1 目覚め
目にとめていただきありがとうございます。今回は近未来。現代の人が150年後に行ったら何が起きそうか考えながら書いています。どうぞよろしくお願いいたします。
目が覚めると病室だった。それ自体はそんなに変わったことではないけれど、身体がすごく重たく感じられて、光が眩しい感じがして、いつもとは何かが違うと思った。隣に立っている人の横顔を見つめていると、壁のモニタを見つめていたその人は私の目が覚めていることに気付いて少し驚いたような顔をした。はっきりした顔立ちで長めの黒髪を後ろで一つに結んでいる。以前診てくれたことがあれば覚えているはずなのでおそらく初めて会う人だ。挨拶をしたいと思ったけれど声が出ない。
「そのままで。まだ話したり動いたりは無理だと思うので、そのまま、話を聞いてくれますか」
あまり抑揚のない、ゆっくりとした話し方に、同意のつもりで瞬きを返した。そしてその人の話を聞きながら、私は眠りにつく前のことを思い出していた。
私は小さな頃からの持病で家からあまり出ることが出来ずに育った。お祖父ちゃんや両親は私をとても大切にしてくれて、家の中でもたくさん勉強や趣味に打ち込めるように環境を整えてくれた。長時間起きているのは難しかったから、少しずつだったけれど、家事全般や読書、映画鑑賞など、他の人以上に経験させてもらったと思う。
そんな私は科学者だったおじいちゃんの決断で、まだ確立されていない技術ではあったけれど、人工冬眠と言われているものに似た処置をされ、眠りについたのだった。それが2000年代の半ばまではまだしばらくといった頃で、私としては昨日のようなものだ。なのに今はそれから約150年後だという。
「この研究施設は初代の所長、白井正雪氏の意向でずっと雪さん、あなたを守ってきました。そして、白井氏の願いだった、あなたの治療方法が確立されたことから、私があなたを目覚めさせたのです」
私を起こしてくれた人は、治療のための施設であり私の家でもある、ここを管理をしながら自分の研究をしているのだという。
「私は、黒木アキラです。あなたはこれからリハビリをしながらここで生活していくことになります。ええと…ここまではご理解いただけましたか?…と言っても、まだ難しいでしょう。今日はこのまま体調を見ていきますのでもう少しお休みください」
「…ぁ…」
微かに声に聞こえなくもないような音を出した私に、黒木さんは何か言いたげな様子だったが、思い直したようにモニタをチェックすると、静かに病室を後にした。私はボンヤリした頭で、黒木さんが話したことを考えてみたが、今ひとつピンとこない。私の感覚では処置を受けたのは昨日のことで、ご理解いただけましたかと言われてもなぁという感じだった。それでも横目で見る病室の様子は何やらスッキリとしていて、ワゴンのようなものはあるけれど、ゴチャゴチャした管や線が繋がった機械はないし、モニタは壁に映っているだけに見えるし、全部が嘘だとは思えない部分もある。
『まあ、今はできることないし…』
そもそもこれまでだって外に出られることは多くはなかったし、ここで暮らすのも私にしたら普通のことなので、私は素直に寝ることにした。
まだ何も起きませんでした。