新たな友達
総合評価350超えました。
ありがとうございます。
オーバーカレッジにも、食堂というものは存在する。
メニュー自体は、アルティオスで食べたものと大差がない。
〈教皇〉がわざわざ臨時講師としてきていることも含めて、ハイエストとマギウヌスの関係は良好なのだろう、とピーターは推測した。
実際、両国の間には現在同盟が結ばれており、お互いの超級職が行き来しているくらいには仲が良いということである。
「そこのあなた、少しいいかしら」
言われてピーターは顔を上げると、トレーを持った男女の二人組だ。
二人ともピーターは
女子の方は、栗色の巻き毛、気の強そうな印象を受ける。
男子の方は、金髪で、背が高いがどこかなよっとした印象を受ける。
二人とも、ピーターが身に着けているのと同じ魔法魔術学院の制服のローブである。
「ええと、貴方たちは」
「私は、マルグリット・ランドウォーカー。〈黄魔法師〉よ。こいつは幼馴染のジーク・パルマフロスト」
「僕はジーク・パルマフロスト、ジークでお願いします。〈青魔法師〉です」
〈黄魔法師〉は地属性魔法に秀でた魔法師の派生下級職、〈青魔法師〉は水属性に秀でている。
似た系統に、焔属性に秀でた〈赤魔法師〉、風属性に秀でた〈緑魔法師〉があると聞いたことがある。
「あ、さっきの授業の……」
「ええそうよ。さっきのショタじじいの授業を受けてたわ。あなたと一緒にね」
「ショタじじい……」
なるほど、全くもってその通りではあるがどうにも言葉が強い。
先ほどの態度と言い、どうやら相当パンのことがお気に召さないかったようだ。
「大丈夫ですか?その、怪我をされていたようですが」
「ピーター・ハンバートといいます。職業は、〈冥導師〉です」
「もしかして上級職?」
「ええ、まあ一応。なり立てですが」
上級職に転職したところで、ほとんどステータスが伸びていないのでさほど問題ではないのだけれど。
「せっかくだし、一緒に食べない?」
「マルグリット、そんないきなり」
「構いませんよ」
別に、ピーターに異論はない。
敵でさえなければ、誰が食事に同席しようと問題ない。
「じゃあ、ピーターもハイエスト出身ということ?」
「ええ、そうなります。この国には、魔術の勉強と修行のために来たのです」
「この国は、魔術と魔法に関しては随一だからね」
「ふーん、
「まあ、この国は魔法職に対しては寛容だからね。“邪神”と同じ職業だからと言って、それで差別されるだなんて話はないですよ」
「なるほど、それは良かったです」
何とはなく、ピーターは彼らの言葉に違和感を覚えた。
しかし、いったん心の憶測にしまい込んだ。
ピーターは、とりあえず彼等と食卓を囲むことにした。
「この国では、本当に〈降霊術師〉に対する差別はないんですね……」
「そうだね。なんでも、かの”邪神”〈不死王〉が、この国に所属していた時期もあるくらいだし、魔法職に対しては本当に寛容だよ」
「へえ……」
それは、ピーターは知らなかった。
もとより、〈不死王〉の話は、少なくともハイエストではタブーとされている。
それ故に、彼の生い立ちなどはほとんど広まっていない。
彼が世界を敵に回し、滅ぼさんと戦いを挑んだ以降の逸話しか伝えられていない。
それ以前、彼がどんな生き方をしてきたのか、そういう資料が残っているのかもしれない。
もし残っているならば、どうにかして閲覧したいとピーターは強く思った。
超級職への転職条件などといった、今後に役立つ情報がもしかするとあるかもしれない。
マルグリットは、ジークと幼馴染であるらしい。
何でも、お互いにこの国の名家の出身であるとか。
「それにしても、ハイエストって聖職者が多いんでしょ?あんな奴ばっかってこと?」
「そういうわけではないですよ」
友人に聖職者が二人いるピーターとしては、流石にそういった誤解を受けるのは避けておきたかった。
実際、危険な思想を持った者もいるにはいるが、大抵は本心から世のため人のために活動している。
「まあでも、あの授業は実戦練習としてはいいものでしたよ。実際、〈教皇〉なら、手足が捥げても問題ないでしょうし」
即死でさえなければ致命傷であっても彼の回復魔法で全快できる。
回復特化の超級職ならば、心臓を潰されてもその場にいれば救命できるだろう。
さすがに、生徒が授業で死ぬことがないように考えているはずだ。
例外は、ピーターくらいだが、流石にそもそも回復魔法無効という特異体質を持っている者のことを想定しろという方が無理がある。
もっとも生徒の中でもピーターは例外なので、立ち回りを考える必要があったが。
どうにかして、周りを巻き込まないように気を付けつつ、ハルを展開しなくてはならない。
今日は、うまくいったが、リタに防御性能がほとんどないことを考えると非常によくない。
【蒼壁の杖】があるとはいえ、それだけでは防御しきるのは難しいだろう。
リタの本体を出すのは、下策でしかない。
一番守りたいものを、盾にはできない。
心臓を引きずり出して鈍器にするようなものだ。
とすると、別の方法が考えうる。
「それはそうなんだけど……」
「まあ、それにしても、全くの抜き打ちはどうかと思いますけどね」
「でしょう!本当に、先輩から聞いた限りではそんなことなかったのに……」
そういえば、彼はまるで昨年から急に方針を変えようとしていたみたいだな、と思いだした。
どういう心算なのかはわからないが、急な方針転換なら、なおさら警戒しなくてはならない。
「ところで、ピーターはもしかして、実戦経験があるの?」
ジークが尋ねる。
ピーターは驚いた。
どうしてわかったのか。
「どうして、そう思うんですか?」
「なんというか、授業の時、とても落ち着いているように見えたから。対処も一番早かったし」
どうやら、回復魔法を拒否したから目を付けられたわけでもないらしい、とピーターは悟る。
その対処が早かったがゆえに声を掛けられたのかもしれない。
最も、マルグリットほど目立っていたわけではないし、なんならあの〈教皇〉ほどに目立つことはないだろう。
「そうですね、冒険者をやってました。その時は、ケガは当たり前でしたね」
思えば、冒険者というのは死と隣り合わせの職業だ。
いや、隣どころか半ば重なっているといってもいい。
確かにピーターは数年間冒険者をやってきているが、今まで生き延びられたのはリタやハルといった仲間に恵まれてきたからであり、なおかつ運がよかったからだ。
回復魔法で傷をなかったことにできないピーターの体には、無数の傷跡がある。何なら、今日も新しくいくつか増えた。
ポーションで直したとはいえ、本来ならば死んでいたような傷も含まれるし、その中のいくつかは後遺症も残っている。
「そうだったんだ」
「なるほどね。冒険者ってどういう職業なの?」
「ええと、ざっくり言うと何でも屋でして……」
そのまま、ピーター達は三人で食事をしながら、いろいろと話し込んだ。
「良ければ、今後の魔法戦闘訓練、私達と組まない?」
「いいですよ」
ちょうど、仲間を探していたところだったので、渡りに船だ。
互いにカバーをすれば、防御しやすくなるだろう。
「いいの?僕ら下級職だけど」
「ええ、お二人が真面目なのは知ってますから」
いつも一番前でノートをとっていることは、知っていたから。
後、話があったのも大きい。
◇
「ピーター、今日は嬉しそうね。なんかあったの?」
夕食の席で、シルキーに訊かれた。
特に主張していたつもりはないが、どうやら、顔に出ていたらしい。
ピーターは、素直に答えた。
「友達が、できたんですよ」
小さな行動が、きっかけが人間関係を作ることになる。
たまたま、教師の愚痴を言いあった。
そんなことでも、友人ができるのだということをピーターは知ったのだった。
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