4. 愛と憎しみは紙一重
よろしくお願いします!
「あっ、やっと帰ってきたぁ。おかえり、きぃちゃん♪」
「……またお前か、愛」
今日も今日とてお仕事が終わり、帰ってきた家の玄関前に座っていたのは、神崎愛。
享年24歳。どこぞのギャル風味のキャバ嬢、という出で立ちで能天気に手を振っている。
「はぁ……とりあえず、中入って」
「あっりがと~♪」
今さら遠慮するような仲ではない。勝手知ったる家の中、愛はずかずかとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。中にはビール缶がずらっと並んでいる。
「うわ~、相変わらず侘しい冷蔵庫ね~。適齢期の女性の自宅とは思えないわ!」
「やかましい。それ、一本取って」
「はいはーい♪焼き鳥買ってきたけど、食べるよね?」
「……もらう」
ビールに焼き鳥、生前から変わらない飲兵衛の鉄板だ。
死んだ後の今の意味合いは、大きく異なってはいるけれど。
リビングのテーブルに手早く並べると、愛は自分の分の缶を差し出してきた。
乾杯、と軽く缶を突き合わせ、いつも通りソファにもたれかかる。
「で、今日はなに」
愛のお気に入りのドラマなら、先週で終わったはずだ。
一人で静かに見ればいいのに、毎回私を巻き込んで泣いたり笑ったりの大騒動。
ようやく終わったので、今日は静かな夜が過ごせるのかと思っていたのに。
肉風味のビールをぐいっと煽りつつ、同じく肉味の焼き鳥に舌鼓を打つ。
ビールの炭酸はほぼ感じられないが、ふわっと香るビールに、ほろ酔い気分を味わえたような気になった。
「そうそう、聞いて!あたし、とうとう恋人できるかも!」
「へ~そりゃよかったね。で、今度はどんな男に騙されるつもりなの」
「なんで騙されるのが前提なの!?」
「だって、昔からそうだったし」
「た、確かに生前はそうだったけど、今は違うから!」
「はいはい、それで、どんな男なの」
「あのねっ、めっちゃかっこいいの!顔がね、アイドルの三倉くんに似ててね、でも身体は細マッチョな感じで逞しくて!なにより優しいの!私が男に振られて落ち込んでたら、「大丈夫?」って聞いてくれて。それが出会いのきっかけなんだけど♪」
「……色々つっこみたいんだけど。また振られたの?」
「またとか言わないで!そいつは最悪だったのよ。貢がせるだけ貢がせて、他に好きな人がいるから、あたしとは付き合えないとかほざいたのよ?」
「……以前も同じようなことがあったよな?」
しかもその時は刃傷沙汰になったような。
不死者はケガをすることはないが、今日診察した彼のように、首を刎ねられたらさすがに生活に支障が出るだろう。
そうなっていないことをひそかに祈る。
微妙な顔をした私に、愛は自分を心配してくれたと勘違いしたのか、安心して、と笑う。
「大丈夫、ちゃんと自分の敵は討ったわ!ちょっと首チョンパするだけで済ましたから!」
「……あのデュラハンはお前のせいか!」
今日診たデュラハン――もとい、首を落とした患者は、どうやら愛が造ったらしい。
余計な患者は増やさないで頂きたいものだ。
「あ、きぃちゃんとこ行ったんだ?私もやりすぎたかなってちょっとだけ思ったからさ、ちゃんときぃちゃんとこ紹介しておいたよ」
「それはありが――いや、そうじゃなくて!余計なもん造るなっての!」
「でもでも、上手に首チョンパできてたと思わない?ほら、何回も色々斬っていたから私も腕が上達したみたいで」
「それ以上人斬りの腕上達させてどうするの……」
生前も似たような状況はあったが、さすがに相手に傷を負わせるようなことはなかった。
せいぜい私の前で恨み言を言いながら管を巻いてる程度だった。
毎回付き合わされているこちらはうんざりだったが、幼馴染という間柄も手伝い、ついついそのまま来てしまった。
……もっとも、死後までこうして付き合うことになろうとは思いもしなかったが。
「いやぁ~、なにしても死なないじゃない?逆に言うと、なにしても相手に致命傷なんて与えられないからさ、少しでも記憶に残せるようにと思ってね?」
「いや、残すなよ。120%、負の記憶だよ?」
「いいのよ、それで。これに懲りれば、ちったぁ相手も学ぶでしょ?」
「……ふむ、確かに」
そもそもが、女性を騙して金をむしりとるという、男の風上にも置けない屑だ。
やりかえされても自業自得と言えよう。
首を落とすのはやりすぎではと思わないでもないが、不死者だし、多少の暴力では全然こたえないので、罰としてまぁ妥当ではないか。
「まぁいっか。あ、でもやりすぎて消滅させるのはさすがに駄目だからな」
「わかってるって。そんでね、そのアイドル男子なんだけどぉ」
いつものように話を聞き流しながら、今日も穏やかに夜は更けていく。
少しでもお気に召した方は、是非ブックマーク・評価等して頂けるとありがたいです!