9. 不死者における三大欲求
よろしくお願いします！
「生者と死者の違いは、他にも色々あります。最もわかりやすく、大きな違いは、俗にいう三大欲求についてですね」
「三大欲求……食欲、性欲、睡眠欲、だったかしら」
「そうです。生者には欠かせないそれらの欲求。それが、不死者にはほぼありません」
「確かに……そうね。空腹にならないし、もう真夜中なのに眠くもならないわ。あんなに暴れたんだから、そろそろ眠くなってもおかしくないのに」
「暴れた自覚はあったんですね」
「さすがにね。でも性欲はわからないわよ？今の状況ではないのが普通だし」
「ま、それはおいおいわかっていくでしょうね」
しばらくは彼女もここに通うことになるだろう。
楽しい患者も多いことだし、そうした人々と触れあっていけば、そうしたことを徐々に理解していくはずだ。
「でも……三大欲求って、人間には不可欠なものでしょ？それがなくなって……生きていけるの？」
「結論から言えば、生きてはいけますね。三大欲求は、生者として生きていくために不可欠なだけで、心の欲求とはまた違うものなので」
「……どういうこと？」
「たとえば、映画好きな人が映画を見たり、読書好きな人が新しい本に心を躍らせたりと、そういう欲求とは別物ということです。私たちは、不死者にはなりましたが、知識や感情がなくなったわけではない。生前の趣味や嗜好は死後もそのまま引き継がれます。だから、三大欲求がなくなっても、不死者にとって困ることはありません」
普通はね、と言うセリフは心の中に留めておいた。
なぜか性欲にこだわる某永遠の１７歳もいるし、死後も恋愛に夢見る某愛のこともある。
それでも生者とは違い、三大欲求の喪失がそのまま死に繋がるものではないことは事実だ。
「そう……でも、欲求がないというのも、なんだか味気ないわね。睡眠がとれないなんて、毎日長い夜を過ごすのは苦痛だわ」
「欲求はなくても、すること自体は可能ですよ？私はほぼ毎日寝ています」
「そ、そうなの！？」
愛に付き合わされて徹夜なんてこともあるが、基本私は毎日睡眠をとっている。
周囲もそういう人が多いようだ。稀に、２４時間を仕事や趣味で使い倒す猛者もいるようだが、大抵の人は生前と同じような生活をしている。
「じゃ、じゃあ、その……性欲も……？」
「うーん、セックスができないわけではないのですが、女性は基本濡れませんし、男性も勃起しませんから、合体するのは難しいですね。無理やりしたらポキッといきます」
「なにが！？」
ナニが。
某永遠の１７歳と初めて出会ったのもそんな理由だった。
できれば一生、出会いたくなかったと思う。
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次回は明日の更新となります。
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