属性と適性
お久しぶりです。
またできる限り毎日更新していこうと思います。
「魔法適正、というのはどのように測るものなのですか?」
魔法に適性があるなしというのはまだわかるものの、属性適性というのは正直よくわかっていない。
魔法には様々な種類があり、職業によって習得できる魔法が違うのは知っている。
「そうねえ、専用の器具とかもあるけど……」
「どんな感じなんですか?」
「いや、そんなもの使わなくても、触ればわかるわよ。はい手を出して」
「あ、はい、わかりました」
言われるがままにピーターが手を出すと、彼女はそっと手を握ってくる。
うつむいているので、表情は見えない。
頭の上にある芋虫型のぬいぐるみのせいでもある。
普段から乗せているが重くないのだろうか、とピーターは疑問に思った。
あと、よりによってどうしてそういうチョイスなのか、とも。
芋虫のぬいぐるみは、ビーズの目で彼を見てきた。
彼も、芋虫を見ていた。
そんな状態で一分ほど、ピーターと芋虫が不毛な見つめ合いをしている間に検査は終わったらしい。
シルキーは小首をかしげて、顔を上げた。
そこには、戸惑ったような表情が浮かんでいた。
「……ええ」
「え?」
「これはひどいわねー」
「そうなんですか?」
「いや、邪属性に特化しすぎてるのよ。これだと教えられることも限られるわね」
「あ、そういうことですね」
自分が一芸に特化しているのは、ピーターは前から知っていたので驚かない。
そもそも良くも悪くも前例がほとんど見当たらないジョブである。
自分が才能に恵まれている、などとは思っていなかった。
歴史上で、〈降霊術師〉として名を残してきたのは、ただ一人のみ。
逆に言えば、他のものは残せなかったということであり、ピーターもその中の一人だろうと感じていた。
「そう言えば、聞きたいんですけど」
「何かしら」
「属性についてなんですが」
「ああ、そうね。そこから説明するわ。傾聴しなさい」
属性とは、何か。
それをそこまで深く理解していたわけではない。
もともと冒険者ギルドでもまともに学ぼうとはしてこなかった。
アンデッドのことばかり調べていたし、そもそも戦闘をアンデッドへのバフや【降霊憑依】で行ってきていたピーターは、はっきり言って魔法職であるという自覚に乏しかったのもある。
しかしながら、シルキーの説明はわかりやすかった。
「属性は六種類ある。基本的には、火、水、風、土の四つに特殊な聖属性と邪属性の合計六つね」
「なるほど」
「?」
火炎の弾丸を撃つ魔法、水の流れを操る魔法、風を吹かせる魔法、大地を操る魔法。
そういう魔法は、見たことがある。
人と組むことはなかったが、ピーター自身がその魔法の標的となることは、ままあった。
冒険者であること、何よりピーターという存在の性質上、トラブルが絶えなかったのである。(言うまでもなく、ピーターは基本的に被害者である)
つい先日も、友人を奪還するため元仲間の人攫いと戦ったが、その一人が魔法職で、炎熱魔法の使い手だった。
ピーターや〈暗黒騎士〉グレゴリー・ゴレイムが使っていたのが邪属性魔法。
聖職者が使う結界や回復魔法、アンデッドなどに向けられる浄化魔法が聖属性魔法。
ここまでは、ピーターも知っている。
リタはわかっていないようだが。
「で、ここからが本題なんだけど。厳密には邪属性と聖属性はさらに二種類ずつに分けられる」
「?」
「?」
が、今まで聞いたことのない話だったので、今度はリタだけではなくピーターもわからなくなった。
「聖属性魔法と邪属性魔法ってのは、ざっくり言うと二種類ある。「都合のいいものを生み出す」か、「都合の悪いものを消し去る」の二種類ね」
「えーと?」
「簡単に言うと、バフとデバフね。邪属性で言えば、産み出すのは陰魔法、消し去るのは零魔法って言われてるわ」
「なるほど」
あまりよくわかっていない。
聞いたことがない概念だからだ。
ただし、ふと、ピーターは思い出したことがあった。
それは回復魔法の原理についてーー聖属性魔法についてだ。
あれは、傷があったという事実を書き換え、巻き戻すことによって傷を治す。
それが恐らくは、「都合の悪いものを消す」ということである。
さらに、聖属性魔法はそれにとどまらない。
ハイエストでは結界を展開し、町や村にモンスターが侵入することを妨げていた。
それが、「都合のいいものを生み出す」ということなのだろう。
ゆえに納得し、一つの結論を得た。
「もしかして……邪属性と聖属性って似てる?」
「そうね。本質的には似た者同士、というか兄弟みたいなものよ。アンタもアンデッド専用の回復魔法とか使ってるでしょ?」
「……それ、ハイエストでは絶対に言わない方がいいですね」
「信仰と国家の全否定だものね。けど、事実よ。あの国が間違ったまま居続けられるのは、それが人間にとって都合がいいから」
ハイエスト聖王国では、聖職者を貴ぶ風潮があり、そうでないものや、邪属性に関わる職業のものを差別する風潮がある。
それが許されているのは、聖職者が貴ばれることにより、回復魔法などの研究が進むことを他の諸外国がよしとしているからだ。
加えて、〈教皇〉、〈女教皇〉、〈大司教〉の三大聖職者超級職が各地を回って聖属性魔法の恩恵を施したり、聖属性魔法の効果がある聖水を他の国に輸出していることも大きい。
彼らの国では決してできない聖職者への過剰なほどの特別待遇を見逃す代わりに、その恩恵をもらう。
そうして、バランスが取れているのだとシルキーは言う。
「んで、あんたは陰魔法に特化してるわね。零魔法も使えないわけじゃないけど」
「えーと、陰魔法はバフや回復魔法で、零魔法がデバフや攻撃魔法ってことですか?」
「簡単に言うとそうなるわね」
「でも、僕は〈降霊術師〉ですよ?サポートが主ですし、攻撃魔法なんて取得できるとはとても……」
「そもそも、勘違いをしてるわね」
「……?」
「あんたは〈降霊術師〉だから、邪属性の才能があると思ってるんでしょう?逆よ逆。邪属性の適性があったから、〈降霊術師〉になったのよ」
「逆?」
シルキーは、いつの間にやら出してきた黒板に文字を書きながら、力説を始める。
詳しい原理は、ピーターにはちんぷんかんぷんだったが、要約すると。
「職業が適性を決めるんじゃなくて、本人の適性や素質に応じて最も適した職業が与えられるの。つまり、あんたには才能が備わっているの」
「……な、なるほど」
「つまり、使える魔法を決めているのは職業じゃなくて適正なのよ。だから、どんな職業についていようが、必要な適性とMPがあればどんな魔法も理論的には使えるのよ。〈司祭〉が呪術を使ってもいいし、魔法職ですらない〈錬金術師〉なんかが回復魔法を使ってもいい」
あくまで、理論上の話だけど。
シルキーはそう補足する。
「あの、でも僕は邪属性くらいしか適正ないって……」
「そうね。だから教えられることがほとんどないって言ったのよ。ダメダメねホント、魔術師としては全然才能ないわ」
「…………」
「とはいえ、何もできないってわけでもないわ。〈呪術師〉の使うような状態異常魔法やデバフの類を習得することは出来るわね」
「おお……」
それはいいことを訊いた、とピーターは思った。
ピーターはまだ、アンデッド専用の支援魔法などしか使えないが、魔術を使えるようになれば、対人用のデバフなども使えるのかもしれない。
邪属性魔法を使う職業として、そういう魔法を使う職業を知っている。
〈呪術師〉という職業がある。
他者へのデバフや、状態異常魔法などを扱う。
あくまでアンデッドのサポートがメインの〈降霊術師〉や基本的な戦闘スタイルが近接の斬り合いを主体としている〈暗黒騎士〉などと違い、
ピーターはまだ、アンデッド専用の支援魔法などしか使えないが、魔術を使えるようになれば、対人用のデバフも使える可能性が残っているらしい。
かの〈降霊術師〉系統超級職〈不死王〉は、数多の邪属性攻撃魔法や、デバフスキルで猛威を振るったと聞く。
そういうスキルをピーターも使えるのであれば、単独戦力が上がるかもしれない。
家族を、守るための、家族とともに生きる手段など、いくらあってもいいのだから。
職業
生まれながらに割り振られるものを、特に天職という。
ピーターの場合は、〈降霊術師〉、シルキーは〈精霊術師〉、〈魔王〉さんは〈従魔師〉である。
これは、多数の下級職の中から、最も向いているであろう職業が天職となる。
剣術の才があれば〈剣士〉に、魔法の適性があれば、〈魔法師〉になったりする。
めったにないが、適性が同じくらいの下級職が複数あればその中からランダムで決まる。
なお、〈降霊術師〉の場合は、アンデッドを扱うテイマー系の適性と、邪属性魔法の適性を求められる。
このため、非常にレアな職業となっている。
余談ではあるが、適性は遺伝するため、親が特定の才能を持っていれば、子に遺伝することが多い。
感想、評価、ブックマークありがとうございます。
良かったら気軽にお願いします。




