14. 不死者の食事2
よろしくお願いします!
「そしたら、飲まなかったでしょう、あなた」
「ぅ……そりゃ、こんな味だってわかってたら……」
「騙し討ちみたいで申し訳ありません。でも、わかりやすいでしょう?これが、不死者の味覚なんですよ」
「……っ!」
大きく目を見開いて、絶句する麗華。
衝撃を受けたように呆然としながら、ペットボトルを見る。
あちらの世界で見慣れたラベルのお茶は、おそらく一度は飲んだことがあるだろう。
中は普通の緑茶だ。ペットボトルのお茶特有の緑色の液体。当然、腐ってなどいない。
与えたレトルト食品も、白米と鶏肉が入った、素朴なもの。
日本人の口に合うよう開発されたそれは、格段おいしいとは言えなくとも、吐き出すほどひどいものではないはずだ。
「……嘘つきね。『味気ない』だなんて、そんなレベルじゃないわよ、これ。ほとんど味がしないし、なのに変な香りがするなんて」
そこら辺は、ペットボトルやレトルト食品の容器が関係しているともいえる。
味覚と同じく、嗅覚も衰えているのだが、なぜかいやな臭いはわかってしまうという悲劇。
逆に、葉から入れたお茶や、自身で炊いたお米であれば、その辺りは軽減する。
だが、そこまでしたところで味そのものにそこまで変化があるわけではないのが悲しいところだ。
もういいわ、と食事を遠ざけた麗華に、私はさっき避けた食事を机に並べていく。
「……?なに、さっきと同じもの……ではないみたいね」
「ええ、レトルトという意味では同じですけどね。ま、試してみてください」
あちらの世界では見かけないラベルが貼られたレトルトパウチを、麗華は不審そうに見つめた。少し躊躇していたが、やがて決心がついたように、パリパリとはがしていく。
「……っおいしい……!」
「レトルトなので、それなりですけどね。さっきのよりはマシでしょう?」
こくこくと頷きながら、白米を食べていく麗華。
諦観の表情から、輝くような表情へと変わっていく。
普通に食事がとれたのがよっぽど嬉しいのだろう、笑顔になっている。
そういえば、昨日からずっと怒った表情や悲しそうな表情しか見ていなかったことに気づいた。
「ん……、これ……緑茶じゃないの?普通に美味しいんだけど」
一口飲んで安心したのか、ごくごく飲んでいる麗華。
「ええ、緑茶で間違いはないですね」
「ふぅん?……ごちそうさま。それで?さっきのとずいぶん違うってことは、なにかあるのよね?」
綺麗に食べ終えると、麗華は探るように尋ねた。
さすがに気づくか。食べ比べた食事は、メーカーが違えど、内容はほぼ変わらない。
にも関わらず、一方は吐き出すほどまずく、もう一方は普通に食べられるのだ。
何かあると思うのも当然である。あちらの世界では見慣れないラベルをじっくりと見ている麗華に頷くと、私は自分用に持参した緑茶で喉を潤した。
うむ、相変わらずそこそこの味だ。
爽やかな緑茶の香りに混じる、ほんの少しの肉風味。
「こっちの食品は、不死者用に開発されたものなんです。味覚や嗅覚が著しく低下した私たちでも、美味しく感じられるようになってるんですよ」
「へえ……なにか特別なものが入ってるの?」
ペットボトルを手に取って首を傾げている麗華に頷いて、成分表を指した。
「……『第六味』……?」
「そうです。これが我々の食事を美味しくさせているんですよ」
「聞いたことない成分ね……なんなの?」
「簡単に言うと、人肉フレーバーですね」
「ぶふっ!?」
今度は華麗に避ける。お茶を含んでいないタイミングでよかった。
「ちょ、なんてもん食べさせてるのよ!?えっ!?嘘よね?まさか、本当に……」
見る見るうちに青ざめていく麗華を、落ち着かせるように手を振って見せる。
「あくまでフレーバーですよ。本物を使っているわけではありません」
「よか……ってよくないわよ!なんでそんなものを……!」
「私たちが、そういう生き物だからですよ」
ご存じでしょう、そう言って目をのぞき込む。
麗華は一瞬、今までにないほどの悲痛な表情を見せて、きつく唇を噛み締めた。
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