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「それでハーゲン子爵領に現れた盗賊の件は、一応終結させることが出来たんだけど、二つの領地の間に確執が生まれてしまったことは事実かな」

「んなこと言ったって、元々仲悪かっただろ、あそこのじいさんたち」

「そうかな。彼ら二人とも私には優しい好々爺だからね。よくわからないよ」

「はぁ~、父様。だから俺があの二人を纏めて囲ってんだって、次の世代から交流を深めていけばいい」

「ああ、そういう話だったっけ。君は本当によく気がつくね」

「……」


 フォルクハルト様はニコッと目を細めるような笑みを浮かべてヴィクトアを見た。


 しかしその笑みにヴィクトアは少しばかり引き攣った笑みを返して、はぁ、とまた一つため息をついたのだった。


 私は、ハーゲン子爵領と聞いて子爵子息である、ヴィクトアにくっついて回っていた青年を思い出して、なんだか色々な思惑があってともにいるのだなと思う。


「あ、でもそれだったら私が提案した交流会は良くなかった?」


 それからフォルクハルト様は思い出したように言いながら白パンをちぎって口に運ぶ。


 こうして何度もともに食事をしていると、大体彼ら親子の関係性というものがわかってくる。


 だからこうして思い出したようにフォルクハルト様が言うことにはだいたいヴィクトアが頭を抱えるのも毎度の事だった。


「……聞いてねぇよ」

「いや、本当にただの交流会だからさ、報告は必要ないかなと思って」

「もっと早く言ってくれって」

「大丈夫、私が出席するから、ヴィクトアは王都にいていいし」

「そういう問題じゃねぇよ……ああ、まずいな、いつだそれ、予定空けられるか? モーリッツ、すぐ確認してくれ」

「はい、少々お待ちください」


 ヴィクトアは後ろに控えていた側近兼秘書のモーリッツという使用人に声をかけて、彼はぱたぱたと速足に歩いて部屋を出ていく。

 

 それをフォルクハルト様は見ながら「大丈夫だけどね」とあっけらかんと笑っていた。


 彼は、強気でついていきたくなるような顔つきをしているヴィクトアとあまり似ていなくて、少し、ほんわかしているというか、優しそうな風貌だった。


 それでもヴィクトアの父であるので、ある程度歳を重ねた男性なのだが、やり取りだけ聞いていたらまるで友人関係のようだった。


「あんたの言う大丈夫は、大丈夫じゃない確率が五割だ! 信用ならないだろ!」

「そんな、八割ぐらいは大丈夫だよ」

「どっからでてくんだよその自信!」

「ふふっ知りたい?」

「褒めてんじゃねぇんだよ!」


 したり顔でいうフォルクハルト様に、ヴィクトアはイラつき気味に言って、すぐにモーリッツが帰ってきて二人で予定の調整を始める。


 私はそんな光景を眺めながら食事を続けた。


 すると、フォルクハルト様がちらりとこちらに視線を移して、私に問いかける。


「ごめんね、いつも仕事の話ばかりして、フェリシアさん。退屈だろう?」

「いいえ。私も同じように参加できるように勉強させてもらっています」

「え、そんないいんだよ。君は気楽に過ごして」

「そうだぞ。フェリシア、あんたは気にしなくていい、というかなにより父様から学ばないでくれ、なんでも俺に聞いてくれ!」


 ヴィクトアはよっぽどそれだけは避けたいらしく、クワッと顔を怖くしてそんな風に言った。


 しかしそうは言われても、何を隠そうこの昼食後にフォルクハルト様には、フェルステル公爵領地について教えてもらうという約束をしているのだ。


 フォルクハルト様から地図や絵画などその土地のことがわかるものをたくさん持っているから、とお誘いを受けたことであり、てっきりヴィクトアの配慮の一環だと思っていた。


 なのでありがたく誘いを受けて楽しみにしていたのだが、どうやらそういうわけではなかったらしい。


「……」


 彼にそれを言ってもいいものかと思い、フォルクハルト様の方に視線を向けると彼は、ニコッと笑みを浮かべて「でもほら、ヴィクトアは忙しいからね。私が教鞭をとるのもやぶさかではないよ」なんて言った。


「……まさか、フェリシアとなんか約束でもしてやがるな!」


 楽しそうなフォルクハルト様に対してヴィクトアは驚き半分怒り半分といった具合で声を荒げて続ける。


「フェリシア! 俺は確かに仕事も多いし、あんたと会わない日もあるが、フォルクハルトに教えを乞うぐらいだったら、俺が時間をとるし、何ならあんたと過ごせるなら俺がやりたいぐらいなんだっ」

「ヴィクトア、ぼろが出てるよ。ほら、可愛く父様と呼んでください」

「あ゛~、やめろ。やめてくれ!」

「それに交流会、来週だよ。予定を詰めてやりくりしないと間に合わないんじゃない?」


 ……ヴィクトアってフォルクハルト様の事を呼び捨てにしてるんだ……。


 ぼろが出てると言ったということはもしかすると、私には隠していただけで、彼らはもっとフランクに接している仲なのだと思う。


 ただでさえ、自分の家族に比べるととても良い関係なのだと思っていたが、やはり長年ともに過ごすとこんな風になるものなんだろうか。


 そういう相手がいたことがないのでわからなかったが少しうらやましいと思ってしまう。


 ……でも、ヴィクトアも大変そうだし、うらやましいとは言わない方がいいかも。


 彼は、フォルクハルト様に言われて、モーリッツとああでもないこうでもないと予定を考え直していて、昼食がちょうど終わった私にフォルクハルト様はにこやかに言った。


「ヴィクトアはしばらく忙しいから、私たちは行こうか。領地の事はしっかりと教えておくから、ヴィクトアは気にしなくていいからね」

「あ、ちょ、ちょっと待て、フェリシア!」


 言われて席を立つとヴィクトアに呼ばれて、私はそばに行って、問いかけるように首を傾げた。


 もしどうしても彼がフォルクハルト様に教わるのが許せないというのならばそれで納得するが、そうは言わずに、眉間にしわを寄せてすごく怖い顔をした。


 それから考えを巡らせるように視線を下げて、おもむろに私に手を伸ばしてみたりした後、手を引っ込めて、長らく逡巡した後に私に目線を戻す。


「…………情けない所ばかり見せて悪い。俺は懐の小さい男だと思うか?」


 父親に翻弄されて、自分から教わってほしいと望んだ自分を振り返って、私からどんな風に見えたのかを考えたのだろう。


 しかし、いつも毅然としているので、正直なところこうしてフォルクハルト様とともに昼食をとっているときは外見相応の歳に見えて安心するような気もするのだ。


 ……私は、私に自信がないし、あなたに相応しくはない。だからそうして乱されているところを見ると少し身近に感じて嬉しくなってしまう。


 そう思うけれどもそんな性格の悪いことは言えないだろう。


「いいえ。そんなことないわ。あなたは立派な人だわかっているから」


 ゆっくりと口慣れた言葉を口にした。


 しかし、彼は少し悲しそうに笑ってそれから「……ありがとな」と返した。それから、またすぐ調子を戻して私を待っていたフォルクハルト様に目線を向けた。


「父様、変なこと教えたらただじゃすまさねぇからな!」

「はいはい。行きましょうかフェリシアさん」

「はい、じゃあまた後で」

「ああ」


 彼の反応に何か返答を間違えてしまったかと思うが、気に留めている時間はなくて、フォルクハルト様の後を追いながらぼんやりと考えた。






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