腐り切った目
今回短めです。
10000PVいってました。
ありがとうございます。
どうして、自分がこの国に対して、アンダーホールに対して嫌悪感を覚えているのか。
答えは簡単である。
それは、ピーター自身がもともとハイエストで迫害を受けてきたから。
彼のハイエスト聖王国での立場に、アンダーホールでの無魔たちの立場は、重なる。
聖職者たちに石を投げられるピーターと、薬漬けにされて、家畜のように搾取され続ける彼ら。
生まれ持った職業と適性で、運命が決まってしまう。
それが、あまりにも残酷だと思えたから。
「こんにちは」
ピーターは、あちこちにたむろしている、髭面の男性に声をかけた。
年齢は、四十代後半といったところか。
「おう、学院の生徒さんかい?毎年この時期はにぎやかだねえ」
「……そうみたいですね」
「おいおい、敬語なんて使うなよ兄ちゃん、俺はまだ二十五だぜ?」
「…………。一応、年上には違いありませんので、さすがにちょっと」
「おいおい、つれねえなあ」
ピーターは納得した。
目の前の彼個人のこと、ではない。
薬物の効果に対して、だ。
明らかに老化が早まってしまっている。
ちら、と周囲を見渡せば、気づいた。
子供と、年配の大人が多く見える。
そして、|若い大人が見当たらない《・・・・・・・・・・・・》。
子供がいて、年老いた大人がいるように見える。
実際は、若い大人もいるのだ、ただ、薬物によってそうは見えないだけで。
「あの……」
「あん?なんだい?」
最後に、もう一つだけ。
これだけは、ピーターは訊いておかねばならなかった。
知る必要があった。
知りたかった。
「外に、出たいとは思わないんですか?」
「外?」
「アンダーホールの外ですよ」
それは、妙な反応だった。
反発しているのではない。彼は、ピーターに対して敵意や悪意を発してはいない。ありありとわかる。
ただ、疑問に思っただけ。
「いや別に?」
まるで、どうしてそんなことを訊かれるのかがわからないとでもいうかのような。
「なあ、お前ら、外に出たいって奴いるか?」
彼は、周囲に声をかける。
誰も、首を縦に振らない。
ほとんどが、面倒そうに横に振っている。
「それよりさあ、あんた薬持ってねえか?」
「薬……ポーションのことですか?」
「いやいや違う違う、あんたわかってないね、クスリのことだよ」
ひっひっ、と男は笑う。
顔色が悪いとは思っていたが、どうやら日光が足りないだけではなく、薬物のせいでもあったらしい。
「このはっぱを吸うとよ、最高にキマるんだが、どうにも薄くてなあ凝縮して効果を強めた奴が欲しいわけよ。もってない?」
「……残念ながら、持ってないです。すみません」
「もってないよー」
「あっそー。じゃあせっかくだからそれやるよ」
葉っぱをポケットに押し込まれた。
「最近、葉っぱを吸うだけだと効き目が弱くてなあ。もう生産職が加工してくれた奴でもねえとやる気にならねえんだよ」
「…………」
返す言葉もなかった。
そんな余裕がない程に、打ちひしがれていた。
そもそも、まるで会話が成立しているように感じられない。
これ以上会話をしても、どうしようもないと、ピーターは悟った。
あの後、グループで、ピーター達は話し合った。
マルグリットやジークの考えは、ピーター達への配慮が感じられ幾分マイルドではあったが、概ね講師たちと同じ意見だった。
他の三人は、戸惑いつつも、どちらかと言えば肯定的だった。
実際、一つの合理性の極致ではあるがゆえに、正しくないとはピーターも思っていなかったし、そういう風な発言をした。
反発する意味も、理由もなかったし、空気を悪化させたくなかった。
その三人の中の一人は、こういっていた。
「僕たちの故郷では、魔法職は軟弱者として差別の対象だった。もし、この国に生まれてたら、或いは、僕の先祖もこういう風にちゃんとできていたら、もう少しマシな暮らしができていたのかな……」
ピーターは、それは間違いないだろう、と思った。
クーデターが、彼等の地域でも成功していたかは不明だが、いずれにせよこの国であれば魔法職にとって住みやすいはずだ。
ピーターも、現在進行形で体感していることだ。
オーバーカレッジで遭遇する者達も、あの頭のおかしな〈教皇〉を除けば、ピーターに危害を及ぼしたと言えるものは存在しない。
彼にしても、殺意はなく、おそらく本当に死にそうなものがいれば、魔術を駆使して守護していただろう。
魔法職以外の、アンダーホールの住民も、少なくともピーターに悪意を向けてきたりはしなかった。
大半は、あまり彼に興味がない、というのが理由だったと言えるかもしれないが、それはまあ些細なことだ。
それ以上に問題なのは、そうでない者に対しては、ひどく冷徹であるということだ。
人として認められず、圧政を敷かれ、屈辱的な扱いを受け。
当人たちも、仕方ないよね、とあきらめている。
うつむいて、濁りきった腐りきった目をして。
――まるで、どこかの青年のように。
そんなことを、考えて。
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