マジックストーンと飛び回る少女
今回短めです。
「それにしても、本当に無事でよかったわよ。リタちゃんが、あわててたわよ」
「しんぱいしたよ!」
リタが顔を真っ赤にして怒っているのを見て、ピーターは可愛らしいと思いつつも、罪悪感を抱いた。
「ごめんね、心配かけて。でも、もう大丈夫だから」
「ぴーたー、なんでわたしをださなかったの?」
リタの機嫌がよろしくない。
そういえば、スキルの反動で死にかけたことがあっても、食われかけたことはなかったなと思い出す。
もっとも、あれは食われたというよりは封じられたといったほうが正しい。
内部には消化液の類はなかったし、何よりアンデッドの生命活動は停止している。
あるいは、捕縛されたというべきか。
あの精霊も死にかけていただけだったことも踏まえると、おそらくは捕獲するためのキョンシーだった
「わたしをだしてれば、かくじつだったのに」
リタの本体であるゴーストハウスを出していれば、確実に勝てた。
それは間違いないが、同時にリスクが高い方法でもある。
リタを失うことは、絶対にあってはいけないことだ。
分体でさえ、倒されるたびに発狂しているような精神のピーターにはそのリスクは侵せない。
リタもそれはわかっているし、体節にされているという実感もある。
だが、そのためにピーターが死んだら意味がない。
生物(純粋にはもはや生物ではない)に飲み込まれる光景は衝撃的だったらしく、かなりショックを受けている。
「ごめん」
「わかってる」
「ほら、あの、飴あげるから、ね?」
「……わかった」
十分に納得したわけでもないだろうが、リタは引き下がった。
「それにしても、何でキョンシーがいたんでしょう……」
アンデッドの存在は聞いていない。
だからこそ、対応が遅れて苦戦したのだ。
「普通に言い忘れてただけじゃない?あのフランシスコよ?」
「今までにも抜き打ちで色々やってくれたんだし、今更かもしれないね」
「まあ、それはそうですね……」
先日のゴーレムの時も、数とゴーレムという説明だけで、どのような性質かは明言してこなかった。
逆に言えば、ゴーレムという種族に偽りはなかったということでもある。
むしろ、何かしらのアクシデントでこのキョンシーが紛れ込んでいたと考えておくのが自然だろう。
とはいえ、万一フランシスコがピーターを嫌っていたを考えると、下手に直接宝庫濃くするのは躊躇われる。
シルキーには言っておこうか、とピーターは考えて。
「誰だ!」
ピーターは咄嗟に叫んだ。
背後の気配に、気づいたからだ。
視界の端に、飛び去って行く人影を見た。
その飛び方には、見覚えがあった。
彼女は、間違いなく自分を助けてくれた少女、ミク・チャンシーであった。
「ピーター、どうかしたのかい?」
「いや、何でもないです。さっさとクリアしましょう」
そういって、ピーター達は歩を進め、十分ほどして宝箱を得ることに成功した。
その後は特に何事もなく、入口まで戻った。
◇
「いやあ、何とか全員生存です、良かったですねえ。クリアできた人はおめでとう、リタイアしちゃった人は頑張ってくださいね、とりあえず宝箱の中身を空けてみてください」
「「「「「「「「?」」」」」」」」
生徒が、全員揃ったのを見計らって、フランシスコが声を張り上げる。
生徒たちは彼の意図が全く分からないまま、とりあえず宝箱を開ける。
ピーターも、マルグリットやジーク、リタとともに箱の中身をのぞき込む。
中身は、無色透明のぴかぴかと光る意思が入っていた。
「宝石?」
「マジックストーンじゃない?それも無色の」
「そうです、鋭いですねえ。さすがランドウォーカー家」
「そこに魔法を込めて、プレゼントするとかもよし、売却するもよし、とりあえず一人二つ取ってね。よろしくお願いします」
「お互い、それぞれ二つずつ魔法を込めて贈り合う、というのはどうかな?」
「いいわね」
「いいですね」
「私のは、そうね、【ロック・トゥ・スライム】。立ち回りやすさを意識して、土を柔らかくする魔法を込めたわ」
マルグリットが込めたのは、一見地味なようにみえるが、実は有用な魔法だ。
相手を足止めしたり、或いは壁を壊して逃げたりと様々な使い道がある。
「僕の方は、【ブリザードサークル】。氷の障壁を作り出す魔法だよ。自分の周囲を囲むように展開される」
ジークの方は応用性は低いが、スタンダードな魔法。
使い道に困ることはないだろう。
むしろすぐに使ってなくなってしまいそうだ。
「「ピーターはどんな魔法を込めたの?」」
「えっと……」
ピーターは、一瞬口ごもってから、答える。
「アンデッド用のデバフ、ですね」
「「…………」」
「すみません、まともに使えそうなのが、これくらいしかなくて……」
技術的に、彼の場合はこれが限界なのだった。
「リタ、浮かない顔だね。どうしたの?」
「ぴーたー」
彼女は、不機嫌そうな顔、というよりむしろ疑問がある、といった顔だった。
そういう顔をすることは、珍しい。
そもそも、基本的に彼女が不満などの負の感情を持つことはない。
万が一にもそうならないように、ピーターが細心の配慮を重ねているからである。
だが、そうなってしまう時はある。
今もそうだ。
「どうして、あいつのこと、だれにもいわないの?」
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