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 今日集められた五人を回復するのはそれだけの時間がかかり、魔力が底をつく限界で終了して貧血のような症状に襲われながらも温室を出た。


 私はすぐにでも休みたかったが、今日は、彼らに話があってここに来た。この機会を絶対に逃すわけには行かないので屋敷の中で両親を探した。


 住んでいたこともあるお屋敷なので、どこに誰がいるのかぐらいはわかる。


 家族が集まるのはいつも父の執務室だ。重たい体を引きずって階段を上り、ノックをして部屋へと入った。


 すると部屋の中には、あまり会わないカリスタの姿まであって、可愛いドレスを纏った彼女と両親は、皆機嫌が悪い様子だった。


「だからどうしてお父さまが一番取り分が多いのよ。わたくしが一番若くて美しくてお金がかかるだからもっとお小遣いをちょうだいよ!」

「何言ってるんだ、私は家長だぞ、お前より取り分が少ないわけないだろう。そもそもお前は何もしていないではないか、そんなに金が欲しいなら姉に頼めばいいだろう」

「そうよ、だって今では立派な公爵夫人だものね? フェリシア、立派なご身分なのだから可愛い妹に恵んであげたらいいじゃない!」


 なんだか棘のある言い方に、もしかして母は自分より身分が高くなった娘に嫉妬しているのではないだろうかと思う。


「あら、お姉さまいたの? 本当相変わらずぼんやりした顔、見てるとフェルステル公爵の美的センスを疑いたくなるわ」

「ふふふっ、やだ、カリスタ。そんなこと言ってはダメよ。物好きだってこの世には沢山いるのだわ」


 お母さまはカリスタに同調するようにそういって、お父さまは、布袋から金貨を取り出して、一枚二枚、と丁寧に数えていた。


 ……お金を手に入れた途端に、これ……か。


 私が必要な時だけは愛している、可愛い我が子だといいながらも、用済みになれば、家族としての顔など忘れてただの他人のように振る舞う。


 これが私の家族だと認識すると、心が重たくなってきて、ただでさえそのお金と引き換えに酷い体調なのに誰も気遣うつもりはない様子だった。


 心の底から、疲れた時のような長いため息が出て、頭がくらくらした。


 しかし、だから何だというのだろう。これが私の家族だ。そして今日は、私の言い分を聞いてもらうために来た。


「……話があるの。……聞いて」


 真剣な声で言った。しかし彼らは私に興味はない様子で、ちらっとこちらに視線を送るだけだった。


「私は、昔から魔力を使いすぎていたせいで、魔力の回復も遅いし、聖女の力を使ってめいっぱい人を癒すことはできない」


 父は、お金を数える手を止めていない。母とカリスタは私を馬鹿にするようににやにやしながらこちらを見ている。


「だから、この家の稼ぎ頭として皆を養っていくなんてことは、到底無理だし、心底困っている人たちから、お金を巻き上げるなんて方法、やってはいけない事だと思う」


 それでも、伝えられるように、酷い眩暈をこらえてつづける。

 

 今日ここに来るにあたって調べてきたこともある。


 聖女の力の私物化はとても重い罪になる。例えそれが一時的にノアベルト国王陛下の為に使われるように大衆に隠されていたのだとしても、今はその大義名分もない。


 その状態でこんな荒稼ぎをしていたら普通は、どこからか情報が洩れて捕まってしまう。


 そんなことになってほしくないと思う。私自身犯罪に手を貸すつもりもない。


「本当は、お母さまもお父さまもわかっている事でしょう? 女神さまに与えられた人を救うための力を自分が贅沢をするためだけに使っていいわけがない」

「……」

「……」

「私は、もう、フェルステル公爵家に行った、フェルステル公爵夫人です。だから、手を貸すことはできない。温室は壊して今回のお金だけで、自分たちで領地の収益や自分の仕事で生計を立てて、暮らしてください」


 懇願するように言った。彼らは、いつの間にか私を見ていてくれて、言葉が届いたような気がした。


 しかし、その瞳はどこか冷ややかで、探り合うように三人は視線を交わして、それから長い沈黙の後、くすっと笑ってカリスタが、口を開いた。


「っ、ふふ、アハハ! やだ、お姉さま、なに深刻な事言っちゃって、ごめんねぇ? 私がお母さまと仲良くしてるから、寂しくなっちゃってそんな気を引くようなこと言いたくなっちゃったのね?」


 ……違う。


「なぁにそれ、やだもう、フェリシアったら、さっきのは冗談よ。良いのよ貴方はずっと昔からいい子だったのもね。私たちを困らせる様な事言いたくなっちゃったんでしょう? まったく可愛くないわねもう」


 ぐっと奥歯をかみしめた。ぎりっと音がして、最後の望みをかけて父を見た。


 すると父は、ふんぞり返って座っていたソファーからゆっくりと立ち上がって、のしのしと歩いて私のそばまで来た。


「……」

「……」


 無言の父に、彼の心は動いただろうかとその瞳を見つめているとバシンッと耳に響く音がして衝撃が頬を打った。


「親を見捨てるやつがどこにいる!! このグズ!! 女神さまがそんな不義理なことを望んで堪るか!!」


 怒鳴り声を浴びせられて、途端に体がすくみあがった。


「あらヤダ」

「きゃあ、お父さまこわぁい」


 頬が痛くて、体が震えて涙が出た。頬を伝って涙が落ちていくのが惨めで仕方ない。


「あーあ、お姉さま泣いちゃったわ」

「ちょっと、貴方。ダメよ、手をあげちゃ、だって今はほらこの子はよそ様の家の娘になったのだから……でもね」


 言いながら母が寄ってくる。彼女は私の頬に手を添えて、わがままを言った子供を宥めるように優しく口にした。


「お父さまが怒るのも無理ないのよ。私たちは貴方に期待しているのだから、反省しなさい、さ、馬車を用意するから、フェルステル公爵家に帰るのよ、今日はそれでいいわね、あなた」

「フンッ、好きにしろ」


 ……私は何も間違ったことは言っていない。何も……決して。


 そう思うのにこれ以上、食い下がることは出来ず、乱暴に涙をぬぐって母の手を振り払い、そのまま必死に足を動かして屋敷を出た。


 何も伝えられなかったことが悔しくて、惨めでとめどなく涙があふれてきたけれど、なにより辛かったのは、こんなことではヴィクトアに顔向けができないという事だった。


 私の問題をかくして、一度彼らにいい思いまでさせてしまって、今まで、秘密にしてしてしまった。もうあとには引けない、何とかするしかないのだ。


 手立ては、思い浮かばなかったけれど屋敷に戻るまでに何とか気持ちを落ち着けて、平静を保てるようにしてフェルステル公爵邸に戻ったのだった。






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