表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/164

全身全霊を使って

今回短めです。

(参ったな)

(まずいね)



 ピーターとシュエマイは、向き合った状態で、上にわずかばかり意識を割いた。

 おそらくは〈教皇〉の方。

 広域殲滅魔法を使い、この研究所を薙ぎ払う意図があるらしい。

 これが意味するのは、短期決着の必要性。

 ピーターは、さっさとシュエマイを最低でも戦闘不能にまで追い込み、そのうえでミクを連れて全員で脱出しなくてはならない。

 シュエマイは、ピーターを即時拘束し、ミクとともに巨大キョンシーに融合させなくてはならない。

 



「ここからは、ただの力比べだよ。やろうか、〈神霊道士〉」

「来なさい、餓鬼が。制圧してやる!」



 最初に突っ込んだのは、ハルと、もう一体のモンスター。

 透明な翼と、白い胴体、細長い手足。

 細長い、針のような口と、それに不釣り合いな平べったい顔面。

 いつの間にか現れた、蝉型のキョンシーである。

 ハルやリタよりも速度で勝る。

 さもありなん。

 そのモンスターこそは、彼の切り札が一体。

 「無敵甲殻」という名の、一点もののキョンシーである。


 

 ◇



 「無敵甲殻」というモンスターは、元々羽化したばかりの蝉型モンスターの死骸を元に作られた。

 今ピーターと対面している白蝉体と、外でアンバーやペリドットを相手取っている抜殻体が存在する。

 つまり、蝉としての本体と抜殻としての分体があるということだ。


 分体の能力は、HP上限の共有。

 本体のHPが満タンであるとき、抜殻である分体もまた、決して傷つくことはない。

 外からの侵入者はどれだけ抜殻を攻撃しても無駄だ。

 内部にいる本体をたたかない限り、倒すことは叶わない。

 ゆえに、シュエマイも本来は本体を使う予定はなかったが、〈精霊姫〉と〈教皇〉が原因で、戦力を切らしてしまっている現状、使えるのがこれくらいしかなかったのである。

 本体は、速度型。

 速度に特化しており、AGIはハルの倍近くある。

 それは、到底ピーターが反応できる速度ではなく。



 ピーターは。



「【ネクロ・スロウ】!【ネクロ・スピード】!」



 ハルに、アンデッド専用のバフを、白蝉に対してデバフをかける。

 これで、速度の差はわずかに埋まった。

 だが、それでも未だ速度では上回られている。

 蝉は、ハルに突っ込む――ことはしなかった。

 


「主様!」



 彼の目的は、ハルの撃破ではない。

 そこには何の価値もない。

 ただ、ピーターの確保だけが目的である。

 ゆえに、盾役を無視して、本丸をたたきに来るのは当然の反応ではある。

 


 だが、それをピーターもまた察している。



「ぴーたー!いま!」

「了解!」



 彼女の言葉に合わせて、リタの本体を展開。

 家屋で物理的に、【トリック・ルーム】によって視覚的にふさがれる。

 そして白蝉を閉じ込めて、ピーターは、扉を開けてゴーストハウスの外に飛び出した。

 最後の切り札を当てるために。



「【スロウ(・・・)】」

「な、に?」



 ピーターが使った魔術は、【スロウ】。

 〈呪術師〉などが使う、ごく初歩的なデバフだ。

 が、ピーターは魔法としては習得していない。

 ゆえに、一から術式を理解して、【ネクロ・スロウ】を元に魔術を構築していった。

 今はまだ、【スロウ】以外の魔術は使えない。

 彼の才能では、二か月以上努力しても、ただ一つだけ習得するのが、精いっぱいだった。

 けれど、今はそれで十分。



 その一手で、対応が遅れる。

 遅れれば、それでハルの全力の一撃が決まる。



「【ハルバード・ブレイク】!」

「【金剛符】!」



 ハルの全力を、シュエマイもまた、魔法で硬化した符で受けとめ、はじき返した。

 シュエマイは受けきれず、バウンドして地面を転がるが、一方でハルは今度こそ動けなくなる。

 力尽きたのだ。

 死ぬことはないが、もうまともに動けないし、修復も働かない。

 【霊安室】で怨念に制限があるハルゆえの弱さである。



「競り負けた……。まだだ!」



 【金剛符】の硬度がハルを上回ったがゆえに、負けてしまった。

 だが、それでもまだできることはある。動かなければならない。

 ボロボロの体を突き動かして、走り出して。

 シュエマイもまた接近し、勝利を確実に決めようとして。



 動きが、止まった。



「はあ?」

「申し訳ありません、お父様」



 誰かが、シュエマイの手を掴んでいたから。

 誰かは、ミクだった。

 この土壇場で、完全にミクはピーターの側に就いたのだ。

 ようやく、シュエマイもそのことに気付く。



「ふざーー」

「おい」



 声に反応し、シュエマイは振り向く。

 そこには、ピーターの拳があった。

 この二か月、体を鍛えた成果が。

 最後の一滴まで絞り出した、彼の全身全霊(・・・・)の一撃が。



「があっ」

「これで、終わりだ」



 顔面にめり込み、シュエマイは地面を転がって。

 動かなくなった。

 ようやっと、戦いは終結した。



 




 

感想、評価、ブックマークよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ