8. 不死者の世界
よろしくお願いします!
「お疲れ様です、ご気分はいかがです?」
「悪くはないけど……痛みもないし、おかしな気分ね。これでもう終わったのかしら?」
「一回目は。同じようにあと二回、行っていきます」
「結構、大変なのね……」
ため息をつかれるが、こればかりは仕方がない。漏れがないように全身に万遍なく薬剤をいきわたらせなければいけないし、防腐剤以外にも、皮膚や内臓をコーティングする保護剤の投薬等も必要だ。更に、女性必須の瑞々しいお肌を保てるように、不死者用保湿クリームの塗擦もしていかなければならない。
「そうですね。なので、今夜はここにお泊りです。非常に面倒……いや、悲しいことですが、我慢してください」
「それはあんたの本心でしょう!?少しは隠しなさいよ!?」
はぁ、面倒くさい。
そもそも、この女が空港の研究施設で大暴れしなければ、ここで処置などしなくて済んだのだ。報酬のためだし仕方がないとはいえ、私にとって面倒なことには変わりない。相変わらずぎゃあぎゃあと無駄に元気のいい麗華を助手に頼むと、私は隣の診察室へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと、夕飯が出ていないんだけど」
「絶賛処置中なので、当然ですね」
防腐処置の最中になに言ってるのか、このバ――女性は。
2回目の処置が終わり、ようやく3回目に入ろうかと思っていた矢先だった。
日はとっくに暮れており、診療所も今日はもうクローズだ。助手も既に帰してしまったので、診療所にいるのは私と、処置中の彼女だけ。
彼女の状態を見つつ、薬の調整をしていたら、言われた言葉が理解できないものだった。
「え、今日は絶食ってこと!?」
「胃腸の中身をようやく排出させたのに、また入れてどうするんですか。そもそも空腹は感じないはずですが?」
「それはそうだけど……」
納得いかないのか、首を振りながら、麗華は視線をこちらに向ける。
全身固定されている状態なので、視線しか動かせないのだ。
「ねぇ、それって……これからずっと、食べることができないってことなの……?」
心なしか不安そうに尋ねる彼女に首を振って否定する。
「いえ、処置が終われば飲食自体は可能ですよ。明日の朝には食べられますから、それまで我慢してください」
「そう、なの……?え、でも、それ大丈夫なわけ……?」
不安そうな、それでいてどことなく期待しているかのようなその瞳に、少し考える。
今日は無理かと思っていたが、彼女が望むなら教示することもやぶさかではない。
不本意ながら、彼女の担当は私になってしまったことだし、日中仕事に追われながら彼女の面倒を見るよりは、ある程度現状を彼女に知ってもらった方が、私の負担も減るだろう。幸か不幸か、今は彼女と二人きりだし、他に火急の仕事もない。彼女のことにだけ時間を割けるので、効率もいい。
「ふむ。処置にもまだまだ時間がかかりますので、少しお話しましょうか」
頷く彼女の傍に丸椅子を置いて、まずは彼女の質問に答えることにする。
「どういう理由かはわかりませんが、不死者になってからも飲食はできます。不思議なことに、不死になってから飲食したものは、決して排出されることはないんですよ」
「そうなの?え、じゃあ、ずっと体の中にあり続けるってこと?」
「いえ。飲食したものは、いつの間にか体の中からなくなっているんです。あたかも、消化したかのように。生者の場合、消化や吸収ができなかったものが排泄されるんですが、不死者は排泄しません。こう言うと、では内臓で全部吸収されるのか、ということになるんですが、そうではないんですよ。たとえ内臓のないスケルトン――骨のみになっても、同じ現象が起こることは既にわかっているので。ただ、残念ながら理由はいまだに不明です」
「ちょっと待って!?スケルトンって、え、骸骨が生きてるの!?」
「脳みそさえ健在であれば、スケルトンでも生きられますね。ただ、色々と不便にはなるようですが」
知り合いのスケルトンを思い出す。源さん、最近会ってないけど、元気だろうか。
「そ、そう……骸骨になっても生きられるのね……。初めて知ったわ」
「あちらの世界では、公表されてませんからね。こちらの世界でも、今では割と珍しいかもしれません」
いないことはないが、初期の頃より全体数はかなり少なくなっている。
生前と同じような外見で不死者になる技術が確立されたし、なによりスケルトンになりたがる人はそうはいないことが要因だ。
「不死者であっても、飲食は可能ですが、先に説明したように、味覚は鈍くなります。初めはあまりにも味気なくて驚くと思いますよ」
「……それ、食事する意味あるの?」
「不死者用に開発されたものも多いですからね。味については、明朝のお楽しみにしましょう」
味についての詳細は後ですることに決める。
こちらについては、色々とセンシティブな側面があるためだ。
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次回は明日の更新となります。
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