17. 桐生院麗華、現る
よろしくお願いします!
「……で、どういうことなんでしょうねぇ」
翌日、早朝。
厄介な患者から解放されたことで、安心して診療所を開けた途端、入ってきた厄介ごとに思わずため息を漏らした。
「いやな、彼女がどうしても、ここがいいんだって聞かなくてな」
「うち、人材募集はしていないんですが」
言いながら、きょろきょろと周りを見回している麗華を見る。
そう、どういうわけだか、中央政府の職員――平岡が、彼女を連れて再びやってきたのだ。
それも、「雇ってやってくれ」とわけのわからないことを言いながら。
「まぁまぁ、人手が足りない時があるって愚痴ってただろ?」
「それは、あなたが患者を送り込んでくるからですよ」
通常業務は、本来そこまで大変ではない。
そもそも、生前の時とは違い、ちょっとくらいのことでは不死者は怪我などしないのだから、診療所に来ることなんて稀なのだ、普通なら。
だからこそ、そうした患者が来た時には、結構大変だったりもする。
そんな時に、厄介な患者を送り込まれれば、それは人手も足りなくなろうというものだ。
横目で睨むと、平岡が笑いながら肩をすくめる。
「ま、試しに数日、雇ってやるだけでいいからさ。どうしても無理ってなら、それはそれで考えるから」
「そうは言ってもねぇ……」
興味深げに薬品棚など見ている麗華に、またため息が出てしまう。
彼女になにができるだろう。
正直言って、何もできそうにないし、他の患者とトラブル起こす未来しか見えないのだが。
「あなた、なにができるんです?」
「そうね、とりあえずは掃除したいわ。ここらへんに適当に積まれてる本や薬品も片づけたいわね」
「……ほぉ」
どうやら、ただうろちょろしてたわけじゃないらしい。
最近忙しくて、そのあたりは手がつけられず、気になっていたところだ。
助手がいるが、一人だけで、私が多忙な時は必然彼女も多忙になる。
簡単な掃除はともかく、面倒なことは後回しになることも多かった。
そんな時、もう一人いればいいと思ったことは確かだ。
「な、ほら、数日だけでも!頼むよ、先生」
「……いいでしょう。ただし、他の患者とトラブル起こすようなことがあれば、即刻クビにしますからね」
「わかってるわ、大丈夫よ」
自信満々に言う麗華に早速不安になった。
本当に大丈夫だろうか。もしかしたら、早まってしまったかもしれない。
考えているうちに、平岡はこれで用は済んだとばかりに足早に帰っていった。
「おはようございます。あら……?」
入れ替わりに入ってきたのは、助手の鈴木さんだ。
麗華を見て首を傾げる彼女に、経緯を説明すると、諸手を挙げて喜んだ。
「あらあら、こんな綺麗なお嬢さんがいてくれると、患者さんが喜びそうね」
「ふふ、ありがとうございます。申し遅れましたが、桐生院麗華です。どうぞ、よろしくお願いしますね」
ひとまず、助手との関係に心配はなさそうでほっとした。
これまで女二人、特に問題なくやってこれたこともあって、気まずくなるのは避けたい。
「それじゃ、わからないことは鈴木さんに指示を仰いでくれ。鈴木さん、よろしく頼むよ」
「はい、わかりました、先生」
まずは診療所の案内だ、と鈴木さんは麗華を伴い、診察室を出ていった。
心なしか嬉しそうにも見える。麗華の世話は鈴木さんに任せ、私は診察の準備を始めた。
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