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ダンスパーティは六色の衣装で

 それは、決意を新たに修行に精を出していたさなか、突然言われたことだった。 



「ダンスパーティー?」

「ええ、今日はそういうのがあるのよ」



 ダンスパーティ自体は知っている。

 男女が着飾り、踊り、飲食をし、会話をして、交流を深める。

 貴族などが参加するものとして知られている。

 所謂社交場としての側面が強いはずだ。

 と、ここまで考えてふと思い至る。

 あまり意識していないが、彼女は十賢。

 武力、権力ともに文字通り十指に入る存在。

 この国では、最高権力者であった。

 当然、そういう社交場に出るということもあるだろう。

 なるほど、理解が追いついた。



「わかりました、行ってらっしゃいませ」



 ピーターは、弟子らしくダンスパーティに行くらしいシルキーを見送ろうと考えて。



「何言ってるのよ、あんたも出るのよ?」

「はい?」



 予想外の言葉に硬直した。

 ピーターは、その言葉に対しては、まるで理解が追いつかなかったのである。

 

 ◇



 ピーターは今、黒いローブに身を包んでいる。

 それは、オーバーカレッジの学生服としてきているものであり、学院で支給されているものだ。

 普段冒険者としてきているローブとは違う。

 魔法耐性だけではなく、物理耐性も非常に高い。

 そんなローブは今まで非常に有用であったのだが、今回は使わないらしい。

 


「すごく窮屈そうですね……」

「ダンスパーティーってのはそういうものよ。我慢なさい」



 そんなことを言うシルキーが着ているのは、赤青黄緑の四色で構成されたドレスだ。

 きれいなドレスではあるが、些か派手過ぎないだろうか、とピーターは思った。

 それをわざわざ指摘するつもりはなかったが。

 彼女の方も、胴体をかなりきつく絞めているように見える。

 それはそれで美しいのだが、どうにも普段のふわふわした服装と様子を見ているだけに、どうにも違和感がある。



「どうかしら?このドレス」

「正直派手過ぎると思いますいてっ」



 足を踏んづけられる。

 どうやらご不満だったらしい。

 無理もない。

 とはいえ、嘘をついてもどうせバレるだろうから特に意味もないし、どうせ怒られる気がするので仕方がないのではないだろうか。



「そういうときは、嘘でも似合ってますっていうもんでしょ。というか、そんなに似合わないかしら?」

「その派手な色に似あう人はいないと思うんですよね」

「まあハイエストの連中はみんな単色とか、地味な組み合わせを好むものね」

「マギウヌスでは違うんですか?」



 ピーターにしてみれば、よくわからない感覚ではあった。

 実際、ハイエストの住人はシンプルな装いを好む傾向がある。

 アルティオスについては、そもそも冒険者の町、脳筋たちが住まう都市であるので、実用性を見た目以上に重視しているという事情もあるのだが。

 それこそ、ピーターもたとえどんな見た目の装備であっても、それが性能が高ければ使うだろう。

 だが、特に防御力が高かったりするようには見えない。

 むしろ普段使いのドレスの方が、質がいいように見える。



「ピーター!これどうかな!お揃い!」



 リタは、白いドレスに着替えている。

 デザインは、シルキーと完全に同じものだ。

 最近シルキーと接しているせいか服装にバリエーションが増えている気がする。

 彼女は霊体であり、その姿を自由自在に変えることができる。

 その気になれば一糸まとわぬ姿になることもできるが、ピーターが「絶対に人前で脱いだらダメ」と釘を刺しているので、そうなることはない。

 なお、この人前、にはピーターも含まれており、彼が自分の発言を大いに悔いることになったのはその発言をしてから二日後であったことを付け加えておく。



「うん、可愛いね、世界一かわいいよリタ、今日は一緒に寝ようね」

「やったー!」



 スルスルと本音が出てくる。

 喜ぶリタを見て、やはり本当のことを言うのが一番だとピーターは思った。

 もともと、ピーターにとっては、リタは何でも似合うのだけれど。


「ドレスのことはどうでもいいのよ、アンタのタキシードがあるから、それを着なさい」

「わかりました」



 おずおずと、テーブルの上にある白い(・・)タキシードを見る。

 白一色で、どこにも色がついていない。

 これを着てダンスパーティに出ることを想像しただけで、少し、ピーターは気恥ずかしさを覚えた。



「とりあえず、着てみなさい。「色々と」分かるから」

「色々と?」



 よくわからないが、とりあえず着てみる。

 無論、二人には後ろを向いてもらって、だ。



「着ました、よ?」



 服を着終わった直後に、変化が生じる。

 白だったはずのタキシードが、黒一色に染まる。



「師匠、これは……?」

「それは特殊な布でできているのよ、わかりやすく言えば適性を見せる布」



 彼女曰く、属性におうじていろが変わってしまうらしい。

 炎は赤、水は青、土は黄、風は緑、聖属性と無魔は白のまま。

 そして、邪属性は黒。



「師匠は、それでそんなまだらなドレスなんですね……」



 適性が多すぎるがゆえに、派手過ぎて気持ちが悪いドレスが完成するのだ。

 ピーターのように一色しか適正のない者以外は、全員まだら模様の気持ち悪い配色になるのだろうとピーターは想像した。



「私は気に入っているのだけれどね、まあ黒がないのは残念だけど」



 確かに、言われてみればシルキーのドレスには黒の色は一切入っていない。

 彼女の適性は五色である。

 本来は、それでも十分に尊敬に値するものだが、プライドの高いシルキーには納得のできるものではないということらしい。

 ひょっとして彼女が自分を求めたのはその適正の有無もあるかもしれない、となんとなく思った。



「ぴーたー!わたしもおそろい!」



 いつの間にか、リタが見た目を変えている。

 黒い、黒より黒い純黒のドレス。

 先ほどの白いドレスの、色違いである。

 彼女は、ゴーストである。

 あくまで霊体に過ぎない以上、その見た目はある程度変えることができる。

 ピーターがそれを望んでいないためにそれをしないが、外見を全く別のものに変えることも不可能ではない。

 特に服装などは、ピーターがとやかく言わないこともあって、彼女の気分で簡単に変えてしまう。

 通常の服とは異なり、実際に服を買うわけでもなく、見た目のみの変化であるがゆえにコストもかからないことも一因ではあるが。

 フリルなどの装飾は一切変わっていないものの、雰囲気がまるで違う。

 シックな美しさと、幼さゆえの可愛らしさが相反することなく同居している。

 ピーターにとっては、まごうことなき芸術品。



「最高だ、君がナンバーワンだよリタ!」

「ありがとう!」

「……本当にあんたはぶれないわね」



 シルキーは、ため息を吐いた。


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