ライバルがやってきた②
おじさん品評会では、三つの項目が審査される。
まずは見た目。頭部の禿げ具合や、腹の方など、よりおじさんらしさが高得点になるらしいが、そう単純でもないらしい。
次にパフォーマンス。おじさんだけで特技を披露する。
最後にトレーナーと二人で、従順さや仲の良さを見せるのだ。
今回は練習という事で、おじさん単身での特技披露だけ。
「と、言われましても……」
宴会芸の一つもできない。
「そうね、アレクはこちらにきたばかりだもの。ごめんなさい、私が……」
申し訳なさそうなお嬢様の顔に、どうにか頑張ってみようとは思う。
ホワリンも一緒に考えてくれた。
「過去の品評会から、アレク様と同じタイプだと……、雑誌の袋とじ開けとか。何も使わないで、綺麗に開けて、審査員の度肝を抜いていました」
「雑誌の袋とじを開けて、落胆するとかはできますが?」
しかし、雑誌があって袋とじがあるのも驚きだ。
「うーん、せっかく覚えたスキルを使えないかしら」
「では、こういうのはどうでしょう、お嬢様」
離れた場所からアンが声を張りあげてくる。
「まだですの。こちらはいつでも準備できていますわ」
お嬢様が悩んでいる。
「いいわ、先にどうぞ」
とは言ったが、
「これで、アレクが自信を失くさないと良いけど」
と呟くのだ。
マイウはそんなに凄い特技を持っているのか?
喉が渇き、生唾を飲み込む。
微風が枝葉を揺らし、緊張感が高まってきた。
静まり返る中、マイウが前に出てくる。
上着を脱ぐと、白のランニングシャツに黄土色のスラックスの姿になった。
「流石の貫禄ね」
お嬢様が呟く。
「あれは!」
ホワリンが驚愕に瞳を開いた。
マイウがハンカチを取り出し、顔の汗を拭いていく。
「見て……、こんなに涼しいのに、もう汗だくだわ」
「ええ、お嬢様、これは高得点が狙えます」
これ、ツッコミをしていいところ?
ドヤ顔のアンだ。
「ふふ、それだけじゃないわ。マイウ、これを使いなさい」
子爵令嬢が自分のおじさんに何かを投げた。
「あれは!?」
「おしぼりです、お嬢様。ま、まさか……」
受け取ったマイウが、おしぼりを手に、顔を拭き、そして腋を拭くのだ。
「わ、腋まで……」
「あれが、地区代表の実力。あんな高難度の技まで」
「……」
これ、戦慄くところ?
ある意味、これは予想以上に恐ろしい品評会なのでは?
「ふふふ、この程度で驚かれても困りますわ。本当は、品評会まで秘密にしておきたかったのですが、特別に見せてあげましょう。マイウ、あれを」
マイウが意識を集中している。
それはまるで必殺技を放つ直前の表情だ。
「はぁあああ……」
武道の呼吸法を見ているようで、気が練られているように見えた。
瞳を瞑るマイウ。
裏庭が静まり返り、
「燃えよ、俺の脂肪。メタボリックパワー全開! はあっ!」
おじさんの瞳が開かれた。
ポン。ズボンのボタンが一つ、飛んだ。
「…………はい?」
カメハメ波でも撃ちそうな流れだったよね。
「凄い……。あれは、超難度のメタボアタック」
「あ、あれを使えるおじさんが、こんな近くにいたなんて」
うん、まあ、初めてフィギュアスケートとか見たら、何が凄いのかきっと分らない。たぶん、そういう事だ。
ガクッとマイウの膝が折れた。
「マイウ! ああ、無理をさせたわ。この技は危険な技。体に負担をかけてしまって……、今夜は全身、マッサージしてあげる。えっ、性感マッサージがいい? もう、マイウったら」
「腹、減った……」
「さあ、わたくしが肩を貸すわ。んおおお、重い」
「腹、減った……」
「ああん、倒れて。きゃっ、駄目よ、マイウ。そんな、わたくしの体に重なって、ほら、人が見てる」
「腹、減った……」
どうやらマイウは性欲より食欲を満たしたいようですよ、アンお嬢様。
いったい、俺は何を見せられたんだ?
「大丈夫、アレク。あんな凄いものを見せられたんだもの、意気消沈しても仕方がないわ。でも、きっと貴方なら、と私は思っている」
「お嬢様……」
混乱しているんですけど。
マイウの下からアンが這い出てきた。
「さ、さあ、今度はそちらの番ですわ。何を見せてくれるか、楽しみですわ。ふふ」
不敵なアンの笑みに、レリリイは少しムッとしたが、
「ええ、見せてあげますとも」
愛おじの手を強く握るのだ。
そういえば、先程、レリリイとホワリンで何かを話し合っていたが、いったい自分に何をさせる気なのだろう。
緊張していたのか、お嬢様が一つ深呼吸をする。
その後、驚きの行動に出た。
「お、お嬢様!?」
ブルマを脱ぎ始めたのだ。
片手で股間を隠しながら、片手でブルマをずらし、腰を揺らしながら、それを下げていく。
真っ白な生尻が眩しい。きめ細やかな素肌のお尻は、特に大きな訳ではなかったが、球状に肉付き、ぷるんと可愛らしく、それでいて淫靡に盛り上がっていた。
お嬢様はしっかりと片手で股間を覆いながら、脱ぎたてのブルマを向けてくる。
「さあ、アレク。この匂いを覚えて」
変態行為を命じられる。
お嬢様の命令だしな。拒むわけにはいかないよね。
「すー、はー、くんか、くんか」
ほんのりと脱ぎたての生々しい体温が感じられ、どことなく湿っていて、それから微かに甘酸っぱい。
「そ、そこまで。何だか恥ずかしいわね」
それからレリリイは、脱ぎたてブルマをアンに渡した。
「わたくしにも嗅げと?」
「違います! それを何処かに隠してください」
「ああ、そういう事。分りました。お手並み拝見といきますわ」
子爵令嬢が動きだすと、レリリイが戻ってくる。下半身丸出し。手で股間を隠した状態で。
これ、何ていう着エロ?
「アレク、アンが隠した私のブルマを見付けてちょうだい。もし、見付けられなかったら、その時は、今日はずっとこの格好で過ごすわ」
見付かりませんように。
「信じている。きっと、貴方は探しだしてくれるって」
「お嬢様……。ぐ……」
不埒な俺を許して。
暫くしてアンが戻ってきた。
「隠してきましたわ。範囲は、この裏庭の中。ふふ、果たして、昨日召喚されたばかりのおじさんに見付けられるのかしら」
裏庭の中、とはいえ、かなり広い。
それに地中に埋められていたら、匂いは届かないかもしれない。
「いきます」
「ええ、頑張って、アレク」
瞳を瞑る。嗅覚に意識を集中させる為に。
何処だ? お嬢様のブルマの匂い。いや、これはそこに染み付いた、お嬢様のマンマンの匂い。
これは……見えた! 意外と近い。
膝を地に着け、匂いの源へと顔を寄せていく。
ここだ! ここに、間違いない。
「くんくん、すはぁ……」
「ちょ、アレク! やあん、そこは違うってば!」
瞳を開く。
お嬢様の手が見えた。股間を隠している手だ。
「……」
立ちあがった。
やっぱり、ちゃんと周りは見て確認しないと危険だよね。
スキルを解放。嗅覚向上により、情報が格段に多く入り込んでくる。
世界はこんなにも匂いと臭いで溢れていたのか。
「はっ、お昼は、スープパスタ」
「正解ですよ、アレク様。その調子で、お嬢様のブルマの匂いを探して」
ホワリンも応援してくれている。
「お嬢様のあそこに匂い。あそこの匂い。あそこの……。これは!?」
濃厚なチーズ臭があった。
発生源へと顔を向ける。アンがいた。
「……」
「な、なんですの」
リセット。目標はお嬢様のそれ。
「お嬢様は剃毛をなさっているから、もう少し薄め……。それに、同じ乳製品でもバターに近い。そう、バターを温めたような……」
「言わなくていいから!」
真っ赤になっているレリリイがいた。
もっと精度を上げなくては。
焦るな。スキルはちゃんと機能している。
アンがそれを手にしたところは見ている。予測もできるはず。
最初に彼女がいた位置に、ほんの僅かだが、ブルマの匂いを感じ取った。
「こっちか……」
歩きだす。
レリリイとアン、ホワリンもついてくる。マイウはもう立つのも面倒な様子だ。
ゆっくりと、だが、確実に近付いているのが確信できた。
木製のアスレチック具を越えて、奥へ。
そんなに長い時間をかけていないはず。感覚的にも近い。
だが、ここで迷った。
足が止まってしまった。
「む……」
「どうしたの、アレク? 見付かったの?」
「いえ、これは……」
もっと強い臭いがこの辺りには充満して、他の匂いを消してしまっていた。
これは――おしっこか!
犬? 猫? いや、これは、ついさっき放尿されたものだ。そして――。
「アンお嬢様、ここで用を足しましたよね」
「な、な、何を言って……」
じとっと他の皆で見詰める。
「うう、我慢できなくて。ここなら、見付からないかな、と、つい」
「し、信じられない。人の家、侯爵家に来て、庭で放尿するなんて」
これはレリリイは怒っていい。
「けど、これではブルマ探しは無理です。女のおしっこの臭いは、おじさんを惑わせます」
流石はブリーダー免許を持っているホワリン。よく分かっている。
実はちょっと興奮していた。
「ん……、ここまでにしましょ。アレク、ここまで辿り着いただけでも立派だわ」
「いいえ、お嬢様。まだです」
「え……」
ホワリンがレリリイの肩を叩いた。
「どうやら、アレク様はまだ諦めていないようです」
「アレク、貴方……」
この近くに、必ずお嬢様の使用済みブルマがあるはずだ。
必ず見付けてみせる。
スキルだけに頼っては駄目だ。感じるんだ、男の本能で。
「お、お嬢様、あれを!」
「アレクのもっこりが震えている!?」
周囲に全神経を集中し、微かに肉棒がピクッと跳ねた。
「こっちか……」
まだだ。
もっと……、もっと深く、意識を強め、お嬢様を求める欲求を繋げば――。
――アレクの所有するスキル「嗅覚向上」が変質します。「嗅覚向上レベル一」は「妄執の追跡者」に変わります。
言葉からして、ストーカー的なスキルにしか聞こえない。
が、その時、見えた。
「これは!? 匂いが、色になって見える」
桃色と黄色を混ぜたような淡い色を見付け、それを手繰り寄せるように寄っていった。
「ここだ……」
枯葉をどける。その下に、恋してやまない脳紺色が見付かった。
埃を払い、お嬢様に手渡した。
「間違いない……。私のブルマだわ。ああ、アレク」
レリリイに抱き付かれ、いつもと逆にこちらが彼女の頭を撫でた。
けど、お嬢様、その前に穿いてくれませんか。今、下半身丸出しですよ。
抱き付かれているので、肝心の部分が見えないけど。
「まさか、この状況で見付けるなんて」
どうやら地区代表のトレーナーを驚かせる事ができたようだ。
――――
レベルも三に上がっていた。
「ホント、変わったスキルね」
昼食後、子爵令嬢を半分追い出す形でご退場を願い、午後のトレーニング前の時間だ。
先程起きたスキル変化の事実をレリリイに伝えたところ、鑑定で見てくれている。
「スキルって、変化するものなんですね」
「うーん、あり得ない事はないんだけど、例えば、嗅覚向上ならレベルが徐々に上がって、超嗅覚とかになる事はあるわ。けど、こんなスキルは初めて」
「そうなんです?」
「ユニークスキルってやつかしら? ちょっと実験をしてみましょう」
「実験ですか?」
「うん。嗅覚向上の時から、考えてはいたんだけど、ちょっとメイドたちに協力してもらうわ」
「はあ?」
裏庭のトレーニング場に、三人のメイドが集まった。
せっかくなので、ここで彼女らを紹介する。
まずはメイド長。
長い金髪を後ろで結わえ、眼鏡をかけているので、第一印象は生真面目なベテラン。しかし、ご存じのように露出狂であるらしく、パンストの下に下着はなく、見せる事に躊躇いはない。ギャップが素敵な三十路だ。
彼女はレリリイお嬢様の担当でもあって、アレクも顔を合わせる事が多くなるだろう。
その度に、初日の透ける恥毛を思い出すんだろうな。
続いて、メイドA子。
短めのツインテールにして、愛嬌のある顔立ち。そばかすもポイントだ。
年齢はレリリイより一つ上で、同年代という事で、比較的に仲が良いらしい。新しい化粧品などの情報は共有しているとか。少し背は低めで、胸の膨らみは平均的だ。
アレクの肉棒を見て、ニヤニヤしていた事から、興味津々なのかもしれない。
それからB子。
緑色の髪って、まさに異世界だね。それをショートカットにしてボーイッシュな印象もあるが顔は可愛らしい。
二十歳でメイド服の胸元が垂直なので、おそらくお嬢様よりも小さい。
男の娘かと疑いたくもなるが、間違いなく女子。
アレクの肉棒を見た反応は、顔を赤くしていた。
A子とB子は、レリリイやローロンの担当、メイド長とホワリンが休みの時に代わりを行う。それ以外の時は、侯爵や夫人の身の周りの世話をしている。
「はい、ここに誰の使用済みパンツがあります。アレク、これを嗅いで、これが誰のか当ててみて」
「メイド長のではないのは分ります」
「凄いわ、見ただけで」
いえ、彼女、普段から穿いていませんよね。
お嬢様の持っている黒いレースのそれを嗅いでいく。しかし、これシースルー。こんなセクシーなのをどちらが穿いていたのか。
途端に、匂いが色となって見えた。
それからメイドらに向き直って、くん、と鼻を鳴らすと微かに流れてくる匂いがあって、それが確かな色となって見えるのだ。
後は同じ方を選ぶだけ。
「B子さん」
ボーイッシュな雰囲気なのに、意外と大胆なのね。
顔を赤くしながら、彼女が頷く。
「正解だわ。でも、今のは二分の一だものね。アレクは私の匂いは覚えている?」
「はい」
「なら、何処に隠れても直ぐに分かるわね。それじゃあ、メイド長とA子の匂いを嗅いで、かくれんぼをしましょ」
立っている二人に顔を近付け、メイド服や首筋などの匂いを嗅がせてもらった。
結果から言おう。
スキルが発動しなかった。
「どういう事かしら? もう一度、スキルの詳細を見てみるわ」
自分でも確認してみる。
妄執の追跡者――女性の体の最も濃い匂いを記憶し、その僅かな痕跡も感知できる。色として認識できて、追跡が可能となる。
「……ま、まあ、確かに、お股の匂いは強いかもしれないけど。そ、そんなに臭くなかったでしょ?」
「臭くないと言うか、エロいと言うか……」
「そ、それならいいでしょう。そうね、他に濃い匂いなら、腋の下とか?」
メイド長とA子を見ると、二人はスカートを捲り上げた。
そんなに腋の下を嗅がれるのが嫌? 股間よりも?
「失礼します」
まずはA子の前で、膝をつく。
ガーターベルトがセクシーで、白いショーツのクロッチが微かに食い込み気味になっていた。
顔を近付けると、そこは一段体温が高く感じて、蒸れが鼻先を湿らせてくる。
「やぁん……。ど、どう、アレク、興奮する?」
彼女は比較的にエッチな事への理解が高いのか、嗅がれる事にも興奮しているよう思えた。
嗅ぎ終える。
問題は次だ。
「さあ、どうぞ」
メイド長のストッキングに包まれた足を見る。大人びた官能的な脚線とむっちり感。
膝をついたままで、そこから顔を上げる。
パンストの中にはモズクがあった。そこから僅かに肉裂が覗けて、濃く香ってくる。
「あっ、アレクの鼻息が当たって。荒々しい鼻息が当たってぇ!」
この世界にAVは無いが、自分的には必要性を感じない。
検証の結果がどうなったか?
直ぐに見付けましたよ。
けど、そんなことはどうでもいい。
モズクが脳裏から離れない。
そして、オカズだけは豊富にあっても、お嬢様の目がある限り、肉棒を弄る事はできないのだった。
読んでいただいた皆様、ありがとうございます。
明日も更新する予定です。