13. 不死者の食事
よろしくお願いします!
「お腹がすいたわ!食事はまだなの!?」
今日も朝から非常にうるさい。
ここはカリノ診療所、私の愛すべき職場だ。
昨夜、防腐処置した桐生院麗華が、ベッドの上で叫んでいる。
……なんでベッドの上に仁王立ちしてるんだ、こいつ。
「……おはようございます。朝からうるさ、元気ですねぇ、無駄に」
「本音駄々洩れてるわよ!無駄じゃないわ、元気なのは素晴らしいことでしょ!」
「そういう元気は要らないです。……お腹が減ったとか言いました?」
「言ったわよ!あんたが来るの、一時間も待ってたのよ!早くご飯を食べさせてちょうだい!」
一時間も前からこうして仁王立ちしてたんだろうか。
私が病室に入るまで静かだったので、そこは彼女なりに気遣ったということらしい。
「おかしいですね……不死者は空腹を感じないものですが」
「気分よ、気分。そう思っていた方が、食事がおいしいでしょ」
「……なるほど」
確かに、空腹に勝る調味料はないだろう。
多少まずかろうが、味が薄かろうが、腹が減っていれば関係ない。
少し感心したが、胸を張っていばるほどのことではないと思う。
「ほら、早くしてちょうだい!」
「はいはい、わかりましたよ」
部屋を出て、奥にある所長室に入る。
普段、仕事中に休んだり、仮眠を取ったりできる部屋は、さながら私の第二の部屋ともいえる、心のオアシスだ。
そこには小さな棚や冷蔵庫も完備されており、私専用のおつまみや缶詰などが常備されている。
「……こんなもんかな」
幾つかを取り出すと、次は診察室の前の休憩室に入り、同じように完備されている冷蔵庫と棚を漁った。
こちらは、今回のような患者のための食事だ。
こちらも幾つかを取り出し、ふと気がついて、休憩室に置いてあったバナナを一本もいだ。
ついでに調味料も一つ、ポケットに入れていく。
そうして、再び麗華のいる入院個室へと向かう。
「はい、お待たせしましたよっと。……はい、どうぞ」
「ありがと……って、なにこれ!?レトルト食品じゃないの!」
目の前に並べられた食事に、期待していたような目で見ていた麗華が不満気に叫んだ。
あちらの世界でも有名な、某社のレトルト食品。
非常食用としても重宝するそれは、常温で温めずともそのまま食べられるのが売りだ。
料理する手間を省けるので、生前は私もよくお世話になっていた。
昨今の技術により、味もそこそこになっている。
あくまで、レトルトの中ではそこそこなだけで、手作り品とは比べるまでもないが。
「はぁ、そうですね」
「おかしくない!?普通、病院で出るのって、病院で作られた病院食じゃないの!?」
「だから、ここは病院じゃなくて診療所だっての。泊りがけの治療なんてほとんどしないし、あっても食事なんか出さないよ、面倒だし」
「期待しとけって言ったじゃない!」
「そんなこと言いましたっけ?」
はて、記憶にないのだが。
……ああ、そういや、味について説明する時、お楽しみにとか言った気がする。
でも、期待しろとは言ってない。
「本来、食事なんか出さないんですから、あるだけマシだと思ってください。あ、これ飲み物です。粗茶ですが」
「ペットボトルでも粗茶って言うの?はぁ……がっかりだわ。こんなレトルト食品なんて、美味しくないに決まってるのに」
ぶつぶつ言いながらもレトルト食品に手を伸ばす麗華。
それを見るともなしに見ながら、隣のベッドにある机に、別の食事を置いていく。
並べられた食事を麗華は怪訝そうに見た。
「なに、あんたもここで食べるの?」
「いいえ。――それより、お味はいかがでしょう?」
「お味って、そんなのレトルトだから美味しくないに決まってるじゃない。食べなくてもわかるわよ」
「文句はいいので、さっさと食べてみてください」
「なんなのよ……ぐぅっ!?」
一口食べた後、おかしな擬音を響かせながら、麗華は変な顔をして睨んだ。
理由はわかるので、用意しておいたペットボトルの蓋を開けて、彼女に渡す。
我ながらとっても甲斐甲斐しい。
「はい、どうぞ」
「っ……ごくごく、ぶはぁっ!?」
「ちょっ……吹き出さないでくださいよ!?」
慌てて、布巾を手にとり、机をふいた。危なかった、避けなかったら私の顔にまで直撃してたかもしれない。朝から散々な目に合うところだった。
「ごほっ、ごほっ……!な、なにこれ、味、おかしいなんてもんじゃないんだけどっ……!」
「そうなんですよね。お茶って、なぜかこちらの世界では美味しく感じられなくて。多分、ワースト3に入ると思いますよ」
「はぁっ!?わかってるなら、どうしてそんなもん飲ませるわけ!?」
「日本人的には、一番わかりやすいかなと思いまして」
「だったらせめて、飲む前に教えなさいよっ!」
それはあまりにつまらな……いや、意味がないではないか。
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