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新たな武器

明けましておめでとうございます。


今年も頑張ります。

よろしくお願いいたします。

 

 図書館から出てきた翌日のこと、今日は入学式である。



「いよいよ、今日が入学式ね」

「そうですね」



 校門の前では、多くの人がごった返していた。

 そんな最中、二人の人物が話し込んでいた。

 一人は、緑色の髪と瞳、そして学院支給の色とりどりのローブを羽織っている男。

 〈冥導師〉ピーター・ハンバート。

 もう一人は、黒いゴシックロリータドレスを身に着け、ぬいぐるみに乗り、ぬいぐるみを乗せ、ぬいぐるみを抱きかかえている銀髪の幼女……のように見える女性。

 〈精霊姫〉シルキー・ロードウェル。



「いい、何度も言うけど、私はいっしょに行けないから。門を入ったら、突き当りを右に行って、そこから突き当りを左に行きなさい。そして、迷ったら一度ここに戻ること、いいわね?」

「大丈夫ですって、先日は図書館無事いけましたし……」

「図書館は別棟なのよ。本棟とは比べ物にならないわ」



 シルキーは完全に保護者のような、というか実際に保護者なので、保護者としての風格を漂わせている。

 見た目は、ぬいぐるみにまみれた幼女でしかないのだが。



「そうそう、今日は、渡すものがあるのよ」

「そうなんですか?」



 制服となるローブなど、だいたいのものはもう受け取ったような気がするのだが。



「二か月、お疲れさま。まあまあ頑張ったほうなんじゃない?アンタにしては」



 子供を見る母親のような、ほほえましいものを見る目。

 彼の今日までの努力を、師匠としてたたえる表情だった。



「ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「いいわよ」



 包みをほどくと、中には一本の杖が入っていた。

 木製の杖に、青い宝石が埋め込まれている。



「杖?ですか?」



 アルティオスでは、あまり魔法職が杖などの武器を持っていることは多くない。

 彼等にとって、武器は魔法であり、それを放つ肉体そのものである。

 そもそも、魔法職は体力がないので、なるべく装備を軽量化する傾向にある。

 ゆえに、防御も味方に任せて自分は武器一つ持たない魔法職が多い。



「接近された時に、身を守るすべが【降霊憑依】だけだと心もとないでしょ。ハルは本来守りじゃなくて攻めに向いた子だし、リタは論外だし……」



 ただ、それはあくまでもパーティをさまざまな職業で組んで戦うことを前提とすればの話。

 このマギウヌスでは、事情が違うということだ。

 〈魔法師〉六人で、火力をパーティがスタンダードとされているこのマギウヌスでは、前衛の存在自体が異常である。



「私たち魔法職のメインウェポンは魔法や魔術、あるいはアンタや私みたいなスタイルなら前衛の精霊やアンデッドかもしれない」

「そうですねえ」



 あるいは、モンスターを前提としない魔法職でもテイムモンスターをパーティー枠に入れることで戦えるかもしれない。

 バフをかけることなどができないだけで、テイムなどができないだけで、使役、パーティ枠での運用自体は可能である。



「けれど、それだけじゃ通用しない相手も多い。特に、一つの属性に特化してるやつはね、弱点も多いから」



 それは、ピーターのことだ。

 実際、彼のように一芸に特化しているものは、相性が悪い相手には苦戦を強いられる。

 例えば、スライムのようにハルの物理攻撃が通じなかったり、あるいは、異様に手数が多くピーターをハルが守り切れなかったりする手合いなどがあげられる。

 間合いを詰められれば、【降霊憑依】を使うくらいしか、対応できるすべがない。

 はまれば強いが、はまらなければ弱い。

 それがわかっているがゆえに、ピーターもまた、基本的には無茶な戦いはしない。

 無茶をしなくてはならないという状況では、無理をしてしまうこともあるのだけれど。



「それを補うためのサブウェポン、それが魔法使いにとっての杖よ」

「おお」



 が、この武器を使えばそれが解決すると、シルキーは告げる。

 今までは使ってこなかったが、武器を使うに越したことはない。

 装備品は、数が限られている。

 手套、靴、上半身、下半身、兜、アクセサリー、騎乗用、そして武器枠が二つ。

 それらをすべて埋めるに越したことはないだろう。

 金属製なら重くて動きを阻害するが、この杖は木製であり、動きに支障をきたすほどの重量はない。



「それの名は、【蒼壁の杖】。蒼い障壁が、あんたを守ってくれるわ」

「それって……」



 ピーターは覚えている。

 シルキーに対して放った全力の攻撃をあっさり防いだ壁のことを。

 それと同じ効果が得られるということだろうか。



「まったく同じってわけではないわよ。強度はアンタの込める魔力に依存するから、私ほどの強度は出ないわ」

「なるほど」



 そう都合よくはいかないか。

 逆に言えば性質はあれと同じということ。

 ついに、まともな防御を手段を得られたということでもある。

 矛としての側面が強い魔法職にとって、重要なのはいかにして敵を倒すか、ではなく、いかにして自分の身を守るか、である。

 これまでは、ハルに乗って逃げるくらいしかなかった。

 だが、この杖は自分にとって最もいま必要なものだ。

 彼女が、彼のことを考えて、彼に何が足りていないかを考えて、選択した結果だ。

 選んで、作って、贈ってくれたものだ。

 


「ありがとうございます。大切にしますね」

「別に大切にしなくていいわ。アンタが無事ならね」


 

 入学式は、当然ではあるが、学内で行われる。

 ピーターは、冒険者ギルドでの教習くらいしか学校と言えるようなところに入った経験はない。

 だから、伝聞でしか学校のことを知らない。



「じゃあ、私は先に学院に入っとくから、アンタはあっちの生徒用入口から入りなさいよ」



 そんなことを言われて、ピーターは虹色のアーチ状の門をくぐる。

 虹、かと思ったがそうではない。

 赤、黄、青、緑、白、黒の六色で構成された虹のようで、虹ではない。

 


(赤が火魔法、黄が土魔法、青が水魔法、緑が風魔法、そして白の聖属性と黒の邪属性かな)



 先日教わった魔法に関する属性について思い返しながら、ピーターは門を見返す。

 正直、この門はハイエストでは一般的な白一色の建築物に慣れ切った


 ピーターと同じであろう、新入生と思しき者たちがびっしりと椅子に並んで座っていた。

 年齢は、見たところ十五歳くらいの、ピーターより年下のものが多いように見える。

 ただ、ピーターより年上と思しき人もいるので、



「学院長によるお言葉をいただきます」



 入ってきたのは、一人の老人だった。

 ローブに身を包み、白く長い髪とひげを蓄え、山高帽を被った老人だった。

 この魔法の国である、マギウヌスでは普通の見た目だった。

 だが、ピーターは、わかっている、知っている。

 おそらくは、


「諸君、私が紹介にあずかりました、〈魔術師〉マルクス・G・マギウヌスです。このオーバーカレッジにある魔法魔術学院の学長を務めております」



 年の割に若々しい声が、安定感のあるスピーチを始める。

 どれくらい学長を務めているのかはわからないが、おそらく毎年何度もスピーチをしているのだろうと推測できる。

 少なくとも、十回は同じスピーチをしているはずだ。

 スピーチを聞くことで、そのネタがどれくらい使いまわされているのかが見抜くことができる。

 


「さて、今年も総数三百名あまりの生徒が入学してくださいました。君たちの中には、様々な境遇の方がいるでしょう。この国出身の方、或いは異国からの移民の方、様々な方がいらっしゃるかと思われます」


「それぞれが、各々の目的をもってやってきたと思います。それは、すなわちーー」



 話は、延々と続いた。



「ーー自覚と責任をーー」


 続いた。


「ーーすなわち魔術師の本懐とは――」


 続いた。



「ぴーたー、おきて!もうおはなしおわったよ!」

「んあ?」



 ピーターが今日得た学び。

 それは、学院長の話は長い、ということだった。


余談

学院長のスピーチ、二時間超。



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