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舞踏会で再会

 舞踏館の外は、白く地味な色合いだったが、中は違った。

 白、黒、赤、青、黄、緑。

 属性に対応する六種類のシャンデリアによって照らされ、カーペットも六色で構成されている。

 けばけばしい、という印象をピーターは受けた。

 外は地味だが、そちらの方がピーターの好みではある。



 少なくともピーターの価値観によれば、十人中九人は、「派手過ぎる」と苦言を呈するであろう。

 だが、ここにいる者達はそうは思っていないらしい。



 テーブルに置かれた軽食をつまみながら、飲み物を口にしながら、歓談している。

 ダンスをするものもいくらかいるが、大半は、壁に寄りかかって何か話をしている人が大半だ。

 八割が壁の花、というのはダンスパーティといえるのか、ピーターにはわからなかった。

 もっとも、ピーターは普通のダンスパーティを知らないので、どうにもならないのだが。


「おやおや、あなたがダンスパーティに参加するとは珍しいですね」



 シルキーとピーターに声をかける者がいた。

 声に敬意があるので、厳密には、シルキー一人だろう。



 黒いタキシードを着た、一人の男。

 黒い髪と細い眼で構成された顔立ちは整っている。

 動き方と、何よりシルキーへの態度が只者ではないと教えている。

 歩いて近寄り、スムースに礼を行う。



「参加するつもりはないわよ。ちょっと弟子を見せに来たの」



 シルキーはつっけんどんであり、礼をしようともしない。

 かなり高貴な身分に見えるが、シルキーの傲岸不遜は権力者に対しても崩れないらしい。



「なるほどなるほど。そういうことでしたか」



 が、男は特に気にした様子もない。

 いつもこんな感じなのかもしれない。

 ピーターは、自分の師匠の評判が少しだけ心配になった。



 と、そこまで考えると、ピーターは気づいたことがあった。

 彼は、黒いタキシードをしている。

 つまり、ピーターと同じ、彼は邪属性の適性があるということがある。

 そこで初めて、男はピーターの方を見た。

 ピーターは、男の方を向いて、シルキーに先ほど教わった通りに礼をする。

 マギウヌスとハイエストでは礼法が違う上に、そもそもピーターは冒険者であるゆえにまともに王国の礼法を履修できていない。

 なので、かなり苦労したが、どうにか形にはなっていた。

 師匠の教えの厳しさあってのたまものである。

 


「お初にお目にかかります、〈冥導師〉ピーター・ハンバートと申します」

『おやおや、ご丁寧にどうも』



 男も、にっこり笑って一礼する。

 ただ、その視線には友好的な部分は感じられない。

 どちらかといえば、観察するような視線を向けていた。

 それも、ただ単に人を観察する、という目ではない。

 何か、興味深いものを見つけたような、好奇心に満ちた目であった。

 



「では、私も弟子君に、名乗らせてもらおうかな」

「私は、シュエマイ・チャンシー」



 タキシードを着た男は、邪属性の適性を持った男は、ピーターの方へ礼をして。



「ジョブは、道士系統超級職、〈神霊道士〉。アンデッドを支配する(・・・・・・・・・・)ものだよ」



 そう、名乗ったのであった。



「〈神霊道士〉……」



 ピーターは、その職業を知っている。

 ピーターは、アルティオスにあるアンデッドに関する文献は、すべて目を通しており、冒険者の中でも最もアンデッドに詳しい存在だった。

 ゆえに、ピーターは知っている。

 〈降霊術師〉を始めとしたアンデッドを扱う、一部の職業を。

 その中に、その〈神霊道士〉という職業も含まれている。

 それは、〈道士〉という特殊な魔法職。

 その超級職の一つであり、アンデッドの支配者の一人である。

 〈不死王〉とは異なり、キョンシーの制御に秀でている。

 かつて世界を震撼させた〈不死王〉なき今、彼よりアンデッドの扱いに長けたものはいないかもしれない。

もっとも、彼の場合、特定のあるアンデッドの扱いに特化しているため、事情が変わってくるかもしれないが。

 シュエマイは、こちらを品定めするような目を向けてくる。



「しかし、〈冥導師〉か。聞いたことがないね」

「そうなのですか?」

「さよう。今まで散々調べてきたが、〈冥導師〉なんて職業は聞いたことがない。アンデッド使いだよね?」

「ええ、よくわかりますね」

「ああ、なんとなく気配で分かるんだよ。慣れてくるとそうなる」

「……そうなんですか」



 【鑑定】したわけでもないなら、すさまじいことである。



「それに、異空間に二体ほど格納しているのかな?うん、なるほど、いいアンデッドたちだね。興味深い」

「――!」



 今の言い方で、わかる。

 まず、彼は知らない。

 こちらの種である、【霊安室】というスキルを知識としては得ていない。

 これは、間違いない。

 でなければ、そんな言い方はせず、【霊安室】という言葉を使えばいい。

 〈降霊術師〉という職業はあまり知られていないため、仕方ないのかもしれない。

 ピーターは、リタとハルを普段隠すためにこのスキルを用いており、これを使えばハルやリタの存在が察知されたことは一度もなかった。

 それを、聖職者でさえも気づかないようなわずかな気配で、数まで察知できているということだ。

 おそらくは、ピーターに関する一切の調査なしで。



「良ければ、私の研究室にも来るといい」

「え、いいんですか?」



 ピーターは驚く。

 あったばかりで、実力もよくわからない人間を採用するというのはよくわからない。



「いや、単純に邪属性の適性がある人材は少ないし、アンデッドに関わる職業に就いているものなんてほとんどいないからね。貴重だから、ぜひとも勧誘しておきたいんだよ」

「そんなに少ないんですか?」

「少ないねえ。私なんて、親族にもほとんどいないから、なかなか技術の継承が難しくて」



 ピーターのように、全く無関係の例外もいるが、適性は親から受け継ぐことが多い。

 例えば、ハイエスト聖王国では、聖職者の出国を厳しく取り締まっている。

 聖職者が国外に流出すれば、その分利益も減ってしまう。



「ちょっと、私の弟子に粉かけてるんじゃないわよ!教授になってもないくせに!」

「はっはっはっ。そう怒らないでください、“妖精女王”。別に、なにも引き抜こうというわけではなく、ただ導きたいだけなのですよ。優秀な後輩は特にね」

「検討させていただきます……」



 興味はあったが、とりあえず保留にすることにした。

 シルキーからの許可を得ないことにはどうにもならなかったからだ。



 挨拶は、何とか済んだらしい。

 ピーターとしては比較的和やかに住んでよかったと思う。

 何しろ、シルキーの性格は傲慢不遜を絵にかいたような人間である。

 今まで彼が見たシルキーのコミュニケーション手段は、威圧によって相手を黙らせるか、正論やしごきによって相手を黙らせるか、の二択。

 性格が悪いとは、思わないが。

 ピーターにしてみれば、アンデッド研究の第一人者であれば、ぜひともお近づきになりたいような相手。

 事を荒立てず、どうにかして関わりたい。

 研究室に見学に行ってもよいかもしれない。

 そう、思っていたのに。



「あの、お父様」



 聞き覚えのある声を聞いた。

 その少女を、眼で見たときに体が止まった。

 どうして、彼女がここにいるのかがわからなかった。

 顔に符を張り付けて。

 肌は青白くて。

 髪は青色で、眼はワインレッドとイエローで。



「あ……」

「あ」



 先日、ピーターを救ってくれたキョンシーの少女が、そこにいた。

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