11. 不死者の世界3
よろしくお願いします!
「でも、死んでから犯罪する人もいるでしょ?」
「いますねぇ。数は少ないですけどね」
「そういう時はどうするのよ?」
「普通に処刑されますよ?」
「いきなり処刑!?」
「それも、裁判なしに即日で」
「なんていう恐ろしい世界っ……!」
「善人に優しい死後の世界へようこそ」
両手を広げてにこやかに言うと、引き攣った顔で首を振られたので、まぁまぁ、となだめた。
不安が高まってまた暴れられても困る。
今は私一人しかいないのだ。
「普通に生きていれば、生前よりは生きやすい世界だと思いますよ」
「そう……、……よくよく考えれば、当然よね。生前犯罪をした者はいないのだから、普通に考えれば治安もいいはずだし……」
「そうそう。ほら、この診療所だって、ちょっとケガをした人が来る程度ですし」
「そう……安心したわ。でも、ゾンビなのにケガなんてするの?」
「不死者になると、生前よりも力が強くなるんですよ。力加減がうまくいかなくて、最初は結構苦労します」
「そうなの?物を壊しちゃうとかそんな感じかしら?」
「はい。あとは、自身や他人を傷つけてしまったり……」
「傷つける……たとえば?」
「最近診たのは、首チョンパされたデュラハンですかね」
「思ったより100倍酷かったわ!?」
「大丈夫ですよ、ちゃんと首を繋げましたから。私、こう見えても腕はいいので」
そういう問題じゃない、とわめく麗華に肩をすくめてみせる。
「まぁ、そんなんでも大丈夫ですし、そのために私のような存在がいるわけですし。大抵のことはどうにかなりますから、ご安心ください」
「安心要素が皆無なんだけど!」
「それで……どうやって生活するか、でしたっけ?」
大分ずれてきた話を強引に戻す。
時間は有限なのだ。だらだら話していたら、あっという間に朝になってしまう。
「学生は、基本寮に入って、勉学に勤しみます。普通に高校生、大学生をしていますよ。それで、卒業したら就職して社会人生活が始まります。……生前とほぼ変わらないですね」
「お金については、どうなってるの?私、無一文なんだけど」
「しばらくは支度金が出ますから、生活の心配はありませんよ」
こちらに来た時点で、皆無一文だ。
生前持っていた物をこちらの世界に持ってくることは許されない。
たとえ、家族の写真一枚であっても、だ。
着ていた服でさえ着替えさせられ、裸一貫で出直すことになる。
そこに生前の身分や性別は関係ない。
初めは、学生は基本寮に、社会人は専用アパートに入居することになる。
こちらの世界では、賃貸料は基本かからないため、割と余裕のある生活が可能だ。
「家賃いらないんだ……」
「あと、電気や水道料金も基本はかかりません。使いすぎている場合は超過使用料という形で徴収されますが、まぁ滅多にないですね」
元の世界基準でいえば、支払いが必要なのは、携帯代や嗜好品程度だろう。
そもそもが不死者なので、いざとなれば身体一つあればどうにかなる。
なんせ、食事や水すら不要なのだから。
「税金とかは、どうなってるのかしら?」
「所得税と、一部贅沢品に税がかかるくらいですかね。それ以外はありません」
「それでよく経済が成り立つわね……」
「不死者にとっての生活必需品は、そう多くないですからね。基本自給自足で事足りますから」
食事はあくまで嗜好品であり、それ以外の何物でもない。
生前の時のように、世界中から食品を輸入せずともこちらの世界の物だけで基本的には事足りる。
食品以外の物についても同様だ。
不死者によって開発された物も多く、それらを売買することで利益が出るため、不足品をあちらの世界から購入することもできる。
病気にかからないから、医療費は要らない。
老後はないから年金も要らない。
出産することはないから、出産・子育て費用もない。
こうして不要なモノを削ぎ落していけば、税金などさほど取る必要などないということがわかる。
「なんだか、良すぎて怖いくらいね……」
「まぁ、その分色々制限はありますけどね」
たとえば、こちらの世界に車や別荘を所有している者はいない。
領土が限られているため、一人あたりが所有できる土地はそう多くないのだ。
自給自足ということもあり、エネルギーの活用も制限されている。
こちらに住む人々の移動手段は、電車やバス、自転車であり、それ以外はほぼ徒歩だ。
車はあるが、電気自動車のみであり、個人で所有はできないため、乗るためにはレンタカーを借りるしかない。
それも、たまに遠出する時に利用する程度である。
自宅に関しても、一軒家を所持している者はほぼいない。
この世界で、土地付きの家は贅沢品だ。
寮やアパートの賃貸料が無料な分、一軒家を持つとなると、目玉が飛び出るほどの金額を支払わなければならない。
維持費に関しても、莫大な税金がかかる。
こうして、ほとんどの不死者を公共住宅に住まわせ、土地の消費を抑えることで、中央政府は土地を有効活用しているのだ。
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次回は明日の更新となります。
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