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魔術師の匣

 ダンスパーティが終わってその翌日以降、ピーターはこれまで同様変わらぬ日々を送っていた。

 シルキーの訓練、学院での授業、学友との交流。

 だがそれは、何の変化もないことを意味しない。



「つまるところ、邪属性と聖属性。まるで、違うものではあるのですが、似たような性質を持っているのです」

「先生、それは都合の悪いものを消し、良いものを産むということでしょうか?」

「いえ、結果だけの話ではないですね、むしろ過程、或いは起源の話」

「「「「……?」」」」

「あまり知られていませんし、教科書にも記述がありませんが、説明しましょう。エーテルというものがあります。エーテルは、我々の霊魂に含まれています」


「そして、そのエーテルが感情の発露とともに、聖気あるいは邪気として排出されてしまうのですねえ」


「そして、邪属性魔法は魔力を行使して、邪気に干渉することによって魔法を行使することができます」


「したがってーー」


 ……このように、授業の難易度は上がっていった。

 教授陣は、その分野の専門家であり、万人向けの教科書だけではおさらいすることは出来ない。

 全く予習できていない内容をいきなり振られたので、どうにもならないようなこともあり、生徒同士で相談したりすることが増えた。

 そして、授業がハードになったのは、何も座学に限った話ではない。

 実習、すなわち魔術戦闘訓練においても、難易度ははるかに上がっている。



 ◇



「い―やあ、皆さん、お疲れさま!」



 教室には三種類のものが存在していた。

 ピーター達生徒、教授であるフランシスコ・チャイルドプレイ、そして五体のゴーレム……の残骸。

 それぞれ火属性無効、水属性無効、風属性無効、地属性無効、物理無効の五体である。

 そして、全てを同時に破壊しないと一分程度で修復し、なおかつ修復するまでの間ステータスが格段に上がり、手を付けられなくなる。

 ゆえに、生徒が連携をとって、同時に破壊することが求められる。



「じゃあ、お疲れさまー!しばらく休んでね、来週は校外学習します!」

 


 そういってフランシスコは出ていった。



「お疲れ、ピーター」

「ああ、ジークさんありがとうございます」



 ふらふらになった状態で、ジークの手を取ってふらふらと立ち上がる。


「来週は、ダンジョンに潜ることになるわね……」

「ダンジョン?それはもしかして神秘ダンジョンですか?」



 ピーターがつぶやくと。



「そうよ。というか、この国にはダンジョンがあそこ一つしかないもの」



 友人である、マルグリットが補足した。



「ぴーたー、どこのこと?」

「神秘ダンジョン、『魔術師の匣』だよ」



 神秘ダンジョン。世界に二十二種類ある神が作ったといわれている奇妙なダンジョン。

 通常のモンスターが寄り合って作り出す、一般的なダンジョンとは全く違う。

 無限にわくモンスター、なぜか出てくる宝箱。

 そんな神秘ダンジョンが、このオーバーカレッジには存在する。

 『魔術師の匣』。

 学院内部にあるダンジョンであり、それによってマギウヌスは運営されている。

 神秘ダンジョンには、宝箱というものがある。

 その中には、アイテムが入っており、アイテムの内容はダンジョンによって異なる。

 その神秘ダンジョンからしか取れないアイテムもあり、そのダンジョンを管理している国がそれを特産品として扱っている。

 中には、レアアイテムを国が独占、ないしは国宝として扱っているケースもある。

 『魔術師の匣』はアイテムのほとんどが魔法系のアイテムである。

 そして、歪んだ空間が特徴である。



 ◇



 一週間後。



「というわけで、今日は神秘ダンジョンへともぐります」

「「「……」」」

「ああ、安心してください。回復魔法とかアイテムとかでセーブします。即死しなければ助かります」



 この学院こそが、神秘迷宮「魔術師の匣」。

 今回はその第一層を潜るらしい。

 課題は、第一層の宝箱を一つ回収すること。



「基本的に、第一層は、いろいろ我々の方が処置を施しちゃってるので、モンスターとかはほとんどいません。ただ、今回はシルキー・ロードウェル教授の監督の下、捕獲した精霊や人口精霊を配置しています。油断していると、うっかり致命傷を負うかもしれません」


「全員に、このアクセサリーを預けます。これは、生徒の位置を知らせるとともに、HPが一定以下になると、バリアを展開して守ります。さらには、ここの宝石のボタンを押すと、リタイアできます」



「最後に、なるべく万全を期しますが、何が起こるのかわからないのがダンジョンです。即死しない程度に頑張ってくださいね?」



「三人一組かな」

「いっしょにやらない?」

「喜んで」


 ジークとマルグリットの提案。

 この申し出を断る道理はない。

 ピーターも、手の内を改めて示す。



「せっかくなので、出しましょうか。リタ、ハル」

「はーい」

「「!」」

「驚かせてすみません。僕の家族である、アンデッドのリタとハルです」

「りたですよろしくおねがいします!」

「お初にお目にかかります、マルグリット様、ジーク様。ピーター様に仕える老骨、ハルと申します」


「アンデッドかあ、めったに見ないなあ」

「リタちゃん、初めまして。ハルさんは先日ぶりね、ありがとう」



 どうやら、最初の授業でのことを言っているらしい。 

 ハルは、竜骨の頭部を傾けて会釈した。



「ゴーレムはいるんだけどね。普通にみんな使ってるし」



 誰もが使っている。

 ピーターも含めて。

 足元の人を踏み台にして。



「ゴーレムにいろいろ種類があるんだよね。氷由来の者もいるから」



 ◇



 入ってすぐに、ピーター達はモンスターに出くわした。



「シュイ―――――ン」

「なんですかあれ?」

「何だろう……」



 端的に言えば、浮いた剣。

 けれども、ピーターは冒険者としての経験から、それが自分に敵意を向けていることを察していた。



「あれは、マスターソードっていうモンスターね。ゴーレムの一種よ。本とかで見たことない?」

「ないですね」

「ないかなあ……」

「ピーターはともかく、ジークは何で知らないのよ……」

「ああ言うゴーレムは僕の専門外だから……」

「ゴーレムなら、コアがあるのですよね?」



 破壊できれば、どうとでもなる。

 おそらくは、あの宝石がコアなのだろう。



「そうね、あと、魔法攻撃もしてくるから注意すること」

「コア狙っていくわよ!」

「シュイーン!」



 空中から複数本の、マスターソードと見た目がよく似た剣を錬成し、飛ばしてきた。



「【アイス・シールド】!」



 ジークが氷壁を展開。

 飛来した剣はすべて氷壁に突き刺さり、透明な壁を貫けずに静止する。



「【アースアームズ】!」



 それと同時に、マルグリットが地属性の拘束魔法を発動。

 足元からあふれた腕が、剣のつかに、刃に、しがみついて動きを封じる。



「ピーター、ハルさん、お願い!」

「ハル!【ネクロ・パワー】!【ネクロ・スピード】!」

『承知!』



 魔法攻撃をするモンスターであり、本体は無生物の剣。

 一見隙がなさそうに見えるが、戦術は単純。

 自身が武器になりえるにもかかわらず、突撃ではなく、剣を錬成しての遠距離攻撃と飛翔を軸にして戦っている。

 近づかれたくないと言っているのが見え透いている。

 ならば、近づければ。

 確実に勝てるということだ。

 【霊安室】から飛び出したハルが、全力で走り間合いを詰め、尾を振るう。



「【ハルバード・スラッシュ】!」



 斬撃が、柄にある宝石――コアを砕いて。

 コアを失ったゴーレムは、もう何もできない。

 ボロボロと、氷壁に刺さった剣と、本体が砂像のごとく崩れた。



「砂みたいに崩れるんですね」

「これ、本体の方は金属だけど飛ばした剣は単なる土だね。砂粒を集めて、その場で剣を錬成しているんだ」

「そうなんですね……」

 どうやってそんな高度な技術を使っているのかはまるで分らないが、まあいいだろう。

「後でこの金属粉分配するってことでいいかしら?」

「ええ、いいですよ」

「随分と手際がいいよね、ピーター。冒険者ギルドには砂拾いの仕事でもあるの?」

「……まあ、鉱物の採集とかは珍しくもなんともなかったですね。僕も行ったことがあります」

「そうなのね。冒険者の話は興味深いわ」

「あはは……」



 なお、砂集めなど、鉱石集めのクエストには含まれない。

 基本的に、鉱石の採集である。

 最も、ピーターの目当ては鉱山での死亡者に由来するアンデッドであり、勧誘は悉く失敗している。

 リタとハル。

 二人に不満があるわけではないが、戦力が増えるに越したことはない。

 できれば、なんとかしてもう一人勧誘したいところではある。

 いかんせん、戦闘を避けられないことが多く、勧誘をすることそのものが難しいのだけれど。



「実践慣れしてるよね。やっぱり冒険者はいいなあ」


モンスターの見た目は、ポケモンのヒトツキみたいなイメージです。


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