学院での授業
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入学式当日は、特に何もなかった。
制服や教科書はあらかじめ支給されているし、授業もこの日はない。
シルキー以外には知り合いと呼べる存在もいないピーターは、これと言って迷うこともなく帰宅。
シルキーはまだ帰っていなかったので、食事を済ませる。
シルキーが返ってきた後は、いつものように、全身を限界まで傷つけるトレーニングを行った後、倒れこむように就寝した。
この日ばかりは、メニューもいくらか軽かった。
明日が大変であると、シルキーもピーターもわかっていたからだ。
これから一週間に一度は、こういう日を作らなくてはならない。
いや、明日のことを考えると二日だろうか。
◇
翌日、本格的に授業が始まった。
最初の授業は、魔術史という科目だった。
魔術や魔法そのものの発展の歴史、なのかとピーターは思ったが、別にそれだけではないらしい。
ではそれ以外は一体なんなのかと言えば、このマギウヌス魔法魔術学院の歴史である。
初日である今日は、その概要だ。
まず元々、国の前身となったのはとある小国の魔術研究機関だった。
しかし、国家によって魔法師たちは酷使されてしまっていた。
とくに超級職への扱いがひどく、反発されぬよう魔法が使えないように呪具を付けられたうえでMPをブーストする代わりに命を削る薬物を大量に投与され――つまるところ魔力タンクにされていた。
その扱いに耐えきれなくなった魔法師たちが魔術を使ってクーデターを起こし、当時の小国を滅ぼした。
当時の王や貴族は討たれ、民衆は頭をたれた。
クーデターを起こし、国を滅ぼしたはいいものの、別の問題があった。
それは、外の国についてである。
最悪、「クーデターから国を救いに来た」という口実で攻め込まれ、再び虜囚となるかもしれない。
あるいは、それすらなく危険とみなされて滅ぼされるだろうか。
いずれにしても、彼等に諸外国全ての攻撃を跳ね返すだけの力はなく、全滅することもあってはならない。
ゆえに、彼等は第三の道を選ぶ。
重力操作魔法で土を浮かして島を作り、諸外国から文字通り距離を置いた。
そののち、学院を設立し、国の方針を魔法魔術の研究と発展とした。
そして、今の学院都市国家マギウヌスという国を設立した、というのが授業内容である。
ピーターはシルキーからおおむね聞いていて、知ってはいたのだが。
というか、ほとんど流れとしては絵本で昨日読んだところである。
知らないはずがない。
しいて言うなら、一般市民が生き残っていたことだけが違いであり、救いである。
周りの反応を見ても、大半の生徒は退屈そうだった。
最前列に女生徒が一名、男子生徒が一名だけいて、彼等だけは生真面目にメモを取っていた。
担当の教授曰く、次回以降はより深く掘り下げるので予習をしておくように、とのことである。
ピーターはざっくりとしか知らなかったので、予習はしておこうと心に決めた。
二時間目以降の授業は、選択制である。
この時間は自由だ。
どの授業を取るも自由。
取らずに自習や鍛錬に励むも自由。
というか、そんな自習時間が学院のカリキュラムでは多かったりする。
授業は多いものの、大半がピーターの適性の問題で受講できないか、そもそもピーターが興味を示せないかのいずれかである。
そういう時は、シルキーによって出された課題をこなすことになる。
そして、この二時間目は、そのどちらでもない、つまりはピーターの出る選択科目があるということである。
その科目は呪術学。
邪属性魔法の、他者を傷つけることに特化した学問である。
「はい、みなさん、よろしくお願いします」
入ってきた、教師を見た時誰もがぎょっとした。
その人物は、背の高い男性だった。
服装は落ち着いており、髪型も平凡。
だがその一方で、首から上は奇妙だった。
黒い革製で、棘付きの首輪を装着しており、それによって首元がきつく絞めつけられている。
おまけに目は、焦点があっておらず両目がぎょろぎょろと別の方向を向いている。
口は半開きになっており、よだれが端からあふれている。
見た目が奇抜、それはあるだろう。
だが問題は、そうではない。
「あ、あの」
誰か、とある生徒が手を挙げて質問した。
「あの、〈禁呪王〉ナタリア・カースドプリズン教授ですよね?」
そう、時間割によれば、邪属性担当の教授はナタリアという女性だったはずだ。
男性ではないはずだが。
「まず大前提として、ここにいるのはナタリア・カースドプリズン本人ではない」
淡々とした、感情のない声が響く。
目をぎょろぎょろとしている状態の人間の声ではではない。
おそらくは、ナタリア・カースドプリズン本人の口調も同じものだろう。
「ええと、今本物の私は魔術研究で忙しい。したがって、あなたたちの指導をしている暇はない。時間が惜しい」
ここにいるのは、本人ではない。
しかし、今はなしているのは、彼女本人の意思である。
「ゆえに、呪術で操作した無魔を、傀儡を代行させる。そして、これから一年間、この調子が続きます。よろしいですね?」
白眼を向いたまま、男性が淡々と話すのはシュールな光景だった。
「……どっと疲れた」
傀儡による授業。
内容自体は予習したこともあって、さほど苦痛ではない。
だが、そのやり方が異常極まる。極まりすぎている。
おそらく、彼女は後進の育成には興味はないのだろう。
シルキーは非常に積極的な気がするが、それは例外的なものなのかもしれない。
というか、傀儡化されている人はいいのだろうか。
まるで意識が内容にピーターには見えた。
アンデッドではない。
みれば分かる。
〈錬金術師〉が造るホムンクルスだろうか。
人型ではないが、ピーターの故郷にも似たような存在はいた。
農作業用のモンスターとして使われていたのだ。
そういう部類だろう。
そうであれば、眼がおかしかったことにも納得がいく。
まさか本当に人間を操っているわけでもないだろうし。
「どうかしたの、リタ?」
「うーん、なんでもない!」
「次の授業は隠れとくんだよ、リタ。あとハルも」
「どうして?」
「奥様、次の授業のご予定を把握されていますか?」
「ぜんぜん?」
次は魔法戦闘術。
それ自体は、決して問題ではない。
むしろ、冒険者時代での戦闘経験を踏まえれば、彼にとっては楽な曲でもあるといえるかもしれない。
だが、問題はある。
授業内容に問題がなくても、それ以外の要素に問題があれば、それはピーターにとって障害である。
例えば、担当教員であったり。
教員の名は〈教皇〉、フランシスコ・チャイルドプレイ。
「ハイエスト聖王国、教会最高責任者だよ」
憂鬱な気分で、ピーターは教室に向かった。
大丈夫だろうか、殺されないだろうか、とピーターは心から不安に思った。
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