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強盗事件①

 本日のお嬢様のご機嫌は最悪だ。


 椅子に腰かけたレリリイの前で、アレクは正座している。


「私の把握していないスキルを習得している。何処で覚えたのかしら、ね」


 大きな瞳を細め、じっと見られるのだが、堪らず顔を背けた。


 そう、罪悪感があるからだ。


「お、お嬢様にじゃれついて、舌技レベルが上がったのでは?」


「確かにその可能性については考えました。けど……、私が留守にして、戻ってくるたびに、レベルが上がって、ついに……」


 レリリイは週に一度、トレーナー講習会に出席している。


 基本的に、その日はトレーニングも休みで、アレクはお留守番だ。


 では、その間、アレクの面倒を誰が見るのか。


 レリリイとしては、ブリーダーの資格も持っているホワリンに一任したかったようだが、横から連れ去っていった人物がいる。


「バター犬――なに、このスキルは?」


「えーと、舌技レベルがカンストした後、それに変化しまして……」


「そんな事を聞いているんじゃないの。どうして、私がいない間に、習得できるの?」


 それだけは言えない。


 このジュピタル家の平穏の為にも。


 全身が汗びっしょりになっていた。


「じ、自主練……」


「どんな練習をしたのかしら?」


「それは……」


 自分の頭の回転の遅さが憎い。若い頃はもうちょっと早かった気がするんだけどな。


 こんな状況にありながら、お嬢様が足を組み替えるたびに、視線をチラチラ向けてしまう。


「あの、お嬢様、そのくらいにして……」


「ホワリンは黙って。それとも何か知っているの?」


 ブルンブルンとメイドは顔を横に振る。ついでにオッパイも大きく揺れた。


「他に知っている者は?」


 メイド長、A子、B子も首を横に振る。この三人は流石だ。顔色一つ変えていない。


 メイド長に関しては、レリリイに付き添って、出かけているので本当に知らないが、他のメイドらは目撃している。


 が、彼女らも黙ってくれている。


 言えるわけがない。というのが実際のところか。


「なら、やっぱり、アレクに問い質すしかないのね。アレク、言わないと、おやつ抜きにします」


 お嬢様、可愛い。


「あっ、では、それで」


「えー、おやつ抜きなのよ。私と一緒に食べたくはないの、アレクは」


 不機嫌だったお嬢様が、今度は泣きそうな顔に変わった。


「う……」


 それは狡い。


 お嬢様の場合、計算ではないから的確に胸に突き刺さってくる。


 口が緩くなってしまった。


「えーと、実は……」


「あら? 進化してる? 進化してる!」


 お嬢様の表情が一変した。驚きと喜びが滲み出ている。


「進化?」


「ほら、だって、我慢おじさんになっているわ」


 自分でもステータスを確認すると「我慢おじさん」とあった。


 我慢おじさん――高い防御力を誇る。オーバーキルの攻撃を受けても、HP一で耐える事ができる。


 これは何気に凄いのでは?


 まだ記述があった。


 副作用として遅漏になる。


 って、ここまでずっと射精を我慢してきたのに遅漏って。


 もしかして、ずっと射精の我慢を強いられたから我慢おじさんになった?


「凄いわ、もう進化するなんて」


 お嬢様はとても嬉しそうだ。完全にバター犬の事は忘れているようなので、良しとしよう。


「進化といっても見た目は変わらないのですね」


「それでも大幅に強化されているわ。早速、試したいわね。どうやって、試したら……」


 メイド長が前のめりで言ってきた。


「叩いてみたら如何です? 服を傷物にしないように、裸にして」


「は?」


 何を言い出すの。


「それしかないか」


 納得しないで、お嬢様。


 そっとメイド長に耳打ちされた。


「奥様の部屋からバターの香りがしました。あと、メイドたちからも。いない間に私を除け者に楽しんだ罰です。ふふ」


 気付いてやがる。


 だから、他のメイドらも従順に自分を脱がせにかかり、壁に磔にしていくのだ。


「……」


 まあ、これで罪悪感が少しでも和らげはいいか。ちょっと興味もあるし。


「もう、アレクったら、またチッポを膨らませて。耐久力のテストなのよ」


 お嬢様が鞭を持って全裸の自分に近付いてくるのです。どう抑えろと。


 覚悟は決まった。


「さあ、お嬢様、いつでも思い切りどうぞ!」


「そ、そう? じゃあ……」


 構えるレリリイ。


「……」


 いつまでも鞭を構えたままのお嬢様だ。


「うう、無理。私にアレクを叩くなんてできない」


 いい子だ。


 でもこちらはむしろウェルカムなんです。


「では、私が代わりに」


 メイド長が鞭を受け取った。


 いや、俺的には是非お嬢様にしてもらいたかった。


「ハァ、ハァ、いきますわよ!」


 メイド長。ヤバい目をしてますよ。


 バシ! 響き渡る衝撃音。その派手な響きに、レリリイは顔を両手で覆った。


 しかし、


「あれ? そんなに痛くない?」


 これが我慢おじさんか。


「ちょっと貸してください」


 今度はホワリンが鞭を持つ。


 ホワリンか。温厚そうな彼女の事だから、ペチっと優しく――。


 ビシッ! 強烈な刺激が股間に襲ってきた。


「はぁああ、全く、お嬢様の躾が甘いせいで、つけ入られるんです。それに、こんなやらしいチッポして、私たちメイドだって、堪んねえんだよ」


 鞭の柄の方で、チッポをグリグリしてきた。


「あ、あの、ホワリンさん?」


「黙っててやっているんですから、少しはサービスしなさいよ!」


 バンバン! バシ! ビシ! 連打される。


 いや、皆、ドン引きしていますよ。


 あっ、でも、これ、ちょっといい。


 我慢おじさん効果で、痛みは程好く――クソ、遅漏じゃなきゃ、いけたのに。


「ハァ、ハァ、こんな感じで、お嬢様も」


「む、無理ぃ! 大丈夫、アレク。ああん、チッポが真っ赤に腫れて」


 優しいお嬢様。


 それにしてもホワリンの意外な一面を見た。ローロンの将来は大丈夫だろうか。これを経験したら、もう牝ガキ族も怖くないぞ。


「もう充分にアレクの防御力の高さは分かったから、皆は出ていって」


 メイドらが席を外すと、レリリイが拘束を解いてくれた。


「痛かった? 擦ってあげようか?」


「…………痛かったよ、お嬢様」


 甘えてみる。


 よしよし、と頭が撫でられた。


 もしかして、こうなると見越して、ホワリンはキツく当たったのか?


 ともかく、ここで「こっちも撫でて」と股間を突き出してもいいものか。


 流石に恥ずかしいぞ。


「あ、あのね、アレク……」


 レリリイがもじもじしながら顔を赤らめている。


「どうかしました、お嬢様?」


「その……、アレクのチッポを見ていたら、淫紋が……。でね、お、お尻ペンペンして欲しいの!」


 なんですと?


 後を向きながら、お嬢様がスカートを捲り上げた。


 球状を重ねたようなお尻が剥き出しにされ、蠱惑的な谷間に紐状が食い込んでいる本日のGストリングスはピンク色である。ムワっと蒸れが飛び出してきて、ほんのりと牝が香ってきた。


 潤んだ瞳が見詰めてくる。


「お願い、ね」


「そ、それで淫紋が治まるなら」


「うん。アレクが鞭で打たれているのを見て、凄く欲しくなっちゃったの。だから、きっと」


「お嬢様って、M?」


「分かんない。でも、ハァ、ハァ、アレクにして欲しい」


 ご主人様のリクエストにペットは応える。


 ベッドに腰かけ、膝にレリリイの腹が乗った。お嬢様の脇腹に肉棒が当たる。


 露出されたままのお尻を見下ろして、


「では、いきますよ」


「して。早くぅ」


 まず、お尻に触る事に緊張し、どれくらいの力で叩けばいいのか迷った。


 ええい、やってみる。


 パチっと平手を当てると、程好い弾力がぷるんと尻肉を揺らし、震えが伝ってきた。


 おお、お嬢様のお尻、柔らかさと若々しい張りが。


 もっとしっかりと揉みしだきたい。


「あん! ハァ、も、もっと強く」


 物足りなかったか、疼きをアピールするように、お尻が振られた。


「では、これで」


 パシッ! しっかりと部屋に音が響き、叩いた瞬間、艶肌が掌に張り付いてくる。


「ぁひっ、いいん。ハァ、ハァ、もっと欲しがっちゃう。ペットのお仕置きされちゃう、飼い主って、なんか、ゾクゾクして……」


 明らかに興奮している様子なので、こちらもノッてしまった。


「おじさんにお尻を叩かれて感じちゃうなんて、お嬢様は変態ですね」


「やん。だってぇ……」


「おや、変態は認めるんですね?」


 パンとまた強めに叩き、それからねっとりとお尻を撫でる。


「あっ、ああ……、アレクはこんな私、嫌い?」


 甘えるような上目遣いをされた。


「おお、お嬢様ぁ!」


 パンパンッ、バシッと興奮のまま激しく叩いてしまった。


「ヒイぃ、ヒイ、ヒイッ! おっ、お、お腹の奥に……、女の子の中心に、響いちゃう!」


 苦痛とも快楽ともとれる表情で、眉根を寄せながらお嬢様がビクっと仰け反りながら身を痙攣させる。


 勢いで指先がクロッチに刺さったが、確認すると粘液で濡れていた。


 もしかして、イった?


「お、お嬢様?」


「ハァ、ハァ、しゅごかった」


 恍惚の顔をなさっている。


 アナウンスが聞こえる。


 ――新しいスキルを得ました。アレクは「反逆の右手」を習得しました。


 主を責め立て、屈服させると得られるようだ。


「大丈夫ですか、お嬢様?」


「うん。ちょっと、横になって浸っていたいかな」


 ベッドに横になっていただく。


 新しいスキルの話をしたら、嬉しそうに分かったが、そのまま寝てしまったようだ。


 これはもしや、オナニーチャンス?


 やめておこう。幸せそうなレリリイの顔にそう思った。


 それより、スキルや進化について気になった。


 お嬢様のトレーナー教本を見せてもらう。無断ではない。いつでも読んでいいと言われている。


 おじさんがどう進化しようとも、最終的に彼らがほぼ必ず望むのは「生涯現役」である。


 チッポはおじさんの元気の指標となるので、飼い主にとっても付けさせたいスキルである。


「……」


 こういうのを真面目に勉強してきたのか。


 これはまだどんなスキルか分かりやすいが、レアなスキルの多くは名前を読んだだけでは想像し辛い物も多かった。


「しっかし、スキルって、結構な数があるんだな」


 全部は覚えられない。


 でも結局、品評会では自分の特技を如何に魅力的に見せるかが重要なようだ。


 欠点すら、むしろ欠点こそ、個性として目立たせられるかが高得点に繋がるようだ。


 知れば知る程、これに点数を付けられる審査員って何者? ってなる。


 続いて、進化についてだが、それこそ可能性は無限。むしろ、同じ進化をするおじさんの方が稀だという。


 これはもうただの個性では?


 ただ、進化により能力が付与されたりするので「進化」と考える方が正しいと書いてあった。


 それが自分の場合、遅漏とは。


 防御力アップとかどうでもいい。戦わなきゃならない事態はほぼない。


 そうこの時は思っていた。


 ――――


 異世界人のおじさんをペットにする事が流行したきっかけは王族の姫が社交界に連れてきた事から始まる。


 一見すれば、ただの中年男性であったが、どの人種とも違う顔立ちで、独特の臭いが淑女や貴族の子女らを惹き付けた。


 どんくさいように見えて特別な力を持ち、異世界の発達した倫理観や考え方は当時の貴族らに衝撃を与え、また知識が巨万の富を生む事さえあった。


 他国が異世界から勇者を召喚しようとした時、おじさんは言ったそうだ。


「戦車一つを召喚した方が早くない?」


 こうして、秘密裡に王族は異世界の高度な武器を所持し、他国よりも有利に立つ。


 ますますおじさんは重宝され、その価値は上がっていった。


 魅力的に印象が持たれると、ちょっとした仕草まで可愛く見える。


 女の子の「可愛い」は複雑だ。


 異世界人のおじさんから見て、こちらの世界の人間が半二次元的に感じるように、令嬢らには中年男性とおじさんは全く違うように見えている。


 はっきりと言えるのは、おじさんはおじさんの可愛らしさを理解できないという事くらいだ。


 初めておじさんがこの世界に召喚されて五十年。幼少の頃からおじさんと触れあってきた女の子も増えていて、ここにもそんな環境で育った少女がいる。


「もう直ぐ、この町でもおじさん品評会があるのよね。もうちょっと、滞在したいわ」


 庶民の食堂に極端に浮かない程度の仕立てのいいドレスの少女とおじさんがいた。


 癖のある綿毛のようなピンクの髪をした瞳の大きな美少女からは、隠せない気品と同時に気さくさも垣間見える。


「まあ、慌てる旅ではないですから、構わないのでは?」


 金髪を七三分けにしているおじさんは、スーツ姿に眼鏡をしていたが、服の下の逞しい筋肉が着衣からでも分った。


 おじさんの一人が広めたと言われるラーメンを二人は啜っている。


 召喚されたおじさんの中には、その道のカリスマや匠もいて、バースカント王国は発展してきた。


「縮れ面がスープによく絡んで美味しいわ。あっ、じゃあ、暫く滞在できる宿を探さなくっちゃ」


 今は庶民にも親しまれているラーメンであるが、ちょっと前までは王侯貴族くらいしか口にしていなかった。


 少女は幼い頃から食している。家には料理おじさんの中でも最高峰の星三つおじさんがいて、その味に慣れ親しんできた。


 家の事情で、親に甘える時間がなかった分、おじさんに甘え、守られてきた彼女は、自分でも召喚できる歳になり、直ぐに目の前のスケブロウの主人になったのだ。


「そうですね。旅の資金は自分で何とかしろ、と言われてますし、あまり贅沢はできません」


「仕方ないわ。国民の税金を使うのだし。あっ、スケブロウ、ズラが曲がっていますよ」


 七三分けの金髪はズラだった。


「……」


 無言のまま、スケブロウはズラを直す。


 その姿をやはり少女は可愛いと思うのだ。


「おじさん品評会か……。貴方と共に出ても良かったのだけど、やはり目立つのは、ね。本当は貴方を自慢したいのよ」


「ありがとうございます。まあ、国境警備で活躍するおじさんもいますしね」


 品評会だけがおじさんの価値を決める訳でもなく、勿論、飼い主にとっては、自分のおじさんが一番なのだ。


 ラーメンをスープまで完食すると、会計はスケブロウに任せた。


 すると、店から出て言われるのだ。


「姫、所持金が少なくなってきています。銀行に寄ってください」


「分ったわ。今月のお小遣い、幾ら入っているかしら? 少ないようなら、あの話を請けてみようかな」


「ゲストの件ですか?」


「そう。色んなおじさんも見られるし、少しは収入が得られるから、一石二鳥だと思うのよね」


 そうしてこの町の銀行に向かう。


 おじさんらの世界ではデジタル通信での即時振り込みが当たり前だが、こちらではまだまだ文書でのやり取りだ。振込先と遠い程、引き出せるのが遅くなる。


 それでも金融機関は他の国よりもずっと発達していた。


 やはりおじさんの持つ知識は、一騎当千の勇者よりも有用だと証明している。


 王国は積極的におじさんから知識や技術を学び、重要な部署には必ずおじさんを配備していた。


 そういった背景がありながら、町中ではおじさんに首輪をしないといけないのは、最強種と呼ばれるおじさんを恐れる声もまだまだ多いからである。


 スケブロウも今は、少女にリードで引っ張られている。


 おじさん側からこれに対して文句が少ないのは、引っ張るのが美少女ばかりといった点に他ならない。


 元々、美少女の呼びかけに応えている彼らなのだ。むしろ興奮している。


 首輪廃止を訴える声に一番反対しているのがおじさんらだという紛れもない事実があった。


 さて、もう呼ばれ方から想像できているとは思うが、ピンク髪の少女の正体は、この国の第三王女である。


 名をミュウサリアといい、愛らしさと可憐さを備えているルックスながら、王族の中でも歴代最高の魔力を持っていた。


 彼女は城にいたおじさんから幼い頃に、副将軍が身分を隠して諸国を漫遊して、悪人どもを懲らしめる話を聞き、ずっと憧れを抱いてきた。


 だから、自分が召喚したおじさんにスケブロウと名付けたのだが、これはちょっと間違えて覚えていたからだ。


「あーあ、何処かにカクさんいないかな」


「またそれですか」


「あら、スケブロウ、嫉妬した?」


 自分のペットをちょっと揶揄ってみたいお年頃の彼女だが、正義感も人一倍強く、上に立つ者の心構えもおじさんらから教わった。


 銀行に向かって歩いていくと、町の衛兵が緊迫した表情で走っていく。


 何か起きたのか。


 進んだ先には人だかりができていた。


「何かしら?」


 そうミュウサリアが呟くと、直ぐにスケブロウが近くの男性に聞いてくれる。


 困惑した顔をスケブロウが見せた。


「姫、いえ、お嬢様、どうやら、銀行強盗が起きたらしいです」


「は?」


 まさに、これから用事のある場所での事件に、王女の正義が燃えあがる。

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