたりはちみつを入れたりして楽しむ。


 貴族の中でも特に魔法を持っている貴族たちが魔法学園に通っているときにたしなむ娯楽だ。


 魔力を使い切って回復するまでの間は、とても辛い、特に体の調子に浮き沈みがある女性は、貧血のような症状がある魔力欠乏がわかりづらく悪化させて体を悪くするという話を多く聞く。


 そういう辛さを少しでも和らげるために楽しくハーブを生活に取り入れて魔法使いとしての仕事をこなしたり、魔法道具を領地の為に使ったりして仕事をこなしていく。


 だから生活の為にもこういうたしなみは知っておいた方が得だと思うし、同じ魔法使いの称号を持っている貴族で知らない人間はまずいない。


「……おいしい」

「そうか、良かった」

「うん。ありがとう、気を使わせてしまってごめんね」


 とてもしょぼくれた様子でそう言うフェリシアに、なんだかこちらまで悲しくなってくる。


 魔力草の事だけではなく、他にもいろいろと同じ貴族から学ぶことは多い。


 貴族同士は争うことも多く非常に難しい関係だが、それでも若者に生活の知恵を教えず困っているのを見て楽しむような腐った社会ではない。


 親は子供に貴族ならではの苦労や体験を教えるし、友人の作り方、勉強への姿勢、人との関わり方など、そういう学びを得られるように、子供たち同士交流させてやったりもする。


 親がそれをしなくても親族がいるし、魔法を持っていたら魔法学園だってある。しかし特殊な性質をしているフェリシアはそのどれもを与えられずに育ってきた。


 それはフェリシアを好きになった時から知っていたし、今更憐れむつもりもない。


「気を使ったんじゃない。ただ、あんたが心配だったから顔を見に来たんだ」

「…………心配させるようなことは無いよ、私は、大丈夫」


 あからさまに大丈夫ではない間が空いた大丈夫なんて言葉は、逆にまったく大丈夫ではなさそうで、フェリシア以外の人間がこんなことを言ったら、はっきりしろと、言いたくなる。


 ……大丈夫じゃないですって言ってるみたいに間を開けてそんなこと言うのは、察してほしいなんて考えている面倒くさいやつだと思うしな。


 しかし、フェリシアの場合も一概にそうかと言われると、どうにも難しい。


 人の意見を否定したり強くものを言ったりするのが苦手という難儀な性格をしているから、俺の言ったことを否定するように心配いらないと口にするのに躊躇した可能性もある。


 ほかには、その大丈夫じゃなさそうな大丈夫をまったく指摘されない環境にいて、フェリシア自身こう言っておけば問題ないと思っているのか。


 将又、俺がフェリシアの話しづらい事を聞かないと知っているから、それを信用してそう言ったのか。


 まったくわからない三択に、言葉に詰まって、彼女をじっと見た。






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